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2-18『ツッコむ』

 入学式からこの派閥戦を迎えるまでの間、ディリカとカーティスはノーウェに帯同し、帝都近隣に棲む魔物を狩りに狩った。それは、他のメンバーも同じではあったが、とりわけこのコンビは必死であった。


 未だ劣等感を拭えなかったからだ。


 魔物を狩るには狩ったが、この不安を払拭するには至らなかった。


 そこで2人は、聞いてみた。

 派閥の長である『紫魔導師』ノーウェに。


 ◇回想◇


「なあ、ノーウェ、決闘のコツってあるか?」


「コツ?」


「ああ。対人相手の戦いで気をつけた方がいいことっていうか……」


「あっ、私にも教えて」


 森の中で紫のローブを着た魔導師は、迫りくる猪の魔物の眼前に大きな土の壁を突如発現させ、勢いよく衝突させてひっくり返らせたあと、見えない魔力の鎖のようなものでじたばたする巨躯を締め上げながら、自身は腕を組んで熟考する。


「……うーん、殺さないこと、かな!?」


「「え??」」


 その回答は2人にとって斜め上であった。

 というより、正反対。


「いや、だって、決闘は相手を殺しちゃいけないでしょ?魔物はこちらを本気で狙って来るからこっちも心置きなく真剣勝負できるんだけど、対人だとその調整が難しいよねー」


「……あんた、嫌味って言われない?」


「……そうね……」


「え?なんでさ?2人だって、もうずいぶん実力付けているじゃん!?」


「「え??」」


「2人ほど貪欲に魔物を倒していれば、今さら対人の決闘にそこまでビビる必要なんてないだろ?こっちは1日中魔物相手に決闘しているんだからさ」


 そう言って、『紫魔導師』は突進をかましてきたデカい鹿の魔物の角を風魔法の刃でちょん切ると、またもや見えない鎖で締め上げて、瀕死の状態に追いやる。


 - だから、一体何なんだ?その魔法は!? -


 ディリカとカーティスは心の中で大いにツッコんだ。

 そっちも気になってしょうがない。

 だが、劣等感にさいなまれていたコンビは、それ以上に彼の2人に対する評価の方を何度も反芻はんすうして思い返していた。


「で、でもよ!?対人だと相手の戦法も違うし、強力な魔法も使って来るじゃないのか!?俺たちはそれに対抗する手段が自分にあるのか不安なんだよ」


「あるだろ?」


「「え??」」


「少なくともディリカとカーティスが一緒になって戦うのであればな。じゃあ、その辺りを考えながら、フォレストボア戦行ってみようか。Cランクの魔物だから死なないように気をつけてね」


「「ええっ??」」


 ◇回想終了◇


 そんな濃密な2週間を過ごしてきたので、目の前の蛙と鳥の魔物を見てもあまり心が動かなかった。


 殺さないように気をつける……

 ……それは、つまりは真剣勝負ではない、いうなれば木刀による稽古のようなものだ。


 - 命さえあれば、負けてはいないんだ。次は上手く逃げ出す方法、負けない方法、そして勝つ方法を考え続けることができるからね -


 森の中でそう言われた。大量の魔物の亡骸なきがらに囲まれながら。

 ほとんどあいつ(ノーウェ)が倒したけど。


 - だから、対人相手の決闘の負けなんて大した問題じゃないって思うのが大事だぞ -


 自分たちは何を思い悩んでいたんだろう?

 少し馬鹿らしくなった。


「それではぁーーー次鋒戦をぉーーー始めまぁーーーすぅーーー!!!決闘内容は先鋒せんと同じぃーーただしぃーーこれはタッグ戦なのでぇーーメンバーの2人共がぁーー戦闘不能になるか、降参するかの決着ですぅーーー。では、はじめーーいぃ!!」


