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2-35『行き当たりばったり』

◇【紫雲】サイド(【魔転牢】サイドが第3の部屋を攻略する10数分前)◇


「退避ーー退避ーーー!!」


「「「ワーーー!!」」」

「「「キャーー!!」」」


 一同、慌てふためいております。

 それもそのはず。

 3つ目の部屋の攻略はこれまでのものとまったく違うもので、目の前のマムンクルスの攻撃にひどく手を焼いているからであります。


 俺?

 俺はいたって冷静だよ。〈運び役〉だからね。


 あと、他のメンバーほど驚かないかな。

 この手の魔物は何度か見たことあるし。


 フォームチェンジ、属性変換をする魔物ってのも実は結構存在する。

 まあ、あれらを魔物と呼んで良いのかは微妙ではあるが。


 その話は置いておくとして、予め調べておく機会はあったと思うから、みんな、ことここに来て慌てる必要はないと思うんだ。

 その証拠にハリーなんかは何も言わずじっと腕を組んでいるしな。


「ど、ど、どーすりゃ良いんだっ!?」


 特にお前な、ブルート。

 狼狽し過ぎだ。


「頑張って倒しましょう」


「無茶言うなっ!」


「ほら、炎が来ますよ」


「うっ!『水衛すいえい』」


 ブルートが慌てて水壁を張る。

 敵の炎に対し、縦長の長方形の形をした水壁が盾のように味方を守る。

 相変わらず、慌てている割に仕事は丁寧なんだよな。

 目の前の事に集中さえすれば。


「大将じゃないけど、倒すって言ってもあの動きをされるとなあ」


「こちらが射程に入るまでは相手も魔法を使ってきません。ご安心を」


 視界の先にいるマムンクルスは大きな翼を広げ、こちらと距離をとりながら、8の字を横にしたような動きで飛び回っている。こちらが少しでも、射程に入れば、口から炎を吐いて来るが、射程に入らなければ大丈夫のようだ。


 魔法のブレス攻撃以外は、特に体当たりだったり、その鋭い爪で引き裂いたりなどの本物ならばやってきそうな攻撃をしたりすることはさすがにないようだ。


 ゴオォォーーーーー……


 それにしても咆哮がすさまじい。

 サイズこそ小さいけれど、いよいよ本物じみている。


 懐かしいなあ。このフォルム。

 

 今思う戦いの日々。しのぎを削った攻防戦。

 こうやって俺の前に立ち、ずしんずしん踏みしめる大地……


 地震かってぐらいの地響きを周囲にもたらして、魔の森の魔物でさえその場から逃げ出してしばらく身を潜めるくらいの迫力だ。


 嗚呼、胸が高鳴る。


 思い出深いのは、最初に遭ったやつだな。

 あの暑い夏の夜に、俺は毒蛇の子どもと一晩を過ごす羽目になったんだ。

 どっかのクソシスターのせいで。

 

 思えば、あれが理不尽な依頼の最初だった。

 あの日の翌朝、俺は毒蛇を元の生息地に返しに森を抜けて山岳地帯の方まで向かったんだ。

 

 そしたら、出て来た。

 親玉が。そいつもなかなかにヤバい魔物だったけどね。

 

 もちろん、倒さなかったよ。


 悪いのはこっちだったからね。

 どこぞのクズ冒険者がその魔物の危険度も知らずに、その幼体を持ち去ったのがすべての元凶だったらしい。 

 

 それが巡り巡って、あのクソシスターにお鉢が回り、回ったお鉢をあいつはそのままポイっと俺のベッドに放り込んだのさ……


 俺はやっとの思いで子どもを返し、石化されないように気をつけながら何とか戻ろうとした矢先、さらに凶悪なあいつに出会ったんだ。


 巨体で大地を踏み荒らし、口から炎や氷のブレスを大盤振る舞いしながら吐いてくるあいつとね……


 あの時ばかりは死を覚悟した。

 その前に『キャロットサーチ』をどこかで使っておくべきだったな、なんて一瞬考えたりもしていたのをよく覚えているよ。

 残念ながら、近くにニンジンはなかった。


 まっ、結果的には助かったけどね  


 おっと、遠い目をしていたら、リバーが分厚い眼鏡越しにこちらをじっと見つめているぞ。

 今、決闘中だった。いかん、いかん。


「我々【紫雲】は他の派閥と違い、属性に関してオールラウンダーが多い。他のチームはひとつの属性に対して当たれる人数は2、3名が限度ですが、このチームであれば属性変換が頻繁に行われても多人数で対処できるかと思います」


