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2-12『残りの2つ』

「ぴゅひー!やっぱ、これ、これ!!」


 マインドボックスから出て来た箱入り娘レミがリバーの用意したレモン水を飲んで一言。


 たしかに、訓練したあとのレモン水は格別だ。砂糖で味付けがされており、酸味と甘味が心地よく喉を伝って身体中が爽快感に満たされる。


 ……でもね!?ちょっとくつろぎすぎじゃないかなぁ……


 百歩譲って、年頃の女の子が他人の部屋で薄手のシャツと短いズボンで肌を露わにしながらレモン水を飲むところまではまだいいとして、飲んだあとにお腹をポンポン叩くのは止めた方がいいと思うんだ……君の部屋じゃないんだし。


 うん。見なかったことにしよう。

 リバーも華麗にスルーしているし。


「うむ。この取り合わせはなかなかいける」


 別の方向に顔を向けると、レモン水を飲みながら野菜煎餅をバリバリかじって、何やらうんちくをたれている男がいる。


 野菜煎餅の中でもトマトの煎餅だけは、うんちく男ブルートの野菜嫌いフィルターを通過したようで、部屋にある煎餅缶から1種類だけが異様にその数を減らしている。いかん、トマト煎餅の残りはあと2つだ。


 人の部屋の椅子を自分のもののように占有しておきながら悪びれた様子もないことはなかなか腹立たしいが、その椅子を揺らしながら貴族らしく優雅に振舞っている感を必死に出そうとしているところは見ていてかなり痛々しい。


 あと、レモン水の酸味とトマト煎餅の酸味は結構ぶつかると思うけどな、俺は。


 とりあえず、煎餅缶に入っているトマト煎餅の残る2つをそっと救出して、自分の懐にしまいつつ、俺は再びソファに腰かけた。


 このソファにもなかなか愛着が湧いてきた。

 ソファの表面を撫でると他の生地の色と違った箇所が2つ。

 派閥結成初日に顧問に就任したフィッティ先生が盛大にやらかした時にできたシミ。


 悲しくなるから、見ないようにしよう。

 何とか、完全に綺麗にする魔法を習得したい。

 このソファを丸ごと洗える泡のブレスのような魔法をどこかで習得できないだろうか。


 本来なら、このソファで横になって眠りたいんだ、俺は。


「こちらになります」


 うーん。リバーが入れてくれたトウモロコシ茶が美味しい。


 村の名物であるこの品がなぜ手に入ったかというと、10日ほど前に【魔花】のジェシーと決闘をしたあと、派閥の長であるジャネット先輩からトウモロコシを譲り受けることができたからだ。


 先輩はジェシーとの決闘以来、夏野菜の早期生育に力を入れている。

 自分の旬の野菜がレストランのメニューに載ることがよほど感激だったらしく、他にもメニューに載せれないか模索しているようだ。

 先輩にはお礼としてこのトウモロコシ茶の作り方を教えておいた。


 先輩、目を丸くしていたよ。

 作物をお茶にできるなんて、ってね。


 お茶も作物だけどね……貴族ってちょっと分からない。


 ともあれ、このトウモロコシ茶は美味しい。


 本当ならもう2週間ほど乾燥を続けたかったけれど、これはこれで美味しい。


「説明をしながら読み上げましょうか?」


 そうそう。


 リバーがソファの前のテーブルに差し出したのはお茶ではない。

 2つの封筒に入った書類。


 両方とも、封筒の表面に字が書かれている。


 片方は『覇汰死状』

 もう片方は『果たし状』


 うむ。ずい分と大げさな文字で書かれているが、要するに、両方とも俺たち【紫雲】との決闘を申し出る書状というやつだ。

 

