6-93『駆け引き《ブラフ》』
―魔導師の戦いというものは、知力の勝負も問われる―
―魔導師の決闘というものは、血気盛んに魔法を撃ち合うばかりではなく、互いのカードの見せ合い、隠し合いによって駆け引きの上手さを競うものでもある―
そんな精神から学園の「決闘システム」は生み出され、色々と弊害は出てきているにせよ、今日まで一応の機能を果たしている……らしい。
……本当に、そうなのであろうか?
そんな疑問を抱いた男がいた。
その男は、過去の映像記録を漁り、学園の中でも最上級の存在である10人の魔導師たちと、その派閥の戦いを目に焼き付けた。
大いに疑問が残る。
たしかに、派閥単位での戦い、あるいは<連合>における戦いでは、それぞれが練りに練った策を駆使してダイナミックな戦いが繰り広げられている。
だが、その決闘を決定付ける、肝心の局面での戦いは、結局は『殿上人』と呼ばれる魔導師の威力任せの魔法で決まることが多いように思えた。
……結局、力業で決まってしまうのであれば、それをすべて覆してやろう。
これ即ち「下剋上」。
水を下から上に流すように、驕り高ぶり己の個の実力を過信した『殿上人』を、策と地の利、そして相手に対抗するに十分な確かな実力でもって覆す……
それが発想の発端であった。
幸い、男にはそんな突拍子もない、願望に近いアイデアを具体化することのできる策士の仲間が傍にいる。
漠然と抱いたイメージを簡単な言葉として示したときに、「勝手気ままに」解釈をして取り組んでしまう頼もしい実力者の仲間たちも揃っている。
実験ではあった……
だが、よくよく考えると、そもそも、今回行なわれる「DOOM」という「決闘方式」自体が、狂気を宿した研究者によって開発された舞台装置で行なわれる「実験」のようなものなのだから、試してみたとしてもそれ以上滅茶苦茶なことにはならないだろう……
だって、滅茶苦茶な人物が開発した滅茶苦茶な「決闘方式」なんだもの……
どうやったって滅茶苦茶な運用になるに決まっている。
とはいえ、この「決闘方式」は利用できる。
時間ごとに「属性」が切り替わるのであれば、こちらのメンバーも「属性」ごとに変えてやろう。
相手は、そこまで思い切った策を取れないだろうと踏んでいた。
でも、それ以上に、この策を実行したとしても、こちらの総合力が落ちるようなことにならないという確信もあった。
<連合>内のメンバーの誰もが、この大会に向けて、己の課題に向き合いながらも熱心に取り組んできた。
それならば、全員がその実力を発揮できる舞台をたった5分だけでも用意しよう。
もちろん、全体の作戦には従ってもらうが、出せる力は出し切ってもらう。
なに、最後1人まで減ってしまったとしても、最後に自分が出ればいい。
自分が次のステージに皆を連れていく……
……男は、そのように考えていた。
ただ、問題もあった。
それは、やはりなんといっても、相手の『殿上人』。
力業が好きな連中とはいえ、「腐っても鯛」……
1流の実力を持った魔導師ではある。
対抗策は2つ。
1つは、「三勇士」。
男を除いた派閥の「最高戦力」3人を相手としてぶつける。
彼らの成長が、追いつくかは分からない。
確率は五分五分……もないかもしれない。
だが、可能性があるのならば、賭けてみるのが勝負というもの。
それに、彼らがあっさりと破られる実力ではないことは、男にも分かっていた。
ならば、当日まで訓練に勤しみ、期待して待つだけ。
……どうせなら、自分の出番が来る前に終わらせてしまえ、と。
もう1つの対抗策は、「駆け引き《ブラフ》」だ。
ポーカーフェイスが得意な2人に、『殿上人』相手にカマをかけてもらう。
ポーカーフェイスが苦手なポンコツには、意図は伝えず、ありのままの本音を相手にぶつけてもらう。
相手の自尊心を刺激し、できるだけ自分たちのフィールド側で戦ってもらう。
それが叶えば、あとはきっと時間が解決してくれる。
「ドーム」内は、おそらく体感何倍もの時間に思えるだろうから。
……どうやら、「駆け引き」は上手く成功したようだ。
これにて敵を「地獄」に引きずり込む、「悪魔の策」は完成した。
……さて、どんな結末になるのやら。
◇「舞台中央」<『殿上人』視点>◇
こんなはずでは……
<2年生『殿上人』連合>の出場メンバーたちは、何度この言葉を思い浮かべただろう。
それは、『殿上人』と称される学園内の上澄み中の上澄みであっても例外ではなかった。
『竜巻』がいくつも「ドーム」内で暴れ回っている中、格下と思っていた相手との対決をずるずると引っ張られていた『光霞』と『宵闇』にとっても、今回の決闘は計算外以外の何ものでもなかった。
やり直せるものならやり直したい……
いつの間にか隣合う2人には、個人の戦いにおいても、チームの指揮官格としても作戦を変更する機会はいくらでもあった。
何事も引き際は肝心である。
彼らが優れた指揮官で、冷静な判断が下せる人間であれば、互いの相手との戦いが長引くと思った時点で1度引くなり、あるいは協力し合って状況を打破するなりすれば良かった。
あるいは、前線にいる幹部1人を呼ぶだけでも事態は変わっていただろう。
あるいは、自分たちがその場にいる「最高戦力」なのだから、相手の挑発など無視して自由に動き回るだけで、大きな脅威となっていたはずである。
仮に一時撤退したとしても、冷静に戦局を見極めて、チームとして勝つ確率が高い場所を狙いに行けば、少なくとも今の惨状にはなっていなかった。
だが、2人は、多々あるはずの選択肢の内、どれも選択せずに、1対1の戦いに固執した。
何故か?
