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6-100『座して動かず』

◇『南西の玉座』<レオ視点>◇


<最強軍閥連合>


『湯蛇』レオナイダス(総参謀)

『光厳』メーネス=アンフェ

『焔海』パージ=ジョートー


【蘭光】メンバー

影漏かげろう』シクル=オーバー

岩塞がんさい』テツ=フォートレー

風穴ふうけつ』ケヴィン=ブロウ

流氷りゅうひょう』ウィリー=ジョー


【炎城桜】メンバー

水平すいへい』メア=インパス

地平ちへい』ローラ=ランドール

順風じゅんぷう』ゼファー=オーロン


【咬犬】メンバー

情冷炎じょうれいえん』スコーン=ナバス

蛙井引あいいん』ケイン=アンドー

合蝶雲がっちょうん』タニク


「ククク、クハハハハ……そう来ましたか」


 南東にある銀の「玉座」を囲う集団、<最強軍閥連合>は、開始の1、2分の間、微動だにせずに様子を伺っていた。


 陣地の「玉座」には今のところ誰も座ってはいない。


 【蘭光】と【炎城桜】……


 学園最高峰に位置する派閥の幹部たちや精鋭メンバーたちが周囲を守るだけで事足りるという自負の現れだ。


 その最前列にいる3人、両脇に2大派閥の長を携えて、総参謀『湯蛇』レオ=ナイダスは、その蛇のように鋭い目で、各陣営の動きをじっくりと観察していた。


 そんな監視状態の中、戦術的観点から最も注意すべき男は、平然とその目を掻い潜り、舞台中央にある「金の椅子」を堂々と占拠した……


 レオとしては、相手が初手でどういう動きをしてくるか、いくつか頭でシミュレーションをしていたのだが、それをすべて上回る動きをノーウェ=ホームが見せたので、可笑しくなってしまったのだ。


「カハッ、本当に『決勝』だろうが、俺たちが相手だろうが関係ないんだな」


 右隣の『焔海』パージ=ジョートーがそんなノーウェ=ホームの様子を見て半ば呆れている。


「ええ。我々にとっての『大舞台』も、彼にとっては『遊戯』に等しいのかもしれません」


「ちっ、眼中にないって感じでそれはちょっとムカつくぜ」


 パージにすれば、まったく警戒もされていないことが腹立たしいのであろう。


 レオには、その苛立ちには共感できないが、理解はできる。


 その人を食ったような行動を躊躇いもせずにできるのが、ノーウェ=ホームという男の本質であり、それは、魔導師として高みを目指す者ほど勘に触る行為だと思っているからだ。


 もっとも、レオが予想していた行動とは違っていたわけであるが、その方向性を大きく外していたわけではない。


 均衡を崩すのはノーウェ=ホーム。


 その目を掻い潜ろうとも、頭の中の想定まで振り切ることはない。


「それで?やっぱりあっちの方は攻めなくて良いのかい?」


 今度は左隣の『光厳』メーネス=アンフェが尋ねてきた。


 その握った親指の先は、北側(左前方)、<無法者連合>を指している。


「そうですね。私の予想が正しければ、相手はかなり強固な防護陣を張ってきますので」


 レオが予想した<無法者連合>の出場メンバーの内、10人までは一致していた。


 これは、実力どおりに並べた結果だから定石と言っていいもので、さほど難しい予想ではない。


 だが、残る3人は意外な人選であり、特異点と言っていいものだった。


 つまり、そこに戦略的価値がある。

 敵の「総参謀」リバー=ノセックはそう思って選んだはずだ。

 そして、その3人……『桃魔導師』モモエ、『白魔導師』ミスティ、『黒魔導師』ブランクを見れば、自ずとその作戦が読めてくる。


 ちょうどレオが仕込んでいるものと同種の、相手方のおそらくリバー=ノセックが用意している巧妙な策なわけだから、敢えてその罠にハマりに行くのは得策ではなかった。


「そうか……じゃあ、やっぱり狙うはあっちか」


 メーネスは、今度は右側の方に顔を向けた。


「はい。『五騎』は必ず本陣を離れるので、先にあそこを潰しておいてください。ただし、手筈どおり迂回してから、向かってくださいね」


「分かったよ」


「『総参謀』様の命令だから、最初の5分だけは従うけどよ、本当に5分経ったら俺たち2人の好きにさせてもらっていいんだな?」


「ええ、最初の任務さえ完遂したら後はお好きになさってください。その代わり、できるだけ派手にお願いしますよ」


 レオは、なんと、この大一番に「総参謀」として主戦力の2人に、開始5分以降は好きにしていいという「自由手形」を与えた。


 これには、当の本人であるメーネスとパージが目を丸くして驚いたくらいだ。


「おっ、どうやら動き出したみたいだね。行こうかパージ」


「ああ。派手にぶちかましてやるかっ!」


 ピュンッ……


 ボボアッ……!


