2ー20『最短の決着』
◇回想◇
決闘から遡ること1週間。
ブルートは稽古をする4人に頭を下げていた。
「頼む!この作戦を遂行できるのは普段からコンビを組んでるお前たち4人しかいないんだ」
「ぷー」
「がるるる〜」
「うるるる〜」
だが、そっぽを向く4人。
それもそのはず、ブルートは彼らを決闘で下したとき、その魔法の貧弱さをかなりこき下ろしていた。
「ボクたち、ノーウェ君のもとで頑張るのデス。意地悪ブルートは嫌いなのデスよ」
4人の態度は頑なであった。
それでも、ブルートは頭を下げ続ける。
「お前たちが俺の指示に従いたくないのは分かっている。でも、今はチームの危機だ。星を1つも落としたくない。この戦法はアルト、シャウ、コークン、ホウジュン、お前たち4人じゃないと絶対に成功しないんだ」
「うん?ボクたちでないとできない?……のデスか?」
アルトの顔に対してかなり大きな耳がピクピクッと動いた。
「ああ。成功させられるとしたら4人の連携しかない。確率は決して高くはないが、あの天才レオ=ナイダスを出し抜くには4人の協力が必要だ!」
これは、決して4人を誉め殺して乗せているわけではない。
ブルートが4人の訓練と模擬決闘を見ていて思いついた戦法なのだ。
「ふ、ふふん。そんなにボクたちの力が必要ならやってあげないこともないデスよ」
「そーデスね。ブルートは馬鹿で、がさつで、ポンコツで、いやらしくて、憎たらしい嫌なやつだけどクズではないのデスから、手伝ってあげないことはないのデス。ワタシたちの魔法をバカにしたけど、ワタシたちの種族をバカにはしませんデスた」
正直、決闘の時魔法以外のことで、なんて罵ったかブルートは覚えていなかった。
やられた方はいつまでも覚えているが、やった方は覚えていないということは往々にしてある。
だが、ブルートも兄弟たちに絶えず半端者と蔑まれて生きてきたので、魔法の優劣や努力の足りなさで相手を罵ることはあっても、生まれ持った種族をバカにすることはない。
称号をバカにしたのは若気の至りだ。
そして、彼らの可能性を知っているので、今後もバカにすることは決してない。
「……アルトとシャウが良いならオイラたちも」
「そだね」
獣人の血を引く2人もあっさり前言を翻した。
こうして、ブルートと4人組はその日から数日間、たった1つの戦術だけを極めるため、4対4の模擬決闘にて繰り返し訓練を行なった。
仮想レオ=ナイダスをブルートが務め、他のメンバー役を一緒に学園に残っていたリバーとハリーが担ってくれた。
レオ=ナイダスは、最初の陣形をメンバーによっても変えてくるが、そのだいたいにおいてオーソドックスなアタッカー2人を前線に配置し、中央にディフェンダー1名、そして自身が務めるコマンダーを最後尾に置く。
称号において同格以上の相手にはディフェンダーを2枚にしたりするが、先に手を出すにしても、相手に出させるにしても初手でデータを取り分析し、その後の戦術を選んでいく。
相手が矢継ぎ早に攻撃してくるのであれば、自身の持ち手である『湯蛇(高温の蛇の形をした水魔法)』で牽制する。
ブルートは自身の水魔法を蛇の形にして何度も放ちながら、彼らに乾坤一擲の攻撃のタイミングを落とし込んでいく。
「今できる最大は2回か?」
「「そーデスね」」
「じゃあ、1発も無駄にできないな」
「「そーデスね」」
「チャンスは1度きりだがやってもらえるか?」
「「いいトモ〜!!」」
……ごく僅かな、おそらく1%にも満たない勝率を確実なものにするために……
◇回想終了◇
「それでゅわぁー中堅戦をはじめまーーすぅ!決闘方式は『戦闘方式』と変わらずぅーー。勝利条件も先鋒・次鋒戦とかわりませーーんぬぅーー!では、はじめぇーー」
「むっ……!!」
レオ=ナイダスの目が蛇のように鋭くなる。
開始の合図と同時に、コークンとホウジュンの2人は敵のアタッカーであるロットとアバシリ目掛けて前方に跳んだ。
魔法は使っておらず、獣人の血特有の身体能力の高さを生かして、足の筋肉のバネを使って飛び跳ねる。
「『アイス』」「『ファイア』」
- 魔導師の真髄って何だと思う? -
以前、ブルートがノーウェと森で狩りをしている時、このことについて話をしたことがある。
ノーウェ曰く、魔導師の真髄は「その場を動かずに敵を倒す」こと。
この言葉の意味は、裏を返せば魔法師は身体能力に優れているわけではなく、敵に近づき過ぎると危険が増すので、他の者よりも数倍頭を使えということである。
だが、基礎中の基礎の魔法訓練を未だにしているコークンとホウジュンを見てブルートは思った。
身体能力に優れた魔導師がいるのであれば、接近戦のスペシャリストになれるのではないか?と。
