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2-25『悪魔の取引』

◇決闘場控室◇


 うむ、やっぱりヤキソバまんの味は格別だ。

 決闘場控室のテーブルの上には、山のようにホカホカの饅頭が積まれている。


 すでに2個目。


 昨晩から、あのふざけた携帯食料以外にちゃんとした食事を摂っていなかったので、食べても食べても腹が減る感じで、いくらでも入りそう。

 3日間の外泊に付き合ってくれた他のメンバーのレミ、ミスティ、ブランクも夢中で饅頭を頬張っている。


 饅頭も携帯食料になるんじゃないかって?それは今は置いておこう。


「ぐおおおーーーー」


 目の前では、そんな俺たちよりも猛烈な勢いでブルートが泣きながら饅頭に食らいついている。コイツ、いったい何個頬張っているんだ?


 第1決闘が終わり、晴れて<指揮官>から元の由緒正しい<ヤキソバまん係>に戻った彼は、重圧から解放されたのか、饅頭をメンバー分合わせて50個ほど買ってきてテーブルに置くと、一気に食べ始めた。


 このアリーナの熱狂ぶりを観ると、ブルートも相当緊張したんだろうな。

 無理もない。


 3個目は色付きのやつにしよーっと。

 おうっ、ピザソースの香りに、中の具はチーズとミートソースパスタが使われている。

 ピザパスタまんか……やるなあ、あの屋台のおっちゃん。


 俺たちがこの『ハイリゲンアリーナ』に到着した時には、第1決闘の副将戦が決着したところだった。

 あとで映像を見せてもらう予定だけど、ブルートの大将戦まで2対2で進めたことがまず予想以上だし、リバー曰く、「かなり大きな収穫」があったようだ。

 何より。


 残る決闘は2つ。俺もボチボチ気合を入れていかないとな……

 まだ、戻って来た実感がないけど……


 ◇数日前◇


 俺はもう2度と訪れることはないであろうと誓った、とある建物の正面扉の前に立っていた。

 ドアノブの魔道具に手をかざすと、大きな扉が仰々しくゆっくりと開かれる。

 

 金掛けやがって……


 カラフルな色付き窓によって様々な光が石造りの床や木の長椅子に向かって差し込んでいる。

 中央の通路には高級そうな緑絨毯。

 長い列を作り、規則的に並んでいる両脇の長椅子をいくつも通過し、俺は目当ての人物のところまで若干の躊躇をしながらもゆっくりと歩き出す。


「よく来たね、ノーウェ坊」


 やはり、除霊できていなかったか。

 

 中央の教壇には、金にがめつく守銭奴で強欲な拝金主義者であり、悪魔のように人の弱みにつけ込んで、悪魔以上に冷酷無比なシスターアルテの姿があった。


 椅子に腰かけ、両足を組みながら教壇にふてぶてしく乗せているその様子から、前回よりもさらに増長していることが分かる。

 何だ?他に何本か足でも生えたのか?


 しかも小魚煎餅に飽き足らず、今度はイカゲソ煎餅食ってやがる。生臭い。


 正直、ここに来たくはなかった。

 誰だって悪魔と取引はしたくない。


 この冷酷シスターは、村にいた時からひどかった。


 俺が礼拝堂に『ヌメリトカゲ』を入れれば、俺の部屋のベッドに凶悪な毒蛇の子どもを忍び込ませる。


 俺が彼女の皿に盛られた鳥の唐揚げと蛙の足の唐揚げをこっそり入れ替えれば、俺が祭りの日に楽しみにしていたタピオカドリンクに蛙の卵を混ぜる。


 俺が礼拝堂の保管庫にある彼女専用の薬草で作られたポーションを刺激草で作った「コーション(俺命名)」にこっそり入れ替えれば、俺の夜の食事で飲むお茶を全部刺激草茶に入れ替えてくる。


