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2-27『良質なレポート』

 ◇【魔転牢】側決闘場控室◇


「終わったか……」


 控え室で仲間が逐一送ってくれる第1決闘の動画と詳細なレポートを眺める、薄く幅の細い眼鏡を掛けた神経質そうな男。


 派閥のメンバーたちが会場に出向いている中、男は薄暗い部屋で1人、手紙の便箋サイズのマスボを動かしながら何やら思案している。


「まあ、想定の範囲内だな」


 男の名はガイル=ワイリー。


 派閥【魔転牢】のリーダーにして『氷狐』の称号を持つ実力者。


 普通に戦えば2年生の中でもトップクラスの実力を持ち合わせているというのに、この狡猾な男は自身が前に出ることはあまりせず、特に「戦闘方式」の決闘戦では後方の指揮を執る中、しばしば負ける。


 彼にとってみれば、負けも戦略の内。1つの作業行程に過ぎない。

 

 ガイルは、自身の実力を学園に向けて積極的に示す必要はないと考えている。


 ある程度の実力であるという見られ方は重要。

 だが、同時にくみし易さを錯覚してもらうことも肝要。


 ガイルの魔導師としての実力は、すべて相手を自分の策へとおびき寄せてハメるためのものでしかなく、敢えてこれ見よがしにひけらかす必要もない。


 そして、彼がその実力……魔法ではなく、その明晰な頭脳の方を認めてもらいたい人間は学園内において、いや、帝国内においてただ1人である。


 そうやって彼はその男の傘下として、2年生のみで形成するこの派閥を1年の頃から運営してきた。

 彼の配下のメンバーたちもまた秀才揃いであり、彼らが形成する派閥は、今では学園きっての頭脳派派閥の呼び声高い。


 コンコンッ……ガチャ……


「失礼しますよ」


 来客があった。

 バスローブを着た風変わりな魔導師……

 レオ=ナイダスだ。


「よく来てくれた」


「もちろん来ますよ。これ、ご要望のレポートです」


 学内傭兵稼業に精を出し、あらゆる決闘のデータを収集する戦術家の男は、先の決闘で集めたスカウティングレポートをガイルに差し出した。


「相変わらずよくできている」


 ガイルはレポートを数枚めくるとそう断言した。


「ありがとうございます。ですが、私にはこれが貴方にとってそこまで価値のあるレポートには思えないですがね。第1決闘から連闘で出るメンバーはほとんどいないはずですし……それに貴方のことだ。ご自分のレポートでも相手の分析をとうに行なっているのでしょう?」


「そんなことはない。別の視点から見れば得られるものも多いさ。特に君のような優秀な戦術家の書く良質なレポートは、な」


「ま、ポイントになるなら喜んでやりますよ」


「あとで振り込んでおく」


「それはどうも……それと、こちらの方のレポートもお渡ししますね」


「うん?」


 ガイルはレオ=ナイダスより追加で一枚の紙を受け取った。

 そこには短く1文だけ文字が書かれている。


「……やはり、そうか」


「ええ。()()()『解析班』が調べました。例のユーザーは彼に間違いないようですね」


「ふっ……やはりか……ありがとう」


「一応、事が事なので、貴方のご主人にも情報を共有していただきましたよ。筋を通しておかないと、彼と母体である商会に影響しますからね」


「もちろんだ。あの人にはこちらからも取り成しておく。それにしても、何とも良質なレポートだな」


「それはよかったです。では私はこれで……」


 バスローブを着た男は早々に席を立とうとする。


 普段であれば多少なりとも自分との会話を楽しんでいくはずだが、今日はよっぽど気になっていることがあるのだろう。


「うちへの加入の件、考えてくれたか?」


 スカウティングレポートをめくりながら、ガイルはレオ=ナイダスに問いかける。


「以前にお断りしたでしょう?私は今の傭兵稼業を気に入っているのですよ」


「君が加わってくれれば、うちの派閥も、もっと上に行けるのだがな」


「私と貴方では目指しているものが違いますので」


 ガイルはレオ=ナイダスという男を高く買っている。


 同じ2年生にして学年ランキングでも自分と近いランクにいる男だが、ライバルというよりもどこか同志として見ている面があるからだろう。


 稀代の戦術家として1年生の頃から異彩を放っていたレオは、傭兵派閥らしく個人としても派閥としてもあらゆる決闘に顔を出し、毎月10回以上もの決闘をこなしている。

 しかも、そのすべてが「戦闘方式」だ。


 これはレオが、自身の将来を帝国軍部の「参謀本部」に身を置くことを目指していることに起因している。

 事実、彼は学生ながらにしてすでに帝国軍部との間に独自のパイプを築いている。


 ガイルが目指すものとは違うとレオが指摘したのはこの点に尽きる。


「君のために、もちろん『戦闘方式』の決闘もふんだんに用意するし、うちにいた方が君もより強く、より多彩な相手との決闘をより多くできると思うのだがね」


 ガイルが戦術の天才レオ=ナイダスを勧誘したい理由は、もちろん自派閥の力の強化もあるが、彼を迎えることができれば、決闘の多くを彼に任せることができるという算段もあってのことだった。

