2-33『ブレイクタイム』
◇【紫雲】サイド◇
第2の部屋の室内。
攻略対象であったゴブリンメイジのマムンクルスも殲滅し、第3の扉に向かうドアは開かれた。
ウィーーーンと開いてから、そのまま開きっぱなし。
「第2の部屋の攻略は完了しました……次の部屋にお移りください」
聴こえてくるのは無機質な女性のアナウンス。
これではや3度目。
やる気のない声だが、次の部屋に進むように催促してくる。
だが、俺たちは第2の部屋の中央に円になって座り、いまだにその場に留まっている。
9つの穴もリバーが全部埋めた。
べつに、ここで気合を入れるために円陣を組んでいるわけではない。
「ふいー、やっぱりちょっと苦いや……」
「そうか?俺にはちょうどいいぞ?」
レミとブルートの会話。
彼らは煎り豆茶の味について意見を言い合っている。
他のメンバーもカップを手に、熱々の煎り豆茶を飲みながらまったりしている。
とてもじゃないが、先程までここで魔法による戦闘が行われていたとは信じられない空気だ。
あ、おかわりね。
はい、どうぞ……
ところで、俺はどちらかと言うと、ブルートの意見に賛成だな。煎り豆の味が薄くて甘味が強いと何を飲んでんだかわからなくなるから。香りはいいけどね。
まあ、ブルートの意見もちょっと怪しいが。
「適度な糖分は脳の栄養補給に良いと聞きます」
「いや、頭を使ってんのリバーだけだから……」
ごもっとも。
ハリーのツッコミはいつも的確だ。
戦略を練っているのはリバーであり、俺たちは指示通り魔法を使っているだけだから、特に脳の体力を消費したわけではない。
そして、リバーは砂糖を入れずにそのまま飲んでいる。
脳の栄養はどうした?
というか、的確なんだがちょっとズレてないかな?
「いやいやいや、作戦会議はどうしたよっ!?」
つい、ツッコんでしまった……
まったり休憩している所、悪いんだけどさ?
1番働いてないやつが言うのも何なんだけどさ?
「決闘の最中なんですわ……」
気を引き締めるんじゃなかったんかいっ!?
「おっと、そうでした」
ドッと笑うメンバーたち。
リバーがこんなふうに調子を変えるのもなかなかめずらしくはあるのでもっと見ていたい気もあるのだが、状況は差し迫っている。
決闘中だからね。
いくら、相手がまだ第2の部屋を攻略し終わっていないからって緩みすぎですわ。
「では、残る第3の部屋と第4の部屋の説明をします。まず、第3の部屋はこれまでの部屋と違い、1体のマムンクルスが待ち構えています。また、第3の部屋からは、相手側が攻略し終わっても部屋が暗転することはなくなります。」
暗転がなくなるのは、戦略を練る上で難度が一段上がった感じだ。
相手の状況が分からない中で攻略を進めなければいけないからな。
こっちが、まだ第3の部屋を攻略している最中に、相手がすでに第4の部屋の攻略に取り掛かっている……なんてこともあり得るわけだ。
暗転時に魔法を放ってペナルティを受けるリスクはなくなるが、攻略終盤ということを考えると、心理的不安はより増す気がする。
「待ち構えている?」
ハリーが帽子を被り直しながら尋ねる。
汗かくよね。帽子被ったまま温かいものを飲むと。
「はい。探索部位はマムンクルス自身にあります。そこに光魔法を当てると動き出します」
なるほど。光魔法がなかったらどうするんだろう?という疑問がわいたが、一応、近づくだけでも分かるそう。そして、入室後1分で勝手に起動するそうだ。
まあ、うちのチームは光魔法には事欠かないけどね。
「なんだー。じゃあ、そんなに難しくないんじゃー?」
レミが口を小さくしてフーフーと息を吐きながらリバーに聞く。
ちょっと熱くしすぎたかな。
「いえ。問題は、このマムンクルスが攻撃、回避の両方を行い、かつ耐久にも優れているという点です」
「むうー」
「さらに、このマムンクルスは変形します。それも3回。その度に敵の攻撃パターンや有効属性が変わるので、変形のたびにいちいち調べなければなりません。臨機応変に立ち回る能力とチームワークが試されます」
「変形の度に光魔法での探索が必要なのか?」
ハリーがレミの質問を引き継いだ。
「ええ。今回の探索は光のみです。風は使えません」
探索物が結界に張り付いているため、風を当てるとエラー判定になるようだ。
「どんな種類のマムンクルスになるか分かるか?」
ハリーが再び質問する。
レミが探索のメインであることは間違いないが、彼女に何かあった場合、ハリーが前線の指示役と探索役の両方を担わなければならない。
ある意味、リバーは皆に説明しているようでいて、本当はハリーに話しているのかもしれない。