 一事が万事、そんな感じ。

 このシスターは悪魔より恐ろしい、俺の天敵。


「分かってんだよ。『禁断症状』が出たんだろ!?ヒャーヒャッヒャ」


 何もかも見透かしたように、まるで自分が俺を手の平の上で転がしているかのように振る舞う外道。


「何のことだよ?」


「『魔女』じゃなくても、私にはまるっとお見通しだよ!村であんな魔物共を倒していたあんたが、そんじょそこらの帝都近隣の魔物で満足できるわけがないんだ」


 訂正。完全に見透かしてやがる……


「……『魔物大図鑑』を読ませてくれ」


「いいよ~。魔石50個ね」


「そんなにない」


「知ってんだよ。だって、あんたをBランクにするように冒険者ギルドのラッフマーに推薦したの私だから」


 ぐっ……訂正。完全に手の平で転がしていやがった……


 俺は懐に忍ばせていた大量の魔石の入った皮袋を差し出した。


「66個入っている」


「まいどあり~」


 悪魔生臭シスターめ。


 シスターアルテは皮袋の口を開けると教壇の上にじゃらっと魔石を出した。

 煎餅のカスと魔石で教壇の上がカオスになっている。


「後ろの鍵付き本棚に入っている。取って試しに開いて見な」


 俺はシスターから本棚の鍵を預かると分厚い『魔物大図鑑』と背表紙に書かれた本を取り出した。すごく重い。


 教壇から最前列の長机にその図鑑を置いてパラパラとめくる。

 この図鑑には精密に描写された絵とともに、その生態や生息地、使ってくる魔法や技などのあらゆる情報が事細かに載っている。


 数百年前、冒険者ギルドに所属する職員が元々Aランク冒険者として大陸中の魔物を倒して書き留めたといわれる、あらゆる魔物の情報が網羅されたこの図鑑は、いくつかの戦火を経て巡り巡って今は聖教会の所有物となっている。


 村の礼拝堂にも簡易版ではあるが、写本が保管されてあり、結構お馴染みの本だ。


「調べたところで探し回るには時間がかかる。だからそんなあんたに私から耳寄りの情報があるんだ」


「断る。『悪魔のささやき』には耳を貸さない」


「あんたが昔、村長の奥さんが大事に飲んでいた『魔紅茶』を拝借したばかりか、そこら辺の雑草を切り刻んで、ポーションと魔力付与で誤魔化していたことを……」


「さーせん!!」


 なんて悪辣なんだ。そして古い証文が多すぎる……!

 一体何枚持っているんだ!?


「まあ、あんたにも決して旨味がない話じゃないんだ。とにかく108ページを開きな」


 本当だろうか?今のところ苦味しか感じていないが……

 俺はとりあえず言うがままに108ページを開いてみた。


 そこには、でっかい蟹の魔物の絵が載っている。


「その魔物は『バブル斜光クラブ』。本来の生息地はシナイ湖の奥地の辺境だから、普段は大した問題ではないのだけれど、最近になってここから10数キロの近隣ダンジョンの『ハイリゲンダンジョン』の最深部に個体が確認された。調査や討伐に向かった冒険者チームがことごとく行方不明になっている」


「行方不明?」


 おかしな話だ。ダンジョン内であれば、逃げ出せてもよさそうだし、万が一やられたとしても骨のひとつでもみつかるだろうに……


「最深部は地底湖なんだ。どうやらそこに引きずり込まれたみたいだね」


「それでも何人かは逃げられるだろ?」


「生態と使ってくる技の欄をよく読んでみな」


 あっ、なるほど……こいつは厄介だ。


 この魔物相手では、どんなに屈強な騎士だろうが、優秀な魔法使いだろうが、経験豊かなチームだろうがあまり意味をなさない。いや、却って戦い辛いだろう。


「わかったろ?難しいんだよ、この魔物は。冒険者ギルドもほとほと困り果てて私に『巡礼士団』の派遣を要請してきた」


「派遣すればいいんじゃないか?」


 それが筋だろう。


「嫌だよ。大した金にならないし」


 何て我がままな言い草な生臭。


「それに、今は『巡礼士団』の準備期間なんだ。大規模なやつのね。その状況で大事な金づる……じゃない、手駒をみすみす失いたくない」


 真面目な顔して時折強欲さを忍ばせてくれるの止めてくれないかな。表情に困る。

 

 それに、みすみす手駒を失いたくないなら自分が行けばいいと思うんだ。


「やだよ、蟹の魔物なんて生臭そうだし」


 何も言っていないのに断られた。

 その手に持っているのは何だ!?


「政治的にもあまり動きたくない状況なんだよ。これはあんたにも関わる話なんだよ?」


「俺に?」


「そうさ。モモエちゃんに関わる話だからねえ……」


 そう言って足を降ろして今度は教壇に肘を置いて、ニヤニヤしながら手にあごを乗せるシスターアルテ。

 モモエがどう関わるのかわからないが、可能性があるとしたらトアック組関連か?


