3-1『ポイントトラブル』
俺たちはある部屋に集まっている。
大事な会合の場だ。
メンバーは、俺、ブルート、リバー、ハリー、カーティスの5人。
皆、机に視線を合わせ、悩まし気な表情を見せている。
集まっている5人は皆【紫雲】の幹部メンバーだ。
先だっての派閥3連戦を勝利で終えた俺たちは、ハリーとカーティスの2名を新たな幹部に加えた。
正確にいうと、ディリカ、モモエ、ミスティも加わっているのでレミと合わせて総勢9名なのだが、彼女たちは『フードパーク』で催されている「春のスウィーツ大決闘」に参加しに出掛けたため、全員委任状を置いていった。
スウィーツに負ける幹部会ってどうなのよ?と思わないでもないが、そんなことを気にしている間もないほど事態は切迫しているので、俺もテーブルの上の紙束に神経を注ぐことにする。
「あ、それ『スカウト』」
俺はハリーの出した風魔法のマークの紙札をもらう。
そして、不要な「商人の家」が描かれたカードを捨てる。
これで風魔法のマークの描かれたカードは2枚目。
風、火、水、光、氷の魔法カードが2枚ずつ揃い、他に、手元には王冠のカード1枚と土魔法のカードが1枚ずつある。
このカードゲームは各人12枚ずつ手札を持ち、中央に束になって積まれているカードを番手になったら1枚引き、不要なカードを1枚捨て、を順番に繰り返していき、一番先に役を作った者が勝ちとなるルールだ。
ちなみに、中央のカードから1枚引くことを「ハイアー(登用)」、今、俺がハリーの捨てたカードをもらったように、他のメンバーによって場に捨てられたカードをもらうことを「スカウト(引き抜き)」という。スカウトできるのは1回だけ(上がり時を除く)だけどね。
「ぬっ……ええぃ!」
何の気合かわからないが、ブルートが勇んで手札の中から1枚、土魔法の札を捨てた。
ふっ、それを待っていた……!
「上がりっ!『宮廷魔導師団』(ロイヤルマジシャンズ)だ!」
「ノーーー!!」
バカだね……
実にバカだね、ブルートは。
魔導師にピッタリなカードゲーム。
「マジシャンズチョイス」の派閥幹部大会栄えある第1回の勝者は俺だ!
俺が捨てたカードの種類と、ハリーから4元素カードを引き抜き(スカウト)したのを見れば、属性魔法が危険だと予測出来るだろうに。
俺もまさかスカウト(引き抜き)上がりが出来ると思わなかった。
せいぜいハイアー(登用)上がりが出来るかどうかだと踏んでいたのだけれどな。
「さすがにスカウト直後にあの捨て方はねえだろ」
「う、うるさいっ!」
ハリーに責められるブルート。
まあ仕方ない。
責められてしかるべき。
「まあ、俺が負けなくて良かった」
「私はあと一歩だったのですがね」
カーティスとリバーの感想。
リバーが手札をさらりと公開する。
危っねぇ……!?
魔道具と魔術書のカードの並びが揃っている。
「魔道具&魔術ギルド連合」(手役)まであと1枚だった……
俺は、紙札が積まれた山の2枚目を開く。
出てきたのは杖の形をした魔導具。
リバーが上がりに必要としていた手札だった!
危っねえ!?
俺はまさに紙一重の勝利を噛み締めた。
「ブルートはこれでポイントマイナスだな。責任払いだ」
「ぐっ!」
「大将、ごち!」
「悪いな。ありがたくいただく」
「勝負事ですからね。ありがたく頂戴致します」
さすがに賭け事で本物の学生ポイントを使うのはよくないからな。
ゲーム開始時に定められているこのゲームのゲームポイントがマイナスになったやつが夕飯代を払うという約束だ。
決して、学生ポイントを賭けていたわけではない。
学生ポイントというのは学費や生活費や学園内の買い物に使う資金をポイント変換したやつだ。
俺は村長からもらったお金と魔石をリバーを通じて商会に売って得たお金をポイントに変換した。
そしたらアホみたいなポイント量になっていた……たぶん魔石のせいだな。
「せっかくだから『フードパーク』に行くか!?」
「おっ、いいね」
「同意する」
「今ならデザートも充実していますしね」
「お、おいっ!食堂より高いじゃないか……そ、そうだ派閥ポイントを使おうっ!」
人の性根は変わらないというが、ブルートの貴族根性もなかなか抜け切らないな。
ハリー、カーティス、リバーに白い目で見られてバツが悪そうな顔をしている。
……けど、よく考えたらハリーも貴族だよな?
どうしてこんなにも違うのだろうか?