「確率的なことは言えますが、外した時に混乱するのもまずいですからね。ゲームと本番は違いますので、その都度、私が後方から必要な情報をお伝えしますよ。」
「……わかった」
ハリーはそう言うと炒豆茶を1口飲んだ。
それを見たリバーも同じようにカップに口をつける。
俺も真似して1口飲む。
……なんだろう?この時間。
他のメンバーに目を向けると……ブルートがレミに何かを頼み込んでいる。
ああ、ちょうどいいとか謎の見栄を張っていたけど、本当は甘味が欲しかったのね。素直に頼めばよかったのに。
お前、ハーブティーにも砂糖ぶち込むくらいだもんな。
「フォームによる違いは大きいのか?」
「はい。攻撃に比重を置いている型もいれば、守備に比重を置いている型もいます。総じて言えることは、これまでのマムンクルスよりもはるかに格上ということです。事実、このROOMにおいては、次の第3の部屋での退場率が最も高い」
リバーがそういうとこれまで和やかだった部屋の雰囲気がピリッと引き締まった気がする。
「第2の部屋の攻略は完了しました……次の部屋にお移りください」
……なんと間の悪いアナウンス。
「要するに、相手を強力な魔物だと思って戦えばよい、ということです。ここからが皆さんのこの2週間の成果をみせる舞台でしょう!?」
「はっ、策士だな。リバー。そう言われたらやるっきゃないじゃねえか。なあ、みんなっ!?」
「「「「「おうっ!!」」」」」
「やっちゃおーーー」
ハリーはコップの煎り豆茶を飲み干した。
彼がそう発言して立ち上がると、他のメンバーも立ち上がって気合を入れる。
俺はまだ立たない。
まだ、飲み終わってないもん。
ついでに、みんなが置きっぱなしのコップを片付ける。
俺は〈運び役〉だからね。
作戦会議は皆に任せる。
俺以外にまだ立ち上がっていない男は……ブルートだ。
どうやら、レミから砂糖を分けてはもらえなかったらしい。
渋い表情をしている……いや、苦い表情か。
「第4の部屋は?」
「第4の部屋は第1・第2の部屋と第3の部屋を合わせたようなシステムです」
リバー曰く、第4の部屋の攻略ルールとマムンクルスの特徴は……
・部屋に探索物があり、探索してから1体のマムンクルスが出現
・マムンクルスにはこれまでの部屋同様、攻撃有効な属性があり、探索にて分かる
・違った属性の魔法を当てると、魔法の使用者は退場。一旦マムンクルスは停止する
・↑の場合、有効属性がシャッフルされるので探索のし直しが必要となる
※ただし、マムンクルス自体は消えずにその場にとどまっている
・この最後の部屋の番人マムンクルスの結界核を破壊したチームが勝者
……だそうだ。
「なるほど複合的だな。マムンクルスの型は?」
「ゲーム上では第3の部屋よりもはるかに強力で耐久力のある魔物の型ですが……正直、分かりません」
「分からない?パターンがあるんじゃないのか?」
ハリーとリバーのやり取りは続く。
俺は煎り豆茶を飲み終え、1つを除くカップをすべて片付け終えた。
ブルートはまだもたもたしている。
熱いのか、苦いのか……
「ありますが、10通り以上ありますので……どれも第3の部屋よりも強力で最後の部屋のボスにふさわしい耐久力を持っています……ですが……」
「ですが……?」
バンッ……
辺りが急に暗くなった。
相手の【魔転牢】が第2の部屋を攻略した合図だ。
リバーはこれを待っていたのかな?
第3の部屋に入るともう相手の動向はわからないから。
俺はコップを片付け終えて立ち上がる。
「あつつっ……」
1人の男の悲鳴が聞こえた。
学習しないやつ。
慌てて俺にカップを手渡してくる。
こいつ、どさくさに紛れて残った煎り豆茶を床に捨てやがったな?
いくら苦かったからって……
決闘が終わったら罰としてもっと苦いピーマン地獄の刑にしてやろう。
「……とりあえず。第3の部屋を攻略するとしましょう。すべてはそれからです!」
「……そうだな」
「よーし!みんな行くよーーー!」
「「「「「おーーー!!」」」」」
俺たちは、第3の部屋に向けて気合を入れ直した。
約1名の不届き者を除いて……
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
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このまったり休憩タイムが吉と出るのか、凶と出るのか?
次回、再び相手視点。
ガイルの秘策とは……
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




