2-47『見えない魔法』
「少し待っていてもらえるかな?あちらの作業が済んだら決闘を開始するので」
「……分かりました」
立会人を務める若い男性が苦笑いしながら俺に話しかけてくる。
すらっとした体型の優しそうな人だ。
高級そうなダークトーンの法衣に身を包んでいる。
その隠し切れない魔力の波長からして、魔導師としてかなりの実力なのがわかる。
ちなみに、今すぐにでも決闘をしようと意気込んでいた愛の貴公子は大会運営者の黒服の人たちに舞台の縁の方まで誘導され、そのあとにやって来た鎧を着た騎士たちに囲まれ、1人の騎士の持つマスボに手を置いている。
魔力紋でも取られているのかな。
入学時点で手の平の魔力紋を取るはずだから、ひょっとしたら学園関係者ではないのかもしれないな、あの騎士たちは。
「ところで、ノーウェ君。君に謝罪がしたい。君たちの顧問である私の婚約者がせっかくの祝いの席で粗相をしてしまったらしいね……大変申し訳ない」
「あっ!じゃああなたが……」
フィッティ先生に婚約者がいるという話は聞いていた。
うちの派閥の女子たちがキャーキャー話をしていたし、レミがなんかこそこそ嗅ぎまわっていたからだ。
先生は最近何やら心労が多いみたいだから、ひょっとしてうまくいってないんじゃないかと皆(ブルート以外)で心配していたが、どうやら悪い人ではなさそうだ。
「アーネスト=ジョエルと言います。よろしく、ノーウェ=ホーム君。ああ、立場上、今は握手はできないけど許してくれ。フィッティは少々酒癖が悪くてね。普段は厳しい先輩方に監視……いや、見守られているんだが……その節は、彼女が君たちに迷惑を掛けてしまい申し訳なかった」
「い、いえ……まぁ大丈夫です」
俺は苦笑した。
アーネストさんが言っている粗相がどこまでのことを指しているのかが分からなかったのと、フィッティ先生が酔い潰れたのは安酒のせいだったかもしれなかったから。
もし、そうだとすれば回り回って俺のせいかもしれない。
リバーにパーティ費用を抑えるように指示したのは俺だったから。
「でも、だとしたら先生の婚約者であるアーネストさんが、この決闘の立会人を務めていいんですかね?」
決闘外での面倒ごとはごめんですよ、という意味を暗に込めて聞いてみた。
すでに視界の奥で面倒ごとが発生している気がするが……
愛の貴公子は、今度は手だけでなく体全体のチェックを受けている。
「ははっ、先輩の言った通りだな、君は。その点は大丈夫。公平なレフェリングをするつもりだし、私が選ばれたのはむしろあちらに対する牽制だから」
そう言って再びアーネストさんは苦笑した。
あちらと言うのは、現在騎士たちの持つマスボに片耳を当てている貴公子のことだろう。
あれは何をやっているのか気になる。
あと、先輩って誰?
「彼のような高位貴族がこのような場所で決闘する場合は、公平を期すために帝国政府や軍部と関わりがある人間が立会人に選ばれるんだ。牽制のためにね。私はこの学園から政府に出向している立場だから適任というわけさ。出向部署の関係もあってね」
「はあ」
よく分からんが、要するに、村長の息子の暴走を止めるために俺が村長の奥さんへの報告役を担っていたようなもんだな……と認識しておこう。
村から街に行くときはいつも内々で指令を受けていた。
街で喧嘩でもし始めようものなら即気絶させたり、ね。
酔ってトアック組員に喧嘩を吹っ掛けた時はどうしようかと思ったよ。
組員もろとも縛りつけてやったけど。
まあ、どんな場所にもバカ息子の1人や2人いるってことだな。
「では、公平を期すためにあの声援を止めさせてもらえると……」
「きゃー、アーネスト、頑張ってー」
「うーん、私の力では無理かな……申し訳ない」
アーネストさん、三たび苦笑する。
立会人の声援をする派閥の顧問ってどうよ?
せめて顧問をしている派閥の学生を応援せんかいっ!