まず、「格下」と見ている相手の、しかも1年生から挑発されたからという理由が1番大きい。
頂点に立つ者は、下からの挑戦を受けなければならない……そんな勝手に作った決まりが2人の中にあるのだ。
これが同じ「殿上人」であったり、自分たちに近い同世代の実力者であれば、2人も冷静な判断を下して、素直に引けたかもしれない。
だが、格下の後輩に「ナメられている」という事実が、そのまま「屈服させるまで離れられない」という特別ルールを勝手に設けてしまっていた。
少なくとも相手が引くまでは引けない……
そんな、心理状態に陥ったのである。
そして、戦う内に、その機を徐々に失していった。
心理状況ではなく、今度は、肉体的、魔力的に難しくなってきたのである。
始めは自分たちの方に余裕があると思っていた攻撃も、次第に「差」がなくなってきた。
『光霞』マライヤ=ミラーが対峙していたハリー=ウェルズは、魔法と騎士訓練から得た身体運動との『融合』によって対抗してきた。そして、指ぐらいの大きさにした『雷』やその他の魔法を高速で何発も飛ばしたり、1度出した魔法を『作り変えて』再度放つという変則攻撃をしてくるために、一気に攻略が難しい相手となった。
『宵闇』フォルクス=ガントはじっくりと張った闇の網の目で相手のカーティス=ダウナーが掛かるのを待っていたが、こちらも想定外の事態に見舞われた。
カーティスの放つ「グラン級」の属性魔法が、あらゆる形に変化し、状況に合わせていちいち最も効果的な形状で放たれ始めたのだ。
片や、1度放った魔法の作り変え……
片や、大規模な形状変化による広範囲攻撃……
毛色の違う戦法ではあるが、多彩さと変則的な攻撃もできるという点では共通している。
その相手に攻めあぐね、逆に相手は徐々に自分たちの攻撃に慣れていき、時間だけが刻一刻と過ぎていく。
そうこうしているうちに、肝心の魔力が心許なくなっていき、力業すらも難しくなり、いよいよ窮してきた。
早く決着をつけようと、前半のうちから飛ばし過ぎた。
今更悔いても、時間は巻き戻らない。
それどころか、事態はより悪化している。
控えめにいって、『殿上人』の2人はドツボにハマっていたのだ。
『光霞』マライヤ=ミラーと『宵闇』のフォルクス=ガントは、誰が張ったか分からぬ壮大な「蜘蛛の巣」に引っ掛かった……いや、自ら掛かりに行ってしまった。
驕り、憤り、相手の実力の見誤り……によって、「相手の土俵に乗って戦う」という無用な「縛り」を設けてしまい、引くに引けない状況を自ら選択した。
そして、もがいて抜け出そうと思った頃には抜け出す力を失いつつあった。
選択肢はさらに狭まり、いよいよ切羽詰まった『殿上人』2人は、プライドをかなぐり捨てる決断を取らざるを得なくなった。
哀しい哉、これが、2人がこの決闘においての最後の決断となった。
それは……互いに協力し合うという選択である。
「とにかく、まずは倒してからよ。良いわね、フォルクス」
「ああ、分かっているよ。とにかく下は任せろ」
1対1では決着をつけられないから2対2……
すでに、恥も外聞もない状況だが、背に腹は変えられない。
それに、タッグを組んだ形であれば、人数差ができるわけではないのでギリギリ『殿上人』としての面目は保てる……
とにかく、勝てば結果は残る。
……そう思って環境が1巡する頃から手を組み、今さらながら、巨大な『領域支配』を発動させたマライヤとフォルクスであったが……
「『水丸百華』」
バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ……
「『雷網打尽』」
ドォーーーン!
