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2-4『考えながら戦う』

 ピギー、ピギー、ピギー、フガッ!フガッ!


 1匹目を倒して30分後、場所を変えてようやく見つけました。アイスピッグ!


 今回は数匹周囲をたむろしているので、1人ずつ試すことができそう。


「それでは、いよいよ皆も実戦に入ります!!」


「「「「!!!!」」」」


「……ですが、その前に最終テストを行います。じゃあ、今度はディリカ!」


「え?私」


「うん。まず一緒にアイスピッグに近づきます」


 俺はディリカを手招きし、数歩足をアイスピッグの方に進める。

 つららを鼻の上に付けたアイスピッグはこちらに向かってすぐに突進してきた。


「さあ、来ました。こいつとこの場所で戦うにはどの魔法がいいですか?」


「え?え?火魔法?」


「ブッブー。外れ!」


 アイスピッグは数10分前に倒した1匹目と同じように『シェル』にぶつかって仰向けにひっくり返った。


「森では極力、火魔法は使わない。もちろん、緊急時はそんなこと言っていられないし、相手の魔物の強さにもよりけりだけど、普段の心がけとしては、ね。たぶん、チームを組んだとして、アイスピッグに火魔法なんて使ったら、味方の冒険者から非難轟々だよ」


「そ、そうか……」


 まあ、実際は水魔法で火を消せば問題ないのだが、マナーとしての話だな。


「では、火魔法でないとしたらどのような手段があるかな?」


「うーん、土魔法で足止めしたり、石を飛ばしたりする……かな?」


「なるほど。では、早速、それを実践してみよう」


「え?……は、はい!」


 アイスピッグの態勢を戻してやると、魔物は再びこちらに向かって襲い掛かってきた。


「あ、『アース』」


 ディリカが土魔法を唱え地面を隆起させる……も、タイミングが合わず、アイスピッグが通過したあとであった。

 土魔法の『アース』には、いくつかの発動方法がある。地面を魔法操作しながら発動することはかなりの難易度なのに、発動が速い。

 彼女がずっと訓練をしていたというのはどうやら嘘ではないようだ。


「キャッ!」


「『ウインドーフロート』」


 俺はディリカを魔法によって空中に浮かせる。

 間一髪、豚の魔物はディリカの足の下を通過していった。


 解除。


「キャッ」


 ディリカは尻餅を着く。


「はいっ、はいっ、魔物は待ってはくれないよ!?」


「わ、分かっているわ!『ハイアース』」


 なかなかの何くそ根性。

 ヤケクソ感満載で結構広範囲な地形を変えてしまっているが、兎にも角にも、凸凹した地面に足を取られ、アイスピッグはバランスを崩している。

 中級の魔法でも発動が速い。彼女がずっと訓練を積んできたことは嘘ではないようだ。


「他の皆も、自分の番になった時を想像して、自分ならどうするかを考えていてね」


「「はい!」」

「おう!」


「はい、ディリカは次、次」


 俺はディリカを急かす。急かすのにも当然理由がある。


「分かっています!!『ハイストーン』」


 デカい石を成形して頭にズドン!

 なかなか豪快な倒し方だが……まあ初めてだし、しょうがないか。


 アイスピッグはつららをへし折られ、顔面が潰れている。

 まず間違いなく絶命しているな。狩りとしては、ちょっと勿体ない倒し方だ。


「よし。合格!今回はお試しなので、ディリカにはもう1回戦ってもらうよ」


「はあっ、はあっ、やったわ!……え?わかったわ!それよりも私……」


「はいはい、感動や感傷はあちらでどーぞ!次、レミッ!戦い方は任せる」


「うんっ!やるよっ!?私はやるっ!」


 レミは鼻息荒く、豚の魔物に対峙する。

 気負っている感じではあるが、冒険者を目指しているのだから、それなりに魔物との戦闘は想定しているだろう。両親と一緒に色々回ったりはしたものの、単独での実戦がないってことを聞いてむしろびっくりしたぐらいだ。


「私の戦い方はちょっと特殊だから、みんなも一応気を付けてね!?特に光には」


「「「え?」」」


 あ、そういうこと。

 俺は察したので目をローブの袖で覆う。


「行くよ!『風光ふうこう』!」


 ピカッ!

 ピギー!


