10
「ああ……あつい、あついのじゃ……!」
潤んだ瞳を細めながら、少女――タマモはその小さな身体を震わせていた。
艶のある唇からは乱れた吐息が零れ落ち、赤みを帯びた頬はまるで熟した林檎の様。このままではいけない。自分は平静を失っている。
タマモはそのことを然りと理解している。
しかし彼女は、己を昂ぶらせる快楽から逃れることができずにいた。
「き、きておくれ! さあ……あっついの……!」
震える彼女の手は、悦楽を齎すモノの元へとゆっくりと伸ばされていき――。
「あっつい演出きておくれー!」
――チャンス、と書かれたボタンを、タマモはその小さな手で一心不乱に連打した。それに応えるかのように、彼女が数時間見つめ続けてきた液晶画面の中で、激しい変化が起こり始める。いくつもの光が点滅した後に『激アツ!』と画面に大文字が映し出されるが、しかしそれは賑やかしの手始めに過ぎない。
画面の中で3列の枠に沿って数字が上から下へと流れていく。やがて左右の枠内に同じ数字が並んだことでリーチが掛かる――と思われたが、マスコットキャラであるカウガールのミルちゃんが現れてロープを使い、右側の数字を一つ下へとずらす。それはリーチが掛からずに外れた、という演出ではない。『継続』と呼ばれる一種のチャンスの予兆だ。
中央の枠にそれを示す特別なアイコンが出現して、『継続だよ!』というアナウンスが機械から鳴ると同時に、数字が再度流れ始める。
さらに画面内の背景を大勢の羊が駆け抜けていく。全ての大当たりにはこれが絡むと言われる程に、当選率が高いことを示唆する『羊群予告』だ。
「き、きた! あっついのがきたのじゃ!」
彼女が熱中しているのは、パチンコと呼ばれる遊戯だ。
長き時を生きてきたタマモにとっても未知の存在であったその遊戯は、ハンドルを調整することで銀玉を打ち出して、指定された穴に入れるだけという単純な仕組みながら、目の前で音と光が遊戯を盛り上げてくれる。
このカジノでしか味わえない遊戯だということも合わさって、タマモが滞在している王都にはパチンコを目当てに旅をしてきた旅行者までいる程だという。
それも無理はない、とタマモは思う。快適な室温が保たれたカジノの中で行う、美麗な光と音の奏でる演目はいつまで見ていても飽きるものではない。さらにはカジノにある以上これは賭博であり、大当たりを引き当てたなら遊びながら金を得ることができる。
さらには確率変動と呼ばれる、当選確率が大幅に跳ね上がるという仕組みが多くの者を熱中させた。
既存のカジノの遊戯はその多くが胴元に有利に作られており、客側が利益を出すにはディーラーの思惑を見抜き、遊戯の仕組みを熟知して、攻略のための戦略を駆使した上で、幸運を引き当てなければ勝利を得ることができなかった。
しかしこの遊戯は子供にもすぐに分かるくらいに単純な仕組みであり、確率変動により次々と大当たりを引き続ける――連荘と言われる状態になれば、ただハンドルを捻っているだけで湯水の如く金が手元に転がり込んでくるのだ。
その『幸運さえあれば子供でも勝てる賭博』というシンプルなゲーム性が、数多くの人を賭博の魅力に引きこみ続けている。
タマモにとっても他人事ではない。彼女もまた、初めて王都を訪れたその日にカジノでこの遊戯に出会い、それ以来嵌り込んでいるのだから。
数千年の時を生き、孤独と退屈に心が苛まれていた彼女にとって、王都のカジノがもたらす興奮と感動は得難いものであったのだ。
『お待たせ! お楽しみはこれからだよ!』
「――お、おおお!? プレミアムキャラのラム君きちゃったのじゃあー!」
出現すれば大当たりが確定するという、プレミアム予告と呼ばれる演出のひとつ。それがもう一人のマスコットキャラであるラム君だ。
羊のきぐるみに身を包んだ少年が満面の笑みと共にピースをする。すると画面に並んでいた数字がピタリと止まった。
