〘十一話〙アンヌは漂着した女の子を走査する
木陰で寝かされている女児をアンヌが見ています。
女児は身一つで打ち上げられていて、他に手荷物などは見つからなかったようです。女児自身は、エリクも言っていたように特に問題があるようには見受けられません。アレな外見を除けばいたって普通の六、七歳程度の女児でしょう。
ですが何事も素人判断は危険です。アンヌの診断結果を待ちましょう。
ヨアン副長から、浜辺に打ち上げられていた女の子の診断任務を授かりました。この子のためにもきっちり診てあげなければ!
はっ、でもその前に。
「男性の方々はもう少し離れたところに移動お願いできますか? まだ小さいとはいえ女の子なんです。意識がなくとも気遣ってあげてください」
興味津々でこちらを覗き込んでいる男共にチクリと言ってやりました。ほんと、デリカシーのない人達で困る。
私の言葉に「そんなチンチクリンな子供相手にそこまでする必要あるかぁ?」なんて言う、クルトとかいう失礼でガサツな人がいましたが、副長に腕をつかまれ引きずられていきました。
いい気味です。
さて、不躾な目がなくなったところで診てみよう。
なんだかもう……、なんて言い表せばいいんだろ。
女の子は小さくて華奢な体にひざ丈の毛皮をまとってます。銀色に黒い縞模様の入った、立派な毛並みの毛皮です。これってどんな動物の毛皮なんだろ?
ただ、海水で水浸しになってしまった後に浜辺に上がり急に乾いたせいで、毛並みがよれよれのガサガサ、ひどい状態になってます。
そんな毛皮に頭を通して纏い、前後ろを体の横で重ね……、本来なら腰紐か何かで縛っていたと思うのだけど今それは無く、立って歩けば横から隠すべきところが丸見えになってしまうのは間違いありません!
なんてことでしょう。
むうっ、発見者二人の記憶から今見たことを忘却の魔法で抹消しないと!
けれど今は緊急時、仕方ないので見逃すしかありません。残念ながらそんな魔法も使えませんし……。
でも次はありません。
いずれにしても、これを衣服と言っていいのかはなはだ疑問だと思うし、問題はまだまだあります。
この子、靴も履いていないし、何よりです、下着すら付けてないのです。
もうほんと、やヴぁいです。
いったいどんな環境で暮らしていたらこんな姿でいることになるんでしょう?
女の子の身長は隊で一番小柄な私よりも頭一つ分以上は小さく、こんな小さな子が嵐で荒れる海の中でもみくちゃにされていたかと思うと涙がでそうです。
長い髪は首の脇から胸の前で無造作にまとめられてます。ったく、もっと丁寧に扱ってあげてほしい。あいつら、ほんとガサツです。まぁまだまとめてあるだけでもましですか。
それにしても綺麗な髪で、しかも見たこともない淡い紫色をしてます。艶々できめ細かい髪は、海水にさらされていたとはとても思えないサラサラな手触りです。
気を失っているので目元の確認は出来ないけど、顔立ちは幼いながらもとても可愛らしく、将来はきっとすごい美少女になるよね。
ただ肌の色がとても青白く、健康状態がどうなのか気になるところ。見たところ華奢ではあるものの、やせ細っているという訳じゃない。
さあ、ここから私の魔法の出番です。
手早く状態を確認しよう。
女の子には悪いけどごわついた毛皮をはだけさせ、体を露わにします。なんだろ……、傷一つない、とても綺麗な体にちょっと違和感。
ですが、見た目はともかく中までそうとは限りません。
私は左手に補助・治療系魔法士ご用達、一人前の証でもある魔導ボードを持ち、女の子の胸に右手のひらを軽く添えてトリガー句を唱えます。
「インタナルスキャン」
胸の奥の魔器官がうずく感覚と共に、引き出された魔力が手のひらに伝わり、更にそれを女の子へ導いて循環させます。
集中だ、私。
私の魔力を女の子の体に巡らせ、それを自分に戻す。その過程を繰り返し体内の様子を走査することで悪いところなどを見つけ出す。
魔導ボードは集めた情報を視覚化できるよう作られた魔道具で、決められた様式に則ってボード上にそれを見せてくれます。得られた情報は残しておくことも出来るのでとても便利。これを持っていないと走査で取り出した情報はすべて自分の記憶頼りに。
報告書にまとめる時とか……、もう最悪です。
魔導ボードのない状況なんて想像したくもありません。
ところで、他人の魔力、ましてや属性の違う魔力など人は通常受け入れません。ですので補助や治癒系の魔法士には主に無属性の人がなります。もちろん、無属性といえども他人の魔力。だから補助・医療系の魔法士として認められるには、それなりの技術や訓練が必要なのは言うまでもありません!
齢十八にして中級二位と認められし私、アンヌ=ハウゲン!
すごいでしょ?
ちなみに同じ属性同士なら、やってやれないことはないのだけど、それでは対応できる人が限定されてしまうわけで、不特定多数に対応しなければならない私たちとしてはそれではまずいよね。
やはりそこは適材適所というものなのです。
「うんうん、よしよし」
心配は杞憂だったみたいで体はもう見た目通り、普通に健康そのものだった。頭部の状態に少し不明瞭な点があるのがちょっと気掛かり……、気を失っているせいなのかな?
とにかく、今やれることはやりました。あとは扱いに最も気を使う、対象者の魔器官への走査と、魔力状態の確認を行えば終了……、
「ん? んん? んえ~っ!」
つい乙女にあるまじき変な声を出しちゃった。
な、なんなのこの子。やばい、やばい、やばすぎます!
ま、ま、ま、魔力量半端ない!
魔器官、異常発達してる!
もう、やばいなんて一言で言い表せないレベル。どうすればここまで発達するのか理解不能!
それになにこれ、微弱とはいえ全身にくまなく魔力が巡ってる……。
気を失ってるのに。
どうして?
ありえない。
幸いなのはまだ非活性状態なこと。きっとこの子、自分のコレにまだ気付いてないと思う。
気を失ってて、かつ、パッシブなのにどうやったら魔力を体に巡らせた状態を維持してられるのか、本当に疑問だけど。
これダメ。もう私の手に余る。余り過ぎる……。
女の子は放っておいてもそのうち目が覚めるはず。そこは本当に良かった。
嵐にもまれてた状態でケガ一つないなんて、それはそれでどうなの? って気もするけど。
私は女の子の胸から手を放し、毛皮の衣服もどきを元に戻してあげたところで、小さな頭をナデナデする。本当に可愛い。早く身綺麗にしてあげたい。
離れたところから興味深げにこちらを窺っている副長たちの方を見た。
きっと私は、安心と不安が入り混じった、何とも言えない表情を見せているに違いない。
あとは副長や、そのうちまた来るスヴェン隊長に丸投げしたいと思います。
そう思うしかない私なのでした。