不思議でならない……
派閥ポイントは学生ポイントと同じように金銭に換算できる。
派閥専用の家が買えるぐらいだしな。
ただし、その運用には厳しいチェックが入る。
大事なのは、派閥の運営に必要な経費としてポイントが使われているかどうかだ。
個人が私腹を肥やすような形になってはもちろんいけないし、派閥のため、といってもそこにはある程度の節度を持たなければならない。
その意味でいえば、先ほどのブルートの提案は実はグレーゾーン。
派閥の幹部の会合を食事形式にして経費として派閥ポイントを使うことは可能だからだ。
リバー曰く、これを大半の派閥はやっているとのこと。
うちはやらない。
幹部とメンバーにそのような格差を作ってはいけないし、幹部の仕事や重責があるというのなら公明正大に報酬としてポイントを付与すればいい話だから。
実際に派閥ポイントは個人の学生ポイント、あるいは評定ポイントに振り分けることができる。
学生ポイントに付与するのは、先の正当な報酬として。これは自派閥だけではなく、対外的にも行えるのがポイントだ。
俺たちが先の決闘で戦った【咬犬】のメンバーはこの仕組みによって学園内で傭兵のようなビジネスを個々に行っている。名目は決闘依頼、他チームの調査依頼、講師依頼などなど。
何でもありだな、と思ったね。
もう1つの評定ポイントについては、派閥ポイントから変換する場合、以下の2点のみが認められる。
まず派閥内決闘。これは語らずもがな。
あとは、派閥内講習。
こちらはややこしいが、簡単に言うと、学園の授業を履修し、試験に合格すると評定ポイントがもらえるように、派閥内で講習を行いスキルアップさせることで評点を与えることができるという仕組みだ。
この2つはきちんとした手順と手続きを行えば正当なものといえると思うが、特に内容に関して学校機関による厳しい監査があるわけではないので、抜け穴だらけの不正の温床になっているそう。
以前に、リバーが話してくれた、卒業間近の学生が派閥内ポイントによって評点を荒稼ぎして帳尻を合わせていると言っていたのはこれのこと。
<図>
【派閥ポイント】
→「学生ポイント」:学内通貨代わりのポイント(≒お金)
→「評定ポイント」:生徒の学内評価。進級(卒業)に必要
〈派閥ポイント付与の条件〉
・派閥間決闘の勝利
・スポンサーの援助(学校関係者、学生本人を除く)
・派閥間の講習や仕事依頼(傘下の上納含む)
「さて、それでは出掛ける前に今日の議題について片付けてしまいましょうか」
リバーの進行でリラックスモードからやや真剣モードに各々移行する。
皆、自分のマスボを操作しながら話し合いの準備に入る。
……俺はしない。
あいつ重役だからさ!?
腰が重いんだよね。
議題は「増えすぎた<派閥ポイント>について」だ。
「【咬犬】戦が勝者の権利3000ポイントと評価点1800ポイントで4800ポイント、【魔転牢】戦が勝者の権利がこの家で、評価点が2500ポイント、ここまでで7300ポイントです」
<図>
【咬犬】戦
3000(勝者の権利)+1800(評価点)=4800ポイント
【魔転牢】戦
2500(評価点のみ)=2500ポイント
計 =7300ポイント
なかなかの爆上がり点。
【咬犬】も【魔転牢】も俺たちよりも上位の上級生派閥。
そんな相手に勝利したということで、基礎点の1000点から大幅に加増されてしまった。
【咬犬】戦は、どれも接戦だった上に<副将><大将>戦がジャイアントキリングだったのが大きく、【魔転牢】戦は相手が、こと「ROOM」においては最高勝率だった点が大きな要因といえるだろう。
元々の派閥ポイントが5000だったからこれで1万2300ポイントまで増えた……いや、増えてしまった。
「フハハハハ!個人の評定ポイントが75も増えたぞ!」
マスボの画面を見て喜ぶブルート。
派閥決闘戦は派閥ポイントだけでなく、個人の評定ポイントも増える。
まず派閥自体が勝利すればその評定ポイントの1%が参加メンバーに無条件で入り、さらに参加した決闘の内容(活躍度)で加点がされる。
ブルートの場合、第1決闘の評点分1500点分の15点+個人加点と第2決闘の評点分の25点+活躍度加点だ。
加点は個人で戦った方が多くつくので、第1決闘の加点がかなりあったのだと想像できる。
ブルートの相手は3年生だったしな。
ちなみに、個人の勝敗として記録されるのは団体戦における個人戦と代表戦における成績のみだ。
集団戦と団体戦の多人数戦は記録されない。
「俺も大将ほどじゃないが……65点か」
「俺は1試合少ないしな……32点」
ハリーは副将戦だったのと、相手が2年生だったことと、あとは第2決闘の役どころかな……ブルートとの差は。
リバーなんかどうなんだろうと思ったが、第2決闘「ROOM」における〈指揮官〉分の加点が途中離脱のペナルティによって削られたのであまり伸びてはいないらしい。
そう考えるとこの評点は設計上のエラーやミスな気がするね。あの【魔転牢】戦において1番加点されるべき男はリバーなのだから。
第3決闘の点は?
