表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/449

2-28『前哨戦』

 ◇【紫雲】側決闘場控室◇


「ねー、何やっているの?」


 食事が終わり、一息ついたレミが、リラックスした様子のリバーと彼が操作する大きめなマスボの間にひょっこりと顔を出して尋ねた。


「……顔にカレーソースがついていますよ」


 リバーが胸ポケットからハンカチを取り出してレミに手渡すと、何事もなかったかのようにマスボの操作を再開させる。


「ひゃー、ごめんごめんっ」


 レミは先程までカレービーフンまんを貪るように食べていた。その口元を綺麗に畳まれたハンカチで遠慮なくゴシゴシ拭く。


 普段であれば、レミもそこまでがっついた食事の仕方はしないが、それもこれも、非常に生臭く、まずい携帯食の反動からきたものなので致し方ない面もある。


「……ゲームをしています」


「ゲーム?ああ、新しい『あぷる』を入れたんだね」


「あぷる」というのはマスボに入れられる機能のことで、魔道具協会と魔術協会の協力の元、ソナタ商会が開発したマスボ内部の発明品である。


 知恵の木と呼ばれる画面に表示される木に成る実を念じながらタッチすると立ち上がる機能で、魔道具であるマスボ内にあるこの知恵の実の中に誰かが開発した「知的魔道具」を入れることができるという優れものだ。


「このゲームは『ルームチャレンジ』という戦略型シミュレーションゲームで、これから行う『探索型結界破壊決闘ROOM(以下ROOM)』の疑似体験ができるものです」


「ええっ?すごいじゃん!?」


「やってみますか?」


「うんっ!やるやるー」


 レミはリバーからマスボを受け取ると一旦閉じられた「あぷる」を念じて再起動した。


 タイトル画面が立ち上がったあと、ゲームに参加するメンバー選定の画面に飛ぶ。


 面白いことにキャラである魔導師の属性や能力「称号の文字数」が選べ、また他にも、いくつかの細かい編集が行える。


「称号名や能力値も調整できる優れものですよ」


 レミは参加上限人数である11人とリザーブメンバー2人を選び次の画面に移る。


 すると……


 最初に、ROOMの各部屋の上からみた断面図が画面に現れ、それは、左右に正方形の部屋が3部屋ずつ縦に並んでおり、手前から進んで3部屋目の中間にもう1部屋配置され、7つの部屋が門構えの形をしている。


<図>

  4

3□□□3

2□ □2

1□ □1

 ↑ ↑


 ゲーム開始時に、それぞれのチームが左右の部屋を別々に入室し、第1の部屋、第2の部屋、第3の部屋を順に攻略していく。


 そして、第3の部屋を攻略後、最後に残った4部屋目を先に攻略した方が勝ちというゲームだ。


 「あぷる」ゲーム上では、この左右どちらの部屋からスタートするかの設定はランダムで、今回レミの名付けたチーム『情報通』は右の部屋からスタートとなった。


「たはー、攻略の仕方は、実際のルールと一緒なんだねー?」


「はい。時間経過は流石に初期設定では実際よりも倍速以上で進みますが、それ以外はほぼ忠実に再現していますね」


「実際の時間にも変更できるのー?」


「もちろん。他に、部屋の設定や様々な攻略状況を途中で編集することも可能です。このゲームを実際のROOMの攻略に用いる者もいるくらい、再現度が高いゲームですよ」


「へー」


 レミがスタートを押すと、今度は画面が立体映像になり、メンバー11人が真っ暗な部屋に入っている。


 メンバーははじめに探索を行い、次の部屋に移るための鍵となる「結界」の情報を探す。

 結界は核を体内に持っており、攻撃魔法を用いて、その核を破壊することが次の部屋に進むための必要条件だ。


 仮に、探索によって情報を得ずに先に進もうとしても、次の部屋の扉は開かない。


 結界には、破壊するのに有効な魔法の属性があり、それは、部屋の探索によって見つけることのできる探索物によって判明する。

 そして、探索物に魔力が通された時点で結界が作動し始め、部屋内に出現する。


「あったー。石版が光始めたよ」


 レミが操作する魔導師が魔法を使って探索を行い、石版に近寄ると、そこには「ゴブリンメイジ型マムンクルス、有効属性『風』」と書かれていた。


「マムンクルス?」


「ええ、このROOMの各部屋を守る結界は、すべて人工的に造られた魔物の人形で『マムンクルス』と言います」


「ひゃー、緑色のゴブリンメイジが3体も出てきたよー」


「ゴブリンメイジは〈攻撃型〉と言われています。ダメージを受けないように気をつけて。緑色は〈風〉の魔法が有効ということを表しています」


「避けながら攻撃すれば良いんだねー」


「あるいは誰かを囮にして攻撃させて、その役割の者に『壁』となる魔法を発動させます。このゲームのユーザーはこの役目を〈壁役〉と呼んでいますね。もちろん、ルール上では、この〈壁役〉も攻撃に参加できます」


 レミは、リバーの説明を聞きながら、11人の魔導師たちを操作する。

 慣れないと全員の操作は難しい。


 誤って、1人のキャラクターに有効である風魔法ではなく、火魔法を使わせてしまった。


 ……ブーブーブー


 相手のマムンクルスに火魔法が当たった所で、ゲーム上でアラートが鳴り、魔法を放ったキャラが消えてしまった。


「実際のROOMでは、個々のマスボに退場の告知が来ます。第1、第2、第3の部屋では、違う属性魔法をマムンクルスに当ててしまうと、そのメンバーは退場になってしまいます」