7の数字が横一列に並ぶという、確率変動が確定する奇数図柄での大当たりである。
「うっひゃっひゃ! 今日も大漁、大漁なのじゃ!」
画面が切り替わり、入賞口が開放される。後は銀玉を打ち出し続けているだけで、入賞口に飛び込んだ銀玉が何倍もの量となって手元に返ってくる。
何時間も液晶画面を見続けていた目は涙で潤んでいたが、タマモは構うことなくハンドルを握り締める。
機械から放出される銀玉はケースの中へと溜まっていき、瞬く間に満杯になる。それを見計らっていたかのように店員であるバニーガールが新しいケースを持って現れて、中身の詰まったケースと入れ替える。
バニーガールは受け取った銀玉満載のケースを、タマモが座る席の真後ろへと運ぶ。そこには既にいくつものケースが山のように積み上げられていた。
既に10時間を越える遊戯時間と、その間に引き当てた幸運の産物に、近くを通り過ぎる人々が目を見張り、彼らもまた空いている台へと吸い寄せられていく。
しかしそうした客の多くが僅かな時間で席を離れていく。タマモが遊んでいる台は一度当たれば大儲けも夢ではないが、その代償に易々と大当たりを引き当てられるものではなかったのだ。
「くふふ……これだけの勝ちを積み上げたのなら」
ひのふのみの、と。彼女は自分の勝ち得た勝利がどれ程の金貨へと変わるのかを計算する。ケースによって詰め込まれた銀玉の総数にばらつきがあるために推定の域を出ないが、投資金額の何倍もの金額になることは確実であった。
「これだけ勝ち金があるのじゃ、それに今日は幸運が味方についている日!
ならばこの後はお待ちかねのガチャで決まりじゃな!
今日こそは新たなウルトラレアをゲットなのじゃ!」
しかし彼女は、その勝ちを次のギャンブルへとつぎ込むことを既に心に決めていた。パチンコ以上に単純な仕組みでありながら、一夜にして一攫千金、はたまた億万長者も夢ではない未曾有の賭博。
それがこのカジノ最大の目玉とされているガチャだ。
小額を掛けるガチャも存在している。しかしタマモが言うガチャとは1回1万Gという、カジノ内でも最大級の掛け金を必要とする高級ガチャのことを指している。外れは安価な日用品から、最上級の当選品は伝説級の武装や金銀財宝。最大の景品はジャックポットと呼ばれる大当たりだ。
風の噂によると、以前たった一度のガチャでジャックポットを引き当てて、有り触れた冒険者から大富豪へと成り上がった者が実在するという。
それでなくとも、ウルトラレアという最高峰の希少度の当選者に与えられるガチャの景品は、そのいずれもが莫大な力を持ち主に与える稀代の名品だ。
タマモが身に纏う、着物と呼ばれる東方由来の民族衣装もまた、オーナーが東方から学んだ製法を元に作り出したとされる、ガチャの景品として手に入れたウルトラレアの一品だ。
初めてカジノに訪れた日にその着物――『桜花爛漫』を手に入れたことが、タマモがカジノに嵌り込んだ最大のきっかけと言えるかもしれない。
金では得られない賭博の快楽。そして勝ち得たウルトラレアの装備品の凄まじい性能と、それがもたらす桁違いの悦楽は、長き時の中で擦り減らされ希薄となった感情を、油を注いで火矢を放ったかの如く燃え上がらせた。
故に彼女は、金では買えない高揚を追い求めて、今日も賭博に身を染める。
――だが、賭博で得た金は泡銭だという言葉があるように、簡単に手に入れた金とはその多くが、掌を零れ落ちていくもの。
賭博で勝ち得た金をさらに賭博で増やそうという目論見は、幸運の波が押し寄せている際には容易く成せることではあるが。
「の、のじゃあ……! ぼろ負けなのじゃあ……!」
波とは寄せては返すものである。
この日、彼女はパチンコで得た勝ち金だけでなく、追加で投じた金銭もまたガチャに飲み込まれて、散々な思いで家路につくことになった。