 意気揚々と北側<無法者連合>陣営の方に向かって行くメーネスとパージ。


 瞬時にそれぞれの得意な魔法を放って飛び立った。


 『閃光』が放たれ、『火の粉』が周囲に舞う。


◇<最強軍閥連合幹部視点>◇


「それでは、場をかき混ぜる役割はお二方とノーウェ=ホームに任せるとして、我々は作戦に移行しますよ」


「畏まりました」


 「総参謀」レオ=ナイダスに対して、本陣に残された最強2派閥の幹部たちが一斉に傅いた。


 最強の2人は自由にやらせ、その部下たちは自身の意のままに操る……


 それができるのは、並外れた戦術眼とこれまでの決闘において実績を上げ続けた彼だからこそできることだ。


 幹部たちも始めは彼の頭脳に挑戦した。


 彼らも3年間自派閥を支え、豪放磊落ごうほうらいらくな長に代わって作戦を立案したり、副将として指揮を取ってきたりしていた。


 だからこそ、幹部たちはあれやこれやと都度作戦を提案してみたのだが、レオはその作戦の狙いとその「先」をいつも言い当ててしまう。


 まるで、自分たちの浅慮な作戦などすでに頭の中に入っていると言わんばかりに……


 結果、1戦1戦進むうちに、誰も戦術論を戦わせようとする者はいなくなった。


 2戦目、3戦目では、それは不満となり、4戦目を過ぎれば、感嘆に変わり、5戦目には崇拝となる……


「レオ~。俺たちを頼ってくれてい~んだヨ!」


「やってみせるがちょ~ん!」


「そうですね。せっかくの舞台ですし、貴方たちに活躍してもらいましょうか」


 一方で、幹部たちにはまったく理解できない行動も取ってくる。


 どよどよ……


 ―なぜこいつらを?―


 幹部たちの心の中の言葉を集約すれば、おおよそがそのような感想であっただろう。


 今では「総参謀」の策にケチを付ける気は毛頭ない彼らも、さすがに首を傾げる人選。

 蛙とガチョウの衣装を着たキワモノ系の魔導師たちがしたり顔で「総参謀」に話しかけている。

 まるで「対等」であるかのような振る舞いで……


「それでは、貴方たちは、中央に向かって『紫魔導師』ノーウェ=ホームを挑発してきてください」


「任せろい~~ン!『井大海いたいかい』」


「行くがちょ~ん!『合蝶がっちょう』」


 床に粘液を張ってスイスイ進む『蛙井引あいいん』ケイン=アンドーと、空中をフワフワと蝶のように『火』と『風』で進む『合蝶雲がっちょうん』タニク……


 ―心許な過ぎる……―


 幹部たちは一様に不安な表情を浮かべた。

 あんなの、ノーウェ=ホームを前にしたら瞬殺なんじゃないか、と。


「あのー、レオ殿、お聞かせいただいても?」


 幹部たちを代表して【蘭光】の副将、『影漏かげろう』シクル=オーバーが質問した。


 その内容は、濁しているが、当然「なぜあの2人を抜擢したのか」……

 そして、「ノーウェ=ホームの元に向かわせたのか」……である。


「単純な話ですよ。この舞台上にノーウェ=ホームに魔法勝負で勝てる魔導師はいません……」


「「「「「……っ!!」」」」」


 衝撃の一言であった。


 自分たちの派閥の「長」も、<五騎当千連合>の「最強」たちも、ノーウェ=ホームと戦うのは分が悪い……と「総参謀」は見ている。


 言うまでもなく、このレオ=ナイダスという人物は、誰よりも冷徹に戦力を分析できる男だ。


 幹部たちを含め、誰もが「魔導師」としても、一家言持っているがゆえに余計な感情が入ってしまうものだが、この男にはそれが一切ない。


 このレオ=ナイダスという男には、自身の魔導師としての個人的な名誉に一切の興味がないからだ。


 だからこそ、「参謀」として、ひたすら冷静な分析を行ない、数多ある戦術を当てはめていくことができる。


 その男が、他の誰よりも1年生の『色付き』魔導師を警戒しているという事実が彼らには驚愕であったのだった。


「もちろん、未知数な部分が多いので、完全な予測は不可能ですけどね。参謀としては、彼が未知なる存在である以上、敵としては『最上級』の強敵とおきます」


