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6-81『重い身体』

「ううっ……」


「きっつ……」


「……これから決闘するんだよな」


 3人とも身体が重そうだな。


 控え室から専用通路を通ってアリーナの舞台に向かう俺たち。


 今日は決闘本番だというのに、うちの<連合>の鍵を握る「三勇士」は調整を失敗したのか、重い足取りだ。


 まったく……

 なんという体たらく。

 これじゃあ、本番が思いやられる。


「いや、3日間の合宿をして、今日も朝練をさせたのはお前だからな、アホノーウェ!」


「俺たちは前日で切り上げて休養に当てようと言ったぞ、リーダー」


「相手どうこう以前に自分に負けそうだ」


 ……などと意味不明なことを抜かしている「三勇士」。


 むしろ、ギリギリまで「魔境」や「DOOM」の環境下にいれたんだから御の字だろうが。


 その証拠に、ほれ、このとおり。

 身体が実に軽い。


「くっ、バケモンめ!」


「何をどうしたら、リーダーみたいになるんか」


「1周回った感じなのかな」


 先頭の俺に続くこの3人以外のメンバーたちも総じて身体が重そうな感じだ。


「張り切っていこー」


 俺以外にはレミだけが1人気を吐いている感じだ。

 みんなは、レミに対しても俺に対してのものと同様に変な生き物を見るような目でみているが、俺には彼女がピンピンしている理由についてはなんとなく見当がついている。


「それではー、皆さんお待たせしましたー!本日のメインイベントを行ないまーす!」


 トルナ先生の声が通路まで響いてくる。


 先生も気合い十分のようだ。


 今回は「第2ラウンド」最後の決闘だし、その舞台がこれまでの「決闘方式」と違って特殊なんで、通路で待っていて、呼ばれたら向かう演出なんだそうだ。


「本日の『決闘方式』は『DOOM』。学園一マッドな頭脳を誇る教授が開発に携わり、学生一マッドな派閥が考案した『決闘方式』になりまーす!」


 クレハ先輩はダメ教授ほどマッドな印象を受けないけどな。


 たまに、頭で考えて突っ走るところや特定のことに執着する面は見え隠れしているけど、決闘の仕方とか見ていても割と正攻法だし。


「刻一刻と変わりゆく環境を両チームともにどう乗り越えていくのかー。ちなみに、ダンジョンの中も環境がエリアによって違ったり、移り変わったりするから、これから攻略に向かう人は注意してねー」


 もう慣れたけど、とにかく話をダンジョンに絡めたがるトルナ先生。


 ダンジョンについて、言っていることは正しいけど。


 ……というか、変わりゆく環境を楽しむのがダンジョンや「魔境」探索の醍醐味だからね。


 俺が過去に踏破したダンジョンは全部違った環境だった。


 火山、海底神殿、地底空洞、大森林、雲までかかる高山の迷路……


 冒険者の経験としては少ない方だと思うけど、環境的には全部違ったので、そっちの経験的にはなかなか大したもんだと自負している。


 あとは、雪山とか氷にまつわる場所にいってみたいね。


 ちなみに、それらをすべて網羅して、出てくる魔物を数倍強くしたのが、マーロック遺跡となるわけだ。


 マグマ地帯と氷雪地帯が同じ階層にある……なんてこともあったしね。


 そう考えると、この「DOOM」は、相当な可能性を秘めているといえる。


 大会のみで使われる「決闘方式」という扱いよりも、訓練施設のような形で残せばかなり実用的なんじゃないかと思うんだよね。


 魔導師としての基礎訓練になるのはもちろん、ダンジョンに挑む前の冒険者の擬似体験場として有益だ。


 「紫雲城」の客間に置かれているソナタ商会の発明品「ブラックボックス」の強化版みたいな感じだな。


 大会が終わったら是非ともクレハ先輩、ダメ教授、トルナ先生あたりに掛け合ってみよう。

 下手したら、学園に「疑似ダンジョン」を作れるかもしれない……!


「それではー。いよいよ出場選手の登場でーす!まずは、この大会の『台風の目』、『ダークホース』と言われてきました。ここまでその前評判に違わない、いろんな意味での暴れっぷりを見せてくれています、悪魔の学生軍団、ノーウェ大魔王率いる極悪集団、はたまた、ダンジョンの申し子たち……彼らが向かうところ常に嵐を呼ぶ一団、<無法者連合>の入場でーす!」


 ワーーーーー……!!

