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2-29『運び役』

「これより10分後、第2決闘【魔転牢】VS【紫雲】戦を開始致します。決闘方式は『探索型結界破壊決闘ROOM』。決闘開始5分前には開始線にお並びください」


 控え室へと入室した俺たちを無機質な女性の音声案内が出迎えた。

 荷物が重い。


 抽選により、【紫雲】が左側、【魔転牢】が右側の部屋を攻略することになった。


 左右の攻略部屋は第2の部屋の床のギミックと第3の部屋の結界に多少の違いがある程度で原則大きな差異はないとのこと。


 難易度が違ったら公平性が保てないし、まあ当然っちゃ当然の話か。


 俺たちの参加メンバーとフォーメーションは以下の通り。


【紫雲】

〈指揮官〉リバー=ノセック『土庵深』

〈探索役〉レミ=ラシード『遠近光』

     ハリーウェルズ『赤魔導師』

〈回復役〉パルメ=レジャノ『白魔導師』

     エメルダ=カマンべ『白魔導師』

〈攻撃役〉ミモレ『赤魔導師』

     ジャック=モントレイ『黒魔導師』

     レヴェック=リヴァロ『赤魔導師』

     ダイゴ『黒魔導師』

〈壁役〉 ブルート=フェスタ『水豪』

〈運び役〉ノーウェ=ホーム『紫魔導師』

〈リザーブメンバー〉

     ミスティ『白魔導師』

     ブランク『黒魔導師』


 他の派閥ではここまで厳密に役割を決めないらしい。〈指揮官〉は当然として、あとは〈探索役〉くらい。


 〈探索役〉がいなくなると戦略に支障をきたすので、最初のうちは極力1人は攻撃に参加せずに〈指揮官〉と攻撃の担い手を繋ぐ伝令や、側で状況を見守る副官的な役割をすることが多い。


 俺たちが役割をより細分化しているのは、攻撃役と回復役の6人以外のメンバーは、リバーの指導による専用の訓練が積めなかったからだ。


 急造にもほどがある。


 よって、今回の攻略は、基本的には、彼ら6人の連携とリバーの采配にかかっている。


 相手の役割や配置は知らない。

 専用の待機室へと移った俺たちは、現在周囲と隔離されている。


 それぞれの派閥の待機室に立会人が1人ずついて、直前の決闘前最終確認も立会人の持つマスボを通して行われる。


 ちなみに立会人はあの人ではない。良かった……

 あの人はアリーナの会場で実況をするらしい。


 このROOMは特殊な部屋で行われる決闘だから、観客は決闘部屋に入れない。

 なので、観客はこの決闘を闘技場にある大スクリーンに送られた映像によって視聴する形となる。

 映像は各部屋に設置された魔道具型撮影機によってリアルタイムで配信される。


 ちなみにマスボからも専用の「あぷる」ってやつを使えば見れるそう。あの、プルプル震えるりんごのことだな。

 参加メンバーの俺たちはルール上見れないけどね。


 観客にとって、この決闘方式は、目の前で観戦しているわけではないので、決闘が行われる時間帯はちょっとした息抜きの休憩タイムになるそうな。

 おやつタイムやトイレ休憩だな。


 この部屋の立会人の人がリバーにメンバーの確認を行なっている。


 参加メンバーは、事前交渉時点で登録が行われ、負傷や急病でない場合は変更が認められない。


 【紫雲】チームは参加予定だったモモエが直前の決闘で魔力欠乏となり、マスクストップがかかったため、急遽ハリーが代役となった。


 『サステイン』が使えるモモエの不在は痛いが、代わりがオールラウンダーで魔力も魔力量も豊富なハリーであれば戦力的に遜色ないだろう。

 