 そうすれば、ガイル自身は一歩引いてまた別の役割に移ることができる。


「戦う相手の派閥が強くなることはたしかに魅力的ですが、それでも私にとってはデメリットの方が大きいということですよ、ガイル」


「どういう意味かな、レオ。後学のために教えてくれないかな」


 聞き入れる姿勢を示してはみたが、ガイルにとって聞き捨てならない言葉であった。


 ガイルは自身の派閥メンバーの選定に絶対の自信を持っている。

 同学年の秀才たちに声を掛け、どの派閥よりも理知的な頭脳派集団になったと自負しているし、戦略や統率においては3年生派閥や大派閥にも決して劣らないと思っている。


「本来ならば、これにも代金がかかるのですけどね。同学年の学友のよしみでお教えしますよ」


「頼むよ」


「貴方たち【魔転牢】はたしかに頭脳派だ。その戦術は非常に効率的ですし、非常に理に適っています」


「そう自負しているよ」


 ガイルにはレオが何を言いたいのかよくわからない。表情には努めて出してはないが、それが彼をより苛つかせる。ガイル=ワイリーという男は理解が及ばないことに我慢のならない性格なのだ。


「だからこそ面白くないんですよ」


「は?」


「貴方たちは賢い。愚者よりもはるかに多彩な戦術を思いつき、効率的に決闘を進めることで戦局を有利に進めることができるし、結果、勝率も各段に上がる……でもね、本物の戦術家は愚者から学ぶものですよ」


「それは心得ているさ」


 反面教師というやつだろう。

 ガイルはあらゆる決闘データを集め、敗者の敗者たる理由の分析にも余念がない。  

 今さらレオに指摘されるまでもないことだ。


「違いますよ。ふふっ、貴方は根本的に勘違いしている」


「何を、かな?」


「愚者はたしかに愚かだ。その愚かな行動により戦局を悪い方に持って行ってしまうことがある。ですがね、ときとして、その突拍子もない、理解不能の行動が局面を劇的に良い状況に変えることもある。分かりますか?頭が悪いことは、必ずしも()()()()()ということではないのですよ」


「……」


「貴方のチームは実に優れたメンバーを抱えている。ですが、局面を大きく変えることのできる『愚者』を1人も抱えてはいない。それが、これから行われる決闘にどう影響するのか、ここからはいち観客として楽しませてもらいますよ。くれぐれもリバー=ノセックを……いえ、【紫雲】を侮らないことですね」


 レオ=ナイダスは言いたいことだけを言ってさっさと部屋を出ていった。

 部屋の扉越しにバスローブの男の高笑いが響いている。


 ガイルはその右手で読んでいたスカウティングリポートを握りつぶした。


 リバー=ノセック……

 レオ=ナイダスの人を食ったような傍若無人な振る舞いにも腹を立ててはいたが、その名を聞いて、これまで抑えていた憤りが沸々と煮えたぎる。


 目下、この対戦相手である派閥の参謀を務めるこの新入生は、ガイルにとってほとんど面識がないにも関わらず、憎悪を沸き起こさせるほどの存在となっていた。


 ガイルは入学以来、ひとりの男の下につき、その薫陶を受け、将来その男の右腕となるべく邁進している。


 ところが、彼が信奉する男は、あろうことかガイルとまだ入学したての新入生を天秤にかけて、頭脳を用いた特殊な決闘を競わせることで状況を楽しんでいる。


 遊び好きな彼の酔狂は今に始まった話ではないが、その生まれながらのリーダーにしてソナタ商会の未来を背負って立つ男サンバ=オンドレアという男が、彼の古い馴染にして、同じようにソナタ商会を将来引っ張っていく人材と評されるリバー=ノセックという男を高く評価していることに対して、サンバの腹心を自負するガイルが嫉妬心を抱くのも無理からぬことではある。


 会ったことはないが、すでにリバーという男が油断のならない相手であることはガイルも重々自覚している。


 【咬犬】を雇って【紫雲】のメンバーの実力や戦いの傾向を分析しようと謀っていたが、彼のこの企みはいともたやすく看破されたようで、事前に交わした参加登録メンバーによると、リバーは【魔転牢】戦のメンバーを【咬犬】戦のメンバーから大きく入れ替えている。


 その証拠に、双方が直前に提出した決闘参加メンバー11名(+交代要員2名)の内、【咬犬】戦に出たメンバーは、<大将>のブルート=フェスタと<副将>のハリー=ウェルズだけである。


 さらには、相手側のキーマンになりそうな探索能力に秀でたレミ=ラシードと、派閥の長であるノーウェ=ホームの決闘までの期間の足取りがまったく掴めなかった。


 冒険者ギルドの会員であるということまでは情報として割り出せたのでそこからある程度の推測はできるものの、それ以上に得られる情報はなく、特にノーウェ=ホームと言う男の実力や戦法は未知数である。


 これがすべてリバーという男の策略であったとしたら……

 ガイルは苛立ちから自身の爪を噛む。


「まあいい……こちらには秘策があるのだから」


 そう言って、ガイルは目を細めると、スカウティングリポートを放り投げ、自身のマスボを取り出した。



ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


第2決闘は第1決闘とはまったく趣の違った戦いになりそうです。


明日はリバーサイドの話。

「結界探索破壊方式『ROOM』」とは?


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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