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2-45『ある教師の観戦記其の3』

 クローニ=ハーゲル。私は誰?

 いやあ、ちょっと我を忘れていたよ。

 手に汗握る展開とは正にこの事だったね。

 

 ここが闘技場だということも忘れそうになったよ。


 派閥間決闘【紫雲】VS【魔転牢】。

 その最終局面である第3・第4の部屋の結界破壊に至る攻防。


 誰も予想しなかった展開の連続だった。


 第3の部屋で〈指揮官〉のリバー君が退場し、【紫雲】側が一気に不利になったと思いきや、第4の部屋で今度は【魔転牢】側の〈指揮官〉ガイル君が退場するという展開となった。

 この流れを戦前から予測できたものはいないだろう。


 両名の〈指揮官〉が退場するなんて前代未聞の事態だからね。


 部屋にもういないんだよ。リバー君も、ガイル君も!


 でもね?


 いないはずなのに、そこにいたんだ……リバー君は。

 勝負の決めてとなる大事な「鍵」をそこに残してね。


 対するガイル君の方は、少し未練が残っただろうね。

 最後は何かにすがるようだったよ。

 やり直せるものなら最初の第1の部屋からやり直したかっただろうな。


 でもね?


 頼ったものが良くなかったのだよ。ガイル君は。

 どんな方法でも勝てばいいってもんじゃない。


 この学園は、確かに決闘前の交渉や前準備の重要性を生徒に説いている。

 互いの頭脳を駆使する以上、様々な盤外戦も考えられるし、決闘時に自分を少しでも有利な状況にしておくことは重要だ。


 でもね?


 それは、あくまでも自分が決闘の場に立ったときに最善となるようなものでなければならないんだ。自分を見失っては本末転倒。


 そして、ここでいう自分とは、派閥のメンバーも含めた1つのチームとして、ということだよ。彼にはそのことをこの敗戦からしっかりと学んで欲しいな。


 結果的に、ガイル君は策士策に溺れた感じだった。

 それに、リバー君が退場した時点で彼は少しばかり油断してしまった。

 慢心はいかんよ。

 まあ、自分の退場まで考慮して代わりを用意しておくなんてことなかなか新入生ができることじゃないから仕方ないとは思うけどね。


 決闘は終わるまでが決闘だというのがよく分かる良い戦いだったよ。

 

 とにもかくにも、こうしてリバー君の意志を汲んで「勝利の鍵」となったノーウェ君とブルート君は、超特大級の水竜を放ちました。


 2人の最初の決闘を見届けた私としては、実に感慨深い光景だった。

 ……それよりも、驚きの方が勝ってしまったけどね。


 あれはもはや竜というより龍だったね。

 エクス級なんてもんじゃなかったよ。

 なんだい?あの威力……


 そして、学園長のマムンクルスは……というより部屋はひどく破壊されたよ。

 あれ、修理にいくらかかるんだろう?


 観客にとっても実にアップダウンが激しい決闘だった。

 そして、最後は何とも微妙な空気……

 終わった今ではまた新たな熱気が生まれているけどね。


 ……まあ、私はちょっといい気味と思ったけどね。

 なんであんなことしたのかわからないけど、教授はちょっとやり過ぎだったよ。


 ふう……興奮し過ぎてしまった。


 隣では、私に遅れてクソタコババアが興奮している。


 このタコババアがここに来ている理由はね。

魔術協会ギルド」にレポートを送るためなのだよ。


 この学園にはいくつかのしがらみ……ざっくり言うと「利益団体」というものがある。

 学園の発展のためにサポートをする代わりに、学園からも何らかの利益を享受する団体ということだよ。一番は人的リソースだね。


 優秀な魔導師1人入るだけで彼らはかなり潤うからさ。


 この「利益団体」はいくつか種類があるけど、代表的なのは大商会、各種協会ギルド、聖教会……あとは各国政府もそうだね。

 各種協会で特に大きいのが、「魔術協会」、「魔道具協会」、「治療士協会」、そして「冒険者ギルド」だよ。


 クソババアは「魔術協会」の要人であり『魔女』の称号を持つ者だから、そこと強いコネクションがあるというわけだ。


 教師がそういった外部の利益団体とパイプを持つということ自体は決して悪いことではないし、彼らが人材を斡旋できれば企業は潤い、生徒の将来も安泰になり、ある意味ウイン-ウインと言えるわけだよ。私はそれを否定はしないよ。


 私だって昔取った杵柄というやつで、冒険者ギルドとそれなりにつながりがあるしね。


 もっとも、否定はしないけど、私自身が積極的に学生に就職口を斡旋しようとは思わないね。泣きつかれた場合は考えるけど、本来であれば彼らは就職をするための準備を自分でするべきだから。

