6-88『三勇士(黒の極点)』
◇「舞台中央」<カーティス視点>◇
『風』向きが変わった……
その『風』はある者にとっては救いとなり、それはまるで天からの福音のように聞こえ、そこから先の戦いの活力となった。
また、ある者にとっては、戦いの意欲や集中力を奪う強烈な向かい風となり、まるで「死の峡谷」で悪魔の声のように絶えず響く呪いに変わった。
『黒魔導師』カーティス=ダウナーにとってその『風』は、『救いの風』であった。
ここまで、『雨』は『風魔法』によって浮かび上がり、『雪』は『氷』にして空中で足場を作りながら、なんとか時間を稼いでいた。
それも、上空からの攻撃をし続けながら、である。
相手の『宵闇』は地上に『闇の蜘蛛の巣』を張って獲物が掛かるのを待つだけ。
策を練っているのか、それとも隠しているのか、今のところ、カーティスの攻撃に対処するのみで、これといった反撃はしてきてはいない。
ここまでの10分間は、我慢比べであった。
カーティスも45分間、魔法攻撃をしながら飛び続けていられるほどの魔力(魔力量)はまだない。
春に比べれば、格段に魔力も魔力量もついてはいるが、いかな魔導師といえども万能ではないのだ。
対峙する2人を観る人たちは、この膠着状態も、『殿上人』である『宵闇』フォルクス=ガントの有利と見ているだろう。
飛んでいる羽虫と待ち構える蜘蛛のどちらが強いかは一目瞭然である。
それでも、彼には『殿上人』を相手にも臆さず、対抗できる術と自信を持っていた。
ビューーーー、ビューーーー……
「ドーム」内が『風』に切り替わった。
「『大火球』」
ボバーーーーン……ゴオォーーーー!!
風が下に向かって吹いているので、ひとまず相手目掛けてグラン級の『大火球』を放つ。
「ケッ、『闇水水無』」
ジョバーーーーン!!
『闇』と『水』で相殺するフォルクスの動きを空から観察するようにじっと目を細めて見つめていたカーティスは、ローブを大きく開いて風魔法を両足で放った。
ブワッーーーーー……
そして、一気に天井近くまで浮かび上がる。
それは、羽虫というよりも黒鳥さながらであった。
「ケケッ、そうやって結局は逃げ回っているだけじゃないか。でもな、『風』はこっちに向いているんだよ『闇夜虚疾矢』」
ゾゾゾゾゾゾ……ドビュンッ、ドビュンッ、ドビュンッ、ドビュンッ、ドビュンッ、ドビュンッ!
……知っている。
『宵闇』フォルクス=ガントの副属性は、『水』と『風』……
『闇』という特殊な属性は、触れれば相手に呪いじみた強力な悪影響を与えるが、スピードという面で弱点がある。
それを補うのが、飛び道具として有用な『水』と『風』というわけだ。
『風』への環境変化は、カーティスだけでなく、相手にとっても「福音」であった。
……だからこそ、カーティスもそのときを狙っていた。
相手が攻勢に出たときが、こちらの唯一の仕掛けのタイミング……
「『風火走』」
ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ……
足裏で『温風』を放ちながら、空中を移動する。
フォルクスの放った6本の『闇の矢』は、おそらくただの遠距離攻撃ではなく、こちらの攻撃を封じる布石だろう……
だから、その前にこちらが動いて手を打つ。
ビュゾゾゾゾゾゾ……
やはり……!
『闇の矢』は仮の姿で本当の狙いは『投網』。
空中を黒き『闇の蜘蛛の巣』が拡散し、空飛ぶ黒鳥を狙う。
網の目は広い。
2メートル四方程度の隙間はある。
行ける。
ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ……
ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ……
カーティスは、空中で体勢を変え、再び、足から勢いをつけ、頭からフォルクスのいる方向に向かって飛んだ。
一気に網の目を抜ける。
「ケッ、そいつぁ、読み通りだよ」
ゾゾゾゾゾゾ……
急に『闇の網の目』が締まり出す。
「そうですか。こっちもです!『小隕石群』」
ヒューン、ヒューン、ヒューン、ヒューン、ヒューン、ヒューン……!!
ヒューン、ヒューン、ヒューン、ヒューン、ヒューン、ヒューン……!!
