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2-5『レミの秘密』

「ちょ、ちょっとー!ゲバチョさん、大丈夫ですかぁーー!?」


 他のメンバーの精算処理を終えたミルカさんが息を切らしながらこちらにやって来た。


 いやー、助かる。

 まさか、魔石を見ただけで卒倒するとは思わなかったから。

 鑑定人なんだよね?このおっさん。大丈夫なのかな?


「一体、どうしたっていうのですかっ!?え?この魔石?え?え?」


 俺が出した色とりどりの魔石を眺めて目を泳がせるミルカさん……あ、やばい……


「ピ、ピギーーー」


 ミルカさんも卒倒した。


 ◇数分後◇


「いやー、すまなかったね。君たち、本当に申し訳ない」


 俺たちはなぜか高級そうな部屋のソファの上に座っている。

 目の前には背がめっちゃ高い男性。

 俺たちにはちょうどいいサイズのソファだが、目の前の男性はその長い足を窮屈そうに開いているし、座高も俺たちよりもはるかに高い。


 ソファやテーブルの豪華さからいって、応接室なんだろうけど、周りの壁に並んでいる鎧の数々が妙に圧迫感をこちらに与えてくる。

 この人の所持品なのかな?

 そう思うのは、並べられた鎧や剣ががすべて特注サイズに大きい、いや、長いからだ。


「紹介が遅れた。私はこの帝都のギルド本部マスターをしているラッフマーという者だ。皆、姿勢を楽にしてくれたまえ」


 目の前の背の高い男性はラッフマーさんというらしい。背も高いし、足も長いし、手も長くておっきい。秘書と思われる女性が入れてくれたお茶を飲んでいるが、手が大きすぎてカップが見えない。


 姿勢を楽にして、と言われても、一番窮屈そうにしているのはあなたなんですが……これは何だろう?突っ込まれるのを待っているのだろうか?

 それに、いきなり帝国内で一番のギルドの一番高い場所に連れてこられて緊張しないという方がおかしいと思うよ。モモエもディリカもカーティスも緊張でガッチガチだ。


「あっ、この紅茶美味しいですね?魔帝国産なんですか……へー。この渋みが深くて良い味出していますねー」


「……ま、まあ。本題に入ろうか。ノーウェ君、君が持ってきてくれた魔石だけど、本当に全部ギルドで引き取らせてもらっていいのかな?」


「え?もちろん構いませんよ。対価をいただけるのであれば……」


 このマスターは、何の心配をしているのだろうか?

 別に魔物の魔石なんて、村への帰り道で腐るほど採れるし、俺にとっては換金して学費に充てることの方がはるかに重要なのだが。


「う、うむ、分かった。では交渉成立ということで、今後ともよろしく頼むよ」


「は、はあ……」


「いや、有意義な取引をさせてもらったよ。ところで、君たちは学園の入学式に出なくて良かったのかね?」


「ええ。学園では決闘を何より重んじる文化なので、決闘の準備のためにこうやって実力をつける方が大事なのです」


 本当は苦肉の策だ。


 今の俺たちは、言うなればおんぼろの船が金銀財宝を積んで大海に出た状態。

 大きな海賊船にでも見つかれば一瞬で沈められてしまう。


 入学式に出れば十中八九、派閥間決闘を申し込まれることになるだろうというリバーの予想を信じて、こうやってメンバーに実地訓練をさせることを優先したのだ。

 派閥を結成した祝勝会から約1週間。とにかくメンバーには魔法の発動を早める訓練を施した。そして、この実施訓練が第2段階。これを越えれば何とか形にはなるはず。


「……そうか。学園の事情もだいぶ変わったのだな。それはいいが、君たちの保護者は心配しないのかね?」


「今日依頼を受けたメンバーは入学式に保護者が来ないメンバーを選んでいますから」


「ほう。レミ、君もかね?」


「……っ!!」


 レミの身体がビクッと震えた。


 え?2人は知り合いなの?

 ええ?レミのお父さん、お母さんはまさか入学式に来てないよね?


