2-30『先手』
◇【魔転牢】サイド◇
「それでは、『探索型結界破壊決闘ROOM』を開始致します。第1の部屋にお進みください」
「行くぞ」
「「「「「おう(はい)」」」」」
〈指揮官〉であるガイルの掛け声に応じて、チームメンバーたちが一糸乱れぬ様子で最初の部屋に入る。
【魔転牢】のメンバーはこのROOMの攻略に特化した専門メンバーを選んでいる。
〈指揮官〉ガイル=ワイリー『氷狐』
〈探索役〉ギース=フーディーズ『風波円』
グレイシー=キーストン『光輪鈴』
〈攻撃役〉ゲンナジー=ヒョードル『土闘拳』
ゴウ=コウ『火脚扇』
ザイード=ダエイ『砂棍墓』
ジルカ=アリエス『水散堯』
ズイヤ=サラム『風滴衣』
ゼッポ=ジッポ『火油上』
ゾラニー=カンテ『湯走射』
ダビド=ビルダ『戸土炒』
〈リザーブメンバー〉
ディキシー=ローリング『水氷蓋』
ドリュー=ケリー『石麗峰』
ガイル以外の10人全員3文字の称号持ちで、領域支配の覚醒を果たしている。
〈攻撃〉、〈守備〉、〈回避〉のどのマムンクルスに対しても、ガイルによる最初の指令のみで各々が連携し、最適解を見つけることができる……これ以上は考えられない優秀なメンバーたちだ。
リザーブにも違った属性を持つメンバーを置いて、臨機応変に対応できるようにしている。
このROOMにおける結界の有効属性の種類は5つ。
「風」「水」「氷」「火」「土」だ。
万が一、ガイルが離脱するようなことがあっても、リザーブに氷魔法が使えるディキシーを置いているので、仮に有効属性が「氷」となっても問題はない。
もっとも、そうなる可能性は、億が一にもないという絶対の自信がガイルにはあるが。
何が愚者だ……見ているがいい……リバー=ノセック!
ガイルはそう心の中で呟くと、第1の部屋に入室した。
「探索開始」
「「了解」」
探索役のギースとグレイシーがそれぞれ風魔法と光魔法を領域展開して部屋を明るくすると同時に一気に室内の配置物を調べ始める。
新入生ではまだまだここまでのスピードでの探索は難しいであろう。
ガイルは腕を組みながら、片手で眼鏡の位置を整え直す。
この部屋はシンプルな石畳が床に貼られており、4つの部屋の中では最も探索における難度が低い。
「……あった、右奥。石畳の1つだ」
「OK!行ってくるわ」
グレイシーが部屋の右奥へと向かって駆け出す。
ギースはガイルの副官の立ち位置なので、その場を動くことは基本的にはない。
普段通りの作業風景だ。
「読み上げるわ。『マムンクルスは<防御型>。有効属性は『水』』よ」
「ちっ、幸先が悪いな……」
ガイルは思わず舌打ちする。
「どうする?」
「……待機だ」
ギースの問いに対するガイルの回答に驚いたメンバー全員が一斉に振り向いた。
「いいのか?」
ギースが皆の疑問を代弁して再質問する。
ズーン…………
メンバーの正面には水色のゴーレム型マムンクルスが3体出現したが、誰も攻撃してこないので、手持無沙汰な彼らはその場ににおう立ちしている。
「ああ。相手は多人数での攻略が可能だ。競うのはリスクが高い。最初の部屋攻略の『先手』はあいつらに譲る。相手のマムンクルスもまだわからないしな。とりあえず1体だけ倒しておけ。それぐらいの余裕はあるだろう」
ガイルは事もなげにそう返答した。
落ち着いた様子で自身のマスボを操作し、じっと画面を見つめている。
その様子はあまりにも普段通りで、メンバーからすれば不気味なほどであった。
「わかった」
副官であるギースは、水魔法が得意なジルカとアリエスに指示を出すと、じっと腕を組みながら目を瞑った。
「『帆雨水』」
「『軽糸津波』」
2人の女性魔導師が1体のゴーレム型マムンクルスを集中的に攻撃する。
パリィィーン……シュワーーー……
ほどなくして、1体の水色ゴーレムは、身体の核を破壊され、その形状を保つことができなくなり、水泡のように細かい粒となって消えていった。
「……だが、このゲームの本当の『先手』は俺たちが取ろう」
そう言って、マスボの画面から何かを読み取ったガイルは笑みを浮かべた。
「ダビド、壁の用意を。<攻撃型>になった場合は初手で対応を。ゴウとゼッポはダビドの後ろに……この部屋と敵の部屋の現在の有効属性からいって、次は『火』になる可能性が最も高い。再探索でグレイシーが読み上げたあと、すぐに攻撃に移れるようにしていてくれ。ただし、いつも通り、一旦ギリギリで止めるように」
「「「了解!!!」」」
「OK!」
「そうこなくちゃな」
すでに先手の取り合いは始まっている……
◇【紫雲】サイド◇
「行けーーーとつげきーーー」
「「「応よ」」」
「「了解」」
「「分かったーー」」
掛け声に対して返事はバラバラだけど、攻撃の手は揃っている。
