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3-2『分配』

「それでは決をとっていきましょうか」


「うむ。出場すべきであろう」


「大将に賛成。出れるもんなら実力を試してみたいよ、俺は」


「俺はどうかな……まあ、でも出たいな」


 ブルート、ハリー、カーティスの3人は即座に賛成票を投じた。


「春の選抜決闘」にこのまま選ばれるという仮定で、今後の派閥運営を進めていくという方針に。


「「「「賛成!!!!」」」」


 他にも賛成する者たちがいた。


 おやつタイムの「春のスウィーツ大決闘」を戦い抜いた猛者たち4人……委任状を出していたはずのレミ、モモエ、ディリカ、ミスティの幹部たちである。


 俺たちが「フードパーク」に向かう道中、戦いを終えて戻る彼女たちに遭遇。

 夕食は別腹ということで、そのまま合流し、俺たちとテーブルを共にしている。


 何だよ、夕食が別腹って……


「すでに可決しましたが、ノーウェはいかがですか?」


「うーん、まあ、いいんじゃない?みんながやりたいなら」


 俺は夏野菜の焼き物を食べながら応える。

 オクラ、とうもろこし、トマト、ナスの焼き物がシンプルだけど香ばしくて美味しい。

 トマトって焼くとなんでこんなに味が変わるんだろう?


 とうもろこしとそら豆の冷製スープも甘さと塩味がちょうど良い。

 色も黄色と薄緑のグラデーションが映えるね。


「ちょっとー、やる気なーい!テンション下がるじゃん!?」


「そうよっ!せっかく私たち燃えてるのに」


 レミとディリカからクレームが入る。


 まあ、先日の決闘3連戦を経てチームがイケイケムードなのはわかる。

 結果が出た者、出なかった者それぞれだが、皆、心に火が灯ったようなイベントだったことは確かだ。


「何か心配事がありますか?」


 リバーが冷静に聞いてくる。

 ありがとう。鼻息の荒いレミを抑えておいてくれ。顔ごと手で抑えるのはどうかと思うけども。


「いや、まぁ、出てもいいんだが、この決闘戦は事前交渉が一切出来ないんだよな?しかも全部『戦闘方式』で……」


「はい。戦いはすべて『戦闘方式』で行われ、予選から決勝トーナメントまで〈団体戦〉〈集団戦〉〈代表戦〉のいずれかが、運営による抽選によって決まります。勝者には派閥ポイントのみが一律でもらえます」


 つまり、勝っても一律の派閥ポイントと個人の評定ポイントが増えるだけ。

 敗者もマイナスは一切ない。

 本当に、出れば名誉が得られる大会のようだ。


 マイナスがなく、勝つごとに評定ポイントがもらえるのだから、一見するとリスクはまったくないように見える。


 しかし……しかし、だ。


 交渉が出来ない……ということは純粋な実力勝負となるということだ。


 予選は4チームによるリーグ戦なので最低3試合は保証されているが、小細工なしの実力勝負になるだろうから、組み合わせ次第で最悪全敗もありえる。


 今、皆の中で燃え上がっている炎をより強くするのか、それとも少し抑えるのかが今回の方針決めの肝ではあるのだが、結果次第で場合によっては抑えるどころか一気に鎮火してしまうなんてことにもなりかねない。


 まあ、自分たちの現在地を知れるという意味ではいいのかもしれないな。

 選抜戦となれば、ジャネット先輩クラスの学生が出ているわけだから、そこは俺にとっても楽しみではあるし。


 皆も前回の決闘を経て魔導師の性というやつが芽生えはじめたのかもしれないな。


 仕方ない。加速させますかね。

 俺はリバーと1度アイコンタクトを取った。


「参加するとして……問題は、選抜派閥発表のこの2週間と、そこから大会までのさらに2週間で何をするか……だな」


「そうですね」


 俺の言にリバーが同意をする。


 彼の皿には鮮やかな緑色をした、球体のムース状の料理が置かれている……何だ?それは!?聞いてないぞ?