「まあ、私にも関わりがあるといえばあるんだけど、とある街への『巡礼士団』の本格派遣を考えていてねえ。相手もそれを見越して帝国軍の内部工作でこちらを牽制しているんだよ。ティラント家は帝国軍の内部に深く食い込んでいるからねえ」


 何がどうなって、しがない元村人の俺に関わりがあるのかさっぱりわからなかった。

 あと、ティラントって名前、どっかで聞いたことあったな。思い出せないけど……


 きっとすれ違った学生とかだろう。少なくとも派閥メンバー内にはそんな名前の人間はいないし。


「まあ、そういうわけで、私からの『特別依頼』ということでギルドに話は通すからあんたはこの書類を持ってギルドの受付に行きな。場所の案内はギルドマスターのラッフマーがしてくれるから」


 そういって半ば強引に「特別依頼」を受けることになった。


 ラッフマーさんも、この悪魔に何かゆすりのネタを掴まれているんだろうな。

 でなければ、帝都のギルド長ともあろう人物が、こんな煎餅食べこぼしシスターの依頼なんか受けるわけがないし……


「あんた私のことナメてない?私、こう見えても結構偉いんだよ?」


「滅相もない」


 教会の偉い人は図鑑1ページ読むのに魔石70個近くも請求しないし、いたいけな学生を死地に向かわせたりしないと思うんだ。


「今回の依頼は私にもあんたにも利のある一石二鳥な話だと思う。一応、契約時点の前払いと言うことで餞別をくれてやるから持っていきな」


 そう言って、シスターアルテは教壇についている引き出しを開けると何やらゴソゴソ取り出して、俺が渡した皮袋にそれを入れてしぶしぶ手渡してきた。

 

 珍しく金貨でも入れてくれたのかな?

 1枚でも入っていれば、それは神の奇跡である。


 乗りかかった船だし、まあ気になる魔物と依頼だから行くことにする。

 断じて、目の前の悪魔との取引に応じたわけではない。


「まいどあり~」


 俺は大聖堂の扉を開き、支度をするために学園への帰路に着く。


 ……そう言えば、懐がやけに軽い。


 俺は懐から皮袋を取り出して、恐る恐る袋の口を開いた……


 ……イカ臭い……

 ……餞別じゃなくて、煎餅じゃねえかっ!!


 ◇決闘4日前ギルド本部内受付◇


 帝都冒険者ギルド本部で受付の仕事に従事するミルカは難客にたじろいでいた。


「どういう理由だ。ダンジョンの封鎖とは!?」


「ですから、上の指示なんですよーー」


 目の前には白く輝く白銀の鎧を着た金髪の秀麗な女性騎士。

 別の場所で会っていれば心の底から憧れていたであろう容姿と経歴の人物だ。

 ただし、今はただの悪質なクレーマー。

 そもそも彼女は冒険者ですらないのだから。


「説明しろっ!」


「ぴー。もっ、もうすぐ責任者が参りますので、いっ、今しばらくお待ちください」


 早くこの地獄から救われたい。

 普段であれば、クレーマーのひとりやふたり現れても周囲の冒険者たちが助けてくれるのだが、今は周りで様子を伺っているだけで誰も近寄らない。


 金髪の女性騎士の後ろには同様にピカピカの鎧を着た騎士たちとフードを被った教会所属の魔導師たちが並んでいるので、間に入れと言われても無理なのかもしれない。


「お待たせ致しましたな」


「マスターーー」


 ミルカが心から待ち侘びていた人物が戻って来た。

 ギルドマスターのラッフマーだ。


「あんたが責任者か?」


「はい。私がここの本部マスターを務めるラッフマーですが」


 金髪の女性騎士は身の丈2メートルを超える長身のマスターと対峙してもまったく怯む様子がない。それだけ自分の実力と権威に自身があるのだろう。


「では、答えろ。なぜ『ハイリゲンダンジョン』を封鎖した?周辺住民への被害を考慮してというのならば致し方ないが、我々のように討伐に向かおうとするものまで進入禁止にするのはどういう了見だ?」


「それを貴方様から私共に聞かれても困りますなぁ……巡礼騎士団長ジュリア殿」


「どういう意味だっ!?」


「だって、この要請をしたのはそちらの教会のお偉いさんですよ……?」


「え?」


 これまでまったく動じる様子のなかったジュリアと部下たちが急に狼狽し始めた。

 さっきまでのすごみはなんだったのだろうとミルカは思った。


「も、もしや……そのお偉いさんとは……」


「『聖女』アルテ様です……」


「!!!???」


 一気に顔が青ざめる騎士一同。

 そんな折、冒険者ギルド本部の入口のドアが開いた。


「ちいーす。生臭……いえ、シスターアルテの『特別依頼』を受けに来ましたーーー」


 ギルド内は、奇妙な静寂に包まれた……


ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


べつに、ダジャレが言いたいがために用意したアイテムではないのですよ!?笑

次回、忘れた頃にやってくるあの人回!

あの懐かしのキャラもこっそり出るよ♪


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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