知らんよ。
むしろそれが本題だよ。
「さて、本題の第3決闘ですが、勝者の権利5000派閥ポイントに関しまして、裁定委員より物言いがつきました」
第3決闘における変態貴公子側の勝者の権利は俺の寮部屋だった。
俺はすでに寮部屋があるから、俺が勝利した場合はその対価として5000派閥ポイントが得られると事前交渉で決められていた。
それに物言いということは多すぎたということなのかな?
「いえ、逆です」
「え?」
「ジャネット様の部屋、調度品、嗜好品すべて合わせて5000では少な過ぎるとのことで3倍の1万5000ポイントになりました」
「はいー?」
「交渉ではこちらは部屋を明け渡すと認識していましたが、決闘中の相手の発言から齟齬があったと裁定委員に認識されたようです」
ああ、そういうことか。
あの元クズ公子は、ジャネット先輩の使っていた調度品にやたら執着していた。それを確認した裁定委員が、俺たちの決闘前交渉の合意文書をみておかしいんじゃね?と考えたみたいだな。
別に双方の合意があればいいんじゃないかとも思うけど、あのような大舞台での決闘だとなかなかそうもいかないらしい。
「あとは、牽制でしょうね。今回は結果的に犯罪が絡みましたから、その見せしめに大きな減点を課したかったようです。これまでは個人の所有物についても派閥間決闘の範疇になっていましたが、今回のような理由には厳しい裁定が入るという前例を示したかったのかと」
なるほど。
よくよく考えれば、俺の寮部屋が欲しけりゃ個人の決闘にしろよって話だしな。
ジャネット先輩と俺との間では個人決闘によって譲渡がされたわけだし。
それをしなかったのはあのクズ公子が5000という膨大な額のポイントを自分ではなく派閥に肩代わりさせたかったから。
そして、そんなことができたのはあの派閥が完全なワンマンチームだったから。
実際のところは、交渉もあの秘書さんだったそうだから、全部彼が回していたんだろうけどね。
個人の所有物を派閥戦に賭けられるっていうのは一見するとどうなんだろうと思うけど、貴族の学生なんかは名物の武器や魔道具なんかも持っていたりするから、認められているんだと。
それと、個人決闘において貴族と平民が大舞台で戦うのは憚れる(特に貴族から決闘を持ちかける場合)って文化があるんだって。
話を聞いてもどうかと思うがな。
「第3決闘の評価点は3000ポイント。ノーウェの個人ポイントは加点合わせて101ポイント。第2決闘分と合わせた合計は151ポイントで元々の605ポイントを足して現在は756ポイントになっていますね」
「はいー?」
「ぐっ、差が開いたな……」
「この調子だと夏休み前には1000に到達するんじゃないか?うちのリーダーは」
「もう卒業しちゃえよ」
皆から手厳しい祝福を受けているがまったくもって腑に落ちない。
何だよ、101点って。
500〜1000が相場の決闘戦の評点が3000ってのも大概おかしいけど、それでも個人につく基礎点は30だからこの場合、加点分がおかしいって話になる。
71点だよ!?
それと第2決闘の俺は、ゲームしてマスボ眺めていた以外は『フールズフープ』と『メージスタッフ』使っただけなんだけどな……
部屋を壊したブルートよりも点が高いのは解せぬ。
「この第3決闘のポイントを加算した現在の派閥ポイントの合計値は3万300ポイントになりました……めでたく、派閥ランク29位となり、『春の選抜決闘戦』の派閥部門の圏内と相成りました。早急に方針と場合によってはポイントの使い道を模索した方が良さそうです」
入学式から1か月後……つまり、あと2週間ののちに学園を挙げたビッグイベントが開催される。
本来、新入生には縁遠いランキング上位の上澄みが集って競い合う大会に、俺たち【紫雲】がこのままだと選ばれてしまう。
俺たちは選択を迫られていた……
【紫雲】
<決闘前派閥ポイント>
5000ポイント
↓
<決闘後派閥ポイント>
第1決闘+ 4800ポイント
第2決闘+ 2500ポイント
第3決闘+18000ポイント
=30300ポイント
<派閥ランク>
29位!(全123派閥中)
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
金銭トラブルよりも、ポイントトラブルの方がトラブりました……
……作者が!笑
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!
追記:携帯モードだと読みづらいため改稿いたしました。




