2-48『隠し玉』
俺は考えた。
愛の貴公子は、おそらく魔法を透化して攻撃してくるだろう。
それに対抗する手段として、こちらも透明な「泡」による反撃を行えばいいだろう……と。
だが、この戦法を思いついてしばらくしてから重大な欠陥に気づいてしまった。
この決闘戦……このままこの戦法で戦っても、まったく盛り上がらないんじゃないかって。
相手の攻撃は、『透過』という光魔法の技法を用いて火魔法を見えなくしてから発動する魔法。
つまり、視覚には作用しない。
一方、俺の対抗手段である『ヴァインバブル』という魔法も、それそのものは光の下では無色透明の泡でしかない。
つまり、見えない。
仮に愛貴公子が俺が想定している以上の隠し玉を魔法で用意していれば話は別だが、マスボで過去の決闘を見る限りその可能性は薄い。
したがって、このまま行くと相手が見えない魔法を放ち、こちらが見えないカウンター魔法を放って決闘が終わってしまう。
決闘を観ている人たちからすれば、何がなんだかわからないうちに愛貴公子が倒れているという状況になるわけだ。
いくら、あっさりといっても、さすがにそれでは無味無臭が過ぎる。
だから、俺は考えた。
この決闘を大いに盛り上げる方法を……!
「『パーティナイトメア』」
その戦法は単純明快。
光が邪魔なら魔法で消せばいいのだ。
バンッ……!
「おっとぉーー、いったいどぅーゆぅーーことだいぃー?会場中のぉーー灯りがぁーすべてぃ消えたぞぉうぅーー!?」
観客の悲鳴とともに透明マスクの絶叫がこだまする。
あ、マスクが蛍光色に光っている……
「な、な、なんだね?これは!?」
前方で狼狽する愛貴公子の声が聞こえる。
「これは光の魔道具のぉトラブリュゥーかいぃー?いや、舞台にぃー、丸い灯りがいくつかあるぞおぉーー!?あれは魔法かいぃーー?」
『ハイリゲンダンジョン』の第4層にもいた魔物。
その名も「チュッパケイブルー」。
通称「夜王」の持つ魔法がこの『パーティナイトメア』で、屋内の光魔法をすべて遮断する魔法。
その魔物は水辺のある洞窟内によく棲息している蝙蝠型の魔物で、この魔法を使うことで他の魔獣の視界を奪い、背後から忍び寄って好物の生き血をすする。
この魔物に襲われた冒険者は、おそらく痛みもほとんど感じることなく血を抜かれて死んでいく。そして、魔物は血を吸うと満足していつの間にかその場を去っていく。
洞窟内で野営をするときなどは要注意だ。
自分の横で眠っていただけの君だけが……
……なんてことがあるから。
本当に、何でもない夜が二度と戻れない夜になってしまうから気をつけないといけない。
俺たちが「バブル遮光クラブ」討伐の帰り、第4層に入った際に洞窟内が一気に暗くなったのもこいつが原因。
もっとも、俺たちは、この魔物が忌み嫌うものを持っていたために近寄られることはなかった。
「夜王」は海産物や水棲生物の生臭さを持つ食品やアイテムを嫌う。
水辺の洞窟に好んで住んでいるくせに。
一説によると、彼らの棲息域のさらに深層に、大抵上位の水棲魔物がいるためと言われているが真偽の程は定かではない。
今回は「バブル遮光クラブ」のハサミなどの討伐部位を持っていたから俺たちは狙われなかったのだろう。
あと癪だけど、あのイカ煎餅も……
「き、君は一体、私の魔法に何をしたんだっ?」
「泡だよ」
「あ、あわ?」
「そう。アンタの魔法を泡で包んだんだよ」
今、俺の顔付近に4つの大きな泡が火を包んで団子のように連なって並んでいる。
その泡は今、俺からも、対戦相手からも、大勢の観客からも、淡く輝きを放つ青白い泡の中にオレンジの火の玉がゆらゆらと揺らめきながら包まれているように見えるだろう。
『パーティナイトメア』は光魔法を遮断する魔法であるため、光魔法の『透過』の作用を奪ってしまい、逆に光ってしまうという珍現象だ。
そのせいで、『透過』された貴公子の火の玉と俺の泡が見えてしまったというからくり。
……ん?
……ということは……あのマスクは?
