6-91『ある幹部の断末魔』
18分経過
◇「舞台北側」<<2年生『殿上人』連合>幹部視点>◇
じりじりと体力を奪われる……
『強風』から『猛暑』に変わった「ドーム」内の環境だけの話ではない。
敵の最前線に攻め入ったはずの<2年生『殿上人』連合>の幹部たちは、今では防戦一方だ。
敵を甘く見て油断したドーム内環境『雨』と『雪』時点でのツケは『風』以降に支払わされている。
『風』との切り替えのタイミングで途中交代してきた『飛燕』コト=シラベの『飛燕領域』の中での戦闘を余儀なくされた。
攻撃しようにも、気紛れに吹く、方向を変える『風』とそんな無法地帯のような上空を苦にもせずに飛び続ける相手の「飛行隊」に翻弄され、ここでも魔法を無駄撃ちする始末。
5分間の内に強さを変える『風』に手を焼きながらも、なんとか相手に慣れてきたかと思ったのも束の間……
相手の「飛行隊」はあっさり退却し、隊長であるコトを残して全員メンバー交代してしまった。
一体何のつもりなのか……
大きな疑問符が浮かんだが、そんなことを考える暇もなく、幹部たちを敵の新たな「策」が次々と襲う。
「イッチャ、行っちゃいまーす!」
「ダメよ、イッチャ、ダメダメ。今回の策は遠距離攻撃でしょう?」
「ぶーーー」
幹部たちを挟んで行なわれる会話。
前門に虎……ならぬ、自身を発火させて目をギラギラさせている『火樽真』イッチャ=イマース率いる『火魔法』使いたちの「隊」。
後門に『飛燕』コト=シラベ。
猛暑という環境下で、後退することも許されず、暑苦しい相手6人の『火魔法』を受け続けて自然と汗が吹き出てくる。
それにしてもおかしい……
幹部たちは、誰とは言わず、それぞれが異変を感じていた。
それでいて、誰も自ら言い出すことができない。
同じ仲間であるはずなのに、互いに弱みを見せられない弊害がこんな場面でも見え隠れしている。
仲間なのに牽制し合う者たちを尻目に、敵は勢いよく炎を纏って肉弾特攻を仕掛けてくる……
結局、やってくるのかよっ!?
ああ、暑苦しいことこの上ない。
◇『砂嵐』◇
「なあ、なんか身体が重くないか……?」
ようやく、言い出せたのは、『猛暑』が終わり、次の環境に切り替わるタイミングであった。
「お前もか……俺も、なんかおかしい」
言葉を発した者も発していない者もそれぞれがこの意見に同意した。
さすがに、状況を考えると焦りも極致に来ている時間である。
時間にして20分が過ぎようとしており、全体の半分に差し掛かる。
なのに、大した成果を上げられておらず、ここまで、敵の「交代策」という術中にはまり続けている。
今では、『火魔法』を放つだけ放っていったイッチャ=イマースたちの「隊」は、またもやあっさりと退陣し、新たな刺客が「ドーム」内に入ってきた。
『土魔法』のスペシャリスト……コナース=イナッソ率いる隊である。
『砂嵐』が始まり、汗でベトついた幹部たちの顔に砂が容赦なく貼りついてくる。
ここに来て、ようやく、<2年生『殿上人』連合>の幹部たちも、敵の<無法者連合>の作戦に気づき始めていた。
各属性環境に合うメンバー構成の「隊」を組み、たった5分間だけ仕事をさせる……
たった5分であれば、その後の環境のことも考える必要はなく、魔力を温存することもない。
その「隊」の持つ「最高火力」の魔法を揃ってぶつけることができる。
元々の実力では上回っているはずなのに、さっきから、どこか押されているという感覚はそれだったのか……
いや、それだけではない。
相手の火力に押されているだけならまだしも、こちらの魔力が確実に落ちている気がする……
そのことに、幹部全員がじわじわと気づき始めていた。
……もっとも、個々に気づいてはいても、このことに関しては言い出せる者は1人もいない。
やっと折り返しの半分……
敵の『土魔法』攻撃を受けながら気が遠くなる思いがしてくる。
何か打開策を……と考えようにも、だんだんと頭がボーっとしてきた……
◇『豪雨』◇
25分経過……
『砂嵐』が終わるタイミングで相手はまたしても交代。
なんと、コト=シラベ、コナース=イナッソの両参謀共に下がり、7人が交代。
今度は『雨』に合わせて『水』のスペシャリスト中心のメンバーたちが入る……
……
…………
………………
幹部たちは、その頃になると、全員、肩で息をしていた。
魔力はまだ余裕があるはずなのに、どこかおかしい……
身体が重く、反応が鈍い。
その疲労感は思考の方にも現れており、無駄な被弾も増えてきている。
自分たちは「選りすぐり」のエリート幹部であるはずなのに……!?
