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2-17『ディリカとカーティス』

 ため息が漏れる【紫雲】陣営。

 初戦黒星は十分に予想できた結果ではあった。

 相手は3年生の猛者。

 誰が戦っていてもモモエ以上の内容の決闘はできなかっただろうとメンバー全員が自覚していた。


 それでも、あの決闘内容だ。


 ほんの僅か、あと一歩、紙一重のところでの敗北は、圧倒的な負けよりも余計に近くで声援を送っていた彼らの鳩尾にずしりと響くものがあった。


 モモエは、決闘の行われる舞台から担架で運ばれ、少し離れた所に建てられた仮設のテント……簡易治療院で、スタッフによる治療を受けている。


 ブルートが慌てて簡易治療院へと向かう。


 魔力の枯渇によるものなので、おそらく深刻な事態ではないがそれはそれ。

 重苦しいムードが陣営には漂い始めていた。


「モモエはよくやったわよ!今度は私たちの番よっ!!」


 甲高い声が重い空気を振り払うかのように周囲に響く。

 次鋒戦に挑むメンバーの1人、『赤魔導師』のディリカ=オプミスだ。


「そうだっ!」

「そうねっ!」


 彼女の鼓舞にメンバーは気を持ち直したかのようにまた盛り上がりを見せる。


「おいおい、落ち着けよ……あまり気持ちを高ぶらせると普段の力が出せないぞ……」


「「ええ……」」


 盛り上がりが少しおさまった。


 水を差すなよ、と思う気持ちのメンバーもいたが、声を発した人物もまた、これから決闘に挑むメンバーの1人だったから、注意することは躊躇ためらわれた。


『黒魔導師』のカーティス=ダウナーは、トレードマークの黒バンダナをきゅっと頭に巻いて静かに気合を入れる。


「ちょっと、カーティス!私のテンションを下げるようなこと言わないでよ。あんたの陰気臭さが移るじゃない!?」


「耳元でわめくな。集中が途切れる……」


 口喧嘩をしながら、瓦礫の撤去作業が済んだ闘技舞台へと上がる2人。


 その様子を見ながら声援を送る残りメンバーたちは思った。


 ……こいつらで大丈夫か?と……


 実際のところ、2人はいつもこんな調子であった。


 入学式の日にノーウェに連れられて初めての狩りをして以来、2人はいつもこうやって軽口を言い合いながらもペアを組んで魔物を退治したり、仲間のメンバーに狩りのコツを教えたりしていた。


 一方は勝気で即断即決タイプ、一方は石橋を叩いて渡るように熟慮断行なタイプと性格は正反対であるが、反面、2人の置かれた境遇がよく似ていたということもあるのかもしれない。


 カーティスは大工の仕事を行う職人肌の父を持ち、帝都近郊の村で工務店を営む、ごく平均的な家庭に生まれた。一人息子だったために、大工の棟梁で職人をまとめていた父は子にその跡を継いでほしかったのかもしれない。

 だが、当の息子は自身の『称号』に夢を抱き、父親と殴り合いの大げんかの末、村を飛び出してしまった。


 ディリカの場合も似たような境遇であり、彼女は生家である騎士爵家の両親と仲違いをし、家出を決意してこの学園の門を叩いている。彼女の家系はこれまで魔導師を輩出したことがなく、騎士爵といっても先祖が僻地へきちの任務によってようやく得た新興の家であったため、彼女の両親は子どもたちには堅実な仕事を望み、ディリカに対しても、魔導師を目指すよりもたしかな縁談先を求めた。元より、勝気でお転婆な性格の彼女を抑えておける家ではなかった。


 魔法使いの称号を得れば将来は安泰……世間的にはそう言われているが、こと華やかな職場に限った話で言うと、これには「ただし」という注釈が付く。名門貴族の家系、あるいはそれなりに裕福な商家や有名な一族に限る話なのである。


 機会は平等ではあるが、その機会を得るまでの教育には大きな開きがあるのだ。


 貴族家や裕福な家庭では、子どもに魔法使いの称号が判明した時点で、専用の家庭教師を付けたり、親自ら教育を施して魔法学園の入学に備えさせる。


 この下準備を施されている者と、していない、もしくは独学で行っている者との差は大きい。同じ機会を得られたとしても、そのスタートラインは遠く離れた位置にある。


 ディリカにしても、カーティスにしても、独学で魔法の修練はしてきたし、その努力は人一倍多かったはずではあるが、待っていたのは、高価な魔法の専門書と高名な魔導師による理念と実践の英才教育を施されたエリートとの差をまざまざと見せつけられて劣等感に苛まれる日々であった。