〇
「うぐぐ……き、昨日は踏み込み過ぎたのじゃ」
夜が明けても、タマモの心には敗北の苦味がこびり付いていた。
パチンコでは大勝を積み重ねていたというのに、ガチャに全て飲み込まれてしまった。一度手元に掴み取った大金を、自ら投げ捨ててしまうという暴挙。
反省したところで手遅れなのだが、ガチャに挑まずに踏み止まっていたならば得られていた利益を思うと、悔やんでも悔やみきれない。
「悔しい……悔しい! けど、それでこそ博打は面白いのじゃ!」
しかしタマモは気持ちを切り替えるように布団から奮い立ち、身支度を整え始める。
その身に纏うは『桜花爛漫』――初めて挑んだガチャで引き当てて以来、宝物として重宝している美麗な振袖の着物だ。
東方の民族衣装の形だけを真似た偽物ではない。舞い散る桜吹雪を描いた見事な絵羽模様があしらわれた一品である。
さらに『桜花爛漫』は、ただの衣服ではない。ウルトラレアに相応しい加護を授けられた装備品でもある。
本来激しい運動に適さない振袖の型でありながら、動きをまったく阻害しないどころか、装備者により滑らかな動作を行えるように魔法の付与が成されている。
防御力についても、並大抵の刃物では歯が立たぬばかりか、逆に刀身を弾き返して叩き折ることすら可能という驚愕の性能だ。
見た目麗しく、性能も文句の付け所がない。いくら金を積まれたところで手放す気には到底ならない宝物。
だからこそ、タマモはさらなる宝を求めてガチャへと挑む。例え何度惨敗したところで、その悔しさすら次の賭博に興じるための肴にして、幾度と無く挑み続ける所存だ。
「……しかし、種銭を稼がねばどうともならんな。今日は働くとするかの」
しかし、気持ちは折れずとも資金が尽きれば挑めないのがギャンブル。
タマモは先月引き当てたウルトラレア景品である錫杖『森羅万象』を手に取り、冒険者ギルドへ向かうために部屋を出た。
全てはもう一度、運否天賦の愉悦に浸るために。
冒険者ギルドには今日も、大勢の冒険者達が集っている。
新たな冒険者として名を連ねる者、日々の糧を得るために励む者、さらなる高みを目指して飛躍せんとする者。
各々の目的は異なれど、皆一様に願いを叶えようとする活気に満ちている。
とはいえ、中にはただ金を得るために他人を出し抜こうと機会を窺う者達も存在する。寄生冒険者と揶揄される類の者達だ。
自分では戦おうとせず、荷物持ちや素材拾いだけで稼ごうとする――くらいならばまだ、サポーターと呼ばれる役割の需要もあるために相互に理解があれば疎まれることはない。
孤児院からの卒業を余儀なくされた幼い冒険者の多くは最初はサポーターとして、荷物持ちに素材拾い、討伐したモンスターの解体作業などで稼いでいるのがほとんどである。
さらに優れたサポーターとして成長していくと、周囲のモンスターの気配を察知するスキルや仲間を支援する魔法などを習得して、場合によっては戦力として数えられるようになる。
サポーターとは駆け出し冒険者がパーティを組む際に与えられる役割であり、謂わば冒険者にとっての研修期間だ。
しかしひどい者となれば己をサポーターと偽り、言葉巧みに新人冒険者を騙して働かせて、素材や報酬を奪い去ろうとする者もいる。
モンスターから得た素材を代わりに換金してやると話を持ちかけて、そのまま素材を持ち逃げして姿を眩ませるなどよくある話である。
故に問題とされる寄生冒険者としては、成人以上の年齢でありながら何の役にも立たず、しかし他人の利益を横取りしようとする悪人達のことを指している。
だが最近はそういう手合いは大幅に減った。寄生冒険者達が改心したのではなく、活動の場を減らされたのだ。
新人冒険者への講習、ギルド員の見張り、その他様々な取り組みを経て、近年は少なくとも王都内においては寄生冒険者による被害は格段に減少したという。