「最後の部屋は違うのー?」


「ええ、退場までは同じですが、それはおいおい……」


 1人のメンバーが脱落し、10人で攻略に挑むことになる。


 レミは気を取り直して、3人の魔導師に風魔法の発動準備をさせる。

 だいぶ指もスムーズに動くようになってきた。


 身体の胸の部分に風魔法がうまく当たり、マムンクルスが1体消えた。


「部屋にいるマムンクルスを全滅させれば、その部屋の攻略は完了です」


「よっしゃー、楽勝だよー」


 続けざまに魔法を放ち、2体目も撃破。

 しかし、最後の1体に魔法を発動させようとした瞬間、急にゴブリンメイジの動きが止まった。


 ブーブーブー……


「ええー、なんでー?」


 突如、アラートが鳴り、レミの操作していた3人の魔導師が一斉に消えてしまった。


「これが、このROOMの1番重要なポイントです。相手が部屋を攻略した時点で、こちら側のマムンクルスが影響を受け、まずマムンクルスの〈属性〉が無くなります。そのタイミングで魔法が当たると、魔法を行使した者は全員、問答無用で退場になります」


 画面上のゴブリンメイジはいつの間にか緑色から透明に体色が変わっている。


「そんなー」


 警告音が鳴り終わると、画面上の部屋が暗転した。


「無闇に攻撃をし続けてはいけないというわけか……」


 レミの後ろからハリーが声をかけた。

 いつの間にか他のメンバーが集まってきてレミの操作するマスボに注目している。


「そうですね。また、攻撃の人数と放つタイミングも工夫しないと、一度に大勢の味方を失うことになります。」


「これはうちのチームにとっては大きな落とし穴に成り得るな」


「気づきましたか」


「どういうことー?」


「俺たちのメンバーは『赤魔導師』や『黒魔導師』が多い。だからどんな属性が来ても一斉攻撃を仕掛けられる反面、相手が部屋を攻略するタイミングと重なったら、一斉に退場するリスクがあるってことだろ?」


「ああ、なるほどー」


「ええ、もっとも、ゲームと違って実際の決闘では、互いの状況が細部まで分かるわけではないですけどね」


 レミの操作するマスボの画面には、攻略中の部屋の映像の他に、画面右上に相手チームの攻略部屋の状況が簡易的に表示されている。


「破壊まで◯%」と。レミはこの表示を見逃していた。


 実際のROOMにおいては相手の状況が逐一分かるわけではないので、これから始まる実際の決闘では相手の前室の攻略時間から逆算したり、メンバー交代や脱落者など、運営側から共有される僅かな情報から推測したりして駆け引きを行うしかない。


「あー、ゴブリンメイジがいなくなったよー?」


「相手の部屋攻略から1分後にすべてがリセットされます。また探索のやり直しですね」


「厄介だな」


 画面内、部屋の暗転が終わると、目の前にいたゴブリンメイジのマムンクルスが姿を消していた。


「『ゴーレム型マムンクルス……有効属性は『土』だって!」


 レミが再度石板を探索し、書かれている文字を読み上げた。


「はい。第1の部屋と第2の部屋では、相手が部屋を攻略すると有効属性とマムンクルスのフォームが変わります。これも厄介な点ですね。ちなみにこの『ゴーレム』型マムンクルスは<守備型>で、一切攻撃してこない代わりに耐久力がゴブリンメイジ型よりも格段に上です」


 これまでの成果がすべてリセットされるわけではないので、相手のマムンクルスの出現数は3体ではなく1体に変わったが、属性とフォームが変われば戦術的な変更を余儀なくされる。

しかも、たとえ攻略途中であったとしても、変わったマムンクルスの体力は全回復するそうだ。


「出てくるマムンクルスは2種類か?」


「いえ、もう1種類。〈回避型〉の『王蜂』型マムンクルスですね。こちらは回避特化型で攻撃もして来ず、耐久もありませんが、その分魔法を当てづらいタイプです。ブンブン飛び回りますから」


「3種類か……」


「ええ、第1と第2の部屋は……ですが。そろそろ時間ですので、第3の部屋以降についてはまたあとで説明するとしましょう」


 決闘開始15分前の案内があり、メンバーはROOM専用の入口待合室に移ることになった。


「ねーねー」


「なんでしょう?」


「リバーはこのゲーム何回かクリアしたのー?」


 レミが隣をピョコピョコと歩きながら尋ねた。


「はい。ざっと200回ほど違ったパターンで挑んでみました」


「え?」


 レミは気が遠くなった。


 先程まで行っていた「ルームチャレンジ」では1部屋攻略するのに、初期設定で進行スピードを速めた状態でも5分以上は時間を要している。このゲームのゴールは結界を破壊して部屋から部屋を進んだ先、4部屋目の結界を壊すこと。そうなると、最低でも1決闘につき20分以上かかる。


 それをリバーは200回、この2週間で行なったのだという。


「たはは〜」


「ちなみに、この『あぷる』ゲームの開発者はおそらく【魔転牢】の『氷狐』ガイル=ワイリーです」


「えっ、それ本当?」


 レミは移動中の廊下で思わず立ち止まってしまった。


「ええ。公式には、違う名前が開発者として載っていますが、さる人物が仄めかしていました。また、彼は公でもこのゲームのトップスコアラーです。ある意味、このROOMの神に最も近い存在ですね」


「ちょっと、ちょっと!それってヤバくない?」


 焦るレミ。


「ヤバいでしょう!?」


 対照的に淡々としているリバー。

 レミはますます混乱した。


「だからやったのです」


 そう言ってリバーは微笑んだ。


ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


マスボの「あぷる」ゲーム→「ルームチャレンジ」

実際の探索型結界破壊決闘→ROOM


紛らわしいけど、重要なんです……


次回、主人公ノーウェの役割は??? 


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