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2-23『不動のブルート』

「それではぁーーレディー-スぅエーンジェントルメーンヌぅ。これよりお待ちかえねぃーーの『大将戦』を始めまーーすぅ!!【咬犬】コーーナーー!どんな奴にも咬みつき嚙み砕くぅーーー『熱風牙ねっぷうが』のスナップ=アノーイぃ!!」


 ブルートは開始戦に着くと、微動だにせずに真っすぐ対戦相手を見つめた。

 

 大将戦の相手は決闘経験の豊かな3年生。

 個性豊かな傭兵派閥の最強格の1人で、鳥のトサカのような髪型の金髪男。

 黒いタンクトップの上にジャケットベストを羽織り、魔導師らしからぬ鍛え上げられた両腕にはびっしりとタトゥーが入っている。


「はん、ブルってるかと思ったらそうでもねえな。良い面構えだ。かわいがりがいがあるってもんだぜ」


「……」


「続いてぃーー【紫雲】コーーナーー!学年ランク8位にして期待の新星ぃーーーどんな強者も飲み込んで行くぅーーー『水豪』のブルート=フェスタぁーーー!!」


「おいっ、だんまりかよっ!?やっぱブルってんのか?お前の苦労はわかるぜい?『色付き』を取りまとめるなんて、大きすぎるハンデを抱えるようなもんだからよお。世間知らずの貴族のお坊ちゃん育ちにはさぞ小さいお山の大将は大変なんだろうなあ」


「……ひょっとして貴族に憧れてるのか?」


「あん?」


「いえ、3年生にもなっていきなり相手を挑発し始めるなんてコンプレックス丸出しの『貴族かぶれ』みたいなことして恥ずかしくないのかなあと思いまして……」


 ブルートは丁寧に言葉を返した。

 スナップは自慢のトサカ金髪の側面に露出する肌から何本もの太い血管を浮き上がらせている。ブルートの慇懃無礼さに相当おかんむりのようだ。


「俺を挑発しやがって!いいぜ、できるだけじっくりと料理してやるから」


「決闘内容は『戦闘方式』ぃーーールールはこれまでと同じぃーーーー」


「御免被りますね」


「はあっ?」


「俺はこの決闘よりももっと大事な役割が控えているんでね。さっさと貴方を蹴散らしますよ」


「むかつく野郎だ。威勢だけじゃなく、少しは楽しませてくれよ!?」


「はじめーーーーいぃーーー!!」


 前のめりに勇んでいるスナップを制止するかのように、ブルートは落ち着いて人差し指を立てて「1」を作った。


「……初めに宣言しておきます。俺はここを一歩も動きませんよ」


「面白い。やってみな『風牙ふうが』」


 先手はスナップ。

 風魔法で作った魔物の牙が2つ、ブルート目掛けて飛んでくる。


「『三水蛇トレハドラス』」


 ブルートは右掌を前に出して水魔法を発動させる。


 3体の水蛇が生まれ、うち2体が風の牙に喰らいつき、残る1体がそのままスナップに向かって行く。


 この技は双子たちとの特訓の中で会得したものだ。


 あの時は、中堅戦での戦術を双子たちに落とし込むことに無我夢中でそれでどころではなかったが、これまで片手ずつに1体の動物を象った水魔法を発動させることしかできていなかったブルートにとっては壁をひとつ超えた、思わぬ副産物であった。


「『熱風帯ねっぷうたい』」


 スナップの元に向かって行った水蛇は、彼の生んだ熱結界によって蒸発する。


「はんっ、じゃあこれはどうだ?『熱狼牙ねつろうが』」


 今度は、風魔法と火魔法がミックスされた赤い巨大な狼の牙を持った口が飛んでくる。


「『九頭水蛇ハイドラ』」


 ブルートの対抗技は9つの頭に別れた水蛇。

 9つの頭は狼の牙を噛みちぎり、先ほどよりも太めの1匹の水蛇へと変形してスナップに反撃する。


「やるじゃねえか」


 またもやスナップの元に到達することなく、水蛇は熱風にかき消された。


「だが、知っているぜ?お前、水魔法以外使えないんだってな?それじゃあこんなことはできないわけだ」


 ゴオオォッーー。


 スナップの方から熱風が広範囲に吹き荒れる。


 これは、対戦相手からフィールドの支配権を奪うための前触れ。

 高い能力を誇る熟練の魔導師は、バトルフィールドを自分の有利な条件に変容させてしまうことができる。


 とりわけ、風と火の力を組み合わせたスナップの広域魔法は強力だ。

 いわば熱風の結界。


「『水膜すいまく』」


 結界術では、ブルートの方が分が悪い。

 ブルートは自身の周囲3メートル程の範囲に水の膜を張ったが、先にスナップの張った橙色をした熱の膜に比べてその体積は半分以下だ。


「で?さっき動かないって言ったな?それじゃあ、これからは俺の一方的な時間になるってわけだな」


 熱風の膜から次々と刃が生み出され、ブルートの張った水の膜を切り刻んでいく。


 この水の膜もピッグニック相手に何度も練習を重ね、苦労して開発した魔法だっていうのに、2年の差というのはなかなか大きいものだ。

 

 水膜の中でピッグニックを生かしたままにするのがどれほど大変だったか……


「さあ、ご馳走の時間だ」


 水の膜が崩壊し、流れ込む熱風とともに、数匹の熱風狼たちが大口を開けてブルートの元に襲い掛かる。


「所詮、井の中の蛙なんだよ。1属性しか使えないお坊ちゃん。いいか!?魔導師の真髄は如何に属性魔法を用いて、魔法を複合させて『領域支配』をできるかにあるんだよ。『色付き』に囲まれてお山の大将気取っている奴に、あらゆる決闘を戦い抜いてきたこの俺様が負けるわけがねえっ!!」