「あ、終わったようだね。それじゃあ、また」
そう言ってアーネストさんは元の位置に戻った。
騎士による身体チェック?を終えた偏愛の貴公子が戻って来る。
「まさか、こんな心理戦を土壇場で仕掛けてくるとは恐れ入ったよ、平民新入生君」
あくまでクールを装っているが少しげんなりしている貴公子。
完全に身から出た錆なんで、くれぐれも俺のせいにしないで欲しい。
心理戦、と言えば、この一件でなぜか俺に対する野太い声援が増えた。
「制裁を加えろ」とか「天誅を入れろ」とか言ってる。
「まあ、そんなことは決闘で勝ってあの部屋を手に入れれば些細な問題になるけどね!容赦しないよ」
……大問題な気がするけど。
決闘に負けたらどうなるんだろうか、貴公子。
まあ強く生きて欲しい。
「それではこれより決闘を始めるよ。2人共いい……」
「それでゅはぁーーようやくぅー決闘が始まりまーすぅーー」
かき消されるアーネストさんの声……
この人も大概苦労人だな。フィッティ先生もだけど……
似たもの同士ということで、末永く幸せになってほしい。
「……はぁ……じゃ、はじめて」
「はじめーいぃーー」
ようやく決闘が始まったっぽい。
前置きが長かったな……
すでに1戦交えた気分。
「おい、平民。お前には私がこれから使う高貴な魔法が見えないだろうから、1つ良いことを教えておいてやる」
「なんでしょう?」
「バカめ!これで終わりだっ!『透火』」
ボムッ……
耳元で音がした。
なるほど……
称号通りの魔法ってことだな。
「バ、バカな……な、なぜだ?」
ボムッ……ボムッ……ボムッ……
追加で3発。教科書通りに、一定のリズム。
飛ばしすぎじゃない?大丈夫?
「な、なぜ発動しないっ!?」
「してますよ!?」
「え?」
発動はしている。
だから食われているんだけどね。
泡食った顔をしている貴公子。
「1つ良いことを教えてあげます」
「な、何だ?平民」
「これでもうアンタの負けは確定しました。こっちの見えない魔法が発動したんで。いくらあんたの透過魔法でもすべては防げないと思うよ」
『ヴァインバブル』……それがあの地底湖に棲む悪魔の泡魔法。
◇回想~ダンジョン第4層(帰り)~◇
「ねえねえ、ノーウェ君。あの化け物蟹はなんで倒れたの?」
レミがマスボ片手に聞いて来た。
なんでマスボを手に持っているのかは知らない。
「ああ、あの『バブル遮光クラブ』は恐ろしいカウンター攻撃を持っていてね」
「あー!あのブランク君のファイアを泡で跳ね返したやつ!?」
ミスティが話に入ってきた。
ブランクはきょとんとしている。
そりゃそうだ。ブランクが石になっている間の出来事だからね。
あれで記憶があったらもはや人ではない。
「そうそう。正確に言うと泡が魔法や魔力を飲み込んで大きくなるんだ。どんなに強力な魔法を放ってもあの泡が待ち構えていたら最後。飲み込んで、大きくなって、相手の方に向かって行って、弾ける」
ちなみに、カウンター魔法だけど任意で操作はできる。
「ひえー」
さすがのレミもドン引き。
まあ、あの蟹も悪魔という異名がつくだけあって、えげつない技持っているよなあ。
「実際、あれに対抗しようとしたら発動前に倒すくらいしかないんじゃないかな。あの蟹、魔法発動の速さはないから。それか、高威力の魔法をバンバン飲み込ませて、こっちに被害がこないように同じくらい強力な壁を張っておくか……」
『シェル』だったら防ぎ切れるだろうか?
微妙なところだ……
「で、でもノーウェ君はゆっくり倒していたよね?何かイカ煎餅食べながら」
ああ、あれは不味かった。
海のない帝都でイカ煎餅は無理がある。
「ああ、あれは攻撃魔法じゃないから、蟹も認識しなかったんだろうな。結界魔法みたいなもんだから」
「はえー。倒したやつも?」
「いや、倒したのはあの蟹の固有魔法だよ」
「「「え?」」」
「あの蟹の泡を泡で返した。だから自分の泡が大きくなり過ぎて身体近くで弾けたってわけ」
「「「……???」」」
めっちゃ困った顔をしているな、3人共。
まぁ説明しても理解してもらうのはなかなか難しい。実際に見てもらうしかないだろう。
バンッ……
「ひゃっ!」
突如、洞窟内が真っ暗になった。
「光魔法が効かない……?見えないよー」
「ああ、これはあいつの仕業だな」
「あいつ?」
「ああ、これは蝙蝠の化け物みたいな魔物……『夜王』の見えない魔法だな」
「「「夜王」」」
◇回想終了◇
「な、何が起こっている!?」
喚く貴公子。
「これからアンタの魔法がどうなっているか見せてあげるよ」
パーティはこれからだよ♪
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
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ノーウェには何やら隠し玉の秘策があるようです。
次回、ノーウェが明らかにします!
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




