6-97『こだわり』
懐かしいな……
つい、思い出話をしてしまったよ。
俺の「魔境スローライフ論」は、誰からも同意を得られなかったけど。
明かりの差さない、油断ならない魔物がうようよしている夜の獣道ではなく、この「赤と青の街灯」が照らす石畳の道にもだいぶ慣れた。
この学園にやって来て、もうすぐ1年になる。
ここまで、あっという間だったような……
それでいて、長かったような……
右も左も分からなかった1年前には、想像もつかなかったようなこの学園の気風というか、突飛なイベントにもだいぶ慣れてきている自分がいる。
大体、網羅したからな。
次の「決勝ラウンド」を終えれば、俺も派閥も、この1年の行事を走り切ったことになるんだ。
「いえ、まだです」
「え?」
「『冬の総魔戦』を終えると『お礼参り決闘』が控えています」
……どうやら、まだ見ぬ決闘があったらしい。
以前に、ちらっと聞いていた気がするけど、どうやら失念していたようだ。
「どういう仕組みなんだ?」
どうやら「青いポンコツ」も興味があるらしい。
「まず、『決勝ラウンド』を終えてからの話になりますが……終えた時点で、『冬の総魔戦』における活躍度ランキングというのが『表彰式』で示されます」
ふむふむ、なるほど、なるほど。
「冬の総魔戦」は、<連合>による「集団戦」だけど、どうやら個人の活躍も測っているらしい。
そう考えると、俺もなかなかいい線いっているのではなかろうか。
「いい線どころか、リーダー、今トップ独走中だぞ」
「『殿上人』4人相手に負けなかったしな……」
そうなの?
ハリーとカーティスは何やらマスボの「あぷる」を確認している。
「ランキング一覧」が見られるようだ。
「そのランキングの、卒業生を除いた上位から『お礼参り』をしたい相手を指名できます。怪我などの理由を除いて、卒業生は指名を受けたら『決闘』をしなければならないんですよ」
ここまで、リバーによって説明された概要。
なかなかのハードボイルドなイベント。
まあ、この学園らしいっちゃらしいけどね。
最終的に何番手で「指名権」を持てるのかは分からないけど、俺の番に回ってきたらなるべくランキングが「上の人」とやりたいな。
……よく考えたら、その「上の人」と「決勝ラウンド」戦うんだった。
じゃ、今はまだ考えなくていいかな。
目前の決闘に集中だ。
「2年生とはやれないのか?」
「ええ。あくまでも卒業生だけです」
「「そうか……」」
残念そうなハリーとカーティス。
考えていることは分かるぞ?
あの2人の『殿上人』と決着をつけたいんだろう?
今度は、何の「縛り」もない状態で……!
「心配しなくても、機会はいずれ向こうからやってくると俺は思うけどな」
「私もそう思います」
<2年生『殿上人』連合>の名声は、今回の「冬の総魔戦」で地に落ちた。
<連合>戦ということで、連携面とか言い訳ができないわけじゃないだろうけど、それにしても負け過ぎたってことだろうね。
『殿上人』個々にしても、ブルート兄ちゃんは青ポンコツに完敗だったし、『光』と『闇』の2人も、ハリーとカーティスにほとんど封じられていたからな。
プライドだけやたら高い『殿上人』たちが1度失った信用を取り返すためには、それぞれが再戦してはっきりと勝つしかない。
決闘によって、沸き起こった疑いを払拭するためには、決闘で取り返すしかないんだね。
だから、いずれは相手の方からアクションを起こすだろうから、2人は焦らなくてもいいと思う。
むしろ、今は上を見るべき時だ。
自分の立ち位置を見極めて地固めをする……
世間はまだまだ2人を低く見積もっているくらいだからね、俺からすれば……!