 一瞬の眩い光。


 アイスピッグは光によって視力を奪われているようだ。

 混乱してフガフガ言いながら周囲の木々にぶつかっている。


「きゃあっ!」

「目が-!目がぁー!」


 こちら側にも2名ほど。感傷に浸っていたディリカと、カーティス。

 ディリカはしょうがないにしても、カーティス、お前の頭に身に着けているバンダナはいったい何のためにあるんだ?2人は、注意力不足なので無視する。


「魔法を使って魔物を倒せれば良いんだよね?」


「ああ。決闘じゃないからな」


「りょーかい!」


 そう言うと、レミは制服の裏側から小さい刃物を取り出した。

 ナイフよりもさらに小さく柄がついていない珍しい形だ。持ち手部分も金属製。


「え?そんなものを普段から携帯しているの?」


「冒険者たるもの常に準備するものなのだっ!『風柳ふうりゅう』」


 レミは刃物を投げたあと、風魔法を行使する。

 物質を空中で移動させるのに特化した風魔法のようだな。

 風の助力を得た金属製の鋭利な刃物は、勢いよくアイスピッグの角の上あたりに位置する眉間に突き刺さった。


「おお!お見事!」


 パチパチ……

 俺は拍手を贈る。


「やったぁ!私は魔物を狩ったどーー!!」


 飛び跳ねるレミ。まあ、いいか。喜ぶぐらいは。


「マジかよ」

「あ、ありあの?あれは?」


 細目を少しずつ開きながら驚きの表情を浮かべるディリカとカーティス。

 2人としては、レミが魔法で倒したわけではないから、どこか釈然としないのだろう。


「もちろん、ありだぞ。さっきレミにも言ったがこれは『決闘』じゃなくて、『魔物狩り』だ。使えるものはなんでも使う。とにかく、魔物を倒せば良い。実際の冒険者になる魔法使いもいつも大掛かりな魔法で倒しているわけじゃない。こうやってレミみたいに道具を使えば、魔力の消費を抑えながら戦えるからな。それに、ピンチの時は手段なんて選んじゃいられないからね。何なら森にあるものなんでも使えるぞ!?」


「あ、そうか!?」

「な、なるほどな」


「で、でも、それだとここで決闘に強くなれるというのは……」


 モモエの疑問はもっともである。


「それもそのうちわかるよ。じゃあ、次はカーティス」


「お、おう」


 俺は遠くのアイスピッグに向かって石を放つ。風魔法で。

 こちらに気付いた魔物はドコドコと地面を踏みしめながら近づいてきた。


「さあ、カーティスにはさっきディリカが倒した魔法以外で仕留めてもらおうかな?」


「え?ええっ?」


 その顔は、さては土魔法しか考えていなかった顔だな!?

 射程が近づき、豚の魔物は突進を始める。


「考えている時間はもうないぞ!?」


「う、う、『ハイウインド』」


 ブアーっと大きな突風がカーティスの腕から魔物に向かって吹く。

 突進と突風。


 カーティスはさすが『黒魔導師』なだけあり、魔力は強く、その突風によって豚の身は木片のように吹き飛ばされ、後ろの大木にドスンッと音を立ててぶち当たった。

 偶然なのか、それとも狙っていたのか、うまくこの森にあるものを使ったな。


「や、やったか……!?」


 アイスピッグはピクピク首をわずかに動かしている。


「まあ、瀕死だけど多めに見よう」


 俺は『ウインド』を鋭利な風の刃に変えて放つ。

 ザシュッという音とともに血飛沫ちしぶきが上がり、アイスピッグは絶命した。


「くっ……!」


「ん?どうした?」


「い、いや、弱い魔法でそんなにあっさり倒されると……」


「ああ。アイスピッグに『ハイ級』の魔法は必要ないからな」


「……あんた、嫌味な性格だって言われない?」


「その評価はブルートに譲っているから」


 なんて失礼なことをいう奴なのだろうか。


「まあ、嫌味かどうかは置いておいて、大事なのは『この差』をカーティスがきちんと理解したってことだな」


「俺が……差を?」


「今、俺は簡単にこの魔物を倒した。レミも他の2人よりも簡単に倒していた。事実だけ言えばそうなるが、そこに至るまでは何度も繰り返しの試行錯誤があったはずだ」


「し……こう?」


「どうやったら、自分の魔法を生かせるか、どうやったら魔物を倒せるか、その考えて試す作業の繰り返しだな。俺は皆より魔物退治の場数に圧倒的な差がある。だから簡単なのは当たり前、ではレミと皆はどうか?レミはたぶん1人で戦ったことはなくても、ずっと魔物を想定したイメージトレーニングをしてきたのだと俺は思う」


「イメージトレーニング……」


「そう。レミはずっと魔物を倒したがっていたからな。イメージトレーニングの成果を試したかったんだろう。『魔物狩り』はこうやってイメージトレーニングを重ねながら実践するには、最適の方法なんだぞ!?出てくる魔物が違えば、倒し方も違う。必ずしも自分がイメージしていた想定通りにいかないことなんてざらだ……だからこそ、強くなれる」


