6-98『最強の玉座』
◇「ハイリゲンアリーナ」◇
「冬の総魔戦」の決勝……
たった1戦であるのに「決勝ラウンド」と呼ばれているのは、その上から見てきれいな円になった舞台の形にある。
丸い魔法決闘舞台に置かれた、装飾の施された玉座が4つ輝きを放つ。
豪華で学生が1人座るには大きすぎる椅子だが、それでも直径100メートルにも及ぶ舞台を観客席から見ると小さく見える。
4つの内、3つは円の外寄りに置かれている。
北に1つ。
南寄りの東西に1つずつ。
それら3つが正三角形を作るように置かれており、すべて銀色の装飾が施されている。
椅子の周囲の石畳のブロックはそれぞれ色違いで、北が「白」、南西が「灰色」、南東が「薄茶」となっている。
色の違うブロックが互いの陣地を示す寸法だ。
各陣地の狭間となる舞台中央に金色の「玉座」が置かれている。
「決勝ラウンド」で用いられる「THRONES」は、各ブロックを勝ち抜いた「最強」同士が集う舞台で、互いの「玉座」を奪い合う「決闘方式」。
決闘終了を告げる合図の時点で、自チームの「玉座」を多く持っている<連合>の勝ち。
仮に同じ数の「玉座」を有していれば、そこに集うメンバーの数の差によって勝敗は決まる。
便宜上、中央の「玉座」のみ金色をしているが、特段、ルール上における意味はない。
「THRONES」のルールについても、他の決闘同様、運営によって少々の変更が加えられた。
制限時間は30分。
出場人数は13人。
交代枠はなし。
各陣地の「玉座」は、奪い取ることができるが、座った者が奪い取ってから5分間座り続けていないと奪ったことにはならない。
空の「玉座」も同様に5分。
5分座り続けると、「玉座」が光り出す。
ただし、制限時間の残りが5分を切った場合、上記「玉座」確定時間は1分に短縮される……
これだけになった。
「秋の文化祭」で【魔転牢】がこの「決闘方式」を発表したときには、自陣の滞在ルールなどのさらに細かい規定が設けられていた。
極端な守備戦術を取ることを防ぐ意図。
今回の決闘に出場する<連合>に関しては、その心配はまったく必要ない。
運営はその辺りをばっさりと排除して、自陣の椅子が1つずつに「空の玉座」が1つ、計4つを奪い合うというごくシンプルなものに組み換えた。
時間も短縮、交代枠もなし……というかなり攻めたルール。
1発勝負。
魔導師としての実力だけでも、巧みな戦術だけでも勝者にはなり得ない「3つ巴」ならではの争い。
会場にはすでに大観衆が詰めかけていた。
学生には東側、西側に専用のスペースが設けられていたが、それでも早朝には会場に並ぶ者がいた。
一般客の方は、それに輪をかけた状況だ。
前々日の晩から野営をする者が後を立たず、会場周辺を占拠した。
これには、運営も頭を抱え、凍死されても困るので、正月に突如造られた饅頭型の巨大テントを移設し、臨時の宿泊施設を用意するといった対応に追われた。
このように、会場は大入りの満員。
そして、観客は会場だけではない。
「あぷる」による中継も記録的な登録者数、視聴者数を記録している。
直接的な中継のみならず、間接的な予想や考察をする者も後を絶たず空前絶後の賑わいを見せており、どの<連合>が勝つかという話題で世間は持ちきりだ。
過去の大会もすべてが「3つ巴」であったのに、今年のこの異様な盛り上がりはなんなのか?