……やめよう……今はそれどころじゃない。
「ヒッ、ハッ、ハッタリだろ!?ど、どうせ……うおぉぉーーーー『透火』」
「……それは悪手だぞ!?」
愛の貴公子が自分の有能さを証明すべく、さらなる火魔法をさらに何10発も放つ。
魔法を覚えたての少年が教科書通りに的当てをするように。必死に、必死に……
……残念、それはただの火の玉だ。
……そして悪夢を見せる泡の餌。
火の玉を包んでいる泡が分裂して増殖し、向かって来た火の玉を大口を開けて喰らい、包んでしまう。
経験の浅い魔法使いは、わけもわからず、つい魔法を注ぎ込んでしまうらしい。何発も、何発も……
こういう場合、見えてないから焦ってやってしまうものだと思うのだが、見えているのにひたすらやり続ける人も珍しい。
パニックってやつだな。
パーティにはつきものだ。
そして、泡は増殖し、その連なりはどんどん、どんどん、大きくなっていく……
この魔法の泡は、魔法使いの夢を喰らう悪魔であり、大望を抱く魔法使いにとっての悪夢だ。
「ふ、ふん。そんな泡で防いだところで、ちっとも怖くなんてないさ」
虚勢を張る貴公子。
「なら試してみる?……あんたなら、もしかして防ぐ術があるのかな?」
「へ?」
鼻水を一筋垂らす貴公子。
「ああ、アーネストさん。下がってもらえます?舞台の縁の方まで」
俺は舞台の中央に立つ立会人に声を掛けた。
そこに立っていられるのはちょっとまずい。
「え?しかしだな……」
「立会人は舞台の上にいればいいんですよね?軌道に魔力を持った人がいると危険なんで……死にますよ?」
「!?……君は……その魔法は危険ではないのかね?ここでの殺しはご法度だよ?」
「大丈夫です。触れずに倒しますから。それに、ちょっと確かめたいこともあるんで。ここはひとつ、俺の魔法を信じてもらえませんか?」
俺はアーネストさんをじっと見つめた。
「……分かった。君を信じよう。何かあれば立会人として君を厳正に処罰し、私も責任をとる」
「ありがとうございます。俺の魔法を輝かせる機会を与えてくださり感謝します」
「君は不思議な男だな。魔法を輝かせる……か」
そう言うと、アーネストさんは引き下がった。
「ふ、ふんっ!ハッタリにハッタリを重ねたって無駄さ……貴族であるこの私を君のような平民が脅そうなど……」
ポイッ……
俺は泡の1つを発動させ、切り離した。
カウンター魔法だけど発動は任意。
しかも、自分の魔法すらも飲み込む優れものなんだ、この『ヴァインバブル』は。
泡はふわふわと漂いながら、舞台中央に向かっていく。
パンッ……
「ヒッ!」
ボッ……ボガーン……ボボボボボガーーン……!!
ズガガガガガーーン……ゴオオオーー!!
「おっとぉーー!ノーウェ=ホームの方にあった泡がひとつぅ飛んでぇー中央で大爆発だあぁーー!すごい威力だぁーー」
蛍光マスクの実況通り、泡は舞台中央で盛大に弾けた。
貴公子、口あんぐり。両穴から鼻水だらり。
「今のが、アンタの放った火の玉の2倍の威力だよ。なかなかの破壊力だったね。魔力は悪くないんだな?」
磨き不足だけど。
「え?」
「これからアンタが放った火の玉の数だけ、今のと同じ破壊力の泡がそっちにいくからよろしく。直前で止められるといいけど、調整できるかなーー?」
途端に青くなる青っ鼻貴公子。
「ま、待て、待て、待つんだ……話し合おうじゃないかっ!」
俺は泡をまたひとつ発射する。
少し間をおいてさらにひとつ。
さらに間をおいてまたひとつ。
「えー、アンタ、悪いことしてたじゃん?先輩の部屋を透過魔法で覗いたりしていたわけじゃん?」
「ち、違うっ!私は情報を仕入れさせただけで、実際にやったのは私じゃ……」
なるほどね……
「あー、でも発動しちゃったから、残念。さよならー」
最初のひとつがふわふわと貴公子のいる所までゆっくりと近づいていく……
「ヒイィィーー……ブクブクブク……」
ジョォ〜……
口から泡を吹く貴公子。
下からも何かが漏れ出ている。
愛は儚い。
「もう止められないや〜」
パンッ……!
「『透過不の盾』」
ボォ……ガガガガ……
なるほど。
それが隠し玉だったのね。
俺の『シェル』のような結界が泡貴公子の眼前に張られ、その口元泡まみれ、白目になった顔を発火から守った。
「……これはやられましたね。まさか、坊ちゃんの火魔法ではなく貴方の作った偽物の火の玉だったとは……」
「ああ。さすがにあの威力が当たったら危ないからね。ごく弱い『ファイア』をそれっぽく見えるように調節した」
「いやはや……大した御方だ……お手上げです」
「……それより、あんたが『隠し玉』だったんだね!?……執事さん」
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
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犯人は執事???
次回、色とりどりの……
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