「それじゃ、ちゃっちゃと行くわよ」


「ちょっとは落ち着けよ……いや、そうだな……」


 ディリカとカーティスは、不敵に笑い合った。


「行くんだヨーーーい!!『井大海いたいかい』」


 先手を打ったのは蛙の姿をしたケイン。

 彼が球体の指をした手足から粘性の強い水魔法を放つ。

 水魔法と土魔法を合わせた作用だろうか……


 ほどなくして、闘技舞台の床のほぼ半面に粘液の膜が張られる。


「お前たちがハイ級までしか使えないことは分かっているんだーヨ。この粘液はハイ級の魔法程度じゃ消せないんだーヨ」


 勝ち誇るケイン。そして、ゆっくりと近づきながら、闘技舞台における粘液の膜の面積を徐々に増やしていく。


「やってみなければ分からないじゃない『ハイファイア』」


「ムリムリィ」


 ゴオッと火柱が上がり、その部分の粘液が消えるもケインの魔法の浸食のスピードが上回り、あっという間に膜が補修される。


「くっ、どうするのよっ!?」


 物事には想定外がある。

 ディリカとカーティスは相手の戦法をじっくりと研究した。

 だが、実際にいざ戦ってみると予想以上に相手であるケインの攻撃の手が速い。


「落ち着け。まずは避難するぞ『ハイウインド』」


「ちょ、ちょっと!」


 おもむろにカーティスがディリカの腰のあたりを片腕で抱きかかえるとジャンプしながら風魔法を地面に向かって放ち、空中へと飛び上がった。

 2週間前の彼であったなら、こんなことはできなかっただろう。

 カーティスは自身の魔力とそれに付随する魔法の威力が高まっていることを身を持って実感する。


「ば、ばかっ!そういうことは先に言いなさいよっ!」


「言ったら同意したのか?」


「そういう問題じゃないのよっ!」


「難問だな……」


 その光景を見ていた応援メンバーや観衆は唖然としていた。


 こいつら、一体、決闘中に何を痴話喧嘩しているのか?と……


「不真面目なやつらだヨ。でも狙いどおーりだヨーン。タニク!」


「OKだに。『合蝶がっちょう』ーー」


 ガチョウの恰好をしたタニクが舞台上に降り立った時の何かを両手で掴んでいるかのようなポーズのまま魔法を発動した。


 タニクの手から水蒸気の煙が上がり、それが蝶の形に変わりながら大群で新入生コンビの浮かぶ方向へと向かって行く。


 ただし、ひらひら、ひらひらと。その速度はだいぶ遅い。


「蝶じゃないか……」


「そんなこと言っている場合じゃないでしょっ!?」


「いや、ディリカの番なんだが……」


「……そ、そうだったわ『ハイファイア』」


 ディリカが今度は矢の形をした火を放つ。最初に放った火柱は魔物退治開始から12日目に覚えた技だが、この矢は7日目には使えるようになっていた。

 どちらも単発ではあるが。


 ディリカの放った矢が蒸気の蝶に当たると、他の蝶にも連鎖してボッと蒸発していく。


「こ、小癪だに。でも俺たちのコンビプレーは唯一無二!」


 ディリカの火魔法でいくらかは蝶を消すことができたが、まだまだその数は多い。たまらず、ディリカは『ハイウインド』を唱えて場所を移動する。


「無駄だに。もうすぐ落ちる!そうなったら今度は粘液のプールが待ってるだに」


 そう言って、タニクが再び魔法の蝶を解き放つ。

 悔しいが、彼の予測はおおむね当たっている。


 カーティスの風魔法とディリカの火魔法&風魔法で空中に退避し、浮力を保ってはいたが重力には逆らい続けられない。地面にはすでに粘液の膜が全面に張り巡らせれていた。


「そうだイーーーン。これが俺たちの必勝パターン!!互いを高め合う完璧なコンビプレーだーーヨ」


 そう言っていつものようにポーズを決める2年生コンビ。会場がドッと沸く。

 だが、彼らにも予測できないものがある。


「はっ、必勝パターン?笑わせるぜ……」


「な、何イーーーン!?どういう意味だーーヨ!?」


「これが『必勝パターン』だっていうなら、なぜ()()()仕留めない?」


「あーーーん?」


「あんたらは高め合っているんじゃない。傷をなめ合っているのさ」


「「はぁーーーん?」」


 カーティスには分かる。

 一点突破、自分の魔法を磨き、より尖らせる

 決闘に敗れる度にお前にはそれが永遠にできないと罵られた。

 

 『黒魔導師』だから。


 一度は悩んだ。

 自分の無力感に襲われ落ち込んだ。


 でも、そんなことは些細なことだということに気付いた……


 ……いや、気付かせてもらった!!


 あの日、あの時、あの場所で、不敵な紫の魔導師と勝気な赤魔導師と出会えたから……


……自分はきっと、下を向かずに上を目指せる。


「『グランファイア』」


 カーティスの右手から大きな火の渦が生まれ、炎の竜巻となって、蒸気の蝶の群れを飲み込んでいく。


「な、なにーーーイーーーン!?新入生の『黒魔導師』がグラン級!?」


「まだ小さいな……ところで、あんたたちのそのコンビプレーは必勝じゃないぞ。それしか自分たちの弱点を補う方法がないからだろう?」


「ゲッ!?」


 小さい。グラン級にしてはまだまだ小さい。

 やっとできるようになった火魔法でまだこの程度だ。

 威力も弱ければ、形状ももっと工夫できるはずだ。


 魔法を尖らせるとは言うけれど、別に戦術までわざわざ尖らせる必要性はない。

 目の前の2年生コンビはただ言い訳を探していただけだ。


 自分たちが停滞していることを認めないための……


 そんな小さい考えはさっさと捨てた方が良い。

 2週間前の自分のように……!