そんな意地ともいえる思いで必死に『領域支配』を作り、その場で踏みとどまっているが、敵はそれをまるで嘲笑うかのように、なおも交代策を取り続けている。
◇『氷の世界』◇
30分経過……
景色は一面、『氷の世界』と代わり、大きく吐く息が白くなる……
さらに、おかしい。
『雪』ではなく……部屋全体が凍っている?
何が起きている?
魔道具の誤作動か何かか?
全員、混乱している……
決闘中止ならそれはそれで全然構わないのだが……?
敵は相変わらずの『氷』のスペシャリスト揃い。
能のないことばかりしやがって……!
ああ、1人やられた……
被弾して倒れてしまって立ち上がれない。
ああ、また1人……
また1人……
2人目の方は、魔法が当たったかどうかすらも分からない。
なんか、自分から倒れた感じだった。
体力的にもそろそろ限界が近い。
……
…………
………………
……どれだけ時間が経っただろうか。
必死に敵の攻撃を守るだけの時間……
もはや立っているのもやっとの幹部メンバーたち。
数は4人にまで減った……
◇『竜巻』◇
ようやく、長かった『氷』の時間が終わる。
……敵は相変わらずの全員交代だ。
全員がまったくもって余裕の表情……
あんちくしょう!!
こちらは本陣まで遠く、交代すらできないというのに……
憤る間も与えず、より恐ろしい事態が襲ってきた。
『強風』じゃなくて『竜巻』なんて聞いてねえ……!
舞台中央の「長」たちは無事なんだろうか?
もう目もかすんでよく見えねえや……
敵の中には『色付き』が再び混じっている。
黒のローブを着た集団が飛び回って、角度を変えて攻撃してくる。
わざわざ、ご丁寧にグラン級の『風魔法』を……
あいつらは、この『竜巻』が暴れ回る舞台の中で、なんであんなに平然としているんだ……?
しかも、こちらを狙うのではなく、悠長に『竜巻』に魔法をぶつけたりしてやがる……!
決闘中に遊びやがって……!
なんとか、敵の目を盗み、風の「死角」に逃げ込んで、敵の魔法も必死で残った仲間メンバーたち全員防御して持ちこたえる。
この決闘だけではなく、これまでの「冬の総魔戦」すべての戦いの中で、今が1番【派閥】の垣根を越えて結束している気がする。
残されたメンバーは4……いや、もう3人しかいないが。
舞台の隅にゴキブリのように逃げ込んだ自分たちを笑う者がいるかもしれないが、冗談じゃない!
こんな過酷な条件の決闘になるなんて聞いてない……!
こんなん、まるで戦場みたいじゃないかっ!?
あるいは、辺境の「怪物」級の魔物しかいない地帯にでも迷い込んだ気分だ。
生きているだけで丸儲け……!
……
…………
………………
……今回も長かった。
猛威を振るっていた『竜巻』が去った。
……でも、次が怖い。
『氷』の世界、『竜巻』地獄ときて……次は何が来る?
残る環境はあと1つ……
耐えられるだろうか?
……いや、耐えるしかない。
耐えて……生きてこのドームを皆で出よう!
◇『疑似火山』◇
熱っ!
熱っ、熱っ!!
ところどころが『火』を吹き始めた。
『猛暑』じゃなくて、『火山』さながらじゃないかっ!?
勘弁してくれよ……
……いや、それよりも、相手チームだ。
さすがにもう交代メンバーもこれで打ち止めだろう。
一体何人交代したか分からないがもう何十人も相手にしている。
さすがに、最後はそこまでの力を持った相手でないことを祈る……
「うおーーーー火山デス!『土輪布山泊』の精神を見せてやるデス!」
「そーデスネ!」
「「がるるるる~」」
……あれは?
【紫雲】の双子たちか……
目がかすんで良く見えないが、小さいシルエットなのに、両腕がこんもりと盛り上がっているのが分かる。
まるで御伽話によく聞く悪魔みたいだ……
たしかエルフ族とドワーフ族の混血……
それと獣人族の双子だったか……
その恐ろしい筋肉運動によって俊敏な攻撃を繰り出してくると評判だが、まだ何とかなるか……?
普段ならともかく、体力も魔力もつきかけている今は1番きつい相手な気がする。
いや、よく見るとシルエットがもう1人……
どうやら女性の魔導師のようだ。
誰だ?
必死に思考を巡らせる。
他に残っているメンバーなんていたか?
いや、誰かを忘れている気がする。
思い出せない……
数を数えようにも、もう計算する気力もなくなっている。
「あらあら、4人とも頼もしいですね。ハリー隊長も頑張っていることですし、張り切って行きましょう」
「「うおーーーー、やるデス!!」」
「「がるるるる~」」
「まっする、まっする」
「「「「マッスル、マッスル!!」」」」
……
…………
………………
……あっ、終わった!
最後が『泥欲』クレハ=エジウスかよっ!?
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
悲惨な報告になったようです( ;∀;)
※倒れた者は、順次、耐魔カプセルで移動する『透明マスク』が回収しております
次回、決着回2話目……
兄弟喧嘩の行方……!
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




