2-40『指揮官失格』
銀髪の女性が無表情のままこちらを向いた。
どうやらソフィーおばちゃん学園長マムンクルスの標的が俺たちに移ったらしい。
「くっ、『水衛』」
「堪えてくれよ、大将!『氷玉』」
マムンクルスの学園長……じゃない、学園長のマムンクルスはこちらを一瞥すると、急に石塊を放ってきた。
ブルートとハリーが応戦する。
ブルートは水の魔法で壁を作り、それをハリーが氷玉を放ってその一部を部分的に凍らせることで補強する。
「ご苦労なことだな。俺たちのために囮になってくれるとは」
眼鏡を掛けた神経質そうな先輩が、学園長マムンクルスの標的が逸れたのを見計らって、氷の壁を解除すると、氷魔法で攻撃し始める。
俺たちが部屋に入る前に【魔転牢】の人たちはマムンクルスと交戦していた。
探索をし終えていたのだろう。
氷の刃が床から天井から現れて、次々と学園長に突き刺さる。
どうやら、あの眼鏡の先輩が敵の〈指揮官〉で『氷狐』の称号を持つガイル先輩で間違いないようだ。
「戦闘方式」で対決していてもかなりの強敵なのは間違いない。
ジャネット先輩と比べてもいい勝負するんじゃないかな、この人は。
ガイル先輩ともう1人、学園長マムンクルスに氷の攻撃をしている女子学生がいる。
彼女は氷の円盤のようなものを飛ばして攻撃しているが、威力も発動の速度もガイル先輩と比べると一段劣るようだ。
やはり2文字の称号というものは、本来破格なものなんだろうな。
「ふおおおぉーー」
そういうわけだから、頑張れ、不覚のブルート改め破格のブルートよ、頑張れ!
なんか、2人の先輩が攻撃してから、急にあの学園長マムンクルスの魔法攻撃のスピードが増した気がする。
「さて、そろそろだな……それにしても、まさかリバー=ノセックが脱落しているとは……あいつには失望したよ。くっくっく、まったく拍子抜けだな。あの男は〈指揮官〉失格だ」
おもむろに、ガイル先輩がこちらにやってきて、挑発をはじめた。
「な、なんだと!?」
「なにおうーーー!?」
煽り耐性ゼロのブルートとレミが相手〈指揮官〉の言葉に強く反発している。
ブルート、反発しててもいいから、壁をしっかり作れ。魔法だいじに!
しかし、なかなか切れ者そうでいて、陰険でもありそうな人だな、ガイル先輩は。
俺は、彼らが煽り合ってくれている間に自分のすべきことを粛々と行うため、立ち位置を変える。すすっとブルートの傍、ガイル先輩と学園長マムンクルスの間にね。
「だって、そうじゃないか。戦において〈指揮官〉だけは何があっても死んではならない。戦いの終わる最後の最後まで指揮を取り続けなければいけない。途中で倒れてしまうのは〈指揮官〉として無能な証拠だ」
「ぐっ!!」
「むーーー!!」
冷徹に言い放つガイル先輩。
まあ、言わんとしていることは分からなくもないけどな?
その考えは俺のモットーである「死んでも生きろ」に通じるところがある。
命あっての物種。命があれば何回だってやり直せる。
……ただね、リバーがあんたとしている勝負は〈指揮官〉勝負じゃないんだよ。
と心の中で反論しておく。
……それと、どうでもいいんだが2人掛かりで噛みついたんだからせめて1回くらい反論してくれないかな?ブルートとレミよ……
もうちょっと時間稼いで欲しいんだけど。
「そんなに言うんだったら、あんたの計画は予定通りなのかよ?本当は、ここに来るまでの間、リバーに翻弄されて内心ドキドキだったんじゃないか?」
「そ、そうだ!そうだぞ!!ふおおおおぉぉーーー」
「べーーーっだ!」
素晴らしい。
よく言ってくれたハリー!やっぱり頼りになるのは君だ。
そして、反論者として役に立たない2人も、煽り役としてはなかなかいける。
「ふん。相手の策を崩すのは策略の基本だ。それも想定内に納めて修正することこそ〈指揮官〉の仕事だからな。リバー=ノセックがそれぐらいやることぐらい分かっていたさ。だがね、結局は最後の一手をどうするかなんだよ、ハリー=ウェルズ」
不敵な笑みを浮かべ、自身のこめかみを指でちょんちょんと差すガイル先輩。
「何が言いたい?」
「それもこれもゲームを支配する指揮官の想定内ということさ」
「……」
「そろそろ『断末期』よ、ガイル」
「これで俺たちの勝ちは決まりだな……どうした?」
場に割って入るように、金髪の女子学生と精悍な顔つきの男子学生がやって来た。
「グレイシー、ギース。いや、最後だから、こいつらに〈指揮官〉とは何かをレクチャーしてやっていたところだよ。いいか?ハリー=ウェルズ。〈指揮官〉は戦いの最中もずっと勝つことを考えていなければならない。こうやってお前と話していたことにも意味があるのだよ」
「だから何が言いたい?」
ハリーは帽子の唾を掴んで深く被る仕草をした。
……OK!もう大丈夫。
俺は誰も注目していない所でこっそり踊ってみた。
「ブルートの踊りその8」を。
少なくとも横を向いてハリーと話しているガイル先輩たちには見えないはず。
ハリーは深く帽子を被ってちょっと肩を震わせている。
せっかくの作戦を台無しにするなよ!?