 リバーによる、その辺りのことを想定済みの人選だ。


 相手メンバーについては、各チームの〈指揮官〉は把握できる状態だが、それをチームメンバーに伝えるかどうかは〈指揮官〉の裁量に委ねられる。


 リバーはメンバーに公開しないことを選択した。


 公開したところで、この決闘で相手チームと出くわす可能性があるのは最終局面である第4の部屋だけなので、戦略を練るリバーだけが知っていればいいというのも道理だろう。


 今回の決闘は、相手を倒すのではなく、相手より早く第4の部屋にある最後の結界を破壊する勝負だからね。

 最終局面で相手チームとかち合う可能性はあるが、互いの戦闘は禁止されている。


 荷物が重い。


 俺は背嚢を一旦床に置いた。


 ルールとして、各メンバーが所持していいものは個人所有のマスボのみ。というかマスボは所持必須。


 マスボ所持が必要なのは、マスボがメンバー離脱の合図となるから。


 部屋を守るマムンクルスに対し、有効属性以外の魔法を使った場合やルール違反(相手メンバーを攻撃する等)を行なった場合、個人所有マスボに退場通知アラートが鳴るそう。


 アラートが鳴ったメンバーは2分以内に部屋から退出しなければならない(マムンクルスの攻撃を受け気絶した者を除く)。


 ちなみに、マスボを使って外部と通話したり、メッセージを送り合うことはできない。

 他の機能は使えるので、それをいかに有効に使うかも鍵となってくる。


 メンバーの中で個人所有のマスボ以外に支給される、チーム用のマスボを持てるのは2名のみ。


 〈指揮官〉と〈運び役〉だ。

 仮に両方とも退場した場合は、臨時で<指揮官>をその場で決める。


 〈指揮官〉は個人所有のマスボの他に申請して借りられる便箋サイズのノート型マスボを所持できる。

 このマスボを用いて、〈指揮官〉はメンバー交代を行なったり、相手側の退場者、メンバー交代者などのごく限定的な情報を得たりして、戦略、戦術を組み直す。


 このマスボを〈運び役〉に預けて操作自体を任せることもできる。


 もっとも、〈運び役〉自体を置かないで〈指揮官〉が兼任するチームがほとんどだ。本来大した荷物ではないし、〈指揮官〉は戦略上、常に後方待機するからだ。


 俺たちは置く……


「ノーウェ様、これを」


「あ、はい」


 俺はリバーからROOM専用のマスボを預かる。

 マスボの上に、同じぐらいのサイズの便箋に書かれたメモが添えられていた。


 ……ふむふむ、なるほど。


 〈運び役〉が背嚢に詰めて携帯できるものは以下のもの(事前申請あり)。


 ・メモ用の紙とペン

 ・魔力回復薬(5本)

 ・体力回復薬(5本)

 ・貸出チーム用マスボ

 ・個人所有マスボ

 ・水分補給用の水筒(4リットル分砂糖付)

 ・コップ人数分。


 以上の7点。


 お分かりだろうか?


 この俺、ノーウェ=ホームがこの決闘における〈運び役〉を担っている理由が……!


 重いんですよ……


 ……魔力回復薬と回復薬の瓶、計10本のことではないですよ!?


 それもまあまあの重量ではありますけども。


 全員分の飲み物の水筒?


 それもまあ、かなりの重さですけども。

 というか、必要か?これ……


 ……それよりも、俺の個人所有の「大辞典マスボ」が尋常じゃなく重いんです!


 背嚢なしで、こんなん持って戦えない。

 文字通りの「足手まとい」じゃないかな、俺。

 わざわざリバーに寮から運んで来てもらったけど、俺出る必要ある?


「そんなことはございません。ノーウェ様はこの勝負の鍵ですから」


 ありがとう、リバー。

 君は部下想いの良いやつだね。

 君ならきっと良い経営者になれるよ。


 派閥の長は君に任せた……え、ダメ?


「まったく、お前はしょうがないやつだな」


 そう言って、決闘開始のスタートラインで俺の隣に立つブルート。


 決闘はスタートの部屋につながる扉から最大3人ずつ列になって入室する。

 俺たちの隊列は先頭にレミとハリーで最後尾はリバー、俺、ブルートの3人。


 ブルートがなぜ俺たちと同じ列かというと……


 こいつが〈壁役〉だからだ。


 ブルートはこの2週間、第1決闘に掛かり切りだったので、連携に不安があるということもあるが、1番の理由は、ブルートの使える魔法属性にある。


 ブルートは、水系しか使えないので、マムンクルスの有効属性が「水」にならない限り攻撃において役に立たない。


 風の助力を得ることが無意識にあるけどほぼ水だからな。風単品の技がまだないんだ。


 しかも、買ってきた饅頭シリーズを1人で20個平らげやがったからな、こいつは……


「ゲフッ……」


 そのせいでさっきから隣でゲップ連発。


 ……愚か者はお前だっ!!


「それでは、『探索型結界破壊決闘ROOM』を開始致します。第1の部屋にお進みください」


 再び無機質な女性のアナウンスが流れる。


 どうにかならない?これ。

 いまいち盛り上がりに欠ける。

 いや、透明マスクを連れて来いと言っているわけではないんよ。


「みんなー、行くよー!?」


「「「「「おー!!」」」」」


 レミの掛け声にメンバーが呼応し、扉が開いた直後に、前方のメンバーから勢い勇んで最初の部屋に駆け込んだ。


 最後尾の俺たちはゆっくりと一歩ずつ進む。


〈指揮官〉のリバーと、背中の重い俺と、お腹の重いブルートの3人だからな……俺たちは。


 ……先行き不安だ。

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


ルール説明はこれにて終了!

次回からは、いよいよ決闘開始です!


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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