「魔物狩りじゃだめなのか?」


「そうよ、あれお金にもなるから一石二鳥だし」


 すっかり冒険者が板についてきた2トップのカーティスとディリカが聞いてきた。

 2人は親の援助を受けていない苦学生なので金を稼がなければいけないという事情もある。


「『選抜』に出ないのであれば、その選択肢でもよかったと思うけどな」


「「え?」」


「2人とも、この辺の魔物は狩り尽くしちゃったろ?」


 魔物相手の訓練方法は戦闘経験を積むという面では確かに効果がある。

 場数を踏むに越したことはないからだ。


 だが、帝都周辺のようにそもそもの魔物数が多くなく、しかも総じて弱い場所では、魔物に対して慣れてしまったあとはあまり効果的な方法とは言えなくなってくる。


 たまに突発的にB・Cランク程度の魔物が出現するらしいけど、滅多にないみたいだし。


 これが故郷の村近くの魔物だと、あいつらどんどん進化していくから飽きないんだけど、どうもこの辺の魔物はなまじ競争相手が少ないから、魔物もぬくぬくとし過ぎているんだよね。


 こうなってくると打開策は1つしかない。


 それは、ダンジョンに行くことだ。


 ただ、これも絶賛時期が悪い。


 遠い場所だと戻って来れないし、近場でお手軽な『ハイリゲンダンジョン』はギルドによる大規模調査のため一般冒険者は立ち入り禁止となってしまっている。

 まあ、ラッフマーさんを脅した俺のせいだけどな。

 

 他の近場のダンジョンにしても、魔物が強い所は入るのにある程度制約があるみたい。

 ギルド管轄じゃないダンジョンも多いみたいだし。


 こうなると、なかなか難しい。


 「春の選抜決闘」に出てくる連中は、おそらく、この間の決闘で戦った人たちよりも数段格上だろう。


 前回決闘の映像をみた限り、レオ=ナイダスという人とガイル先輩、ギース先輩のような人たちが本気で「戦闘方式」に臨んでくるようなものなのだと思う。


 彼らは少なくともこの辺の魔物よりも圧倒的に強い。一度に多数を相手できる人たちだ。

 そんな強大な相手に、しかも前情報があまりない、5分と5分の条件でどこまで戦えるか……


 ここからの1か月はブルート風にいえば、どれだけ自分の魔法を尖らせられるか、そのための訓練をいかにして編み出すかが勝負の分かれ目になる。


 そして、もう1つ。

 その自分に合った武器を生かした戦術をどれだけ編み出せるか……だな!


 これまでの魔物狩りで叩き込んだ「考えながら戦う」訓練はその前座だ。


 ここからが応用編。


 さて、前菜とスープを食べ終わったので、そろそろメインの皿にいきますか。


 俺は「帝都鱒の低温調理ヤギバター香草ソース」を食す。


 生と見紛う柔らかいオレンジ色とピンク色の中間のような鮮やかな身肉から、噛み締める度にジューシーな鱒独特の脂の旨味が溢れ出し、少し癖のあるヤギのバターと香草の香りが相まって、口の中でハーモニーを奏でる。


 完璧な宮廷音楽家たちによる調和というよりも、それぞれ別の場所で腕を磨いていた一流の楽師による即興演奏といった具合。


 感動とともに驚きや新鮮な発見が舌の上に次々とやってくる。

 ここの料理人は本当に一流の腕だな。

 矛盾した表現かもしれないけど、貴族のような上品さと冒険者のような荒々しさが皿の上で見事に共存しているんだよ。誰がこの一品を作ったのだろう?

 

 あの、ローストアックスオックスをスライスしていた長帽子のシェフかな?


「そっか……新しい訓練方法を見つけないといけないのね……」


「難問だな……」


「1つ提案があります。ここは貯まった派閥ポイントを皆に分配しましょう。1人200ポイント。これは金貨20枚分に相当します」


「それはいいな!」


 リバーの提案にブルートが両手を上げて賛成する。

 こいつ、何も考えていないな。お小遣いかなんかだと思っているのか?


「……その意図は?」


 ハリーが腕を組んでこちらを見ながら質問する。

 俺?知っているよ。


 こういう提案をするときのリバーはまず1番に説得すべき相手に先に話して根回しをするからな。今回は、1番反対する可能性のある俺に前もって話したみたい。


「分配した200ポイントで各々に動いていただきます。外部に講習を依頼するもよし、それを元手に個人決闘をするもよし、事業をして増やすもよし。条件は1か月後に200ポイント返納するか、それぞれの評定ポイントを高めるかです」


