2-32『踊る』
◇【紫雲】サイド◇
「す、すまん……」
「まったく……」
『ウインドーフロート』を使って穴からばつの悪そうな顔をする青髪の男を引き上げ、白い目で見つめる俺。
ここ5日間で一番無駄な魔力消費だった。
いくら部屋が真っ暗になったからって、穴に気づかずに落ちるもんかね?
しかも蓋をしていなかった当たりの穴にピンポイントで落ちるとは、どんだけ不注意なんだ、こいつは。
おかげで大事なゲームが一時中断してしまった。
気を取り直して画面を見る。
画面内では、穴から探索物を探し直す段階。
もちろん、穴に落ちる愚か者はゲーム内には存在しない。
いくつかの穴が外れだったので、次はどの穴から再探索をしようかと指で選んでいると、リバーがニコニコしながら無言で1つの穴に指を差す。
リバーの差し示した通りに穴を調べると……
……おおっ!当たった!
すごい!……でも、どうして分かったんだろう?
「それでは探索を再開しましょう。ブルート、気を取り直して。次はおそらく〈攻撃型〉のゴブリンメイジが来ます。探索と結界の型はリセットされますが、マムンクルスの数は変わりません。あと少しです。気を引き締めましょう」
「お、おう!」
リバーが言うならそうなんだろうな、とゲーム片手に再探索の作業をぼんやりと眺める。
土の蓋をどうやって外すのかと思ったら、リバーが作った蓋には、円の端の一部分に、片手が収まるぐらいの色の違う箇所があり、その部分の土は脆く、容易に壊すことができるようだ。
それをハリーを筆頭に、レミ、ブルート、リバーの3人以外のメンバーが各々蓋の端に穴を開け、蓋を持ち上げて外していく。
いちいち芸が細かいな、リバー。そして、全然気づいていなかった。
不注意ですまん……
レミとブルートは再探索のために待機。
再探索といっても、水は穴の中に戻ってはいないので、ブルートは実質お役御免なんだが、一応はレミの壁護衛役として残っている……が、ビクビクしながら足元を気にしているので、その役目がちゃんと果たせているかどうかは微妙なところ。
開封作業の済んだ穴からレミとハリーが再探索を始める。
お、ビンゴ。どうやらあっという間に当たりの穴を引いたようだ。
……あれ?でも、おかしいぞ!?
ゲームでリバーが指示して当てた穴は、現実では外れだった。
これは、弘法筆を誤ったか?
「……これは興味深い」
外れたのに、画面と現実を見比べながらリバーが楽しそうに笑っている。
「もー、リバー!何してるのー!?」
リバーを完全に信頼し切っているレミが、頬を膨らませてプンプンしながら不平を言う。
完璧を求められる人間ってつらいよなぁ……
男はつらいよ。
分かる分かるよ、その気持ち。
「これは怪我の功名かもしれませんよ。さっ、どんどん続けましょう」
まったく気にする素振りを見せないリバー。
むしろ画面内と現実の乖離した状況に若干興奮している様子。
それはそれでどうなんだろうと思う反面、今はそれどころじゃないので置いておく。
それにしても、謎が謎を呼ぶ。
とりあえず、俺にできることは……ゲーム内のブルートみたいな水魔法の魔導師に踊りでも踊らせておこう……っと!
ゲーム内のマムンクルスはゴブリンメイジ。その有効属性は「氷」となった。
先程の穴選びはリバーの読みと違ったがこちらは果たして?
「〈回避型〉。有効属性は『火』だよ」
ブーーン……
何と、出現したのはまたもや王蜂型マムンクルスであり、その体色は赤だった。
あれ?
またしてもリバーが予想を外した。
「これは……ますます興味深い。ブルート、今回はひょっとしたら貴方のお手柄かもしれませんよ?」
「え、俺?」
またしても、リバー、喜ぶ。
ブルート、訳も分からずに胸を張る。
そして俺、絶賛混乱中。
ゲーム内では「氷」が有効となっているので、とりあえず『赤魔導師』2人と『黒魔導師』1人が『ハイアイス』でゴブリンメイジを攻撃する。
ゲーム内の相手のマムンクルスの魔法を避けるのが難しい……あっ、オート機能があるのか。
早く教えてよね。とりあえず全員回避。
これで、少し落ち着いて攻略ができる。
「ハリー、誘導を頼みます。レヴェックとジャックはハリーの脇で相手が避けた所を予測して狙ってください。万事、練習の通りに」
「了解!」
「「分かった」」
ハリーが中央に寄るとブンブン飛んでいる王蜂に狙いを定める。
「『火玉』」
むっ、発動が速い。
やるな、あいつ。
「『替え火玉』」
おおっ、なかなかの連発。
これなら連続魔の修得も速いんじゃないかな?
