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2-31『無実』

◇【紫雲】サイド◇


「無実だっ!!」


 レミに指を差され追及を受ける俺はそう叫んだ。

 裁判長。実行犯は俺ですが、決闘中にゲームをやるように決めたのは俺ではありません。

 主犯がいるんです。そして、彼からの指示はまだ続いています。


「まあ、それぐらいにして次に行きましょう。これも重要な仕事なのですよ」


「むーーー」


 主犯の仲裁によって何を逃れた俺はやれやれといった顔をするメンバーたちの後ろに続いて、次の部屋へと向かった。

 どうやらリバーの指示であるなら免罪されるらしい……

 

 なんか腑に落ちない……

 ただ、第2決闘に入って何だかリバーよりもレミの方が鼻息が荒い気がするので、触らぬ神に祟りなし、ということで諦めることにする。

 思いっきり触れてるけどね。プンスカ神に……


「まったく。しょうがない奴だな、お前は」


 横を歩くブルートにからかわれる俺。

 たまに、こいつは全部分かっていて言ってるんじゃないか?と迷うときがある。

 だが、それはない……だって、ブルートだもの。


 ハリーを先頭に、俺たちはぞろぞろと次の部屋に移る。


 チャプンッ……


 チャプチャプンッ……


 水の滴り落ちる音?


 室内に入ると……

 ……床のそこらかしこが水溜まりになっていた。


「お、俺じゃないぞっ!?」


 思わずブルートを見てしまったが、彼は即座に首を振って否定する。


 そりゃ、そうだろ。

 一緒に入ってきたんだからそれぐらい分かっている。

 ただ、からかい返しただけだ。


 しかし、まあ……これは探索に厄介な部屋だなあ……


 第2の部屋はギミック付きだ。


 モグラの穴を大きくしたような半径1mくらいの穴が3列ずつ並んで9つ。

 縦横均等に並んでいる。

 どう見てもなにかのギミック。


 水溜まりの穴の深さは見た目には分からない。

 どう考えても、この中のどれかに探索物があるって仕掛けだな。


「この第2の部屋と第1の部屋の違いは2点。まず、このギミック床。次に、出現するマムンクルスの数が5体になります。他は変わりありません」


「厄介だな。ここも早めに対処していった方が良いかな」


 ハリーが帽子を被り直した。何となく気を取り直したのだろうか。


「いえ、部屋が暗転するまではこちらが先行しているわけですし、ここは落ち着いてゆっくりとやりましょう。どちらにせよ、探索中に暗転した場合はやり直しになりますから、探索のコツを掴むことを優先します。どうです?レミ。底まで光を通せそうですか?」


「うーん、たぶん広域拡散では無理だねー。ひとつひとつの穴に集中的にやればいけるかもー」


「なるほど……ブルート、穴の中の水を吸い出すことはできますか?」


「やってみよう」


 あ、なるほど。ブルートが水を吸い出して穴の中を空洞にすればレミやハリーが光を通しやすい。


 リバーが焦っていないのは、相手がなぜか手間取っているようで1つ目の部屋をまだ攻略していないから。


 2つ先行すれば俄然有利にはなるが、かといって焦って失敗するリスクを負う必要はない状況。


 リバーは手堅くいく方針のようだ。


「手前から行きましょう。ブルートは水を吸い出したあと、レミを防御できる体勢に。〈攻撃型〉になる可能性がありますから。ハリーも加勢お願いします」


「分かった」


「了解!」


 ひと穴ずつ調べる方針。


「ぬおおっ!」


「外れー」


 どうやらこの方法で探索自体はできているようだ。

 

 ブルートが気合いで水を引き上げている。

 自分の魔法で生み出したものではなく、元々ある水を操作するのは結構大変と以前言っていた気がする。

 あれは、お風呂のお湯を間違えて水で入れてしまった時だったな。

 結局、俺はとある魔法を使って温めた。


「レミ、魔道具板の方はどうですか?」


「あったよー。でも光を通しても何も書かれていなくて反応しなかったー。たぶん同じ板が他の穴にもあるんだと思うー」


「そうですか……」


 そう言うと、リバーは魔法で硬そうな土の板を生み出し、穴と同じ形に整えて探索の終わった穴にすっぽりと被せた。


 あ、なるほど……


 蓋をして足場を作れば、床を気にせずに済むので戦闘は楽になる。


「土で埋めてしまう方法もありますが、それですと再探索がしづらくなりますからね」


 たしかに。

 土で埋めてしまうと、再度、探索となったときに掘り返さなければいけなくなり、難儀する。

 