「で、では、なぜ彼らを?」


 最上級の強敵になぜ最弱を?……という意味である。


「ノーウェ=ホームには魔導師として勝つ術がない……であるならば、その戦術は自ずと『他の要素』で勝つ、ということになります。幸いこれは大規模な集団戦ですしね」


「ほ、他の要素……?」


 今度は、少し甲高い声の質問であった。


 【炎城桜】の副将、『水平すいへい』メア=インパスである。

 彼女もまた、常にイケイケ押せ押せの派閥の長の代わりに冷静な判断を下してきた腹心である。


「ノーウェ=ホームのこれまでの戦いを分析した結果、唯一の弱点……あくまで集団戦においてですけどね?それがあるとすれば、それは、『決闘』を楽しみ過ぎることです」


「『決闘』を……楽しみ過ぎる?」


「そうです。強い相手、弱い相手に関わらず、とりあえず戦闘に興じるというのが、決闘におけるおそらく彼の唯一の欠点であると私は考えます」


「そ、そうか……『迅雷』やメーネス様であれば、瞬殺する相手にも、あの男は時間を掛ける可能性がある」


 『影漏かげろう』シクル=オーバーはようやく、「総参謀」の意図を理解し、声を張り上げた。


「まあ、そういうことです……彼らには他にも役目を与えていますけどね。それに、ノーウェ=ホームの抑え役は()から出てくることでしょうし、ここは、我らは兵力を無駄にせず、『特殊部隊』である彼らにお任せしましょう」


「畏まりました」


 1学年下の後輩学生に3年生たちが深々と頭を下げた。


「それよりも、こちらの防衛です。いつ別の『最強』がやって来てもいいように、万全の準備と心積もりをしておいてくださいね?」


「「「「「はっ!」」」」」


 ……「総参謀」は意味深な言葉を残しつつ、ニッコリと愉悦の笑みを浮かべた。


◇「北側<無法者連合>「玉座」周辺◇


「ブルート、頼みます!」


「おうっ、任せろ!『水龍壁』」


 グルルルガァーーザッバーーーー!!


 下から上に向かう『水龍の壁』が本陣を守る城壁となる。


 「総参謀」リバー=ノセックの掛け声に応じてブルートが防護壁を張った。


「ヒャッハー!カシウ=フェスタの弟か。楽しみだな、おい!『炎網快海えんもうかいかい』」


 ドォーーーン!!

 ボボボボボボボボボボボボボボボボアーーーーーー!!

 ゴオォーーー……!


 上空に浮かぶ『殿上人』より魔法が1発放たれる。


 特大の『火の玉』が<無法者連合>の陣の正面、ブルートが張った『水龍壁』の前に落ちると、『炎の網』となって一気に燃え広がり、まるで鶴翼陣形の部隊の攻撃のように、その『炎』は前方を包囲しながら迫って来た。


 まるで意思を持っているかのように襲いかかる『炎』……


「ふおおっ、『湿王里』!」


 フシューーーーーー……!


『水龍壁』に加えて、冷気を伴う『白霧』を発生させることで、ブルートはなんとか敵の『炎』を食い止めた。


 恐ろしい威力……


 これまでの『殿上人』たちとは数段レベルが違う……


 そこにいる誰もが肌で感じるほどの初撃であった。


「ハッ、やるじゃねえか。どうやら、こいつは兄よりは楽しめそうだな!」


「ふおおぉーーー!『霧氷九頭蛇ミストヒュドラ』」


 プッシャァーーーー……!


「『炎絶城手えんぜつじょうず』」


 ボババァーーーーン……!!


 魔法の応酬。


 ブルートが9つの頭を持つ『霧蛇』を放てば、対する『焔海』のパージ=ジョートーはそれをギリギリまで観察した上で目前で『炎の手』を作り出し、握り潰す……


 最高レベルの魔導師による競演が早くも始まっていた。


「ふおぉーー『雲海』」


 モクモクモクモク……


 出し惜しみをしている場合じゃないとブルートは最上級の技を発動させる……


「ハッ、慌てるなって!お前、面白そうだからあとでたっぷり相手してやるよ」


「えっ?」


 ボボボアンッ!


 ブルートの放つ『雲』に『黒煙』が混じり、敵は姿を消した……!


