第3話 しょうがないじゃない。男の子なんだもの
「ふむ。これ、あかん奴では?」
いろんな場所を歩き回ったり記憶の片隅に残るあの子の家を訪ねてみたんだけど家から出てきた人は俺が全く知らない人だった。
つまり、引っ越してしまったというわけだ。
「あか~ん、こっちに来たのが完全な徒労になりかけてるんだが???」
「なるほど! どんまいはるくん。そういう日もあるさ」
冷夏先輩が俺の肩にポンと手を置いてくる。
なんで自然に俺の部屋にいるんだよ。
「こんな日が人生にそう何回もあったらやってらんないですって」
「それはそう。あはは~」
「笑い事じゃないんすけどね」
元々手がかりが多かったわけじゃないんだけどこれで完全に手詰まりになってしまった。
元々あった針の穴に糸を通すような確率からほぼ完全に0になってしまったような感じだ。
絶望でしかない。
「実際問題はるくんはその幼馴染さんと結婚したいん? 結構昔の約束でしょ? それ」
「それは……どうなんでしょうかね。自分でもはっきりとはわかってません。でもなんていうんですかね。けじめをつけたいんですよ。きっと」
俺だって頭のイカれたやばいやつじゃない。
だから本当に結婚できるとか思っているわけでもない。
でも、昔した約束を果たすっていう言い方は変かもしれないけど結婚するにしろしないにしろもう一度しっかり話したいんだと思う。
それだけ大切な友達で初恋だったのは本当だから。
「そう言うのあるよね。うちにも少しだけわかる気がするな~」
「そうですか?」
「うん。少しだけだけどね」
冷夏先輩にも俺みたいに淡い初恋をした時期があったのだろうか?
この人が?
想像できねぇ~
「おいこらはるくん。なんだかすごく失礼なことを考えちゃあいないか? え?」
「あっはっはそんなことあるわけないじゃないですか。それより冷夏先輩はいつまでここにいるつもりですか? もう六時ですよ?」
朝からなぎちゃんの手がかりを歩き回って探したけど結果はお察しの通り。
引っ越した事実があることが分かっただけ。
全く終わってるぜ。
「ええ~そんな冷たいこと言わんでいいじゃん。よく考えてみ? こんな可愛いくて美人の先輩と部屋で一緒に入れるんだから追い出そうとしなくていいじゃん!」
「どんだけ自意識過剰なんだよ」
まあ、確かに美人なのは認めるし可愛いと思うけども。
それはそれだ。
一人になりたい時もあるし。
今が思いっきりそういう時期だ。
希望が見えなくて足元が暗い。
少し一人になって頭を冷やしたい気分だ。
「じゃあはるくんは自分が可愛いと知りながら否定する痛い女が好きってこと?」
「そうは言ってないですけど。でも、今は一人にさせてください」
「いんやダメだね。うちは今の君みたいに迷いまくってる後輩を無視できる人間じゃないのでね」
胸を張って冷夏先輩はそういう。
どうやらお見通しみたいだ。
「…強情ですね」
「君には言われたくないかな~まあ君の気持もわからなくはないよ。不安だよね」
「その通りですけどそこまで察してくれているのならぜひとも俺を一人にしていただきたい」
「それは無理」
なんでやねん。
気遣いができるのかできないのかわからない人である。
冷夏先輩の言うように今の俺は不安に支配されていた。
なぎちゃんが見つからないかもしれないという不安。
正直に言ってしまえば俺は甘く見ていたんだ。
引っ越していないとかきっとすぐに見つかるとか。
そんな希望的な観測をしていた。
だから、その希望が立ち消えた今残っているのは久しぶりに来た土地で自分一人という現状だった。
「よしよ~し。はるくんは頑張ったね」
冷夏先輩に頭を撫でられる。
何してんのこの人。
「なんでいきなり頭撫でてくるんですか?」
「だって不安そうにしてたからね。そう言う時は人のぬくもりがいいんじゃないかと思って」
「だとしても先輩みたいな美人が出会って三日の男を軽々撫でちゃだめですよ」
「おっ! 今私のことを美人だと認めたなぁ~」
着眼点そこかい。
割と真面目な話してるつもりなんだけど?
「心配しなくてもこんなことするんはるくんだけだから」
「…………」
「照れてるぅ~かわいい~」
ほんっとうにこの人は……
なんていうかいけない。
健全な男子高校生(約一週間後)に悪影響を与えかねない。
というかこんなん言われたら誰でも好きになるだろ!?
なぎちゃんが頭の片隅にいなかったらこの場で告白して速攻振られて両親の所に帰る所だったわ!
「はぁ、先輩がなんで俺にここまでしてくれるのかはわかりませんけどありがとうございます。少し落ち着きました」
なんやかんや言っても俺は正直な人間であった。
美人な先輩に頭を撫でられただけでさっきまで感じていた不安がどっかに行ってしまった。
そうだよな!
下向いてる暇があるなら前向いて少しでも見つけられるように努力しろって話だよな!
「そ? んならよかった。じゃあ私は帰ろっかな~」
「やっと帰ってくれるんですね」
「なんだぁ~その言い方ぁ~」
「いえ、気を付けて帰ってください」
「徒歩五秒なんだけどね。じゃまたね~」
冷夏先輩はそう言うとすぐに部屋を出て行った。
全くせわしない人だな。
「よしっ! めげずに探すか!」
といっても今からできることは無いから今日はおとなしく寝よう。
明日からまた捜索を再開しよう。
そうしよう。