 入学式の日に、リバーやブルートの元に口頭での決闘の申し込みがあったのだが、「書面で申し込め」とこちらは一度突っぱねた。その結果がこれ。


「そうだな。頼むよ」


「畏まりました。では、こちらから」


 リバーは『覇汰死状』と書かれた封書を手に取った。

 奇抜な方からいったな。いや、両方とも奇抜か……

 何となく、すでに書き手がどういう奴らか想像がつくんだけど……


「こちらの派閥は【咬犬かむいぬ】。2年生主体の派閥で派閥ランクは46位。名前の通り、あらゆる派閥に咬みついて『戦闘方式』の決闘を仕掛けてくる武闘派集団です。今回も5番勝負の団体戦をすべて『戦闘方式』で希望しています」


「武闘派集団……」


 予想通りだったな。この筆圧と太さの、荒々しく気合の入った字体を前面に押し出したスタイルの書面で、実は可憐なお嬢様魔法使い軍団でした……なんてことはあるわけないと思ってはいたよ。


 とにかく咬みつきたがる奴ら……


 ……村にもいたよ。


 村長の息子が村の若い男共を集めて「志昏弐隊しぐれにたい」とかいう夜回り隊を結成して道を偉そうに歩いていたなあ。いずれは森を超えて街に進出するなんて言ってた。


 俺?誘われたけど、もちろん断ったよ。

 魔物獲りに忙しくてそれどころじゃなかったし、あいつら夜回り隊のくせに数人掛かりじゃなきゃ夜光兔1匹すら倒せないし。


 ところで、レミはそろそろ上着のひとつでも羽織ってもらえるかな?

 俺はリバーに目配せをした。


「はい。メンバーの構成人数は23人。49人まで構成員を拡大することを目標としているそうです……この情報は蛇足ですが。リーダーは『暴風賊ぼうふうぞく』の称号を持つブライ=シルバーという2年生の男子学生です。もっとも、決闘に彼が出てくるかは分かりません。また、勝者の権利は派閥ポイント3千点を要求しています」


 相場より少し高いポイントを要求。それ以外の要求はないし、純粋な戦闘方式での決闘を望んでいるあたり、本当にただ魔法戦闘がしたいだけの集団なのだろうか。


「46位か……」


 先ほど派閥戦をすることに決めた対戦相手の【魔転牢】の派閥ランクが43位。


 リバー曰く、彼らは「能ある鷹は爪を隠す」タイプらしいので、この43位というランクは実際の実力からはかなり低く見積もられているらしい。


 それからすると、46位の戦闘集団というのがどれぐらいの強さなのかいまいち見当がつかない。ちなみに俺たち【紫雲】の派閥ランクは現在66位だ。

 派閥の総数は90くらいだから、結成早々にかなりのジャンプアップを果たしてしまったようだ。


「実際に何度か彼らの決闘は確認しましたが、そこまで強いというわけではありませんでした。強いて言えば、弱い相手にはめっぽう強い、といったところでしょうか」


「何それ?」


「ふん、魔法使いの風上にも置けない奴らだな」


 俺はブルートの顔を凝視した。


「な、なんだよ!?」


「貴方がそれを言いますか……」


 うん。リバーも同感だったようだ。

 お前がそれを言うなよ案件だよな、これは。


 ブルートはばつが悪くなったのか、ロッキングチェアから身を起こし、大テーブルの方へと歩いていった。

 その後、「あれ?もうないっ!!」と大テーブルの前で叫んでいる。


 残念だったな。ネギ煎餅でも食べたまえ。


「彼らは、色々な派閥に咬みつく武闘派集団ですが、高位のランクにいる大派閥にとっては調度いい浮き餌のようなものなのですよ」


「浮き餌?ということは誰か操っている奴らがいるのか?」


 【魔転牢】を傘下にしている【波逢亭】だっけか……?