「そ、そういうことだったんですね!?」


 どうやら、モモエは今回の魔物狩りの主旨を正しく理解できたようだ。


「例えば人の身体を治すのでも、部位や傷の深さによって手法が少しは変わるだろう?」


「はい!」


「その要領を今度は倒す方に傾ければいいってことだ」


「そ、そういうことか……」


「じゃあ、次はモモエ。今度は『アイス』系の魔物でアイスピッグを倒してもらう」


「え?『アイス』系で、ですか?」


 それは初耳です、って顔をしているな。


「うん」


「でも『アイス』は効かないんじゃ……?」


「いや、効くよ?魔物も生き物だからね。寒さに強い魔物は確かにいるにはいるけど、それは寒冷地にいる魔物とか、少なくともCランク以上の魔物だよ。こういう獣に毛が生えたような弱い魔物は普通に動物としての弱点もあると考えていい」


 獣は元々毛が生えているけどな。

 アイスピッグは単に鼻上の内部にある魔石で氷を作っているだけだ。


「さあ、行こう。どうやって倒すかイメージを作って。要領は回復するときと同じ。どの部位をどうすれば相手の動きが止まるかよく考えて!とりあえず『ハイ級』から」


「はいっ!」


 次にやって来たアイスピッグに対し、モモエは『ハイアイス』の魔法を唱えた。

 アイスピッグの足元に氷の塊が飛び、着弾すると地面から3本の足が氷漬けになった。

 1本を残して足が凍ったため、アイスピッグは身動きを取れなくなる。

 そこから、胸元がじわりじわりと凍り出し、その場から完全に動かなくなった。


「うっ……足が1本凍りませんでした」


「いや、初めてにしては上出来だよ」


 実際、魔法の形状変化まであと少しの所まで来ている。

 やはり、モモエもすでに特別だと俺は思う。


「さて、というわけで、初日の課外授業の説明はこんな感じだ。これから残り時間かけてまた魔物を狩ってもらうけれど、その前に1つ」


 俺は最後に残ったアイスピッグに魔法で石を放ち、挑発する。


 挑発に乗り、勢いよく突進してきた豚の魔物に向かって、『ウインドーコルナード』を放ちひっくり返す。


 氷の角が地面に刺さり、口を開けながら何とか抜こうともがいているアイスピッグの口元に指の上に作った小さな火の玉を放つ。


 ボオッ……

 アイスピッグは体内から燃える。

 絶命を確認したあと、今度は小さな水の玉を作って、放ち、鎮火。


「これが『魔導師』の戦い方の真骨頂だと俺は思っている。その場を一歩も動かず、魔力と頭脳だけを用いて相手を倒す……最も効率良く!これは『魔導師』にしかできないことだ」


 口を開けている4人。使ったのは全部簡単な魔法だよ!?


「ここまでとは言わないけど、どんな場所でも、どんな状況でも、限られた方法でも相手を倒せるようになってもらう。これから1週間でね。とりあえずはこのアイスピッグから始め、少しずつ魔物の種類も変えていく」


「う、うん!」

「わかったわ!」

「が、がんばりますっ!」

「お、おう!やってやるぜ!!」


 皆、狩りを始める前よりもその表情はいくらか明るく感じる。

 日は傾き始めているのにな。


 俺たちは魔物を解体し、部位や魔石を集めてから次の場所に移った。

 レミとモモエは解体作業に慣れているらしく、カーティスも家が大工だということで器用さを見せていた。ディリカは他の3人に比べると少し戸惑ってはいたものの、一生懸命に作業を行っていた。


 何せ、初めて自分が倒した魔物だ。そして、自分の魔法が初めてお金になり、自分の懐に入る瞬間でもある。一生懸命にならないはずはないな。


 その後、さらに少し魔物を探したが、あいにく目ぼしいのは見つからなかった。

 俺たちは、日が暮れる前に森から街に戻り、ギルドの扉を再び開ける。


「あっ、お帰りなさーい!!首を長くして待っていましたよ~」


 俺たちを見つけたミルカさんの第一声。

 レミたちは自分たちの倒した魔物と依頼の精算に。


 俺は魔石を売るために、専用の窓口へと向かう。


「おっ、あんたかい?魔石を持ってきたってボーヤは?早速、見せてみな」


 ずんぐりむっくりな体型の、顎髭あごひげを髪の毛以上に蓄えた、眼鏡を掛けたおっさんが俺を出迎える。


「はい、これです」


 ジャラジャラ……

 俺は懐から1つ袋を取り出し、口に結んだ紐を外してから一気に逆さまにして、中に入っていた大量の魔石を台の上に全部出した。


「ピ、ピギーーー」


 あ……魔石を目にしたおっさんが卒倒した……

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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