 さすがに、リバーのことだから、今のブルートみたいに、懸垂を精一杯しているときのような面白い顔にはならないだろうけど。


 よく考えたら、『フロート』を使ってあげればよかったけど、せっかくブルートが頑張っているしな。何が起こるかわからないし、もしもの時の予備にとっておこう。


 足場がきちんとできるかはリバーの腕次第だな。

 こればっかりは、ゲームとは違う点だ。

 それ以前にゲームじゃ、こんなことできないし。

 

「ノーウェ様、乗ってみてください」


「え、俺?」


 そこは、ブルートの役目じゃないの?


「1番重い荷物を背負っていますので……」


「あ、はい」


 俺はリバーが即席で作った土板に乗った。


 ……何ともない。


 大丈夫そうだ。


 次に軽くジャンプしてみた。


 ……ゴスッ!


「うわっ」


 あ、危ない……蓋が割れて転落するところを『フロート』によってなんとか逃れることができた。


「何を遊んでいるんだ?お前は」


「ノーウェ君、緊張感なさすぎ……」


「む、無実だっ!」


〈指揮官〉の指示なんですけど!?パート2。


 作業している2人から白い目で見られる俺。

 ハリーは一応、状況を理解してくれているようで何も言わない。

 ……ただし、積極的に助けてもくれない。

 素晴らしき触らぬ神に祟りなし精神。


「ありがとうございます。これで厚さを調節できそうです」


 リバーは外れだった穴に先程の板よりも少しばかり厚みのあるものを次々と置いていった。


 すでに3つ、蓋をし終わった。


「あ、そこは飛ばして、真ん中に移ってください」


「りょーかい」


 なぜか1つ飛ばして次へ。


 俺は手持ち無沙汰なのでゲーム再開。


 結局8つ外れでリバーが飛ばした1つが残った。

 なんでこの穴が正解だとわかったんだろう?


「それでは、皆、準備を。ブルート、レミ頼みます」


「むおおっ!」


「あったー!〈防御型〉、有効属性は『風』」


 お、ゲームとおんなじだ。

 予言書みたいにピッタリと事態が推移し始めているぞ?


 ゴーレム型のマムンクルスが現れた。

 今度は5体!体色は緑。


 ……なんかゲームと現実のすべてが同じだと気持ち悪いからちょっとイタズラしてやろう。


 ゲーム上のゴーレムの前で踊ってみる。

 ……なんで「踊る」なんてコマンドがあるのだろうか

 ……しかも1人1人踊り方が違うし。


「ここからは隊列で攻めます。ジャックとレヴェック、それからダイゴとミモレは手筈通りに」


「「「「了解!!!!」」」」


 なんだ、なんだ、と思っていたら、リバーの指示を受けた4人が部屋の中央で2人並んで2列の隊列を組んだ。


 レミとハリー、それと『白魔導師』のパルメとエメルダは4人の斜め後ろに待機。

 ブルートの位置はそのまま。万が一、<攻撃型>マムンクルスに切り替わったときは防御に回るそう。

 ……大丈夫かな?あいつで。


「では、撃ち方始めてください」


「「了解!!『ハイウインド』」」


 ズーン……


 ズズーン……


 ゴーレム型マムンクルスは明らかに重そう。

 まるで学舎や寮の壁のように厚みのある岩盤が核部分を覆っているようで、しかも筋骨隆々の数倍の手足の太さを持つ人型になっている。

 とにかくあの厚い胸板を削らないと肝心の核が出てこない。


 何なら『メージスタッフ』で手助けしたいけど、リバーからのメモで手を出すなって厳命されてるしなあ……


「『ハイウインド』」


 それでも、4人は効率的に魔法を打てている。

 2人が打ったらすぐに脇にずれて、後ろの2人は発動準備をしながら前に出て次の魔法を打つ。脇にずれた2人は後ろに並び直し次の準備をする。


 名付けるなら『ハイウインド2段打ち』だな。

 ……まんま、か。

 ゲーム内では普通に風魔法を2人ずつ放つことにした。

 ちょっとこの動きをさせるのは難しいね。


 それにしても、かなり練習を重ねてきたのだろう。

 流れるような動きが続いて一定のリズムで、連続して魔法が放たれている。

 一糸乱れぬ統率の取れた攻撃。

 今回の相手はマムンクルスだけど、仮に「戦闘方式」の決闘で相手がこんな攻撃してきたら結構嫌だな。リズムが一定なのは気になるけど。


 とにもかくにも、これならすぐに結界破壊ができるかも……


 ……そう思った矢先だった!