それでも尚、真っ当な冒険者に寄生しようとする者がいれば、厳しい制裁が待っているという。
噂では、日の届かぬ暗き地の底に落とされるというが――真偽は定かではない。
「さて、今日の仕事は何が残っておるかのう?」
タマモはクエスト依頼書が張り出された掲示板を確かめる。
朝に弱いタマモが冒険者ギルドに出向くのは既に昼近い時間帯であるために、依頼書はその大半が剥ぎ取られていた。
しかしそれでも依頼書にはまだ余裕がある。その大半はモンスター討伐に関わる内容のものだ。
王都周辺に関しては、既に絶滅が近いのではと噂に囁かれる程に毎日討伐されていくモンスター達だが、近隣の街や僻地の村となると、まだまだ危険なモンスターも多数点在している。
そして王都周辺もまた、モンスターが一掃されつつあることで周辺地域の開発が検討されているという。例えば街道の整備や、道中の休憩所の類の建設。他には新たな町を興すという案もあるそうだ。
だがそれらの計画は、今後も王都周辺のモンスター達が掃討されていくことを前提にしたものである。故に冒険者達への依頼は未だ減ることがない。
早朝にギルドに出向かずとも、こうして仕事を選べる程度には、今後も冒険者ギルドには数多の依頼が持ち込まれることになるだろう。
「うーむ……よし、これとこれじゃな」
タマモは見定めた依頼書からこれはと思うものを手に取り、受付へと運ぶ。
その依頼は低ランク向けのものであり、タマモの実力からいくと明らかに格下が相手の討伐依頼なのだが、それも仕方ないこと。
低ランク依頼であろうとも、クエストを達成した者にはガチャチケットという追加報酬が渡されるのだから、基本的に低ランク依頼の方が割りが良いのだ。
さらに付け加えるならば、最近まで長年の隠居生活を続けていたタマモは冒険者として登録したばかりであり、緩やかなペースで依頼をこなすためにランクアップまではまだまだ遠い、低ランク冒険者である。
低ランク冒険者が、低ランク向けの依頼を受ける。それは実に当然のことであった。
「こんにちは、タマモさん! すぐに受付を行いますね」
「うむ、よろしく頼むのじゃ、ソフィア殿」
依頼書を受け取った受付嬢のソフィアは、瞬く間に手続き処理を終える。
数ヶ月前まではおどおどして仕事の遅い新人であったソフィアは、既にベテランの風格を漂わせる受付嬢へと成長していた。
とはいえ気が弱いのは本人の気性なのか、未だにおどおどした様子を見せることはあるが、それも以前と比べれば僅かなものだ。
「ちょ、早っ……あの、先輩? ちゃんと中身確認してるんですよね?」
「えっ? 依頼書2枚くらいなら、9秒もあれば確認、手続き後の再確認もできますよ?」
「なにそれ怖い……!」
今では隣に新人ギルド員の研修生を付けて業務を執り行う程に、ギルドからの信頼を得ている様子だった。
以前は教わる側でおどおどしていた少女は、新人の受付嬢に技量を見せ付けて恐れられる程の存在に変わっていた。
「それよりも、業務中の私語はだめですよ。めっ、です!」
「あっ、その……す、すいません」
「くふふ、よいよい。気にするでないぞ新人。誰とて失敗はあるものじゃ。
ソフィア殿とて以前、業務中に手作り弁当を一人の冒険者に差し入れて、ギルド長からお叱りを受けていたのじゃからな」
「あ、それ聞いたことがあります! あれって実話だったんですか?」
「ちょ、タマモさん!? 先輩としての威厳が崩れるからそういうのは……!」
「実話どころか今も続いておるぞ? 業務中に行うのが問題ならばと、その冒険者が宿泊している宿屋に毎朝出向いて……」
「わー! わー! わあー!?」
タマモの言葉を遮ろうと大声を張り上げるソフィアの頭に、拳骨が落とされる。