そして、幼馴染の炎使いの魔導師や目の前の双子であれば、いずれは騎士や前衛の冒険者や武術家に負けないほどの「武闘派」の魔導師になれるのではないか?と。
ブルートの幼馴染であるジェシーは『炎格』という炎を身体に纏わせるという接近戦に秀でた称号の持ち主で、その特性を自覚していた彼女は早くから、魔法の訓練と同時に身体訓練も行っていた。
決闘でノーウェに翻弄されて敗北はしたが、それは彼女の心の中に「驕り」があったゆえに敗れたわけであって、彼女のこれまでの努力が否定されたわけではない。
魔法の可能性が無限だというのあれば、その戦法だって無限にあっていい……
それが、ブルートが導き出した答えであった。
双子の『赤魔導師』コークン&ホウジュンは、狼獣人族の血を引いているので、その身体能力においてそんじょそこらの人間よりも秀でている。その一方で動物的勘に頼るあまりに魔法の体系理解や発動に関してはまだまだ初心者の域を出ない。2人は初級の魔法をやっとすべて覚え終えたばかりだ。
獣人族が魔法使いになることは、種族的に不得手なこともあり、そもそも他に例を見ないことであるが、そんな2人が『赤魔導師』の称号を得るに至ったのは、おそらく、魔法の扱いに長けたエルフ族の血も同時に引いていたからであろう。
おそらく、まだまだ才能の眠っている部分があるはずだ。エルフの血を引くものは、成長の度合いが他の種族に比べて遅く、晩成型といわれているからだ。
眠っている才能はいつ開花するかわからないけれど、今できる最大限のことはする。
そう意気込んで、それぞれモヒカンとコーンロウの髪型をしたいかつい筋肉魔導師に思いっきり飛び掛かっていったコークンとホウジュンは、その頭を目掛けて初級の魔法を発動させた。
驚いて仰け反り、バランスを崩して尻餅を付く敵のロットとアバシリ。
初手は成功。
コークンとホウジュンは一度距離を取り、今度は中央でレオ=ナイダスを守るパンチパーマのノスリの方に走る。
「『湯蛇』」
突如、2人の方に向かって蒸気を発した水蛇が空中を這って飛んできた。
「「おっと!」」
難なく避ける2人。
その身体能力を生かして、敵の体勢が整う前に一気に距離を詰める。
「「『ウォーター』」」
1人分ではただの『ウォーター』でも2人分なら多少は見栄えがして『ハイウォーター』に見えないこともない。
「くっ、『多火翔』」
「ま、待てっ!!」
ノスリが1本の巨大な火柱を放って2人の放ったウォーターを一瞬で蒸発させながら眼前に火の壁を作る。防御としてはこれ以上ない技。
「「やったね」」
だが、コークンとホウジュンは不敵に笑ってその場を離れ、モヒカンとコーンロウに再び接近戦を仕掛けに行く。
「出番デスよ!?」
「そーデスね!!」
その場のバトンを受け継いだのは、アルトとシャウの『黒・白魔導師』コンビ。
縦一列にならんで、シャウがアルトの両肩に両手を置いて、トコトコと近づく。
相手が防御に回ってくれたので、機動力に劣る2人も難なく射程範囲に近づける。
「『ミニエクスストーン』」
巨大な岩の塊が、火柱に向かって飛んで行く。
ドガッ……!
「グエッ……」
それがパンチパーマのノスリの巨躯に当たり、敢え無くノックアウト。
アルトとシャウはそれぞれハイ級の黒・白魔法しか使えない、いわゆる「魔導師の卵」の状態。
コークンとホウジュンは狼獣人とエルフの混血であったが、アルトとシャウは、共にエルフとドワーフ族の血を引いている。
こちらも才能の開花が人族よりも遅いというのが一般的であるがゆえに、アルト、シャウそれぞれ個人では魔物の生息域で戦うにはまだ心許ない。
だが、この双子は、単体での魔法こそ心許ないが、魔力の体内循環のスムーズさに置いては他の誰よりも抜きんでており、片方が片方にその魔力を譲渡することで普段よりも強力な魔法を放つことができるという不思議な「特性」を持つ。
その双子ならではの特性を生かした乾坤一擲の魔法が「ミニエクス級(要するにグラン級)」の魔法なのである。
「もう一発行くのデスよ!?」
「そーデスね!」
「『ミニエクスアース(マッド)』」
巨大な粘着質の土の塊がバスローブを着た男に向かって飛んで行く。
……だが、
…………
………………
「『湯煙』《ゆけむり》」
突如、レオ=ナイダスの周囲に湯気が立ち込め一瞬にして舞台半面が蒸気に覆われた。
「ふう。危なかったですね……いささか冷汗を掻きましたよ」
レオ=ナイダスは、何事もなかったかのように元いた場所から数メートル離れた場所で前髪を掻き揚げていた。
「『参った』のデスよ!!」
「そーデスね!!『参った』デス」
「そこまでぃーーー!!勝者【咬犬】ぅーーーー!!!!」
ブルートが授け、アルト&シャウ、コークン&ホウジュンが完璧に遂行した一世一代の作戦は、あと一歩の紙一重の所で成就しなかった。