 ブー、ブー、ブー……


「「きゃー」」


「うわぁーー」


 ドスンッ……


 警告音が鳴り響き、部屋が暗転した……


 ◇【魔転牢】サイド◇


「まだかよ……」


 ギースが舌打ちをする。

 他のメンバーも明らかに苛つき始めている。


 敵の第1の部屋攻略後、部屋が暗転し、相手のマムンクルスのフォームと属性が変わったが、ガイルの指示は依然「待機」のままであった。


「落ち着け。相手の思うつぼだ。おそらく、それも見越しているのだろう」


 相変わらず落ち着いた様子でガイルはマスボを眺めている。


「こっちの作戦を読んでいるっていうわけ?」


 グレイシーが尋ねる。


「おそらくな……それか、安全策としてこちらの暗転のタイミングを待っているのか……む、準備だ」


「ようやくかよっ!?ダビド、解除」


「おう!」


 目の前に立ち塞がっていた土壁がガイルたちのいる一部、部屋の右後ろ隅を除いて取り払われた。


「『火炎脚かえんきゃく』」


「『軽油揚けいゆあげ』」


 同時にゴウ=コウとゼッポ=ジッポの火魔法が炸裂する。


 ガイルの読み通り、相手側の第1部屋攻略時にシャッフルされた自室の結界は<攻撃型>のゴブリンメイジで、その有効属性は「火」であった。


 ガイルたちが機を伺う間、3体のゴブリンメイジはこちらに向かって絶えず攻撃をしていた。

 攻撃自体は単調なので、壁で防いでおけばどうということはない。


 ダビド=ビルダの土魔法によって、相手の攻撃を防ぎつつ、ゴウとジッポに火魔法で結界に対してある程度まで攻撃を続け、あとは再度土壁を展開し、ゴブリンメイジたちには無駄撃ちをしてもらいながらフィニッシュのタイミングを測っていたというわけだ。


 彼らはこの決闘におけるエキスパートなので個々のマムンクルスの耐久度も完璧に把握している。


 あとは、いかにして相手陣営にとって最も困るタイミングで壊すか……だが……


 ガイルは冷静に、それとない素振りで自分のマスボに目をやる。

 画面には2部屋目の探索を終えた【紫雲】の立体映像……


 ……ただし、本物ではない。

 ゲームから抽出しているデータである。

 それでも、この作戦は機能するはず。


 今度は、支給用のマスボの画面を見る。


 -【紫雲】脱落者2名-


 ガイルは静かに口角を吊り上げた。


 ◇再び【紫雲】サイド◇


 ブー、ブー、ブー……


「あちゃ、やられちゃったか」


「む、無念」


 暗転が終わり、部屋が徐々に光を取り戻していく。

 

 前方で魔法を放っていたミモレとダイゴが悔しがっている。


「残念でしたが、ここまで良い働きでした」


「あとはよろしくぅ」


「任せたでござる」


 そう言って2人は退室した。


 少し空気が重くなる。

 2人退場の上に、相手の攻略によって部屋が暗転し、探索のやり直しとなってしまったからだ。

 こうなると、第1の部屋で先手を取った意味がなくなり、メンバーを失った分、こちらが不利になった気さえしてくる。


 だが、この決闘は切り替えが大事。

 前を向こう……


 ……前?


 ……あれ?そう言えば、前にいるメンバーの数が少ない。


 それに暗くなった瞬間、物音がしたような……


「た、助けてくれー」


 ……

 …………

 ………………!!


 ブ、ブルーートぉーー!お前ぇーーーーーー!!


【紫雲】側

 脱落者2名:『黒魔導師』ダイゴ『赤魔導師』ミモレ

 滑落者1名:『愚か者』ブルート

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


いますよねー。暗転中に転んじゃう黒子の人とか……え、私?笑


次回、怪我の功名?


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!



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