冒険者ギルドの長である男性、ラカムの叱責の拳であった。
頭上から殴られた勢いで机に額をぶつけて「い、痛いよう……」と涙声を零すソフィアの姿に、先輩の威厳なんてものは欠片もなかった。
「ひ、ひええ……痛そう……」
「多少なら見過ごすが、あまりお喋りが過ぎるとお前もこうだぞ? アトリ」
「す、すいません! 以後、気をつけるであります!」
アトリと呼ばれた新人受付嬢は、慌てて敬礼をしてラカムに謝罪する。
その様子を見て、タマモはくすくすと笑い声を零した。
「おいおい、ラカム殿よ。お前さんとて以前、受付で煙草を吸っておったじゃろう? 勤務中にあれはよいのかのう?」
「ええっ!? ちょっと、ギルド長! どういうことですか!?」
「……アトリ。客がいない内に息抜きを済ませておくのも職務のうちだぞ?」
「そんな視線を逸らして呟いても説得力ありませんよ!」
騒がしくも賑やかな受付の空気に頬を緩ませながら、タマモは目を細める。
妖狐としてこれからも長い時を生きるであろうタマモにとって、生とは退屈なものに他ならなかった。
寿命の限界は遥か彼方であり、生き急ぐ必要など欠片もない。大抵の事柄は、生まれ持った能力で行えてしまう。しかし容易く得られる成功で、達成感など感じられるわけもない。
故にタマモには、生きる目標というものを定めることができなかった。
かつて、人生とは死ぬまでの暇つぶしだと語った人間がいた。ならば千年を超えて尚生きる己はどれだけの暇を潰さねばならぬというのかと、自身に問いかけたところで答えが見つかるはずもない。
退屈を紛らわせようと旅を続けてきた。だがそれとて最早、他にすることがないが故の惰性で行ってきたに過ぎなかった。
しかし、王都でカジノの遊戯に出会ってからというもの、毎日が楽しくてしょうがない。
人間とは桁違いに優れた能力を有する妖狐の身を持ってしてもどうにもならない、単純であるが故に介入の余地のない遊戯の数々。
自力ではどうにもならないからこそ、それを打ち破る幸運を引き当てた際の喜びは格別のものとなる。
そして幸運を引き当てるためには、限られた手段の中で金銭を稼いでいく努力が必要となる。
決して容易くは乗り越えられない試練。それを乗り越えた時の快感。そしてそこに至るまでの過程で行う努力。
どれもこれもがタマモの生に欠けていた、人生を彩る要素であった。
さらに、そうして生きる日々の中で出会う人々の、何と活き活きとしたことだろうか。
死ぬまでの暇つぶしなんてとんでもない。希望を掴むため、夢を叶えるために懸命に生きる人々は、今日も人生を輝かせている。
それがタマモにはたまらなく羨ましいものであり、そんな人々の輪の中で四苦八苦しながら生きるというのは、何とも楽しいものであった。
「さあて、わしは仕事に行ってくるのじゃ! ソフィア殿、妖怪ガチャ回しによろしくな!」
「ええっ!? ソフィア先輩の思い人ってあの人なんですか!?」
「あ、あうう……思い人とかそんな、以前助けていただいたお礼に差し入れをしているだけで……」
タマモの言い残した一言に沸き立つアトリと、恥じらいに目を伏せるソフィア。
彼女達を尻目に、タマモは冒険者ギルドの外へと駆け出した。
「さあ……今日も己が生を楽しむのじゃ!」
青空に響く程に活力に満ちた声が、タマモの口から飛び出す。
そのまま街門へ目掛けて走っていく彼女の様子に、退屈なんて様子は欠片も感じられない。
誰が見ても、希望に満ち溢れた少女の姿が、そこにはあった。
世界は今日も回り続ける。
長き時の果てに妖狐が生き甲斐を見出そうとも、変わらず回り続ける。
己が生を謳歌せよと励ますように、賑やかに回り続けている。
「の、のじゃあ……! ま、また惨敗なのじゃあ……!?」
……例え、幾度も賭博の荒波に屈する少女がいたとしても、それでも回り続けていく。




