6-85『不発のブルート』
4分経過……
◇「南側本陣」<ブルート視点>◇
「俺が……小さいだと?ふ、ふん。言うようになったじゃないか。ならば見せてやる」
『岩』がさらに厚みを増して積みあがっていく。
「コ」の字型が「口」の字型に変わった。
周囲を『岩』に取り囲まれ、大量の『水』が放出され始める『大滝』……
その中心の空中にいるブルートは、360度、すべての方向を『滝』に囲まれてしまい、そこで浮いているだけでも水飛沫が掛かるような状態だ。
まあ、「ドーム」内の雨足が強まっているので、どちらによって濡れているのかはよく分からない状況ではあるが……
たしかに、「春」に戦ったときよりもその魔力が高まっているのだろう。
兄の『岩滝』のスケールは1年前よりも遥かに大きくなっている。
でも、やっていることは変わらない。
『岩』を積み上げ、そこから『水』を大量に落とす『岩滝』にする。
あるいは、『岩』と『水』を同時に落とすなんてこともできるのだろう。
魔力が高まっている分、その量も、範囲も、圧倒的に多く、そして広くなっているのだろう。
……ただ、それだけだ。
「これが『水』の『支配者級』の真髄だ。『滝龍:那由亜駕羅』」
ドォーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
案の定、全方位から流れ落ちる『滝』が『龍』の姿に変わる。
上下左右、その長い首と胴体をうねらせ、互いに絡み合いながら、一目に数え切れないほどの『滝龍』がブルートを包囲し始める。
「『越仙球羅華』」
ブルートはその身に大量の小さな『泡』を纏わせながら、プカプカと上空に昇り始める。
「はっ、そんなもので俺の『滝龍』を防げると思うなよ。『水』そのものの大きさを……格の違いを思い知るがいい!」
グルルルガァーーーーーーーーーーン……ザッバーーーーーーーーー!!
グルルルガァーーーーーーーーーーン……ザッバーーーーーーーーー!!
グルルルガァーーーーーーーーーーン……ザッバーーーーーーーーー!!
グルルルガァーーーーーーーーーーン……ザッバーーーーーーーーー!!
グルルルガァーーーーーーーーーーン……ザッバーーーーーーーーー!!
グルルルガァーーーーーーーーーーン……ザッバーーーーーーーーー!!
兄は、一体、何を必死に証明しようとしているのだろうか。
『水』の『支配者級』……?
もちろん、この学園に入学した当初は、ブルートにも憧れはあった。
自分の『称号』の持つ得意属性を極めた者が与えられる名誉。
たしかに、この何体もの巨大な『滝龍』はその証明なのかもしれない。
でも、それは結局のところ、ただ1つの属性を極めただけだ。
それが叶ったところで、魔導師の頂点に立てるわけではないし、自分の魔法をそれ以上発展させられるわけじゃない。
単なる通過点に過ぎないことに、そうやって必死でこだわっているから小さいんだ……
「『雲英王流渦』」
小さな無数の『水泡』が結集し、何体もの『水泡鯱』となって、ブルートの周囲を高速に旋回する。
空から降り注ぐ『雨』と、周囲で飛び散る『水飛沫』を取り込んでドーナッツ状の大渦を作り出しながら。
ギュルルルルーーーーーーーーーーン……ザッバーーーーーーーーー!!
ギュルルルルーーーーーーーーーーン……ザッバーーーーーーーーー!!
ギュルルルルーーーーーーーーーーン……ザッバーーーーーーーーー!!
ギュルルルルーーーーーーーーーーン……ザッバーーーーーーーーー!!
ギュルルルルーーーーーーーーーーン……ザッバーーーーーーーーー!!
ギュルルルルーーーーーーーーーーン……ザッバーーーーーーーーー!!
バァーーーーーーーン、バァーーーーーーーン、バァーーーーーーーン、バァーーーーーーーン、バァーーーーーーーン、バァーーーーーーーン!!
「なっ……!?」
『水泡鯱』は大渦とともに高速に移動し、途中で枝分かれして3体ずつ、同時に『滝龍』に喰らい付きながら、弾ける。
弾け飛んだ『滝龍』の水飛沫を自身の弾けた身に『補給』させながら回復し、1体、また1体と集団で『滝龍』を喰らっていく。
「ふぉぉーーーーーーーー!」
まだまだ上手く制御が行き渡っていない。
ある意味、暴走に近い、『水泡鯱』の猛攻……
それでも、威力勝負であれば、こんなもので事足りる。
そして、そんな程度のものは、ブルートが目指している戦いではない。
「ちいぃっ……ぐぉぉーーーーーー!」
グルルルガァーーーーーーーーーーン……ザッバーーーーーーーーー!!
グルルルガァーーーーーーーーーーン……ザッバーーーーーーーーー!!
グルルルガァーーーーーーーーーーン……ザッバーーーーーーーーー!!
グルルルガァーーーーーーーーーーン……ザッバーーーーーーーーー!!
グルルルガァーーーーーーーーーーン……ザッバーーーーーーーーー!!
グルルルガァーーーーーーーーーーン……ザッバーーーーーーーーー!!
ギュルルルルーーーーーーーーーーン……ザッバーーーーーーーーー!!
ギュルルルルーーーーーーーーーーン……ザッバーーーーーーーーー!!
ギュルルルルーーーーーーーーーーン……ザッバーーーーーーーーー!!
ギュルルルルーーーーーーーーーーン……ザッバーーーーーーーーー!!