アルトとシャウの2人は協力すればグラン級の魔法が放てる……但し、2発のみ。
まだ魔力量において成長途上。十分に成熟していないのだ。
それゆえのこの戦法であり、ミスが許されず、完璧に遂行する必要があった。
実際に、彼らは完璧に作戦を実行した。
……それでも及ばないほどの手札をレオ=ナイダスが持っており、一枚上手だっただけである。
「フッ、フハハハハ!実に興味深い戦いでしたよ。消化試合だなんてとんでもない!!とても勉強になりました。小さな偉大なる魔導師さんたち、どうもありがとう」
「ど、どどどーしたんデスか!?笑い上戸なんデスか?それともヘンタイさんですか?」
「で、でもワタシたち、褒められたのデス!素直に嬉しいデスね」
レオ=ナイダスは腰を屈めて小さな魔導師2人と握手をする。
「お前たちの身のこなしなかなかやるなあ」
「そ、それほどでもないがるる〜」
「……(気絶中)」
前衛役たちも互いを讃え合っている。
「あの攻撃にはびっくりしたぜ!」
「あ、ありがとうるるる~」
ポンッ……
爽やかに双子の狼獣人たちと握手をするロッドとアバシリの肩に置かれた手。
その手の持ち主は、銀色の前髪をかき分けると満面の笑みを浮かべた。
「ああ、あなたたちはこれから特訓ですけどね。いくら顔面に魔法が飛んできたとはいえ、ああやって尻餅をつかれてはこちらの作戦が成り立ちませんから。簡単に仰け反らないように、腹筋千回からやりましょうね」
……バタンッ!!
「……(気絶)」
湯煙が晴れたあと、さわやかに握手をする両陣営の姿がそこにはあった(途中までだが)。
第1決闘【紫雲】VS【咬犬】
<団体戦>
中堅戦 勝者【咬犬】レオ=ナイダス、ロット=シェパード、ノスリ、アバシリ
【紫雲】1勝2敗 VS 【咬犬】2勝1敗
◇舞台下◇
大健闘の4人が舞台の階段をゆっくりと降りている。
観客も【紫雲】陣営の思った以上の戦いぶりに感銘を受けたのか、はたまた集団戦ならではの熱気からか盛り上がりを見せているが、彼らを迎え入れるブルートの心境は焦りの極致に達していた。
いよいよ、あとがなくなった。
次の副将戦と自分が出る大将戦で連勝しないと派閥決闘戦において負けてしまう。
その焦りと、自身のこれまでの選考や戦略に関して抜かりがなかったのか、という後悔で、気持ちがいっぱいいっぱいになっていた。
「胸を張れよ。今できる『最高』だったぞ」
副将戦を務めるハリーが双子コンビの4人を出迎える。
いくら良い試合をしたからといって、悔しいものは悔しい。
肩を落として階段を降りて来た4人に対して、元々長身の『赤魔導師』は、トレードマークの赤帽子を後ろ向きに被ったまま、腰を落として中堅戦のメンバー一人一人に声をかけている。
「よくやったぞ、お前たち!!」
その様子を見ていたブルートは、ふと我に返って、慌てて4人を激励する。
ブルートの掛け声のあと、周囲のメンバーも拍手と激励の言葉を送り、4人も口をしっかりと結んで前を向いてその輪に加わっていく。
「すっ、すまん……」
ブルートはハリーの元に駆け寄る。
ハリーがやったことは、本来ならブルートがやらなければならなかったことだ。
中堅戦のメンバーを激励し、副将戦に向かうハリーに、決闘に集中する時間を作る……それがブルートの役割だったと思ったからこそ彼は自分のことで頭が一杯になっていた己を深く恥じたのだった。
「気にするな。お前はひとりで何もかも抱え過ぎだ。いくら<指揮官>だからといって、何もお前がすべての責任を背負ってすべての役割を請け負う必要はない。ノーウェだってそうだろ!?あいつは、お前にこの場の<指揮官>を託したが、俺たち全員にこの決闘を任せているんだ。俺たち派閥はひとつのチームなんだから、それぞれができることを最大限にやればいいんだよ」
「そ、そうか……そうだな!?」
「俺はこの副将戦に勝ってお前にバトンを渡す。そしたら、あとは任せたぜ!?大将!」
そう言ってハリーは右腕を伸ばし、ブルートに向かって拳を差し出した。
「ああ、任せろ……!」
ブルートも拳を差し出してコツンと合わせる。
ハリーは一度ニヤリと笑うと、背中側にある闘技舞台の方に身体を向き直しながら、後ろ向きに被った帽子を半回転させ、唾の部分を持ってくいっと被り直した。
副将戦と大将戦……
残る2戦に派閥の命運が託された。
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
次回、副将戦!
【紫雲】とブルートたちの命運は1人の『赤魔導師』に託された……
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