 キャーーーー……!!


 ……なんか、大仰な異名がたくさん付けられているんですけど……!


 とりあえず、「大魔王」扱いされたことについては、あとで厳重な抗議をすることにしよう。


 しかし、「春」の頃はほとんどブーイングばかりだったけれど、変われば変わるもんだな。

 今では、俺たちに対しても声援が上回っている気がする。


 ……ちょっと前(というか前回終わり)には、思いっきりブーイング食らったけど。


 足取りの重かった仲間メンバーたちも、観衆の前に出てようやく1本、芯が入ったように背筋を伸ばして歩いている。


 きっと「DOOM」の中に入ったら身体の調子も変わるだろうから、それまでの辛抱だよ……たぶん!


 舞台は一見、これまでの他の「決闘方式」と変わらないように思える。

 だが、遠くからでは分からないが、近付くと5日ほどの工事期間を持って、特別な施設が建設されたということが、徐々に見えてきて、至近距離になってようやく分かる。

 空中の所々に平べったい円形の小さな魔道具が浮いているように見えているのだが、実は、無色透明の「膜」が全体を覆うように張られており、その「膜」の内外両側に貼られている状態なんだ。


 リバーやクレハ先輩の説明によれば、「魔クリル」がこの無色透明な「膜」の素材として使われているのだそう。


 以前、リバーが雨のときに差していた傘に使われていた素材だな。


「インビジブルフローター」にも用いられている。


 ちなみに、「アクマイール大樹」の素材は、今回の「膜」の素材としては使われていない。

 魔法を阻害してしまったり、変な影響を及ぼしてしまったら困るからね。


「膜」の内側に用いられているのは、属性魔法を発する魔道具。


 肉眼では、硬貨ぐらいの大きさにしか見えないんだけど、実際はこちらも透明な膜を素材として使用しているらしく、実際には大皿よりも平べったく大きな形をしているんだそう。


 この魔道具……


「『雨(水)』→『雪(氷)』→『強風(風)』→『酷暑(火)』→『砂嵐(土)』」という5つの環境変化をこの透明のドーム内で引き起こし、5分毎に切り替わることになっている。


 25分で1巡する計算だね。


 果たして、その内容どおりに切り替わっていくのかどうか……


 俺はいまだにちょっと疑っている。


 だって、開発者があのダメ教授だから。


 以前も、「ROOM」のときにドラゴン型のマムンクルスとか学園長のマムンクルスを配置したという前科があるからね。

 疑っておくに越したことはない。


 味方メンバーにもこのことを注意喚起をしておいた。


 全員、「さもありなん」って感じで頷いていたから、きっと同じことを思ったのだろう。


 「ドーム」の膜の外側にもいくつか同じような魔道具が貼られているが、こちらは「防護結界の魔道具」だそうだ。

 素材に貼り付けることで、その素材の強度を増してくれるらしい。


 「防護結界の魔道具」という言葉にどこか馴染みがあると思ったら、ダメ教授が「マノ村」で開発した魔道具のことだった。


 あの銭ゲバに知られたら、1つ1つ叩き壊されそうな魔道具だけど、ダメ教授の専売特許としてその工法を秘匿しておく分には安全なのかね。


 その辺は、きっと、リバーが上手くやるんだろう。


「続いての登場でーす!3人の『殿上人』からなる2年生集団。第3戦に敗れはしたものの、今回ここで勝てば「決勝ラウンド」進出の目が出てきます。無法者たちの進撃を上級生として止めることができるかー?ダンジョンにおいても、経験に勝るものはない、<2年生『殿上人』連合>の登場でーす!」


 相手チームが、反対側(南側)の通路から舞台に出てきた。


 3つの派閥がなんか間隔を開けて歩いているね。

 これまでの決闘でもそんな感じの入場だったっけ?