「そうか……!『焔海』を指名することもできるのか!」
……遅れてきたポンコツ。
「お前、次で負けるつもりか?」
「そ、そんなことはないぞっ!?」
焦り出すポンコツ。
相変わらずわかりやすいやつ。
こいつ、「DOOM」が終わったあたりから、若干気が抜けている感じがする。
念願だった兄との対決に勝てて満足したのか、決闘前のギラギラした感じが抜けてしまってるんだよな。
「そんなことだから、決闘中にオナラなんてするんだよ、お前は」
「う、うるさい!人が忘れかけていたことをわざわざほじくり返しやがって……このヤロー!」
殴りかかってきたので『マジックパフ』っておいた。
聞いた話によれば、ジェシーには真っ赤な顔で怒られ、メープルには「メェ」と呆れられ、最近「あぷる」上で人気が出てきたとかいうファンがだいぶ減ったらしい。
……何より。
大体からして、あの兄ちゃんを倒したぐらいで満足してもらっても困るんだよな。
魔法の威力とか精錬度はそこそことしても、ああいうこだわりが強い人は、残念ながらそこそこ止まりなんだ。
奥行きがない……と言ったらいいのかな。
帝国一の魔導師を目指すなら、あの程度の相手は、100回勝負しても100回楽勝できるくらいになってもらわなきゃ困る。
そこらへんの池を泳いでいる小魚で満足するな!
目指すなら大海に住まう海竜を目指せ!
……ってことだな。
まあ、でも、これはブルートに限らず、どことなく派閥全体、<連合全体>に流れている空気感ではある。
この「冬の総魔戦」において、俺たちが設定した目標は、「なるべく多くの決闘をすること」だったからね。
「決勝ラウンド」に到達したことで、一応の目的は果たしたというわけだ。
ある意味、ここから先はボーナスステージみたいなもんだ。
この空気を変えるべきかどうかで悩む……
……目的地に辿り着いた。
「フードパーク」だ。
もう閉店時間なんだけど、シェフのワイズマンさんと屋台の元締めのタイガさんからお招きされているんよね。
何やら新作料理の試食をしてほしいとのことで快く引き受けたんだが、こんな夜になるとは思わなかった。
とにかく、腹減った。
「よく来てくださいやした、若師匠!」
いつのまにか、タイガさんから師匠呼びされてるの、俺。
なんでも、他所に別の師匠がいるらしく、呼び分けるために「若師匠」になっているんだけど。
「紹介します、『グツグツ亭』の店主スチーマーです」
「ふんっ、よろしくな」
ワイズマンさんから紹介された、見るからに偏屈そうな人はスチーマーさん。
「フードパーク」内の人気店、「グツグツ亭」の店主で、ドワーフ族のおっさん。
ちなみにだが、この店の名物「魔ホロ鳥のグツグツ煮」は絶品。
鳥の旨みとキノコ類の相乗効果がすごいんだ。
煮込み料理や蒸し料理が得意で今回の新作料理会に混ぜろとせがんできたらしい。
趣味はサウナ……だそうだ。
……うん、どうでもいい。
「スチーマーさんは『ワッフ・ルー』出身だそうですね」
「何だ、兄ちゃんは儂らの故郷を知ってんのか?」
「ええ、まあ」
この「フードパーク」の責任者でもあるリバーに対しても腕を組んですごんでいるスチーマーさん。
こういう職人気質っぽい感じがいかにもあの里の人間だよなぁ。
まあ、嫌いじゃない。
「かくかくしかじか」
「おみそれしました」
急に土下座を始めたスチーマーさん。
一応、俺たちは里の恩人だからね。
当時、結構ニュースになっていたはずなんだがなあ。
「しかも、若師匠は天ぷらの達人でい」
「大変なご無礼を」
またしても、土下座するスチーマーさん。
なぜかタイガさんが偉そうなのは分からないのだけども。
別にのれん分けしたつもりもないし、「魔境天ぷら職人」としてはなんとなく釈然としない部分もあるのだけれど……
料理の世界が広がる分にはいいことだしね。
職人のこだわりは、言い換えれば自分の世界。
俺にとっての「魔境」の食材は、俺の世界……
……というか、そもそも「魔境」の食材にもこだわっていたわけではなかった!
「天ぷら」自体が美味けりゃなんでもいいもんね。
「さあ、召し上がってくだせえ!俺たち渾身の一品。『ぐつぐつ天ぷら鍋』です」
「「「「「いただきます」」」」」
ふむ……
美味いには美味いが……
……これは別物だな。
「天ぷらを揚げた油を吸った衣からコクが出て一味違いますね。山菜も天ぷらにしたものを煮込むと味わいが違います」
「衣も汁を吸って味わい深くなっている」
「これはこれで美味いな……」
ぐむぅ……
「美味い、美味い。美味けりゃなんでもいい」
ちっ、このポンコツ舌がっ!