ゴブリンのコロニーでも探してハリーを突っ込んでみるか?
袋のハリーネズミってか……
「……なんか悪寒がする」
気にするな……
「「『ハイファイア』」」
ボカーン……!
ゴオッ!!
「『ハイファイア』」
ゴゴオッ!!!
パリィーーーン……ジュワワワーーー
おおっ!成功!
ハリーの誘導により回避した王蜂の動きを予測していたかのように、レヴェックとリバロが『ハイファイア』を続けざまに当てる。
1体の王蜂マムンクルスはあっという間に火の粉になって散っていった。
この調子なら、この部屋の攻略も早く済みそうだ。
◇【魔転牢】サイド◇
「……何だと?」
あり得ない……
完全にイレギュラーな事態だ。
ガイルは平静を装っていたが、思わず口に出してしまった。
こちらサイドの2つ目の部屋は前面に氷が張られた床の仕様。
全面に張られた氷の底の一部に探索物の透明な結晶板が混ざっている。
これを探索するためには、火魔法で溶かしたり、土魔法で生成した石で割ったりとなかなかの重労働が必要となる。
ゲームでも定番の、ガイルの最も好きなギミックの1つだ。
だが、今回は非常に居心地が悪い。
その理由はメンバーの前に立つマムンクルスの形状。
【魔転牢】サイドの2つ目の部屋を守護するマムンクルスは、初回と同じくまたもやゴーレムであり、しかも有効属性が1つ前のゴブリンメイジと同じ「火」であった。
これの何がおかしいのだろうか?と、ROOM初心者ならば思うだろう。
部屋の結界の型と有効属性はランダムで決まり、相手の結果次第でシャッフルされるわけだから、続けて同じ属性に当たることも、同じ型のマムンクルスになることもないことはない。
だが、物事には確率というものがある。
型も属性もすでに出ているものが再度自分たちの所に当たる確率はこの決闘を熟知しているガイルからすればほとんどあり得ないほどに低いものだと断言できる、いや、そう認識していたはずだった。
「とりあえず、やるぜ?」
「燃やすヨ」
ゼッポとゴウが尋ねる。
「ああ、やってくれ」
頷くばかりのガイルの代わりにギースが指示をする。
ガイルは、マスボのゲーム画面を見つめながら分析する。
ここまでの各部屋のマムンクルスの属性は……
ガイル側は、「水」→「火」(第1部屋攻略)→「火」(現在)の3つ。
相手側は、「土」(第1部屋攻略)→「風」(脱落者)→「氷」(現在)の3つ。
結界の形態は……
ガイル側は、ゴーレム→ゴブリンメイジ→ゴーレム
相手側は、王蜂→ゴーレム→ゴブリンメイジ
この状況は果たして偶然であろうか?
これでは、攻略の難易度に不公平感が出てしまう。
ガイルは爪を嚙みながら考えられる可能性を導き出す。
1つは、この決闘の運営者が何かしらの修正……例えば、システムのテコ入れを施し、ゲーム熟達者対策をしている可能性。
あるいは、ROOM連続勝利記録を持つガイルたちにむけて特定の嫌がらせをしている可能性。
あまり生産的な考えではないが、その可能性を否定はできない。
ただし、断定もできない。
もう1つは、ガイル自身に何か見落としがある場合。
だが、今再考して、それも潰せる限り潰した。ありえない。
あと、もう1つあった……
運営の思惑でも、ガイルの見落としでもなく、第3者がこの事態に作為的に関わっている可能性……
つまり、故意か偶然かガイルを混乱させる状況に相手の行動が仕向けている可能性……
ま、まさか……!?