バリバリバリバリバリバリ……!!
「『光殻塁』」
ピシッ、ピシピシピシッ……キーーーーーーン!!
「ちょっと、なんで私があなたまで守んなきゃいけないのよ!」
「しょうがないだろ。俺に『雷』を防ぐ術はない」
「偉そうに言わないで少しは反撃の手だてを考えなさいよ!」
「今、やっている」
この『殿上人』たちはまたしても見誤った。
「1+1」が必ずしも「2」になるわけではない。
『光』と『闇』……
相性が悪い組み合わせなので、相乗効果があまり期待できない。
これが、仮に『瀑布』カシウ=フェスタと組むのであれば、『水』と『光』、あるいは『水』と『闇』ということで、『光霞』のマライヤも『宵闇』のフォルクスもまだ相乗効果が期待できたかもしれないが、『光』と『闇』では互いに反発してしまうため、タイミングを変えて放つぐらいしか連携が期待できなかった。
しかしながら、問題はそこではない……
「『小隕石群』」
「『炎網』、『れんぞくま』」
ドーーーン、ボボボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボボボボアッ!!
「くっ、『闇水蜘蛛』」
ゾワゾワゾワゾワジュワーーーーーーーーーー……!
対抗した『闇の領域』が大きすぎて、却って『光の領域』の妨げとなる。
「ちょっと、それじゃあ、私が魔法を放てないじゃないのよ!」
「うるさいな。仕方ないだろう」
2人の連携不足という面だけが問題ではない……
「『氷六玉』、『れんぞくま』」
「『グランウインド』」
ビューーーーーーーーーーーー……
ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ……
ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ……
ピキピキピキピキピキ……
「あー、もう!『光熱灯』」
ピカッ、ジュジュジュジュジュワーーーーーーーーー!!
これまで、1対1ではかろうじて握っていた主導権を、今では完全に奪われている。
「1+1」は必ずしも「2」ではない。
相手は、【紫雲】の幹部として常に互いを高め合い、研鑽してきた間柄だ。
「3」にも、「4」にも、「5」にもなっている。
魔法同士の組み合わせの効果、発動における息の合い方、発想と応用力……
どれをとっても、即席のコンビなど相手にはならないほどの熟練度であり、結果、本来の力関係は逆転しつつあった。
「『火矢八本』」
ボボボボボボボボボボボボボボボ……!!
「『炎網』、『れんぞくま』」
ボアッ、ゴォーーーーーーーーーーーー!!
◇
このまま、引き分けでもしたら……
あるいは、討ち取られるなんてことが万が一でも起こったら……
その可能性が『竜巻』が起こる頃にはいよいよ現実味を帯び始め、2人の『殿上人』は、開始直後の自信に満ちた威風はどこへやら、共に仲良く肩で息をしながら、見下していたはずの2人の『色付き』の攻撃を耐え忍ぶだけの状態となった。
思うように身体が動かず、魔力も思いどおりに運用できなくなってきている。
「魔力切れ」……
溢れんばかりの魔力を行使して高威力の魔法を放つ学園最高レベルの魔導師……『殿上人』として「恥」以外の何ものでもない言葉が頭をよぎる。
それ以前に、ひどく体調が悪い。
「ドーム」内の環境にい続けるということが……
「DOOM」という決闘が、ここまで過酷なものだとは思わなかった。
完全に……舐めていた。
「そろそろ、限界かな」
「ああ、俺もだ……」
そんな状況下で思いもかけない言葉が、攻めているハリーとカーティスの方から飛び出した。
限界……
つまりは「魔力切れ」?
相手も?
それとも、こちらを見越しているのか?
そんな疑問符が頭に浮かびながらも、受け手側の2人には、それを相手に確認する余力は残っていない……
今は『領域支配』ですら怪しい状況……
仕留めるにしても数発……
確実なタイミングを狙わなければやられてしまうほど、今の自分たちは頼りなかった。
対する2人の『色付き』は、すっかり油断のならない敵となっており、先ほどの発言も、戦闘中の「駆け引き」の可能性だってあるので、戦いが終わるまで1秒たりとも気を抜くことができない。
「おっ、大将、やったな!」
「やれやれ。これでお役御免か……」
相手は、余裕があるのか、あさっての方向を向いている。
これも、なかなかの屈辱的な態度……
だが、それを咎める気力も、2人にはもはや残っていなかった。
それ以上に言葉の中身が気になって同じ方向に目を向けると……
同じ『殿上人』の『瀑布』カシウ=フェスタが、弟に敗れ、舞台に倒れ込んでいた。
無残……
哀れ……
だが、馬鹿にすることも、同情することも、今のマライヤとフォルクスにはできなかった。
他人事ではない。
「じゃあ、先輩方。俺たちそろそろ行きますね」
「「は??」」
どこに……?