「ノーウェはどうですか?こだわりを捨てるのもいいもんでしょう?」
ぐむっ……
「まあ、美味しいね……でも、こうするなら衣はもう少し厚い方がいいかな」
「な、なるほど!カリッと揚げるわけじゃないから薄くする必要ないもんな」
タイガさんが手の平の上に拳をポンッと置いた。
「逆に、山菜や葉物は薄く揚げて最後に添えるぐらいでいいかもしれないぞ」
「は、ははぁ、さすがは若師匠様だぁ~」
……なんか、いつの間にかスチーマーさんの師匠にもなっているし。
何も教えてないんですけどっ……!
「まあ、これはこれでありっちゃありだけど、次はサクサクの衣を活かした新作がいいなあ」
「「なるほど、精進します!!」」
……いや、そんな大げさな話じゃないんだが、まあ、いいや。
「ノーウェ様。こちらをどうぞ」
「これは……?」
ワイズマンさんより目の前に差し出された皿の上には拳大くらいの丸い玉が、黄金色の衣に包まれて置かれていた。
「「「「「いただきます」」」」」
その丸い玉にナイフを入れると、サクサクっと「天ぷら」らしい音がして、中からトロッとしたソースが溢れ出してきた。
「ううっ……美味い!」
噛みしめると、外側の衣はサクサク……
その内側のすり身は淡白な味わいで、その食感はフカフカ……
さらに内側のマルオマールの身はプリプリ……
さらに、さらに、その中心のキノコのトロトロ……のソースが相まって得も言われぬ味わい!
「『マジックボール天ぷら』と名付けてみました。今回はフカフカのすり身とマルオマール、ワッフ・ルー産の地底トリュフのソースを使いましたが、中身を変えることで無限の組み合わせが生まれるかと思います」
ううむっ、こりゃ1本取られたな……
「いかがですか?ワイズマンの新作料理は」
「おおっ、素晴らしいぞ、シェフ。俺たちにぴったりの料理だな。ふはははは!」
「いろんな色に変わる『魔法の天ぷら玉』って売り文句にしようぜ」
「決闘前の景気づけにピッタリだな……恒例にしよう」
褒めたたえる面々……
そして、皆、俺に目を向けた……
「おみそれしました」
俺は「魔境天ぷら職人」として、「フードパーク」の料理人たちに脱帽したよ。
◇
明かりの消えた商業エリアを歩き、再び、マゼンタ寮に向かう石畳の道を歩く。
「最終決戦」は5日後だ。
次の「決闘方式」は「THRONES」……
小細工なしの舞台だから、そのまま俺たちの実力が問われることになる。
<2年生『殿上人』連合>との「DOOM」を終えてから、<連合>としてどうやって他のブロックから勝ち上がったあの「2強」に勝てるかばかりを考えていて、どうやったら今の空気感を変え、皆の気を引き締められるかって悩んでいたけれど、俺も少し「こだわり」が強すぎたのかもしれない。
発想を……逆にしたっていいんだ。
サクサクの衣の天ぷらも、スープに浸かってくたくたになった天ぷらも両方美味しい。
俺たちがこだわるのは……「勝利」ではなく、「魔法」の発展性そのものなんだ!
「なあ、お前ら……俺たちの『決勝ラウンド』も、あの『マジックボール天ぷら』に負けないくらいのものにしようぜ!」
「ああ、もちろんだよ、リーダー!」
「負けていられないな」
「ふふふ、観客も、相手も、びっくりさせるとしましょうか」
俺たちは……「青と赤の街灯」の下で誓い合った!
「ふはははは、このブルート=フェスタに任せろ!」
「お前が一番心配なんだよ、ポンコツ!『焔海』に負けんなよ」
「な、なにおう!?負けるかっ!」
「大将、負けたら3位陥落だぞ?」
「うっ……負けるもんかっ!」
「放屁は勘弁してくれよな……」
「二度とするかっ!」
「ふふっ、次のキーマンもブルートですね」
「おうよっ!」
……これなら、大丈夫そうだな。
見ていろ、<最強軍閥連合>……!
見ていろ、<五騎当千連合>……!
最後の「玉座」は……俺たち<無法者連合>が奪う!
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
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どうやら、決闘に向けての準備は整ったようですね。
次回、「THRONES」!!
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