ガイルはマスボ内のゲーム映像を再度確認した。
相手の部屋には「氷」のゴブリンメイジ。
『赤魔導師』や『黒魔導師』が回避をしながら氷を放っている。
その横で不可解な動きをして……まるで、こちらを挑発するかのように踊っているように見える水魔法使い。
「ちっ、そういうことかよ……!」
「どうした?大丈夫か?」
「ああ、どうやら俺たちは奴らに踊らされていたようだ。相手の情報は、少なくともマムンクルスのフォームと有効属性は、嘘である可能性が高い」
「……マジかよ」
「もし、こちらの攻略中に暗転したらそれがその証明だ」
画面上の魔法使いたちは回避行動が多く、攻撃行動が少ない。
ROOMが開始されてからマスボ内に映るゲームの動向を追っていたが、時計が実際の時刻とぴったり合った状態で推移するようになってから、こちらが相手の動きを把握できたものに思われた。
相手はリバー=ノセック。
物事に几帳面であり、優れた戦術家でもあるこの男であれば、必ず「ルームチャレンジ」を「ROOM」の攻略に活かしてくる……ガイルはそう読んでいた。
「ルームチャレンジ」を使って、ゲーム上での攻略を平行させておけば、実際のROOMの攻略も予測が立てやすいし、効率がよくなる。
特に、ギミックに対しての再現度の高さは、ゲーム作成者のガイル自身、自画自賛しているほどだ。
ここまでは、思惑通りであった。
事実、相手が風属性のゴーレムを攻略している最中にこちらのマムンクルスを破壊したことで、相手チームから2名の退場者を出すこともできた。
このガイルの作戦が機能しているのであれば、現在の進行度と互いの魔法の威力の差からいって、こちらのマムンクルスがゴーレム型とはいえ、追いつくのは時間の問題なはずである。
しかし、逆に、ガイルの嫌な予感が当たれば、今度はこちらがチームメンバーを失うことになる。
検証のためにリスクを負うが致し方ない。
思考の最中にも、様々な疑問が頭に浮かんでくる。
この時点で種明かしのようにこちらを挑発していたのはなぜだ?
この踊りの意味は?
ひょっとしてこの俺のことを馬鹿にしているのか?
……愚か者だと!?
いや、今は謎をクリアーにすることが最優先だ。
ガイルは爪を嚙みながらもどうにか平静を保ちながら状況を見守る。
だが、どうやって漏れた?
自分がこのマスボ「あぷる」ゲームの開発者であることには常人では辿りつかない。バレないように代理で人を立てているし、カムフラージュというわけではないが、攻略者としての名前は明かしている。
相手のリバー=ノセックは常人ではないことは理解しているが、内通者でもいない限りあり得ず、そしてその可能性はゼロだ。
味方メンバーにも、相手の攻略状況をガイルのマスボによって得ていることは話しているがその方法までは伝えていない。だからこれもゼロ。
後は自分の代わりに名前を載せている人物を直接篭絡する以外方法がないが、それも可能性としては薄い。いや、1番あり得ない……
ブー、ブー、ブー……
マスボの中の画面では、攻撃がまだ続いている。
辿り着いて欲しくない結論に達してしまった……
【魔転牢】脱落者2名:ゴウ=コウ、ゼッポ=ジッポ
◇【紫雲】サイド◇
「やったー」
メンバーが万歳とガッツポーズで歓喜する。
2つ目の部屋のマムンクルス撃破。
相手に越されるかと思いきや、またまた先手を取ることができた。
共に結界が王蜂型だったのは大きい。
2回目はちょっと手こずったけどな。
蜂がブンブン、あちこち飛び回っていたから。
それでも、ハリー、レヴェック、ジャックによる見事な連携だった。
特にハリーは急造メンバーなのに貢献度がすさまじいな。
「よーし、この調子で行こー」
「お待ちください」
レミの掛け声に皆が呼応し、先に進もうとしたそのとき、〈指揮官〉のリバーが制止した。
「どうしたのー?」
「次の部屋に移る前に一度気を引き締めましょう。次の、第3の部屋からがこのROOMの本番といっても過言ではありません」
「「「え?」」」
皆、リバーの顔を見て驚く。
レミは直前にこのゲームをしていた気がするんだが驚いている……というより理解の及んでいない感じだ。
俺?知っていたよ。
メモをもらっていたからね。
「3部屋目からは結界攻略の難易度が一気に跳ね上がります……」
「っ!!!」
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
狐とリバーの化かし合いは続きます。
次回、決闘中のほのぼの回。笑
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