『赤魔導師』ハリー=ウェルズが、赤いキャップのつばの向きを整えながら、唐突に突拍子もないことを言った。
「俺たちもそろそろ魔力が限界ですし、今のお2人を倒したところで、それは俺たちの実力ってわけじゃないんで……また今度、条件のない舞台で戦いましょう」
「「は??」」
『黒魔導師』カーティス=ダウナーが黒いバンダナを巻きなおしてそう言った。
「ちょ、ちょっと!あなたたち、何を言っているの!?」
不可解にして不愉快……
「俺たち、役目を終えましたし、先輩たちもあいつとやりたがっていたじゃないですか。だからさくっと交代してきますね。『ハイウインド』、『れんぞくま』」
ビューーーーーーーーン……!!
『赤魔導師』は飛んでった……
「「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっ、ま―――」」
唖然とする『殿上人』……
「あいつは格下とはやらない」って言ってたじゃない……!?
それ以前に、この残り少ない体力と魔力で一体どうしろと?
「『ダンジョン』では魔力は計画的に……ですよ。引き際が肝心です。それじゃ『グランウインド』」
バビューーーーーーーーーーーーーーン!!
『黒魔導師』も飛んでった。
逃げ出したい……
できることなら、残りの決闘時間、何が何でも逃げ回りたい……
だが、足が言うことを聞かない……
そして、きっと、逃げられる相手でもない……
◇『炎(疑似火山)』◇
「やあやあ、先輩方。お待たせしました。それじゃあ、あまり時間もないことですし、さくっと終わらせましょうね」
そして、「紫の悪魔」はやって来た……
ニッコリと満面の笑みで……
「「の、ノーウェ=ホーム……!」」
「あんまり、体力残ってなさそうだし、手加減しますよ、『フロート』。リバー、一応、『闇』対策をお願い!」
満点の悪魔スマイルで宙に浮いている。
「承知しました『土塁』」
ドドドドドドドドドドドド……
命を受けた「悪魔執事」が補佐をする。
『土塁』なんて、作ったってこちらはもう攻撃できないから意味ないのに……
「『ハイファイア』、『れんぞくま』」
「『ハイファイア』、『れんぞくま』」
「『ハイウォーター』、『れんぞくま』」
「『ハイウォーター』、『れんぞくま』」
「『ハイウインド』、『れんぞくま』」
「『ハイウインド』、『れんぞくま』」
「『ハイストーン』、『れんぞくま』」
「『ハイアース』、『れんぞくま』」
「『ハイアイス』、『れんぞくま』」
「『ハイアイス』、『れんぞくま』」
「「ひいぃっ……」」
基本に忠実な、綺麗な丸の形をした、それぞれの属性の『魔法玉』が2人の『殿上人』……『光霞』マライヤ=ミラーと『宵闇』フォルクス=ガントの周囲を埋めつくし……
ボボボボボボボボボボボボボボボボ……!!
ボボボボボボボボボボボボボボボボ……!!
ドパパパパパパパパパパパパパパパ……!!
ドパパパパパパパパパパパパパパパ……!!
シュパパパパパパパパパパパパパパ……!!
シュパパパパパパパパパパパパパパ……!!
ドドドドドドドドドドドドドドドド……!!
ドドドドドドドドドドドドドドドド……!!
ピキピキピキピキピキピキピキピキ……!!
ピキピキピキピキピキピキピキピキ……!!
……
…………
………………
……爆ぜた!
◇
『殿上人』3人が一気に陥落するという学園始まって以来最も大きな「下剋上」がここに起こったのである……
驚きの目でその光景を目撃した観衆は、まだ知らない。
この前代未聞の学内事件も、ほんの始まりに過ぎないと言うことを……!
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
「縛ら」なければ、本当は、もう少し強い人たちなんですけどね……(^_^;)
まあ、いずれ名誉挽回してほしいですね。
次回、久々な気がするあの人のボヤき……
さすがに、もう、お分かりですね?(笑)
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