1つに、この決勝舞台が、歴代トップクラスといわれる完成された3人の魔導師にとっての、3年間の学園生活の集大成であることが挙げられる。
『迅雷』イクス=トスト。
『光厳』メーネス=アンフェ。
『焔海』パージ=ジョートー。
2年次からトップランナーとして君臨し続けた「3強」の最後にして最大の伝説を一目見ようとする者が多い。
彼らの紡いだストーリーとして、この最大にして完成された舞台と3つ巴の戦いにピッタリ合った「決闘方式」ほど相応しい場はないだろう。
これには、既に敗退した、この「決闘方式」を開発した派閥に大きな賛辞の声が挙がったほどだ。
しかしながら、そんな王道中の王道の伝説の最終章の結末も、誰にも予想ができない、謎めいた不安感……言い換えると期待感に今は包まれている。
別の観点から見れば、この決闘に挑む「3つ巴」の<連合>がそれぞれ違った「最強」であることも忘れてはならない。
「最強」のチームか……
「最強」の男を有するチームか……
それとも、「最も謎めいた強さ」を大会中常に見せてきたチームか……
考察する者は、総合力比較、個々の魔導師の比較、「決闘方式」との親和性、戦術の多様性、と様々な見地から議論を活性化させ、果てには無限に膨張させていく。
<最強軍閥連合>は、攻撃、守備、知略すべてにおいて隙がない……
単純に最も強い魔導師を抱えている<連合>が勝つ。『雷』には誰も勝てない……
あの<連合>は何をするかまったく読めない……
その主張は多種多様。
どれも一定の理があるため頷けるし、それでいて、これといった決め手を欠く。
つまりは、どこが勝つか誰にも読めない、真の「3つ巴」の均衡。
半年前までは、この大会がここまでの盛り上がりを見せるとは誰も思ってはいなかった。
決闘開始までまだだいぶあるというのに汗ダラダラで空の舞台を見つめる仕掛け人ですら、ここまでの盛り上がりは想像していなかったのだから。
最後に挙げる理由が、そのままこの汗かき男の予測をはるかに上回ったその答えを示している。
<無法者連合>……
大会開始時点ではこの舞台に上がってくるかも疑問視されていたダークホースは、まるで世間のそんな声を嘲笑うかのような戦いぶりでブロックを勝ち抜いてきた。
冗談なのか、本気なのか分からない、対戦相手を混乱させるその決闘ぶりは、はじめは観客を困惑させるものであったが、確かな実力の裏付けを示すうちに、徐々にその多くの者を魅了していった。
次は何をやらかしてくれるのだろう?
この<連合>のやることはまったく常識外れだ……だが、それが良い。
初めは批判も多かったその声も、やがて期待と称賛へと変わっていく。
「第2ラウンド」ブロック制は、それだけで成功であった。
男の手元に上がってくる中継の視聴者数の推移でもそれは明らかであった。
彼らは、決闘の度に懐疑的な者の曇った目すらをも見開かせ、批判の声を黙らせてきた。
今では誰もその実力を疑わず、冷静にその実力を測ろうとする者が増えている。
それは、男にとっては大きな驚きであり、機を見るに敏なその肌感覚に、学園の……いや、社会の大きな変革の予兆を伝えるものであった。
『色付き』……
帝都に住む人々にとって、とりわけ魔法に造詣が深い者にとって、その言葉の意味がすでに大きく変わり始めている。
学園ではこれまで日陰に追いやられていた存在が、特大の照明の魔道具の光の下に……
学園内の「弱者」と思われていた者たちが、「最強」の一角に並べられるほどに……
侮蔑の呼称であった言葉が、憧れの対象に……
1人の『色付き』がこの1年で見せてきた数々の驚きは……
いや、決してその魔導師1人ではなく、その派閥が、そして、彼ら擁する無法な<連合>が起こしたダイナミズムは、すでにこの学園に……いや、帝都中に静かに、それでいて大きな変革をもたらし始めている。
はたして、「下剋上」は起こるや否や……
その話題に関する議論で「あぷる」は持ちきりだが、汗かき男に言わせれば、「下剋上」はすでに起こっている。
焼いた石に水を垂らしたときに蒸気が起こり自然と空気中に浸透するように。
「ふうぅー……」
男は大きく息を吐いた。
熱気が伝わってくる。
片や、学年最強の男が率いる5人……
片や、汗かき男が結成に関わった、もう1つの最高峰……
未完成にして発展途上の若鳥たちは、彼ら相手にどんな戦いを見せてくれるのだろうか……
喧騒の観客席と同じく、『水興』サンバ=オンドレアもまた、これから始まる熱き戦いの開始のアナウンスを、今か今かと待ちわびていた……!
「サンバ様。お恥ずかしながら、私は熱いのは苦手なもので……ここで失礼させていただきます」
「お、俺も……」
2人の後輩が、リタイヤ宣言をして、部屋から出て言った。
ただし、その理由はいく分、サンバとは異なるものを含んでいる。
「あー、熱い!タオルがすっかり濡れちまった。こんな場所であいつらの決闘を観ていられるかっ!俺たち外(観客席)で観るからな。行こう、クォーター」
「……そうですね」
同級生2人も……
「あ、おい!ちょ、ちょっと待ってくれよお……」
大一番の観戦席を火山のディスプレイ内のサウナに選んだ酔狂な男サンバ=オンドレアは、上半身裸のまま、慌てて部屋を出て、友人たちを追いかけた……!