 ちなみに、その大派閥【波逢亭】のランクは15位だが、それでも結構低く見積もられているらしい。

 彼らは、傘下に派閥ポイントを上納させてもいるが、同時に他の派閥にポイントを大量に貸し付けているんだと。

 実際に、貸し付けているポイントをすべて回収したら、さらに上位に入るらしい。

 ……どうでもいいけど。


「それは何とも言えません。彼らはとにかくたくさん決闘ができてポイントが手に入ればいいという集団ですので、単独での行動ということも考えられます」


「ある意味『傭兵』である意味『喧嘩屋』みたいな派閥だよね~」


 リバーによってようやく上着を着せられたレミが相槌を打った。

 上着というよりも、ポンチョだな。被せられて頭だけ出している。

 黄色い髪に黄色いポンチョ……レモンみたいだ……


 リバーとレミの情報を統合すると、【咬犬】は2年生を主体とする「戦闘方式」で決闘を行う武闘派集団。彼らは決闘と派閥ポイントが大好きで、率先して下位の派閥に決闘を仕掛けたり、上位の派閥の依頼を受け中・上位の派閥との決闘も挑んだりしている。


 俺たちに目を付けたのは、俺たちが新興の1年生派閥だからか、それともどこかの派閥の依頼を受けてなのかは分からないが、どちらにせよ、彼ら決闘を行うことで、上位の派閥にとっての「指標」になってしまうことは避けられないようだ。


 俺たちにとっては試金石だが、上位派閥にとっては指標。

 戦うべきか、戦わざるべきか……


「ブルート、任せた」


「え、俺?」


 有無を言わさず、全力で丸投げする。


 ブルートは呆気に取られ、レミは目を丸くしている。


 リバーだけは、俺の意図が分かったのか静かに頷いた。


「お、おいっ!!任せるって一体どうすればいいんだよ」


「決闘を受けることは確定ということでよろしいですかね?」


「うん。人選はブルートに任せるけど、リバーの方の人選となるべく被らないように気を付けて相談して決めてくれ」


「ど、どういうことだよ!?」


「ひょっとして、同じ日に2つの決闘を行うおつもりですか?」


「うん。せっかくだから、メンバー全員が参加できるようにしてくれ。できれば3つ全部同じ日にやっておきたい」


「何と!」


 結成後、初めて?の派閥間決闘戦だ。

 俺たちの第一歩になるわけだから、メンバー全員参加と行きたい。


「お、おいっ!!」


「たはは~」


「あ、あとレミと他数名は【咬犬】との戦いからは外しておいてね。俺たち当日までどっかのダンジョンに潜っていると思うから」


「「「え?」」」


 3人の声がきれいに揃った。


 だいたいの話は決まってきたな。


 あとは、残る1つのこの封書だが……


「それで、こっちは?」


「は、はい……こちらはとある貴族からの『果たし状』でございます」


 貴族か~……

 こっちの封書も開けるのにちょっと抵抗があるんだよなあ。


 字はきれいなんだよ。

 達筆で品のある字体で『果たし状』と書かれている。


 でもなあ……

 書かれた文字の色が赤いんだよねえ……

 血じゃないよね?まさか。


「こちらの果たし状は【愛愛風華あいらぶかざはな】と呼ばれる派閥からの決闘申し込み書類です。派閥の長の名はホルス=ムートック。『吸透火すうとうか』という称号持ちの侯爵家の令息です。決闘方式は『代表戦』を、勝者の権利はこの部屋……つまり、ジャネット嬢の元居室を希望しています……」


「……断っちゃダメかな?……」


「「「ダメだろう(でしょう)ね……」」」


 再び3人の声が揃った。


 パリッパリパリィーーン……


 胸を押さえる俺の中で、何かがひび割れる音がした……

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


サラダ味って美味しいですよね。

ソ〇トせんべいとか、プ〇ッツとか……

ファ〇リーマートにあったポテトのサラダエレガンス味は美味しかったなあ……


次回、ノーウェたちの選択は……?


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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― 新着の感想 ―
小分けされているからソフトサラダ好き。でも結局ついつい2箱食べちゃうw せんべい食べながら優雅に貴族の振る舞い……?せんべいのせいで絵面が凄いw
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