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6-82『不感のブルート』

◇「『ドーム』内北側<ブルート視点>◇


「うおー、やるぞー」


 レミ=ラシードが「ドーム」内、舞台上でぴょんぴょんと飛び跳ねている。


 ブルートには、彼女がなぜあんなに元気なのかよく分からなかった。


 今日という日を迎えるまで、研究室の「疑似DOOM」内で合宿が行なわれた。

 隊を分けての訓練に次ぐ訓練。

 ブルートはハリー、カーティスとともに3人でチーム「三勇士」を形成し、残りの7人の隊をそれぞれ入れ替えながら、「DOOM」の出場人数と同じ10人対10人の模擬決闘を重ねた。


 ブルートたち「三勇士」はこの模擬決闘に出ずっぱりであったため、より多くの負荷がかかっていたことは間違いない。


 それを踏まえても説明がつかないほど、レミは、訓練時にも他のメンバーよりも素軽い動きをしていた。


 一方のブルートは……といえば、終始身体が重かった。


 訓練中だけでなく、それ以外の時間も……


 戦術理解のためのミーティングを除くと、ほぼ食事、入浴、トイレ、睡眠の時間しか残されていなかったが、その内、入浴とトイレ以外はすべて「疑似ROOM」内で の生活であった。


 さすがに、食事や寝るときに「砂嵐」は起こせないので、クレハ先輩たちが、微細な「風」に留めてくれたけど、それでも暴君ノーウェは不満げだった。


 「砂嵐の中で野営することだってあるだろ?」などと、終始無茶苦茶なことを言っていた。


 そんなことを人生で経験する可能性がある者がメンバー内でどれだけいるか分からないのに。


 少なくとも、重要な一戦前に試すことでは絶対にないはずだ。


「レミちゃん、なんでそんなに元気なの?」


 モモエが飛び跳ねるレミの隣で決闘そっちのけに質問した。


 『雨』が降り出したが、彼女の動きはこれまでとまったく変わらない。

 むしろ、一段と生き生きしているようだ。


 ブルートもすごく理由がとても気になった。


「えへへー、それはねー。私は毎日欠かさずに『ブラックボックス』に入っていたからなのだっ!」


「「「「「ああ、なるほど!」」」」」


 メンバー全員、合点がいった。


 レミは入学以来、「魔境」に遠征していた期間を除いて、ずっとあの微細な属性魔法の空間で辛抱する訓練を日課としていた。


 時間にして1日30分程度であったので、そこまで効果があるものなのかと思っていたが、日々の積み重ねというものは馬鹿にできない。


 ブルートは、自分も毎日やればよかったと今になって後悔した。


 それこそ、今更悔やんでも仕方ないことではあったけれど、その身に呪いがかかっているような状況下ではそう思うのも無理からぬことだろう。


「そういえば、降り始めてから俺も少し楽になったな……」


 隣に立つカーティスがそう呟いた。


 えっ?

 本当に?

 全然変わらないんだけど!?


 内心焦り出すブルート。


「本当ね!むしろ『雨』が降り出してからの方が楽だわ」


「たしかに。クレハたちの研究室にいる頃と似た感覚だな」


 ディリカやハリーもカーティスの意見に同調した。


 ブルートにはいまだその感覚がよく分からない。


 他のメンバーが口々にそう言い、『小雨』の先に見える敵の部隊がゆっくりと近付く中、『水豪』ブルート=フェスタは、雨粒だか汗だか分からぬものを額から滴らせていた。


「でも、リーダーもそうならそうと、きちんと話してくれればよかったのにな」


「あー、ノーウェ君が言うには、実際に中に入って変化に気づく方が大事だって言ってたよー。私がちょっとバラしちゃったけどねっ」


「習うより慣れろってことか……」


 ハリーやカーティスがレミたちと会話を続ける中、ブルートは必死に、感覚を研ぎ澄ませるように意識を全身の魔力の動きに集中させた。


 ……いや、よく分からない。


 まるで「不感症」のような状態。

 感覚がない。


「よーし、じゃあ、敵さんもそろそろやって来ることだし、気合入れるかー」


「「「「「おーーーー!!」」」」」


 「アンバスターズ」の7人がハリーの掛け声に対して元気に呼応すると、『光の防御壁を』張り始める。


 前面、側面、上部に張れば後ろは無色透明の膜が張ってあるので即席の『透明な箱』となる。


 隙間なくびっちりというわけではなく、側面に人が1人通れるようにしてあるし、所々わざと余白を残しているので、多少の雨は入るが、『防護結界』としては十二分に機能している。


「よしっ、じゃあ、俺たちもそろそろ行こうぜ、大将」


 ハリーに促され、ブルートはドキッとした。


「そ、それなんだが……」


「ん、どうした?」


「まだ、身体が重いんだ……」


「「はあっ?」」


 ハリーとカーティスが口を開けて驚くのも無理はない。

 事態は差し迫っている。


 敵陣はすでに舞台中央のラインを越えたので、そろそろこちらも動き出さないといけない。


 これからこちらが取る戦法は「三勇士作戦」。


 作戦の肝はブルート、ハリー、カーティスの3人だ。


 彼らが、ここから決闘の終わるまでの間、如何に自由奔放にこの「DOOM」内を飛び回り、相手の人数を減らしていけるかに、勝敗が掛かっている。


 そんなことは分かっている。


 ……でも、他の皆と違い、ブルートの感覚だけが、いまだに重苦しいままなのだ。


「風邪か……?」


「いや、大将に限ってそんなはずはないだろう。っていうか、そんなこと今言っている場合じゃない。とにかく作戦を開始しようぜ、大将。話はそれからだろ」


「う、うむ……そうだな」


 なんでブルートの身体なのに風邪でないとハリーが断言できるのかは分からなかったが、とにかく魔法を発動させようと試みた。


「『王流渦団オルカチーム』」


 ドリュンッ……ドリュドリュンッ……!