 まあ、いいや。


「それでは、スターティングメンバーの10人は係員の指示に従って階段の上の扉から『ドーム』内に入室してください。なお、交代時も係員に申告の上、指示に従っていただきます」


 普段、舞台に上がるための階段部分の上部に旗を持った係員の人が立っている。

「ドーム」内部ではトルナ先生が、以前キャリー先生も使っていた透明の球体の中に入って座りながら実況している。

 救護係のキャリー先生もその隣で当たり前のように座っているけどね。


 透明の球体の中で大の男2人が並んで座っている様子はなかなかシュールだ。

 その内1人は透明マスクだし……


 うちのメンバーは、ブルート、ハリー、カーティスとレミたち「アンバスターズ」がスタメンだ。


「おおっと、これはどうしたことだー?ノーウェ=ホームやクレハ=エジウスといった面々はどうやらスタメンではないようです」


 どよどよどよどよ……


 全体を映し出すスクリーンに、両チームのスターティングメンバーが映し出された。


 俺、リバーはもとより、クレハ先輩、コト先輩、コナース君なんかも控えに回っていることに、相当な反響があったみたいで会場全体がどよめいている。


「これも『悪魔参謀』リバー=ノセックの計略なのでしょうか?これは、開始から目の離せない展開になりそうです」


 相手のスタメンは想定どおり『殿上人』3人が出ているね。


 ちょっと意外だったのが、ブルートの兄ちゃんの派閥【陶水】は彼1人しかスタメンに名を連ねていないことだ。


 これは、何かの作戦なんだろうかね?

 まあ、考えてもよく分からないから、気にしないことにするけど。


「それでは、そろそろ決闘開始時間が迫ってきましたー。ルールは単純明快。相手を全滅させるか、制限時間までにこの「ドーム」内のメンバーが多かった方の勝ちとなります。制限時間は45分。5分毎に中の環境が変わりまーす!始めは『雨』です。切り替わったタイミングが決闘開始となりまーす!」


 ……おっ、ドームに貼りついている魔道具が水色に光り出した。


 いよいよだな……!


 ポツポツと内部で雨が振り始める。


「それでは決闘開始でーす」


 運命の一戦が今始まった……!


 ◇「南側『ドーム』内」<カシウ視点>◇


「なんだよ。あいつら調子に乗りやがって!」


「ええ。ノーウェ=ホームもクレハ=エジウスも出ていないなんて!私たちを愚弄するに等しい行為だわ」


 カシウと少し距離を置いた両隣で、2人の「殿上人」仲間が憤っている。

 いや、今となっては「仲間」であるかどうかもよく分からない連中だ。


 2人が憤っている理由は、ノーウェ=ホームたち主要メンバーの何人かがスタメンとして出場していないこと。


 カシウはその理由を裏工作をした父から伝えられて知っていたが、それを味方メンバーである彼らには伝えないでいた。


 勝った暁には「自分のおかげで勝てたんだ」という材料にするつもりではあるが、事前に伝えたところでこの連中はそれを評価することもしない奴らだということが先だってのミーティングで露呈したからであった。


 指揮官の苦悩を知らずに文句を言うばかりの連中に話すことなど何もない。


「ノーウェ=ホームもクレハ=エジウスも出ていないんじゃどうするよ?」


「めぼしいメンバーでいうとブルート=フェスタ、ハリー=ウェルズ、カーティス=ダウナーぐらいね。まさか、自分がブルート=フェスタを倒したい、なんて言わないわよね、カシウ?」


「ふん、そんなものに興味はない。勝負はノーウェ=ホームたちが出てきてからだ。最初の5分は自由にやれ、ハリー=ウェルズの『雷』だけは警戒した上でな」


「了解」


「いいわよ。敵が交代策を取るまでは、まずは『雑魚狩り』と行きましょう。あなたたちもいいわね?」


「「「「「はい」」」」」


 『雨』が振り始め、決闘開始となり、カシウ以外の9人が勢いよく飛び出した。

 カシウは距離を置きながら、一応は後を追うように、ゆっくりと歩き始める。


 雨にじわじわと濡れて少し身体が重く感じる……


 いや、重いのは身体なのだろうか。


 <2年生『殿上人』連合>総大将にして指揮官カシウにとっては、少々重苦しいスタートとなった……!

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


開戦……!

果たして身体の重さは何を引き起こすのか……?


次回、ブルートの感覚……!


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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