◇「一般観客席」◇
「いよいよだねー、サクヤ。そろそろ起きなよー」
「う、うーん。もうちょっと……」
「ラミィ、寝かしておいてやれよ。どうせ開始時間になったら、さすがのこいつでも起きるだろう」
「そうだけど……」
一般観客席の雑踏の中、「魔導師の卵」たちが手に持ったマスボを操作しながら、決闘開始時間をまだかまだかと待っていた。
3人の内、まとめ役のジャンは、興奮して前日眠れなかった友人と、それを心配そうに見ながら起こそうと必死になっている友人の間で、少々呆れ気味にマスボ画面を眺めていた。
幼馴染同士で約束して見に来たこの1戦。
1秒たりとも見逃したくない重要な決闘をせっかく生で見れる機会なのに、舞台そっちのけでいつものやり取りをしている2人が信じられない。
「やっぱり、ジャンは<無法者連合>を応援するの?」
「そりゃあ、もちろん!」
ジャンは身を乗り出すようにして質問に答えた。
質問というより愚問だ。
応援する<連合>なんて初めから決まっている。
「変わったよね~、あんたも。ついこないだまで『自分は不幸な《《称号持ち》》なんだ~』って絶望していたくせに」
「うるさいな……お前、いつ起きたんだよ」
「あんたの馬鹿みたいな大声のせいよ」
「まあまあ、2人とも」
たしかに、つい半年前までは、自分は『色付き』という不幸を背負った魔導師なんだと思っていた。
この幼馴染2人に誘われていたこの「プラハ魔法学園」への入学も、あまり乗り気でないことは確かだった。
でも、今は違う!
見えている景色が……その色彩が……
……今ではすべて変わったんだ。
「こりゃ、志願する派閥ももう決まりっぽいね……」
「そうだね」
そんなジャンの変わりようを見て呆れる2人。
ある意味、お互い様である……
「あったり前だ!俺はきっと、『紫魔導師』ノーウェ=ホームを『決闘』で負かして、最強の座に昇りつめてみせる!」
だから、自分が負かすそのときまで、絶対に誰にも負けないでくれ……
……それが、ジャンの心からの願いであった。
「「「「「あーーーーーーん!?」」」」」
「「「えっ?」」」
……そう言い放った瞬間、周囲の人々が一斉に3人の方に振り向いた。
……鬼の形相で。
よく見ると、周囲の観客の大半は大人の女性……
それも、皆、高貴な装いをしており、薄紫のドレスで統一している。
「まー、このクソガキが何を言っているんザマスかね」
「貴方が私たちの『悪魔小僧』を倒すですって?」
「よくもまあ、そんな大それたことを抜かせますわね」
「この扇子でその軽口をしばき倒してあげましょうか?」
「「「ひ、ひいーーーーーー」」」
魔力を放出しているわけでもないのに、全員恐ろしい威圧感を放っている。
一体、自分はどこに紛れ込んでしまったのか、と涙目のジャンは気が遠くなった。
「ち、違うんです。こ、こいつ。じゃ、ジャンは、『紫魔導師』ノーウェに憧れているんです。憧れすぎてこんな大それたことを宣っているんですー。私たちはそんなこと思っていませんー」
「そうですー」
幼馴染のサクヤが大声で叫び、もう1人のラミィが相槌を打った。
ジャンのフォローをしているようで、しれっと生贄に捧げやがった。
こいつらはいつもこうだ……
ずっとこんな調子なんだ。
「あら、そうなんザマスの?」
「「「へ?」」」
貴婦人方のリーダー格っぽい女性が急にふんっと鼻から息を吐き出したあと、手に持っていた扇子を開いてバサバサと扇ぎ始めた。
香水の強烈な匂いがジャンの鼻に一気に吹きかかる。
頭がクラクラしそうな香りだ。
この扇子を扇ぐ女性がリーダー格だと思う理由は単純。
細身で化粧がドギツイこのご婦人だけがやたらジャンには年食って見えたからだ。
おそらくダブルスコアぐらい……
「あらあら。じゃあ、貴方たちも同士ね」
「「「へ?」」」
「そうですわね。それじゃあ、一緒に『悪魔小僧』ノーウェ様を応援しましょう」
「そうしましょう。気合いを入れて声援しましょう!」
「え?お、俺たちは……」
「「「「「んーーーーーー?」」」」」
「「「お、応援します!!声出します!!」」」
間を取り持ってくれた……わけではないだろうが、ご婦人方の中でも少しおっとりした感じの女性が音頭を取り、いつの間にか自分たちまで応援団に加わることになってしまった……
逃げ出したい……
できることなら、時間を巻き戻したい……
同じ「孤児院」で生まれ育った魔導師の卵の3人……
ジャン、サクヤ、ラミィは……
……入学前に、早速、社会の厳しさを知ることになった……!
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
貴族社会の厳しさも知ったようですね……(^_^;)(笑)
この3人を覚えておいていただけると幸いです。
次回、開幕……!
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




