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海怪  作者: 五十鈴 りく
❖ 稲荷

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23/70

稲荷 はじめに

 『火事かじ喧嘩けんか伊勢屋いせや稲荷いなりに犬のくそ』。


 ――あ、ちょっと待ってください。

 いきなり糞とか下品だとか思われたあなた。

 私が言い出したわけじゃないんですよ、この言葉。


 これらは江戸に溢れているものです。

 『火事と喧嘩は江戸の花』とも言いますので、このふたつはおわかり頂けるかと思います。


 江戸はオール木造の都、夜は電気がなく行灯あんどん。うっかり行灯を倒してしまっただけでよく燃えます。それを命がけで華麗に消す、粋な火消しの兄さんたちが大活躍でした。


 そして、江戸っ子は喧嘩っ早い。

 仲裁? 何それもっとやれ、です。


 この伊勢屋というのは、屋号。店の名前ですね。

 縮緬ちりめん、薬種、廻船――お江戸にはいろんな伊勢屋さんが軒を連ねていたかと。

 主の出身地にちなんで屋号をつけることが多かったので、自然と伊勢屋さんだらけになったわけです。


 悪代官様と悪だくみをする越後屋さんも、『越後屋』という職種ではないので、実際はなんの商いをしていたんでしょうねぇ?


 稲荷は、『お稲荷さん』の愛称で親しまれている稲荷神社です。

 長屋にひとつは必ず稲荷社があったとされています。それくらい、江戸庶民には身近な神様でした。

 犬の糞は野良犬が多かったってことです。そのままです。


 今回のお話は、この稲荷。

 え? どこかの食いしん坊が、あの油揚げに酢飯を詰めて稲荷の名を冠した寿司を買ってこいと騒いでいるのかって?

 もちろん、それもありますが――


 さて、お稲荷さんと言えばまずなんでしょう?

 あれですよ、あれ。

 コンコンチキ。


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