「なんだよ、返すのかよ」


 ブルートが不平を言う。

 派閥のポイントなんだからただで横流しするわけないだろうに、何を文句言っているのだろうか。リバーや俺がそんなこと許すはずがない。


 うん、締めはやっぱり焼きそばまんの具に限るな。胃がホッと落ち着いた気になる。このソースの香りがたまらない。


「それは借金ということ?」


「そうですね。無利子無担保の融資ですかね。適当な言葉で言うと」


「ゆーし?」


 帝都鱒を切り分けながらディリカとレミに説明するリバー。

 切り分けた身の一欠片をレミの皿に載せている。どうやら要求があったらしい。

 甲斐甲斐しいにもほどがある。


 皆に分け与えた派閥ポイントはもちろん何も使わずにそのまま戻してもいい。

 それだと、条件はクリアするけど、何も得るものはないけどな。


 200ポイントは金貨20枚分。

 金貨1枚で帝都の超高級ホテルに1泊できるくらいなので、20枚あればかなり有用に使うことができる。


 もちろん、それが派閥ポイント自体を増やすことにつながる、あるいは、自身の評定ポイントを増やすことにつながれば……の話だが。


 リバーは、メンバー全員に問いかけたんだ。


 このポイントを使って、強くなる道を自分で考えろってね。

 あるいは、自分の今ある魔導師としての才覚でもって、このポイントを増やしてみろってね。


 これは商会出身のリバーならではのアイデアであり、ある意味、彼は派閥のメンバー全員に対して決闘を持ちかけたといえる。


「なるほどな……自分で勝手に強くなれ……ノーウェがあのとき言っていた精神をリバーが肉付けしたわけか……」


「憎たらしいほど考え抜いているな……」


 ハリーはピッグニックの柔らか煮を食べている。飴色に照りの出た肉が美味しそうだ。

 見るからに脂がトロットロッ……

1口分くれないかな……ああ、ご無体な。


 カーティスは同じピッグニックでも、小鍋に入った熱々の湯にプカプカ浮いている、太い腸詰めにした黒っぽいソーセージを、1本ずつ皿に取り出してカプッと齧り付いている。

 

 ソーセージって噛んだ瞬間のあの歯ざわりと肉汁がたまらないんだよなぁ……


 ちなみに、同じように湯を張ったポットに入ったソーセージをモモエとミスティも食べている。

 ただし、こちらは白っぽい肉で、ナイフで切ったときと口に入れたときの感触がふわふわの淡雪のような感じだ。肉に混じっているハーブも良いアクセント。


 何で分かるのかというと、モモエが分けてくれた。ごち。


「相手のレベルがこれまでよりも格段に上がる。1か月でそれぞれどこまで上達できるか分からないけど、その方法を皆がそれぞれ模索することが今後への資金石となると思う。失敗したっていいんだ。でも、試してみなきゃ何も始まらない」


「……そうだな。でも、ポイントを配分してしまって、選抜出場の方は大丈夫か?」


 ハリーがいぶかしむ。

 ポイントをメンバーに分配すれば、派閥の資産である総ポイントは当然減る。

 そうなれば、派閥ランクも当然下がる。


「ええ。4000ポイント減れば当落線上にはなってきますが、いくつか派閥戦は行いますし、圏内の派閥がすべて『選抜』に出場するわけではありませんから」


 上位の派閥が皆選抜を目指しているわけじゃない。


 リバーの商会仲間で幼馴染の男が運営する派閥のように学園内事業に勤しんでいたり、造形や魔道具開発がメインだったりする派閥もある。


 そういった派閥は個人戦と違い「戦闘方式」の大会には参加辞退が出来るので、32チームによる予選選抜の実際の当落選上のラインは例年40位あたりだそう。


「順位の方は、私が選考の日まで注意深く追っていきます。仮に問題あるようでしたら……なんとかします」


 ……本当になんとかしそうだから怖いな、リバーは。

 でもリバーがそういうと皆安心だよね。


 俺は、デザートの器にスプーンを入れ、乳白色の液体の底に大量に沈んでいる、黒くてまんまるの真珠のような物体をすくい上げる。


 うむ、これは紛うことなきタピオカだ……!

 ひと安心。


 こうして、今後の方針が幹部会によって決定した。あとはこれを全メンバーに伝えて、各自、動くのみ。


「ふぃー、このチョコムースいけるねっ」


「この学園印の卵プリンもいけるわよ」


「さくらんぼシャーベットも美味しいです」


「ババロア、ぷるぷるババロア!」


 ……え?

 ……夕食時のスウィーツも別腹カウントなの?


【紫雲】「春の選抜決闘」までの課題

 ◇ポイント分配 20人に200ポイントずつ

 <返済条件>①200ポイント返還②評定ポイントのノルマクリアのどちらか

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


グルメタグ回収まではまだまだ遠い……


次回、ノーウェのポイ活!


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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