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2-49『明火』

「いつからお気づきに……?」


 白髪オールバックの執事が背筋を伸ばしたまま尋ねてきた。

 その所作に一点の無駄も怪しさもなく、むしろ泰然としている。


 変態貴公子は床に倒れて泡と液体まみれになってひどい状態だ。

 もはや高貴さはその身から流れ出ていってしまったのだろう。

 ……いや、元からなかったか。


「んー、気づいたのは俺じゃないよ。とある切れ者が、あんたにすべてを見透かされているようだと教えてくれたもんでね。あとは、実際にそこで倒れている人と戦ってみてかな。まだ『透過』の技術が格段に甘いと思ってね……」


 実際、火の玉程度が限界だろう。この変態公子には。


「いやはや、参りましたね……」


 俺は自分の近くにあった泡をすべて舞台中央に移す。

 泡越しに執事の姿が何人にも見える。


「なぜ、そこまでするんだ?『透過』の技術をその人に教え込んだのもあんただろ?」


 この人は、床に這いつくばっているクズ公子のために、これまでにどれだけの泥を被ってきたのだろうか。

 何なら、その泥をすべてこの泡で洗い流してあげたい。


 執事さんの使った光の壁は格段に輝いていた。

 影となり汚れ仕事をしていたわりにその魔法は純粋で、磨き具合も、その密度の濃さも、クズ公子のそれとはまるで比較にならない。

 直感でしかないが、おそらくこの人は自分の意思ではこの悪事に手を染めていない。

 すべてそこに横たわっているクズ公子の貴族ならではの指示だったのだろう。


「いやはや、貴方の方こそ何もかも見透かしておられますな……さすがAランク冒険者でかの『光の聖女』アルテがその目に入れても痛くないほどに可愛がっておられる秘蔵っ子だ……」


「あーん?」


 何だって?泡当てるよ!?

 目が曇っているのか?

 いや、腐っているのか?


「……す、すみません……どうやら誤った情報を仕入れてしまっていたようです」


「あ、そう」


 あー、耳が腐るかと思った。


 まぁ真摯に謝ったから紳士な執事は許す。

 ……あいつは許さん!危険な仕事をまるっとこっちに丸投げしてきやがって!!


「……私はこのホルス坊ちゃんのご生家に恩義がありますので。元々、危険な仕事をしていた身でしてね。そんな私を拾っていただいたので、せめて坊ちゃんが卒業するまでは執事の職務を勤め上げようと思っていたのですが……」


「ほーん……」


 恩義があるのは、この子息本人ではなく、家だということか……

 現当主か先代の当主に拾われてここまでやってきたということなのかな。


 話をしている間に、先程の騎士の人たちが集まって来た。

 執事は……てっきり何か抵抗をするかと思ったが、そのまま両手を上げて頭の後ろにおいて降伏の意を示している。


「意外だね……そのまま潔く捕まるなんて。そこで倒れているやつのためか?」


 少しでも心証をよくしておこうということかな。

 かばう意味もないと思うけどな、もはや。


 悪事がここまで明るみになればいくら貴族の子息といっても再起不能じゃないか?

 家はともかく、少なくとも本人は。

 しかも、相手はさらに高位の貴族の令嬢だったわけだし。


「いえ、どちらかというとこの方が私の身が安全かと思いまして……」


「……と言うと?」


「仮に私が貴方のその『泡』をすべて防いだとしても、貴方は私を身動きできなくする術をきっとお持ちでしょう?」


「うーん、まあ……」


 たしかに、何もかも見透かされるというのは気持ちいいものではないなあ。

 ジャネット先輩の心中お察しするよ……

 そういや、先輩、元気かな。


「私は、こう見えて数多くの戦場や修羅場をくぐってきたのですよ。そこから生きて帰ってこれたのはひとえにこの鍛え上げた『透過』の魔法と直感によるものだと信じております……そんな私の直感がビンビンと脳に訴えているのです。ここにいる誰よりも貴方を全力で警戒しろ、と……まるでとんでもなく強い魔物と対峙しているかのようだ」


「……」


 何とまあ、やりづらい相手だなあ。

 リバーが手こずっていたのも頷ける。


「あんた……仮に、処罰を受けたあとの生活はどうするんだ?」


「はて?」


「少なくとも、ここまで忠義を尽くしたんだから、義理は果たしただろう?そこで倒れているクズの代わりに泥を被ったとして、そうしたらもうお役御免になるはずじゃないか」


「そうですね……今は考えることもできませんが」


 執事の言に、何となく嫌な予感がする。


「もし、仕事を探しているなら友人を紹介するよ。あんたを自分の所に『欲しいぐらいだ』と言っていたから」


 2人の騎士が舞台上に上がり、乱入者となった執事の両手をそれぞれ掴む。


「それはありがたいお話ですね。機会がございましたら、是非ともお願い致します。それにしても、仕事の口がご友人の方で良かった……貴方ではなくて」


「なんで?」


 俺が尋ねると、執事はにっこりと笑った。


「さすがに『あまりにも異常な』ご主人様にはもうコリゴリですのでね……」


 ……なんて失礼なやつなんだ!?

 そこで泡吹いている偏愛変態クズ奇行子と一緒にしないでほしい。


 執事は連行されていった。とりあえずは、決闘の乱入者として。

 すべてが明るみになったあとで、実行犯として訴追されるだろう。

 ここでの会話が少しでも役に立てばいいが……


「さて、君を信じて黙って事態を見守っていたら、とんでもないことになっている気がするけれど……どうやら君ってそういう星の元に生まれた人間みたいだ。まったく、フィッティに同情するよ」


 え?フィッティ先生に?