 まあ、冒険者ギルドを選ぶ物好きは少ないから、だいたいは学園職員や事務員の道を勧めるけどね。


 ピンキリのピンの上澄みを皆が争い、キリの方に目を向けないのは世の常。

 キリの生徒たちが将来への不安で就職口探しに苦労する中、ピンの生徒たちを取り巻く環境ではまったく違う争いが起こるものなんだ。


 それが各利益団体によるスカウト合戦。

 めぼしい人材は新入生の頃からスカウトたちに目をつけられ、彼らや彼らの意を汲んだ教師が声を掛けていくんだ。


 毎年の風物詩なのだけど、本当に虫唾が走るね。

 スカウトの方ではないよ。彼らは仕事だからね。そこに何らかの不正な金銭授受がなければ別になんら悪いことじゃないよ。


 でも教師の場合は違うよ。

 3年生になって就職を考える頃ならまだいい。

 でも、1年生で別に自分が育てた人材でもないのに教育を怠ってそういうことばかりにかまけている奴らには本当に虫唾が走る。


 隣のクソババアはまだいい方。

 こいつは、自分から動いたわけではないし、おそらくリポートの目的もどちらかというとノーウェ君の魔法の方にあるのだろう。


 あとは、彼の取り巻く環境を魔術協会が警戒して、とりあえずの探りとしてアクションを起こしたのだろうね。


 魔術協会は聖教会と仲が悪いからね。


 なんでこんな話をしているのかというとだね、すべてはノーウェ君の『ハイリゲンダンジョン』制覇のニュースが原因なんだ。


 単に、冒険者ギルドが討伐に手を焼いていたAランクの魔物を学園の新入生が倒したというだけでも大ニュースだよ。


 私はもう現役じゃないから力にはなれないけど、冒険者ギルドも本気で対策をするために、()()()()を学園長のおつかいから呼び戻す話をしていたみたいだし。


 学園内でも、あの腐れモーリッツがイクス=トスト殿に討伐隊を編成させようと奔走していたみたいだしね。イクス殿は『迅雷じんらい』だから水棲生物と相性がいいしね。


 でも、それを出し抜いて、新星が偉業を達成してしまった。

 加えて、それが『聖教会』の権力者の1人である『聖女』アルテからの特別依頼だったというのがかなりのインパクトだったわけだな。


 これに各方面が大いに揺れた。


 ババアもその1人。『魔女』と『聖女』は元来仲悪いし。


 まあ、でもノーウェ君と聖教会ってそんなに蜜月な関係じゃないって思うよ。

 入学式の時だったかな?夕方、モモエ君と2人で学園に戻って来た時に私は彼に2人でどこに行っていたのか聞いたんだよ。そしたら大聖堂を指して「悪魔の住処」って答えていたからね。


 さて、興奮冷めやらぬ中、刻一刻とメインイベントの時間が近づいているよ。

 今、先ほど話したような「ピン」の人材が続々とこの闘技場に集まってきている。


 6位のジャネット殿は元より……


 5位『雪月せつげつ』のシーア=ベン。

 7位『石嶺せきれい』のコイン=ドイル。

 8位『光霞こうか』のマライヤ=ミラー。

 9位『瀑布ばくふ』のカシウ=フェスタ。

 10位『宵闇よいやみ』のフォルクス=ガント。


 錚々《そうそう》たる顔ぶれがこの闘技場に来ているよ。

 なんでわかるのかって?魔力の質が違うからね。

 彼らも気が気でないのだろう。

 自分の座を脅かすものが現れるかどうかに……


 観客も大入り満員で熱狂に拍車がかかっているね。


 元々はここまでの盛り上がりではなかったのだと思う。

 この第3決闘も、カードが決まった時点では別の盛り上がりを見せていたからね。


 別名「華に近づく害虫対決」


 ノーウェ君に関しては完全に不可抗力の濡れ衣なんだけど、ファン心理っていうのはそれで納得できないものなのだろうね。


 対戦相手のホルス=ムートックに関しては弁解のしようもないだろう。

 だって、派閥名からして【愛愛風華あいらぶかざはな】だからね。


 ちょっとその辺の事情を当事者の1人にインタビューしてみたいと思ったんだけど……


 笑顔の裏に般若が見えたから止めておくよ。


「んで?お前的にはあのホルスとかいうキザ小僧はどうなんだ?」


 聞いたーー!?

 ババア聞いたーー!

 ババア強ええーー!

 初めてよく言ったと思ったよ。


「存在を存じ上げませんわ……」


「ほーん……」


 にべもなかったね。

 そりゃそうか……前言撤回。

 あとババア、いったい何個摘むんだよ。


 元々はこのジャネット嬢のファンたちが待ち望んだファイトだったこの第3決闘。

 確実にどちらかは負けるし、何なら両方負けて欲しい。

 そんな黒い声援が予想されていた。


 だが、状況は変わった。


 今は、純粋にひとりの魔導師に注目が集まっている。

 これまでの彼の派閥の奮闘ぶりと学外での大ニュースがこの渦の主な原因だろう。


 さあ、ノーウェ君。今こそ君の実力を見せるときだ。


 先生としては熱く激しく躍動感溢れるファイトを期待しているよ。


 観客のボルテージも最高潮。


 まるで殿上人同士、あるいは大派閥同士の決闘の雰囲気になっている。


 さあ、ノーウェ君。出番だよ!


 ……くれぐれも、観客一切無視で楽して勝とうとか思わないようにね?


 ……頼んだよ!?

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


第2決闘が終わって大団円になっている感がありますが……

まだもう1戦残っているんです!


……主人公ノーウェの舞台が!


次回、第3決闘開幕!!


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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