 この2週間、ブルートはブルートなりにずいぶん進歩したと思っていた。


 3匹の水蛇を片手で同時発動できることになったこともそうであるし、さらに大き目の蛇を9つの頭に分けれたこともそう。空中に丸く、大きな水の膜を作って防御結界を張れるようになったことも以前に比べたら大きな進歩だ。


 だが、それぐらいの成長では全然安心することができない。

 これぐらいでいいか、なんてところに今のブルートが身を置く生活環境は決して留めておいてはくれない。


 果てしなく遠い場所にいるように感じる『色付き』を歯を食いしばってがむしゃらに追いかけている今にも、その背後にはひたひたと迫りくる『色付き』のたくさんの足音が迫ってきているのだから。


 ◇回想◇


 - 魔導師の真髄は「その場を動かずに敵を倒すこと」だよ -


 森で魔物狩りをしに来ている最中、ブルートは自身が魔物を倒す様子をじっと見つめていたノーウェから1つの質問を受けた。


「ブルートの最高の技ってやっぱりあの水竜か?」


「ああ。俺はあの水竜を極めて『エクス級』にして見せる!」


「そう。じゃあ、しばらく決闘ではあの水竜の使用は禁止な?」


「は?ちょ、ちょっと待て!?お前は一体何を言っているんだ?」


 いきなり最強の技を封じられて納得できるわけがない。

 ただでさえ、大将戦を行うブルートは是が非でも勝たなければいけないのだ。

 手を封じるなんてことをしている余裕はさらさらない。


「それと、これからここで戦う魔物相手には『一歩も動かずに魔法を10回以上行使して倒すこと』が条件。もちろん水竜は禁止。いいな?」


「は?待て待て待て待て!!」


 ブルートはますます混乱した。

 獰猛な巨体の猪の魔物が鼻を鳴らしてこちらに向かって来ているのに、急に課していい内容の課題ではない。


「大丈夫、死にそうになったら助けるから」


「お、お前!一体なんだってこんな無茶なこと言ってくるんだよ!?いじめか!?ヤキソバまんを買いに行かせるだけじゃ飽き足らず、いよいよ物理行使か?」


 焦りながらもブルートは両手に魔法を発動し、水の猪と一角の小さい馬を生みだし、猪に対抗する。


「切羽詰まっている割には結構丁寧な仕事してるじゃん、その調子、その調子」


「その調子、じゃないっ!!」


 腰に手を置きながらその場でるんるんとスキップをしてこちらをからかってくる紫のローブを着た悪魔。


「やっぱり、ブルートは制約があった方が閃くんだなあ。でも、まだまだ固いよ!?もっと発想を柔軟にしていこうか?俺が課した条件は『一歩も動かない』ってことだからね」


「な、何が言いたいっ!?」


「それはブルートが見つけ出す答えさ。この答えは別に1つではないんだから」


 ブルートは必死で考えながらも水魔法を放つ。

 俺の答えって何だ?大きさか?形状か?

 犬、猿、雉……一体何をすればいいというのだ?


 考える合間にも猪は倒れては起き上がり、こっちに突進をかまそうとしてくる。


 一歩も動けないんじゃ逃げることができないじゃないか……

 細かい技を精密に速く発動しろってことか?

 ノーウェは一体何を俺にさせたいんだよっ!


 混乱の極致に至り、頭がぐるぐると回り続けた結果……


 ……ブルートはその場に1回転した。


 ◇回想終了◇


「な、何だとっ!?」


 熱風の牙が水の膜をズタズタに切り裂いたあと、本命を目掛けてさらに飢えた猛獣が大口を開けて嚙みつきにかかる寸前であった……はずだった。


 だが、確信を持ってその様子を見届けていたスナップの視界から青いネクタイの学生服を着た青髪の魔導師の姿は消えていた。


「こっちだよ」


「て、てめえっ」


 右耳の方から声が聞こえて来たので慌てて振り向いたスナップに水蛇が襲いかかる。


 咄嗟に『熱風帯』を追加発動させ、蛇を蒸発させたが水飛沫が盛大にかかってしまった。


「嘘つき野郎がっ!一歩も動かねえんじゃなかったのかよっ!?」


 水飛沫みずしぶきによってその視界を奪われたスナップには、ブルートの姿は未だはっきりとは映っていない。


「嘘つき?誰のことだ?」


 徐々に視力が戻るに連れて、スナップの目はどんどん大きく見開いていく。

 驚きを以て……


「て、てめえ……嘘だろ?」


 視界が確保されてから、目の前の男が嘘を言っているわけではなかったと言うことが分かり、スナップの感情は驚異から恥じらいとなり、さらには憤りへと変わっていく。


 2文字の称号を持つ有望な新入生とは言え、まだまだ青臭いガキ……

 そう侮っていた。

 実際に渡された情報では、その青臭い男は未だ水属性しか操れない貴族の中でも劣等生という話だった。


 実際に戦ってみても未だに他の属性の魔法は使っていないように見える。

 だから、そのスカウティングレポートも決して嘘をついているわけではないのであろう。


 だが、だからこそ百戦錬磨のスナップからすれば、目の前の男は脅威であった。


 青臭い新入生、『水豪』のブルートは、自身の生み出した()()()()()()()()()()()


ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


水に乗ることができたらいいですよね。雨の日楽だ。


次回、大将戦決着!?


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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