「ほらよっ、出番だ」


「分かっているわよ、って……キャー!!」


 一大火力の火魔法を片手で放った『黒魔導師』は、もう片方の手でやさしく抱えていた『赤魔導師』を空中で放り投げた。


 蛙男めがけて。


 なんてひどいことをする男なんだ!?と考える暇もなく、そこにいる人々が文字通り「あっ」という間に、ディリカは蛙男に接近し、『ハイアース』の魔法を発動させその右掌に平べったい円形の土の塊を作り出す。


「悪いわね。私、魔法の発動の速さだけは自信があるの」


 大きさが足りない。

 そんなことは分かっている。


 むしゃくしゃしてまるでパイ投げでもするかのように壁に向かって何度も何度も、繰り返し魔法を放つ練習をしてきた。


 火魔法だろうが、水魔法だろうが、風魔法だろうが何だってやった。

 弟や妹たちが剣を振るっていた回数以上にディリカは土魔法のパイを投げつけた。


 今は、自信を持って、前を向いてこれまでの自分を認めることができる……


 彼に出会えたから、私は独りじゃない……!


「『土身殴打どみのっく』お届けっ!」


 パンッ!!


「ギョエーーーイーーーン」


 堅めに固めた土の塊に、騎士家の出である勝気な『赤魔導師』の腕力から繰り出される驚異的なしなった腕の振りによる威力が追加される形で、ディリカの魔法は、至近距離から思いっきりケインの顔面にクリティカルヒットした。


 ノックアウト。


 蛙男は、後ろ向きに空中で回転し、自身の作り出した粘液の膜を背に仰向けにひっくり返った。


「な、なんてことだにっ」


 相棒がやられ、焦るガチョウ男の元に、地面を降り立った『黒魔導師』がゆっくりと近づいて来る。手を後ろに組みながらゆっくりと、ゆっくりと。


 タニクは必死で考えた。

 相手はグラン級を使いこなす魔導師。

 先ほど目にしたのは火魔法であったが、ひょっとしたら他のグラン級の魔法も使えるかもしれないという恐怖もあるし、第一、『グランファイア』だけでも当たれば大惨事だ。


 一か八か……それしかない。

 だが問題はタイミング。

 この勝負、先に手を出した方が負ける……

 

 頭ではちゃんと理解していた。

 だが、ケインを倒したディリカが自分の方へと向かって来たのが視界に入ったその時、いよいよ窮地に立ったタニクは無意識に魔法を発動し始めていた。


 出してしまったものは引っ込まない。


「『合蝶』ーーーー」


 最大限の出力。無数の蝶が生み出され、黒バンダナを巻いた魔導師の元へと羽ばたいていく。


「悪いな。ぎりぎりまで『待つ』のは得意なんだ……」


 カーティスはタニクの視界からは見えないように背中の後ろで発動させていた風魔法を、両手を前に出しながらゆっくりと成形し、太い箱のような形に変えて放出した。


「『風鉈かんな』」


 刃というにはやや太い、長方形の箱のような形をした風の塊が、蒸気の蝶目掛けて飛んで行き、その群れを一瞬で両断し、その大部分を刈り取ると、形を保ったままその先にいたタニクに向かっていく。


 ゴンッ……


「あがっ……ハラホロヒレハレ……」


 風の刃……まではいかない「箱の角」に頭をぶつけ、脳を揺らされた鵞鳥がちょう男は千鳥足になりながら、力なく崩れ落ちた。


「そこまでぃーー!!勝者、ディリカ&カーーーティスぅ……!?」


「ちょっ、あんた!!」


 カーティスの背後からディリカが慌てた様子で飛び出し、再び『土身殴打どみのっく』を繰り出す。土の円板はカーティスの眼前に迫っていた蒸気の蝶を押しつぶしながら逆方向へと追いやった。


「危ないわねっ、私が来なかったらあんたのその憎たらしい顔がどうなっていたか……」


「いや、来てくれると思っていたから……待ってた」


「ば、ばかっ」


 ……

 …………

 ………………


 観客も応援する派閥メンバーたちも、厳正なる立会人すらも、自分たちは一体何を見させられているのだろうかと心の中でツッコんだ……


 第1決闘【紫雲】VS【咬犬】

 <団体戦>


 次鋒戦 勝者【紫雲】コンビ『赤・黒魔導師』ディリカ&カーティス


【紫雲】1勝1敗 VS 【咬犬】1勝1敗

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


ラブコメは突然に……笑


次回は、中堅戦を前にしたブルート回!


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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