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海怪  作者: 五十鈴 りく
❖ 富くじ

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富くじ はじめに

 皆様、宝くじはお好きでしょうか?


 小さな元手で大金を手にできるかもしれない。

 当たれば一生働かずとも生きていけるかもしれない。

 働きたくないでござる――おっと本音が。


 気が遠くなるほどの確率でしか起こらないことなんでしょうけど、まあ、もしかすると当たるかもしれない。

 当たったら何買おう、なんて捕らぬ狸の皮算用のまあ楽しいこと。


 買わなくちゃ当たらない。

 当たると信じなくちゃ意味がない。

 浪漫です。ロマン。射幸心ってヤツです。


 さて、この宝くじ。

 江戸時代初期、摂津国瀧安寺にて当選者にお守りを授けたりしたことが起源と言われております。


 江戸で盛んになったのは元禄から享保の頃。

 この頃の呼び名は『(とみ)くじ』あるいは『富突(とみつき)』で、宝くじとは呼ばれていなかったんですけど。


 あまりの盛り上がりから禁止令が出され、『御免富』という許可の下りているものだけを行ったそうです。

 時が流れるにつれてまた再燃していくわけですが。


 谷中(やなか)感応寺、湯島天神、目黒不動の三神社が有名で『江戸の三富』と呼ばれました。

 そして、上野常楽院、浅草八幡、同観音、本所回向院、深川霊岸寺、芝神明、白山権現、根津権現――とにかく、三日に一度はどこかの神社仏閣で富くじが開かれる熱狂ぶり。


 落語でも富くじで一攫千金当てたお話なんかもありますし、江戸時代に富くじが流行ったのはご存知の方も多いかと思います。

 補足しますと、富くじが宝くじと名前を変えて世間に広まるようになったのは、第二次世界大戦後の昭和二十年だそうです。


 今も昔も大金を手にすることを夢見てくじを買う心理は同じですが、違いがあるとすれば価格でしょうか。

 現代に比べると、軽く手を出すには高いんですよ。

 ひと口で職人一日分の稼ぎに相当したそうな。


 真面目に働いて、ちょっと夢を見たら一日の稼ぎが飛ぶというなかなかのシビアな価格です。

 堅実に貯めるか、夢を見るか。それは当人次第といったところでしょう。


 え? 例の海怪と世話係が富くじを買えるだけの金を持っているはずがないって?


 ですよね。団子一本買うにも苦労するくらいですから。

 そう、彼らには富くじなんて他人事です。


 他人事――のはずだったんですけどねぇ。


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