ギュルルルルーーーーーーーーーーン……ザッバーーーーーーーーー!!
ギュルルルルーーーーーーーーーーン……ザッバーーーーーーーーー!!
バァーーーーーーーン、バァーーーーーーーン、バァーーーーーーーン、バァーーーーーーーン、バァーーーーーーーン、バァーーーーーーーン!!
「はあっ、はあっ、はあっ……ちいぃっ!」
『大雨』が『粉雪』に変わった……
この「ドーム」では、時間が立つに連れて、『属性環境』が強まるようで、切り替わった最初のうちは、その影響は弱いものに戻るらしい。
今は、『粉雪』程度であるが、これも、時間経過によってどんどん強まって『雪』、『大雪』、『吹雪』となっていくのだろう。
『滝龍』と『水泡鯱』が互いに相殺し合ったことで周囲から『水』は消え、視界の晴れた先では、『岩滝』の頂上に立つ、肩で息をする兄の姿が見えた。
その身体からは湯気が出ている。
「だから、言ってるんだ。自分の『水』だけを極めていればいいなんて、魔導師として小さすぎるって!」
ブルート自身、昔はそうであった。
……というか、それしか「道」はなかった。
両親からは見放され、兄姉に見下され、友人からは距離を置かれたブルートにとってその手に残っていたものは、『水』だけであった。
だからこそ、その『水』を大事に育て、『龍』を作れるところまで育て上げた。
フェスタ家の家紋であり、先祖が興した家の歴史に大きく関わっているといわれる『水龍』にちなんだ魔法を……!
でも、その『水龍』を作っているだけで自分は果たして満足なのか……?
……違う!
『水龍』はたしかにあいつらと出会うきっかけと、この学園でやっていく自信を与えてくれた。
ノーウェに敗れたあとも前を向けたのは、この手に『水龍』があったからだし、今もずっと磨きをかけている。
だが、それ以上に大事なのはこの【紫雲】という派閥の環境。
自分の手の中にある魔法を磨くと同時に、同じように研鑽を重ねる仲間のメンバーたちの魔法を参考に高め合える……その環境だ。
『水』だけじゃない……
『風』も、『氷』も!
一見、自分に関係ないと思われる『火』も、『土』も、『光』も、『闇』も……!
ゴブリンの魔法も、小さいおっさんの魔法も、意外と難しい天ぷらの技術も……
……きっとなんだって自分の糧になる。
彼らが磨き上げたその技術を知り、その過程を教えてもらったり、模擬決闘で実際に触れたりすることで、その形状、発動の仕方、開発に至る思考を知ることができ、それがきっと自分の魔法へと昇華される。
……半分以上、何を言っているか分からないけどな!
その積み重ねで「手」の上に乗せたものは、きっと兄の持つそれよりも今では何倍も大きい……!
自分がそれを証明してやる……!!
「あんたはただ魔法の威力を高めているだけだ、『瀑布』カシウ=フェスタ!そんなの【紫雲】では『成長』とは言わないんだよ!」
「な、なんだと……!?」
【紫雲】の魔法磨きとは、決して自分の魔法の威力を増すためだけのものじゃない。
もちろん、それも要素としてないわけじゃないが、そんなものは大前提にみんなやっていることで、人に誇るようなことではないし、それが「最強」への道ではない。
「成長」とは……魔法を磨き続けて「進化」させることだ!
「見せてやるよ。俺の本気を……!このブルート=フェスタの最強の魔導師への道を!」
「ちっ、図に乗りやがって……」
兄は、舌打ちをしながらもまだ肩で息をしている。
知っている。
それが、高威力の『牙』を磨き続けた代償だ。
今回は、見逃してやる。
そして、見せつけてやる……!
きめ細かな『風』を含んだ『水』をイメージして『水泡』を……
『水泡』をさらに細かく、さらに『風』で膨らませて無数の『雫』に……
それを、さらに『氷』掛けして冷やし固めていく……
手だけでは駄目だ……足りない!
全身で、いや、尻以外……
ブーーーーーーーー
……
…………
………………
「……」
「は……?それが、お前の本気だって言いたいのか」
「う、うるさいっ!今のは失敗しただけだっ、こ、これは、の、ノーウェのせいだっ!」
ブルートは赤面した……!
ここにきての放屁。
何も、この場面で出なくても……
一瞬、イメージをしてしまったのが失敗だった。
もう1度……
意識を集中する。
全身で『水』、『風』、『氷』を『融合』したものを放出する……!
シュワーーーーーー……モクモクモクモクモクモクモクモクモク……
シュワーーーーーー……モクモクモクモクモクモクモクモクモク……
「なっ!?」
突如、ブルートの全身から『白い煙』……いや、『白い雲』がモクモクと溢れ出し、その身を、その周囲を、そして滝の上から上空を覆ってしまった。
すでに、元いた場所に『水豪』ブルート=フェスタの影はなく、覆われた『厚い雲』の中にその身を潜ませた。
ブルート=フェスタは……
上空で『雲』隠れした……!
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
皆さん、ここまで85話という長い章なんですが、この第6章は「雲の章」なんです(^^)
おさらい……
「冬の総魔戦」における<無法者連合>の偉業(所業)
・決闘に主力が遅刻する
・他人の属性を無茶苦茶に変えて反則負けに追い込む
・決闘中に寝る
・決闘舞台を「ジャングル」に変える
・ラスト1分でゲーム全体をひっくり返す
・決闘中におならをする(←new)
次回……一方、あの2人の戦いは?
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