 ……

 …………

 ………………


「「……いや、でけえな、おいっ!」」


 ハリーとカーティスの2人に同時にツッコまれた。


 ……たしかに、いつもより大きな『水鯱みずしゃち』ができあがった気がする。

 鯨とまではいかないまでも、なかなかの恰幅の良さ。


「うーむ、おかしいな……」


 感覚がおかしい。

 それは変わらない。


「まあ、でも、魔法が出せなくなったわけじゃないし、戦いの中で慣れていくだろう」


「そうだな……じゃあ、乗るか」


 ハリーとカーティスがブルートの作った『水鯱』にそれぞれ乗った。

 『水鯱』の数は3体。

 ブルート、ハリー、カーティスの3人でそれぞれの個体に乗る。


 正確にいうと、ハリーとカーティスは、足に自分たちの『水魔法』と『風魔法』を微細に放ちながら、ブルートの『水鯱』と自分たちの魔法を同化させている状態。


 ジャックやミモレが使う方法で、自由に空を飛んだり、水面を滑ったりするわけだが、【紫雲】メンバーは、得意不得意はあれど、今では全員、こうやって他人の魔法でも自由に乗れるようになっている。


「よし、じゃあ行くぞっ!?」


「「おうっ!!」」


 ……バヒュンッ、シャーーーーーーーーーー!!


「「いやいや、速いって!!」」


 え?

 そう?


 ブルートは自分自身ではよく分かっていなかった。


 空中、隣を泳ぐ『水鯱』の背に乗るハリーとカーティスの顔が引きつっている。


「そんなに、速く感じないのだが……」


 3体の躍動感溢れる『水鯱』が、まるで空中に波を作るかのように、うねりを上げながら、猛スピードで空中を泳いでいる。


「来やがった!!迎撃しますか?」


「待ちなさい」


 あっという間に敵陣近くに来てしまった。


 危ないっ!


 ブルートは急に『水鯱』を方向転換させ、今度は右側……西に舵を切る。


「向こうに逃げたぞー!」


 ……あっという間に、敵と距離ができてしまった。


 たしかに、感覚がおかしいのかもしれない。


 ブルートは、その頭は一向に理解が進んでいなかったが、ようやく、事ここにきて身体の方が理解し始めてきた。


 身体が重いのではない……


 ……鈍いのだ。


「なんとなく、大将の感覚が俺らにも分かった」


「ああ、なんとなくだがな」


 え?

 そうなの?


 感覚ではいまだに分かっていないんだが……

 とりあえず、鈍くなっていることしか。


「大将、とりあえず、そのまま引き返して相手陣営の上空付近を突っ切ろう。止まらずに行ってくれ」


「うん?わ、分かった……!」


 ……バヒュンッ、シャーーーーーーーーーー!!


 3頭の『水鯱』が尾を大きく上げて身を翻し、再び躍動して、敵陣へと向かった。


 そんなにスピードを出している感覚はないのだが、敵陣がみるみるうちに近付いてきている。


 やはり感覚が鈍い……


「また、来ましたーー」


「食らえっ、『雷網打尽らいもうだじん』!」


 バシュンッ……!!


「み、皆、退避しなさいっ!」


 ドォーーーーーーーン!!バリバリバリッ!


 この『雨』の中、ハリーの『雷』はこちらの大きな武器だ。


 敵は散り散りとなった。


 ブルートは、今度は舞台中央、東の『膜』近くまで一気に進んでしまったので、再び『水鯱』の尾を翻した。


「くっ、貴方たちは敵本陣に向かいなさい。ここは私たちでやるわよ。良いわね?カシウ」


「ああ……」


 敵のリーダー格の1人、『光霞』マライヤ=ミラーが後方にいるブルートの兄カシウを呼んだ。

 それにしても、1人だけポツンと離れているな、と遠目に兄を見ながらブルートは思った……


「早く行きなさいっ!」


「「「「「は、はい」」」」」


 3人の『殿上人』を残して、敵の他のスターティングメンバー……つまり派閥の幹部たちが一斉に「アンバスターズ」の守る本陣に向かった。


「どうする、ハリー」


「好都合だ。俺たちの望んだ形になった。そうだろ、大将?」


 ブルートはその場で3頭の『水鯱』をくねくねと動かす。

 まだ、慣れない……


「ああ、もちろんだ。()()()()はお前らに任せていいか?」


「「ああ、任せろ!!」」


 ハリーとカーティスがそれぞれの『水鯱』の上でグーサインを作った。


 敵陣は、分離された。

 今がそのとき……


 ブルートにとっては因縁の相手。


 ハリーとカーティスにとっては、因縁はないがこれまで力の差を感じていた2文字の『称号』相手……その中でもトップクラスの強豪との戦い。


 この「三勇士作戦」を提示した<連合>の総大将ノーウェは3人に言った……


 「存分に、好きにやれ」と……!


 なら、やってやる!


「行くぞ!『殿上人』の喉元に食らいついてやるっ!」


「「おうっ!!」」


 ……バヒュンッ、シャーーーーーーーーーー!!


「行っくぞーーーーーーーー!『三体王流渦雷トリプルオルカアタック』」


 3体の『水鯱』とその上に乗る「三勇士」が猛スピードで3人の『殿上人』に襲い掛かった……!!


ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


今こそ成長を見せる時……!

※「三勇士」は、本当は「三銃士」にしたかったんですけどね……


次回、「三勇士」VS『殿上人』


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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