 なんで?

 同情ならこっちがしてほしいんだけど!?


「とりあえず、私は立会人としてこの決闘を終わらせて良いかな?」


 アーネストさんが手を後ろに組んで近づいてきた。


「あっ、ちょっと待ってください」


「うん?」


 俺はアーネストさんを手で制止し、舞台中央に歩きだすと、そこで溜めていた何個もの泡にごく弱い属性を付与していく。


 この泡をただの人の夢を喰らう悪夢のままにしてはいけない……


 暗闇の中で青白く光る泡が、付与された属性魔法によってその色を変えていく。


 紫、青、水色、緑、黄色、橙色、赤色の泡が数個ずつ。


 さあ、仕上げだ。


 ふわっ……ふわっ……ふわ……


 1個ずつ上空に浮かび上がらせる。


 パアーーン


 ボオッ……バアーーン……ボアーーン……ドガーーン……ジジジジ……


 泡が上空で弾け、1個ずつ爆発を起こす。

 それはまるで闇夜に浮かんだ色とりどりの魔法の玉が大輪の華を咲かせるようで、一瞬でパッと咲き、火花が余韻を残しつつ儚く消える。


 パアーーン


 ボオッ……バアーーン……ボアーーン……ドガーーン……ジジジジ……


 パアーーン


 ボオッ……バアーーン……ボアーーン……ドガーーン……ジジジジ……


 パアーーン


 ボオッ……バアーーン……ボアーーン……ドガーーン……ジジジジ……

 ドガーーン……ドガーーン……ドガーーン……ジジジジジジジジ……


「なぁんとぉーーいうことだぁーー……色とりどりの魔法の泡が宙に浮きながら弾けていくぅーーー!!これはさながら空に浮かぶ大輪のぉーー華だぁーーー!!何という不思議な魔法なんだぁーー!!」


 1個、また1個と色の違った泡は浮き上がり、上空で弾けて消えていく。


 透明な魔法もいいけれど、やっぱり魔法は磨いた分、光り輝くところを大勢の人に見せて上げたい。

 けっして、こっそり覗き見て、独り占めするものではなく、自分以外の誰かを幸せにするものであるべきなんだ。


 あの執事さんもあれだけ綺麗に、純度を高めて、輝かしく磨いた透明な魔法なのだから、決して裏で己の手を汚すためではなく、次は、どんな形であっても、多くの人々を喜ばせる魔法として世に出してもらいたい。


 あの人ならきっとそれができるはずだよ。


 俺は、7色の泡玉を順番に上げたあと、最後に緑の泡玉を3つ重ねて、空に打ち上げる。


 ヒューーン……パパパパーーン……


 ドドドドガガガガーーーーン……


 バガーーン……ボガーーン……ボガーーン……ボガガガーーーーー……


 ジジジジ……ジュワワワーーーーー……


 違う色の玉が次々と弾け、七色の華が咲く。


 俺たちは皆違う魔法を磨いている。それぞれ違う色の魔法を……


 それが今回の【咬犬】戦であり、【魔転牢】戦であり、【紫雲】のメンバー全員が今日までに磨いてきたそれぞれの魔法を出し尽くした。


 この泡はその証明であり、俺たちの宣言だ。


 これからも、俺たちは自分たちの魔法を磨き続け、必ず輝かせ続ける。


 そして、その先には俺にとって最強の魔法……「優しい魔法」が完成する。


 最後に、緑色の玉が3つ、アリーナの上空に浮き上がる。


 パアーーン……ドガーーン……ドガーーン……ドドドガガーーーン……


 パラパラパラパラ…………


 最後は、あの部屋を譲ってくれた『風華』のジャネット先輩に敬意を評して、だな。


 魔法の泡は緑の大きな華を作ったあと、火花の余韻を三方に散らしつつ、夜空から落ちる流れ星のように上空から零れてこちらに到達する前にふっと消えていく。


「何とまあ……君の魔法は本当に興味深い……」


 そろそろ時間だ……


 アーネストさんが、俺の立つ舞台中央にゆっくり近づくうちに、『パーティナイトメア』の時間限定の効力が消え、会場は光を取り戻した証明の魔道具によって徐々にその明るさを取り戻していく。


「立会人として宣言します。この決闘は【紫雲】側<大将>、『紫魔導師』ノーウェ=ホームの勝利です!」


「決まったぁーーー!!この勝負ぅーーー!!ノーウェ=ホームのぉーー完勝ぅーーでーーすぅーーー!!何という結末ぅーーー君は何て男なんだぁー何て不思議な魔法を使うぅ面白いぃ魔導師なんだぁーーーー!!」


 透明に戻ったマスクが高らかと俺の勝利を宣言すると、会場の観客席の四方八方から歓声が沸き起こった。


「『ウインドーフロート』」


 俺は、その歓声に手を振りながら、両手を上げて俺を待ち構えている派閥のメンバーたちの集まりに飛び込んだ。


 派閥決闘3連戦


 第3決闘【愛愛風華】VS【紫雲】

 <大将戦>【紫雲】ノーウェ=ホーム 完勝!


 派閥決闘3連戦

【紫雲】3連勝!!


ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


花火?何それ?笑

泡ですよ、泡!


次回、華やかな場所に必要なあの男が再登場!

名前だけ出てた新キャラも出るよー。


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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