……あの派閥戦とあの魔法を目にするまでは。


「アイイーーム!生きのいい新入生でしね~ん」


 ふいに、ディリカとカーティスの立つ闘技舞台の対面に黒い影が伸びてきて、その影の持ち主は、ぴょーんとジャンプして舞台に降り立ったあと、あごを突き出して肘を前にだしながら独特のポーズを取った。


 学生服ではなく何やらテカテカした見た目の、伸びる素材でできた薄緑のボディスーツを着た男子学生が舞台に降り立ってからというもの、観客席は笑いと歓声で大いに盛り上がりを見せている。

 その男子学生は、5指の先が丸みを帯びているおかしな緑色の手袋と靴を装着しており、見た目が蛙のような、実に異様な姿をしている。


「ガッチョーー!先に出るなっていっただろうがに!ムヒョー」


 蛙男の次に現れたのは、今度は白のボディスーツに身を包み、白い鳥のような被りものをした男子学生。先の蛙スーツの学生ほどスムーズな身のこなしができない小太り体型ながら必死に飛び上がると、手に装着させている羽をバタバタさせて舞台に降り立った。


 こちらの男子学生は、甲の部分に羽の付いた両手の掌を開きながら、ものを掴むような形にして前後させるポーズを取っている。


 そのコミカルな装いとドタバタ振りを見て、周囲は歓声と笑い声で溢れている。


『アイーガッチャーーーー!?』


「オ、イエーー!!」

「ピローーン!!」


 観客の息の合った声援にポーズを決める2人。これでも2年生。

 自分たちが闘技場ではなく別の舞台会場にいるのではないかと錯覚してしまうほどの異様な光景に、これまで多くの対戦相手が調子を狂わされてきた。


「あれ、Cランクくらいあると思う?」


「いや、よくてDランクだろ」


「それだと『フォレストボア』と『キロエルク』の中間くらいってことになるけど?」


「それがいいところ、じゃないか?」


 だが、ディリカとカーティスは、そんな滑稽な光景を目にしても至って冷静であった。

 いや、その目はすっかり冷めきっていると言っていい。


 この対戦相手の2人のことは徹底的に予習をしてきたから。


 今回の【咬犬】戦の事前交渉において、対戦相手が誰であるかは直前まで公表されないという約束が取り交わされた。したがって、出場メンバーは誰が相手になるかわからないがゆえに、相手派閥のメンバーの全員の戦術を満遍なく把握する必要があったのだが、この次鋒戦に関しては、十中八九、この2年生コンビが出てくるだろうとディリカとカーティスは踏んでいた。


 4対4の「中堅戦」の方にこのコンビが出てくる可能性もなくはなかったが、出れば絶対にシュールな光景になるし、一緒に組む残りの2人が絶対に嫌がるから、次鋒戦以外では出てこないだろうというのも共通見解でもあった。


 リバーの助言もあった。


 この決闘戦はアリーナで行われる一大興行である。


 ただ単に強いという観点からだけではなく、集客面や当日の会場の盛り上がりも、興行の成功を考える上で重要なファクターだ。

 そう考えると彼らが5戦のいずれかに出場してくることは間違いないだろうという見立てになる。


「それではぁーーお立合いぃーーー。まずは【咬犬】コーーナーー。『蛙井引あいいん』のケインーーアンドゥーーー『合蝶雲がっちょうん』のタニクぅーーー。続いて【紫雲】コーーーナーーー。『赤黒魔導師』コンビーーーのーーディリカーーアンドゥーーーカーーティスぅーー」


「一緒くたにまとめないでほしいわよねっ!」


「それはこっちの台詞だな……」


「なによっ!?」


「なんだよ!?」


 緊張感なく言い合いを始める『赤魔導師』と『黒魔導師』の2人。


 ところで、このディリカとカーティスの新入生コンビが2年生コンビを前にしても未だ落ち着き払っているのにはもう1つ理由があった。


 それもこれも、まだこの場に現れていないノーウェのおかげ(せい)である。

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


原石たちがいよいよ少しずつ輝きを放ちます。

次回は、ディリカとカーティスによる次鋒戦です!


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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