 まあ、そうだな……2名減っちゃったけどね。

 それでも、俺たちにはまだリザーブメンバーに秘密兵器が控えている。


「なるほどな」


 ハリーも同意。

 段々と2人の呼吸と足並みが揃ってきているように感じる。

 いい兆候だ。


「大事なことは探索と攻撃の切替。そして、指示の出し手と攻撃の連携です。これはレミとハリーの裁量にかかっています。ブルートは基本的に攻撃を防ぐ役ですから、大事なのは連携よりも相手に集中することとセンス、つまり勘どころですね」


「あー、そーいうこと!?りょーかい!!」


「分かった」


「???」


 〈探索役〉が重要と言うのは、攻略法が分かる探索物がマムンクルス自体に引っついているということなんだ。だけど、探索しようにもすでに対象は飛び回ってこちらを攻撃してくる。


 その上、この第3の部屋のマムンクルスは何度もフォームチェンジをする。


 フォームチェンジの度に探索が必要だからかなり困難な作業になる。


 フォームチェンジのタイミングは一定のダメージを与えるか、時間経過によってとのこと(リバー談)


「フォームチェンジの回数は3回です」


 ……だそうです。つまり、4回目の姿が倒し時ってわけ。

 一応、時間経過でもフォームチェンジするわけだから、何もしなくても第4形態は見られるわけだけど、相手との競争を考えると、なるべく早く倒しておくことに越したことはない。


 厄介なのは、この目の前のマムンクルスが、どのフォームにおいても攻撃、守備、回避のすべての行動をしてくるところだな。


 しかも、これまでの<攻撃型>、<守備型>、<回避型>のようにはっきりしているわけではなく、変わった形態によってその比重が変わる程度ですべて兼ね備えているらしい。

 つまり、攻撃してくる上に魔法も回避して耐久力もあるというわけだな。

 そりゃ、あの見た目をしていればね……


 さらに、フォームチェンジをする度にこの結界に対する有効属性が切り替わる。


 難易度がこれまでとは段違い、ここからが「本番」というのも頷ける手強さだよ。


 俺たちの行動はリバーが簡潔に説明した通りで、まず〈探索者〉であるレミとハリーの連携によって相手の属性を探る。

 それから攻撃。

 敵の反撃や回避行動に注意しながら、ブルートは味方を守る動きが求められる。


「よーし!!それじゃあ、ここで嘆いていても仕方ない!みんなー、気合を入れて頑張ろうーーー!!」


「「「「「お!?おーーーー!!」」」」」


 レミの掛け声により気合を入れ直した一同。

〈指揮官〉のリバーは悠々と腕を後ろに組んでそれを見守っている。


 どうやら、レミの気持ちが切り替わるのを待っていた感じだ。

 彼女が前向きになれば、皆それで引っ張られる。

 ダンジョン攻略でもそうだったが、彼女のムードメーカーとしての才能、皆を引っ張っていく力というのは特筆すべきものがある。


 こうして俺たちは意気揚々とマムンクルス攻略を開始した。


 ……

 …………

 ………………


「気をつけてーーー、そっち回ったよーーー」


「うわー!!」


「きゃーーー!!」


 でもなあ……


 ……さすがの俺も、これは泥縄がすぎるんじゃないかと思う。


 バサッバサッ……フューゴーーー……


 飛行したかと思ったら、炎を吐いてくる。


 ズーーーン……ヒョオォーーー……


 地面に降り立ったと思ったら、今度は氷の塊を吐いてくる。

 相変わらずとんでもない奴。


 これでまだ1回目のフォーム。


 頭には2本の角が生えており、分厚い体の筋肉の鎧を身にまとい、その足は丸太のように太い。加えて、背中には巨大な羽まで生えている。


 ……そう。


 ドラゴンの姿をしたマムンクルスがそこら中を縦横無尽に飛び回ると、口から盛大に火を吹いている。

 防いだと思ったら今度は巨大な氷塊だ。


「ぐっ、あんな小さいドラゴンの1体など……」


「ブルート、俺の村に伝わる格言を教えてやる……『1体でもドラゴン、小さくてもドラゴン』……だ!」


「???」


「小さな1体のドラゴンでもゴブリン100体以上の力があるよ、ってことだな……『ドラゴンの上ならゴブリン100人乗っても大丈夫!』ということわざもある」


「っ!!!」


「なるほど。それは実に興味深い言葉ですね」


 ……なんて、余裕ぶっていられる状況なのだろうか。

 阿鼻叫喚の地獄絵図。


 ……〈指揮官〉、一同、いまだ激しく混乱しているでありますっ!!

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


この世界ではドラゴン≦竜、竜<龍です。

第3の部屋の最初の形態はドラゴンでした。

次は何でしょうね。


あと、第4の部屋のマムンクルスも是非予想してみてください。

ドラゴンより強大なヤツです。


次回、閑話で珍しい人物の視点です。

ちょっと前のお話。


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!



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