レミの号令の元、『ハイアース』や『ハイストーン』を放つメンバーたち。
どうしても急造感は否めないけども、なかなかどうして、頼もしくある。
「幸先は良さそうですね」
リバーが落ち着いて持ち場に戻る。
「ああ。初回が王蜂で有効属性が『土』なのはラッキーだったな」
「ええ」
土属性が有効ということは、リバーが魔法を行使することができる。
攻撃は万が一の危険性があるので行わないが土の壁によって相手の回避範囲を狭くすることができるのだ。
リバーは、レミが探索を終えて、部屋の左手前隅の天井に貼りついていた石板に書かれた結界の型と属性を読み上げた直後に、土の壁を敵の出現位置の両脇と背後に展開させ、現れた王蜂型マムンクルスの行動範囲を一気に封じた。
障害物に対して自らぶつかりには行かないようで、そうなると、横に身動きの取れない王蜂はブンブン飛び回らず、まるで考え事でもしているかのように、その場にジジジジッと浮遊するのみだ。
それでも、これが属性違いであった場合、何かの拍子で結界がリバーの造った壁にぶつかってしまうと、〈指揮官〉のリバーが退場になるので、戦略上、壁を設置することは躊躇われるのではあるが、俺たちは先手を奪ってこのマムンクルスの持つ結界を破壊することに絶対の自信があった。
『黒魔導師』が、ジャックとダイゴで2名。
『赤魔導師』が、ハリー、ミモレ、レヴェックの3名。
5人がかりで一気に魔法を放てば、その場に留まっている王蜂ならすぐに破壊できる。
結界の防御力(破壊までの耐久度)はゴーレム>ゴブリンメイジ>王蜂の順。
つまり、王蜂が一番脆い。
その分、本来であれば回避行動をとるので攻撃が当てづらくはあるのだが、それを初手でリバーが封じた。
上下や前方に動けないわけではないのだろうが、そこはハリーが何度か土の玉を放ち、うまく見せ球をして、相手の行動に先手を取っている。
「フハハハハハ。行けーーー!お前らーーー!!」
隣でブルートが威張り散らしている。
何もしていない手持ち無沙汰なくせしてずいぶん偉そうだな……
まあ、俺もだけど。
相手のマムンクルスの属性が「土」で、しかも攻撃してこない〈回避型〉なのでこいつの役割は今の所ない。
……なのにこの態度。
先の決闘の<大将戦>でのブルートは、ひょっとして違う人間が入れ替わっていたんじゃないか?っていうぐらいに思えてくる。
やはり、こっちが本物だな……
俺は、貸出用マスボを操作しながら、この部屋の様子をぐるりと見渡した。
殺風景な円形の闘技舞台だけが置かれた部屋。
探索物の位置も天井に石板が貼られていて、光魔法と風魔法を駆使したレミがすぐに発見した。
直前まで暗い所でたっぷり探索の練習をしていたからね、レミは!
この程度の狭さならお茶の子さいさいだ。
俺はマスボの操作を進める。
マスボの画面に移っているのは、最初の部屋を攻略している【紫雲】のメンバー……つまり、俺たち。
記録映像じゃないよ。
それはルール上観ることができないからね。
メモに書かれた指示通りに「あぷる」を念じながら立ち上げ、俺は手順通りに操作をしている。
しかし、リバーは几帳面なやつだなあ。
俺たちメンバーの称号、能力値、使える魔法が事細かに編集によって、すでに入力されているよ。
まあ、俺は、データ上ではただの『赤魔導師』扱いだけどね。
ドガガッ……
ドガガガガガッ……
ボガーーーン……
ジジジ……
パリィーーーーン……
おおっ!
そうこうしているうちに、敵のマムンクルスはあっという間に砕け散って、砂のようにさらさらと消え去った。
「第1の部屋、攻略完了です。次の部屋にお移りください」
これで、先手を奪ったな。
……って、いかん、いかん。リバーメモによれば、ゲームの方を今の進行より少し先行するようにしないといけないんだったな。攻略を先に進めて、それから設定スピードを実際の時間で揃える……と。
それから倒したマムンクルスを王蜂の土属性に修正する、と。
「イエーーーイ♪……って、ノーウェ君!!なんで決闘中にゲームなんかしてんのさ!?」
「え、俺?」
レミに厳しく追及される俺。
……でも、これ、〈指揮官〉(リバー)の指示なんだけどっ!?
それに、レミには話が通っているんじゃなかったの?
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
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まずは、【紫雲】が先に攻略して先手を取りました。
相手のガイルの思惑は如何に……
次回、第2の部屋攻略!第1の部屋と違いはあるのかな……?
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