カーティスは普段から出せるようになった大きめの隕石を、まるでじゃがいもを専用の硬い糸の調理具の間に通して角切りにしたような形で放った。
バキッ、バキッ、バキッ、バキッ、バキッ、バキッ……
「な、何ぃっ!?」
『小隕石群』は『闇の網の目』を破壊し、『風』に乗って勢いそのままに、なおも相手に向かって行く。
「ちなみに、『風がこっち向いている』だと、先輩にとって逆風のままですね」
「はっ!?」
一応、言葉尻をとらえ、上げ足を取っておく。
この戦い……いや、この「第2ラウンド」が始まっての課題として、総大将ノーウェは「細やかな魔法」を掲げた。
それは、あくまでも抽象的な目標であり、その解釈は各人に委ねられる。
課題に対してカーティスは、グラン級に揃えた五大元素魔法の見直しをすることを取り組みとした。
1度基礎として確立し、手の内に入れた魔法を細かく見直していく。
それが自分にできる最善の方法だとカーティスは思ったのだった。
春先、魔物巣食う森の中で、焦って大きな失敗をしたときに、恩師であるクローニ先生はカーティスに言った……
―まずは、すべての魔法を『グラン級』に揃えなさい―
……と。
それは叶ったが、そこからの取り組みはすべてカーティスたち次第だ。
仲間内……「黒魔導師団」の皆と意見交換をしたり、他のグループや派閥と模擬決闘を重ね、カーティスは学びと気づきを得ることができた。
おかげで、一気に広がった……
視界が?
……それもある。
できることが?
……それもある。
実際に実感している。
でも、それ以上に広がったのは可能性。
自身の手の内に入れたグラン級の5大属性魔法は、その者の志向次第でいかようにも変えることができる。
それはつまり、『黒魔導師』はどんな魔導師も目指せる……ということだ。
『風』、『水』、『火』、『土』、『氷』の組み合わせが無限にあるように、その「形」も無数にある。
千差万別……
ここから先は、決まった「形」などないのだ……!
『黒魔導師』カーティスは、欲深い……
その千あるすべてを欲する……
『黒魔導師』として、イメージしていた「黒の五芒星」は、すべてを極めるオールラウンダーへの道であるということが今でははっきりと見えている。
その手始めとしたのは、魔法の「形状変化」。
槍、矢、玉などはまだまだ序の口。
すでに存在する、誰もがやろうとしている「形」の1つに過ぎない。
今までにない形、それを発動させるタイミング、そして威力の調整……
それを考え、その発動方法を試行錯誤に没頭することで、時間などいくらあっても足りないくらいにどんどん猛スピードで進んでいった……
グラン級の魔法を駆使し、「形」を変えて生み出せば、無限の広がりを与えてくれる。
それも、可能性の1つ。
……そして、それもまた「オールラウンダー」への道のりの、ほんの1点に過ぎない。
ヒューン……
ドーーーーン、ドーーーーン、ドーーーーン!
ドーーーーン、ドーーーーン、ドーーーーン!
ドーーーーン、ドーーーーン、ドーーーーン!
ドーーーーン、ドーーーーン、ドーーーーン!
「ちぃぃっ!」
地上に張られた方の『闇の蜘蛛の巣』も、『小隕石』によって破壊されていく。
地上でさらに砕けた『石』のいくつかは、その床との接地面を黒く闇に侵食されてしまうが、中には、無事の『石』もある。
カーティスはその安全な『石』に着陸し、今度はそこを起点に足で新たな『石』を積み上げていく。
「これで、振り出しに戻りましたね。先輩の魔力はまだ十分に残っていますか?」
「ケッ、ケケケッ、まだまだいけるに決まってんだろがぁー」
フォルクスがカーティスの乗る『石』積みの下の段を『闇』で侵食させていく。
腐食してボロボロと粉になって散り、『石』段は傾いていくも、カーティスは再び上空に飛んだ。
おかげで小休止できた。
さあ、もう少し……
柄じゃないが、もう1度挑発してみようか……
「そろそろ、軽く跳び越えさせてもらいましょうか。先輩……『火炎嵐』」
ボッ、ボッ、ボッ、ボッ、ボッ、ボッ、ボッ、ボッ……
ボッ、ボッ、ボッ、ボッ、ボッ、ボッ、ボッ、ボッ……
今度は、『太陽』をイメージした『大火球』を細かくちぎり、「ドーム」内の『風』に乗せて一気に解き放つ……!
福音は、前に進み、『追い風』を受け続ける者にのみ響く……!
「お、お前ぇーーーー!」
◇
「春の選抜決闘」で殻を破った雛鳥は……
「夏」、「秋」を越し……
「冬の総魔戦」で翼を大きく広げて飛び立った。
少し未来の話ではあるが……
これは、後に、「黒の極点」という異名で呼ばれ、「冒険者ギルド史上最も偉大な大魔導師」と称される男のターニングポイントとなった決闘である……!
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
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「黒」にも100通りあるって話ですかね……(笑)
次回、「黒」とくれば次は……?
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