◇<リバー視点>◇


「クレハ様、ハリー、お願いします」


「はい!」


「おう」


 <無法者連合>陣営から見て『焔海』の浮かんでいた場所よりもやや左側手前、北西寄りの上空には別の『殿上人』が浮かんでいた。


「さて、レオの言っていたことは本当かな?」


 ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ……


 浮いているという表現が正しいとは言えないかもしれない。


 『光厳』メーネス=アンフェは上空を左右に何度も足に『閃光』を放ちながら行き来している。


 まるで、ブルートが『雲』を使ってやっていたような動き……


 しかし、この『殿上人』のそれはさらに高速で、誰も彼に魔法を狙い当てて墜落させることなんてできないと思わせるほどだ。


「『泥蛇羅坊地でいだらぼっち』」


 ドロドロドロドロ……


 『泥の巨人』が陣を守るように立ち上がった。


「なるほどね。守備の『泥欲』か……でも、それで防ぎ切れるかな?『光々こうこうや』」


「『光板』、『れんぞくま』」

「『プロテクト』、『れんぞくま』」


 ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ……シュイーーーン……ドパパパパパパパ……!!


 ガガガガガガガンッ!!


 ピシッ、ピシッ、パリィーーン……


 ガガガガガガガ……ドボドボ……


 『光の板』が『泥の巨人』を守る盾となり、さらに『泥』自体も固められた。


「なるほどねぇ……」


 ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ……


 「総参謀」リバー=ノセックは、その場を動かずに上空で動き回る『光厳』メーネス=アンフェを目視していた。


 こちらを値踏みをするかのような相手の行動……


「ほら、ブランク!来たわよ!座って、座って!!」


「で、でも……僕も戦いを」


「分かってるって!ブランクは、これから座りながら戦うのよ!!」


「ええっ?」


「はい、はい!『サープラス-プロテクト』」


 カッチーーーーーーン!!


 『強制凝固』発動……!


「ブランク聖王、ご誕生ーーー!!」


 これより、<無法者連合>本陣にある「銀の玉座」は、絶対的なものになった。


「はははっ、そういうことか。さすがはレオだ」


「余所見は禁物ですよ『泥怨縄どろおんじょう』」


 ビュイーーーーーーーーン……

 ビュイーーーーーーーーン……

 ビュイーーーーーーーーン……


「おっと、『光聖帳掌こうせいちょうしょう』」


 ブィーーーーーーーーン!!

 ドロドロドロ……


 クレハ=エジウスが『泥の巨人』より『泥縄鞭』を3本飛ばすも、メーネスは身体の前に大きな熱線を伴う『光の手』を作り出し、一瞬で溶かしてしまった。


「今回は偵察していただけだからね。パージも気が逸っているのか、先に行ってしまったし、僕もそろそろ失礼させてもらうよ」


 ピュンッ……!!


 突然、嵐のようにやって来た『殿上人』2人は、あっという間にその場を離れて行ってしまった……


「なんだったんでしょうね」


「大胆でしたな」


「真意が読めません……」


 コナース、レヴェック、コトも怪訝な表情をしている。


「『殿上人』2人を『偵察』に用いるとは……ひどく贅沢な使い方ですね」


「リバー君?」


「いやはや……」


「リバー殿……それは貴殿の感想でしょうか?」


 またしても、怪訝な顔をする参謀仲間の3人。


「はて……ああ、そうでした。『総大将』を『囮』に使ううちも大して変わりませんかね、ふふふ」


 リバーはそう言って笑顔で笑った。


「ふう、しょうがない天才たちだ……」


「はっは、然り」


「私たちは地道に気を引き締めて参りましょう」


 頭脳戦も……


 ……始まっている!


◇一方その頃……<ノーウェ視点>◇


 来客がなかなか来ないんで、色とりどりの『ジェリーマジック』を内職しておりますよ。


 椅子の近くには装飾品が必要だよね。

 インテリアとしてたくさん飾っておこう。

 『フロート』で1つ1つ浮かせていくよ。


「おいーーーーーン!来たんだーヨ!!」


 ……なんか、蛙の着ぐるみを着た人がやって来た。

 床をぬめらせて……


「がっちょーーーーう!!参上!!」


 ガチョウの恰好をした人も遅れてパタパタと飛んで来た。

 身体が重そうね。


「「待たせたな、ノーウェ=ホーム!」」


 2人が揃って変なポーズを繰り出してきた。


 えっ?

 別段、あなたたちを待っておりませんが……

 ひょっとして、イベントスタッフか何かかな?


「ここであったが100年目、春の雪辱を晴らしてくれるわ!!刮目せよ!我らの『合体魔法』を……!」


 ……

 …………

 ………………


 春の雪辱?

 ……見覚えも、身に覚えもないんですけどっ!?

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


蛙井引あいいん』ケイン=アンドー、『合蝶雲がっちょうん』タニクの2人の活躍は2-17『ディリカとカーティス』で(^^)/

※ちなみに、ノーウェとは会っていません(笑)


次回、<五騎当千連合>の本陣では……


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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