「すべては計算ずくなんだよ。俺は、この部屋のマムンクルスの有効属性が『氷』になるように1つ前の部屋で調整した。まあ、最後の番人がこの姿で出てくるのはさすがに想定外だったが、敵の形がなんであれ、その傾向に変化はない。ここの結界のマムンクルスは体力が少なくなると攻撃魔法を連発してくる。それを俺たちは『断末期』と呼んでいる。分かるか?もうすべての決着はついているんだよ」
なるほどね。
それが、想定の範囲内ということなんだな。
たしかに、相手のマムンクルスは氷属性が有効なようだし、今もブルートに向かって怒り狂ったように石の塊を連発している。
……それ、全部リバーのメモに書いてあるけどな!?
「ガイル=ワイリーは必ず『氷』で勝負する」だってよ?
「ちっ、すべてお膳立て済みってことかよ」
「その通りだ。分かったか?これが〈指揮官〉の策略というやつだ。自分たちに最良の結末を導き出すために全力を尽くす。そのために無駄なことをせずに作戦を遂行するのがチームというものだ。俺たち【魔転牢】のようにな」
「……そうやって勝ち誇っていることは無駄な行為じゃないのか?先輩さんよ。俺たちだって『氷』を使えるんだぜ?」
ハリーが意表をつくように『氷玉』を放つ。
いいぞ!その調子だ。挑発だいじに!
手持ち無沙汰にしていた、ジャック、レヴェック、ブランクの3人もハリーに呼応して『ハイアイス』を放つ。
「それも計算済みだぞ。ハリー=ウェルズ。お前らは『ハイアイス』までしか使えない。『ハイアイス』はどんなに魔力があっても『グランアイス』の5か6分の1程度の威力しかない。そして、この『断末期』のマムンクルスを倒し切るには『エクスアイス』1回と『グランアイス』1回の攻撃を加えなければならない……つまり、もうチェックメイトだったんだよ!それをお前たちが、さらに確実なものにしてくれた。行くぞディキシー」
「はい!」
ガイル先輩と先ほど氷の円盤を放っていたディキシーという女子の先輩が魔法の発動準備を始める。
いや、俺には当てないでね。どくから。どくから。
もう準備完了だからね。
「せいぜいそこで〈指揮官〉の不在を嘆くがいい、ハリー=ウェルズ……そして、ノーウェ=ホーム」
「え、俺?」
「君が最後の最後で何かしでかすと思ったけどね。どうやら、とんだ見込み違いだったようだ。じゃあな『氷狐槍』」
「行きます!『氷盤通』」
ガイル先輩の手から巨大な氷の槍が放たれる。
その槍にディキシー先輩の氷の円盤が空中で纏わりついて槍身を補強する。
2つの氷魔法が連なり巨大な氷の槍に変わった。
何かしろと言われたので、俺も背嚢から瓶を取り出してブルートに投げた。
……青髪男の頭に当たった。ちゃんと取れよ。
そして、さっさと飲め。
『シェル』張っておくから、今のうちに魔力回復しろ。
苦い表情をするんじゃない。
ビュンッ……
槍が俺の脇を通過し、石魔法を放っている学園長マムンクルスの元に飛んで行く。
おおっ、でかいな。さすが、エクス級以上の攻撃だ。実に見ごたえがある威力だ。
パアァーーン……!グワッシャーーーン……!!
「ハハハッ!!完璧だ」
……
………
…………
「ハァーハッハ……?」
「マチガイデス。ゾクセイチガイ。リニカナイマセン。ラクダイデス」
ブーブーブー……
「「へ???」」
2人のマスボから退場の告知音が鳴り響く……
「な、なんだとーー?な、なぜだぁーーーー!?」
「な、なぜなの?」
明らかに狼狽するガイル先輩は、ブルブルと震え出し、頭を抱えながら膝をついて叫んだ。
「ぷっ、〈指揮官〉失格だな……!?」
「だなっ!?結局は最後をどうするか、なんだよなあー」
俺とハリーは、今にもこぼれそうな笑いを口を手で塞ぐことで必死に抑えながら、想定外の事態に頭を抱える上級生を煽れるだけ煽り倒した。
【魔転牢】サイド
脱落者:〈指揮官〉ガイル=ワイリー『氷狐』
〈攻撃役〉ディキシー=ローリング『水氷蓋』
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
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いったい誰が何をしたのか……?
ちなみに、「ブルートの踊りその8」はタコ踊りです……笑
次回、ついに決着!!
久々にあの技も出るよ~♪
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