「た、たはは~。それは……」


「レミの両親と私は元々同じ冒険者チームの仲間でね。この子のことは幼い頃からよく知っているのだよ。小さい頃から非常に探究心の強い子でね。冒険者向きではあるのだが、まさか両親が来ている入学式をサボるとはな……」


 ラッフマーさんがため息を吐いている。

 俺も吐きたい。

 そして、皆の視線が口をすぼんでいるレミへと集まる。


「だってぇ~。パパもママも何かあればすぐに私を箱に入れようとするんだもん」


 箱に入れる?とは……?

 箱入り娘という比喩かな?


「それはレミ、お前があまりにも無鉄砲過ぎるからだぞ。2人も冒険者になることは否定していないのだから、お前の夢は応援しているんだ。だが、実力を付ける前にあまりに前のめりになり過ぎても危険なのだよ。冒険者は探究心が必要だが、同時に慎重さも大事なのだぞ!?危険な職業なのだから……」


「うっ……」


 うーん、まさしく正論。

 ラッフマーさんは大柄で口調こそ厳しいけど、どこか優しさもある親戚のおじさんって感じだ。


「お前はほっといたら『古のマーロック遺跡』に向かいかねないからな……」


「ああ、あそこですか……」


「ん?」


「ああ、なんでもないです。ところで、レミが入学式をサボったことについては両親との関係の問題、俺たちに嘘を吐いたのは派閥の問題として、あとでそれぞれが叱る、ということにして……要はレミが実力を付ければ問題はないわけですよね?」


「ん?まあ、そういうことではあるのだが、仮に魔物狩りをするにしても熟練の冒険者の引率でもなければ、この子の両親は認めないと思うぞ。あの2人の性格からして、学生の間はきっと認めないんじゃないかな」


「そんなぁ~……」


 涙目のレミ。


 ああ、そこが落とし所ね。


「なら、大丈夫です」


「ん?」


「レミがギルドの依頼を受けて魔物狩りをする時は必ず俺が一緒についていくということにすれば、その条件は満たせるはずですから……」


「ノーウェ君!?」


 俺はにんまりと笑った。


「う、ううむ……君もなかなか豪気な男だなあ。しかし、君はCランクだろう?そのランクであの2人が認めるかどうかは……」


「俺、ホーガンリザードを1人で倒せますよ?」


 俺はポケットから一粒の魔石を取り出してテーブルにコトリと置いた。

 まるで真っ赤に燃えるように光る、こぶし大よりもやや小さめの綺麗な魔石。

 山岳地帯や沼地、火山などで生息する強い魔物だ。


 ちなみに、倒せるというのは半分ハッタリである。

 倒せないことはないことはないが、積極的に倒しに行きたい相手ではない。


「む……ほ、本物のようだな。では、うむむ……」


「信用してもらえないなら、これと、さっきの魔石を売る話はなかったことに……」


「いやっ、わかった!わかったから!!レミの両親は私から説得するから!!!」


 ラッフマーさんは、テーブルにがばっと自分の両手を置いた。やっぱり手もでかい。


「この帝都の本部ギルドで出している依頼に関しては認めよう。だが、くれぐれも無理はしないでくれ!君たちの本分は学生なのだから!」


「はい、もちろんです!!」


 無理はしません。


「それと、レミはちゃんとお父さん、お母さんに謝るんだぞ!?わざわざ遠出してここまでやって来たのに、娘の晴れ舞台の日に本人がいないことほど悲しいことはないぞ!?」


「はぁい……」


「話は以上だ。それでは、ノーウェ君!今後ともよろしく頼むよ」


 そう言って、ラッフマーさんは俺に握手を求めてきた。

 恐る恐る手を差し出すと、案の上、その大きな手でこちらの手の骨が折れそうなほどの強さで握ってきた。


「くれぐれも、よろしくね!!」


「はぁい!!」


 ◇


 ギルドから出たあと、俺たちは二手に分かれた。

 日が暮れかけていたので、レミは急いで学園に戻るとのこと。


「早く謝らないと箱に入れられちゃう!!」だそうだ。


 ……謎だ。


 ディリカとカーティスも一緒に戻るとのことで、3人と別れ、俺はモモエと2人で帝都の街中を歩いていた。


「きょ、教会……ですか?」


「うん」


「で、でも……きっと調べても変わらないと思うのですけれど……」


「それはやってみないと分からないじゃないか」


「け、けど……私、持ち合わせがないので……」


 モモエが焦る理由は分かる。

 教会の称号鑑定はそこそこ高い。これ常識。


 しかも、帝都となるとかなり高名な聖職者の鑑定士が観るだろうから、その料金もさらに跳ね上がることは想像に難くない。


「お金の心配は要らない。魔石がたくさん売れたからな。何なら教会に売ってもいいし」


「け、けど、それは私のではなく、ノーウェ君のお金じゃないですか!?」


「じゃあ、こうしよう。この料金は俺が立て替えるから、モモエはしばらく、ギルドの魔物退治の依頼に必ず同行すること。それと、決闘で怪我をしたメンバーを回復する役割を今後担ってもらう。それと、鑑定結果がもしただの『赤魔導師』だった場合は、代金を払わなくていいよ」


「で、でも、それだとノーウェ君に甘えすぎているような……」


「いや、これは俺にとっては投資だよ」


「投資?」


「うん。派閥を強くするためには、みんなに強くなってもらわなければならない。けど、それには先頭に立って実力を付けてもらう人材が欲しい。それがモモエ、君だ」


「わ、私が成れるかな……!?」


「ああ。実際、今日の魔物退治でもその片鱗は見えた。モモエは、おそらく孤児院で回復の仕事をやらされていたときから、魔法を効率よく使う方法を知らずに考えていたんだと思うよ」


「そ、そうかなあ……でも、ノーウェ君がそういうなら、お願いしてもいいのかな……」


「任せろ」


「じゃあ、お願いします……」


「ああ」


 辺りはかなり薄暗くなってきた。もうすぐ日が完全に沈む。


「でも、えへへ……」


「ん?どうした?」


「祝勝会の時は『勝手に自分で強くなれ』って言っていたのに、やっぱりノーウェ君は私たち、派閥のメンバーひとりひとりのことを考えてくれているんだなあって……」


 うっ、痛い所を突かれたな。


「まあ、それはそれだ……あっ、もうすぐ着くぞ」


 冒険者ギルド本部から10分ほど歩いた先に帝都の大聖堂がある。

 大雑把な位置関係で言うと、王城から、大聖堂、冒険者ギルド本部、学園の順。

 つまり、帰りは倍の時間がかかる。


 正直な話、ただの村人である俺にとっては、大聖堂もあまり行きたくない場所だな。

 もちろん、訪れるのは初めてだ。帝都に来た初日にホテルのバルコニーから場所は確認していたけどね。


「ここが!!?」


「ああ、ここのはずだ……!!」


 初めて見た感想。城みたい……

 とにかくデカい!

 そびえるという表現がしっくりくる建物だ。


 扉だけでも、故郷の村の村長の家より大きそうだし、一体、何人がかりで開けるんだこれ?って感じ……扉の上に変な石像がお出迎えしているし。


 俺とモモエは緊張の面持ちでドアの取っ手に手を掛ける。

 すると、どうしたことか、扉が勝手に開き出した。


「ひょっとして、この扉、魔道具なのでしょうか?」


「そうみたいだね」


 呆気にとられる。


 さらに驚いたのは縦長の絨毯が敷かれている中央の通路の距離。

 100m以上あるのではなかろうか。


 俺とモモエは厳かな雰囲気の教会内を歩き始め、奥の聖職者と思しき人物が立つ場所まで進んだ。


「悩める子羊よ……って、あれ?ひょっとしてノーウェ坊?」


「え?ひょっとしてアルテさん?」


 俺は、数年ぶりの思わぬ再会を果たした。



ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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