6-78『視察』
◇「コスモアリーナ」東側観客席(『天ぷら会』直前の午後)◇
光陰矢の如し……
……ちょっと違うか!
『光』っていうよりも『雷』の矢だったもんな。
「如し」っていうよりも、まんま矢だったし。
それにしても、早期決着となった。
45分まるまる戦っていた俺たちが申し訳なくなるほどに。
観客にとってはどうだったんだろうか。
制限時間いっぱいまでの決闘とわずか10分程度で終わった決闘を比べた場合、どちらが好ましいんだろうね。
ただ、1つ言えることは、決闘時間にかかわらず、内容の濃い決闘というものは、観衆を震わせ、その心を鷲掴みにする、ということだ。
今回、ガイル先輩たち<職人気質連合>が<五騎当千連合>の胸を借りて挑んだ真っ向勝負は、観客たちに熱狂をもたらした。
ぶっちゃけ、そこに「ELEMENTS」という決闘の特性が関係したとは、ほぼ言えなかったように思う。
解釈としてはありかな、とは思うけどね。
ガイル先輩とコイン先輩の合わせ技で本陣のある『氷と石の城』を作ったところまでは、新決闘のルールの範疇だったといえるけど、そこからは、舞台中央の『柱』の攻防という名目の、互いにがっぷり四つのガチンコ決闘の様相だった。
先輩たちは、この「ELEMENTS」という決闘を、自分たちの目的を叶えるための舞台に変えたんだ。
それも、ありっちゃ……あり。
ありよりの……あり!
ガイル先輩の意気込み、たしかに受け取りましたよ。
それで、いいんです。
決闘の形なんて、ルール内であれば「なんでもあり」なんですから、自分の「色」に染め上げてしまえばいいんですよ。
単純な「戦闘方式」だって、戦う人間によって千差万別なものになるんだから、極論をいえば、ルールにさえ則っていれば、実際にどんな決闘にするかはすべて戦う者に委ねられるんだ。
運営でなくて、ね。
<職人気質連合>の狙いは明確だった。
隣に座るリバー曰く、ガイル先輩は、おそらく<五騎当千連合>の最強魔導師5人を中央に集めるために、わざと自陣を「城」にした上で、全員で積極的に中央の『柱』を狙いに行ったそうな。
結果は、大方の予想通り<五騎当千連合>の勝利で、終わってみれば『迅雷』イクス=トストという学園でも最高火力の魔法使いが、4人の猛者を引き連れて放つ多彩な雷魔法とそれぞれの強力な魔法の競演となり、文字通り彼らの独壇場だった。
その結果だけみれば、ガイル先輩たちの完敗。
それでも、<職人気質連合>、そしてガイル先輩たちにとって収穫の多い決闘だったように思う。
時間をもっと長引かせることはできただろう。
あれだけの『氷と石の城』を建てたわけだから、そこをベースにして防衛戦術をとる……ということも可能だった。
でも、あれほど火力が強い相手に対しては、どうやってもジリ貧になっていくし、結局は、どんな状態の相手と戦いたくて、そのために自分がどういう状態で臨むか……
それに尽きると俺は思う。
「2年生主体の戦術を取ったところも彼なりの意図があったんだと思います。それに、派閥の枠を越えての混成チームでしたからそこにも意味がありそうです」
リバーの補足パート2ね。
なるほど。
2年生主体、それも【魔転牢】、【堅切鋼】、【粋座真】を混成した隊を作り、ガイル先輩たちは、果敢に攻撃を仕掛けていた。
普通に考えたら、連携面からして、隊を派閥ごとに分けた構成の方が上手く行くだろうに、そうしなかったことに意味があるということのようだ。
おそらく、ガイル先輩たちの「隊」はギース先輩や尻踊ってる先輩、【堅切鋼】の次期主力であるペニー先輩とニッケル先輩だったことから、彼らの連合の2年生の中でも最高戦力の部隊だった。
その隊と、別動隊として動いていたグレイシー先輩たちの隊が、相手の「五騎」とぶつかり合ったときにどこまでやれるか……ということを1番測りたかったのだろうなということが想像できる。
結果は、相手の横綱相撲だった。
相手が「四騎」までの時点では、実力的に拮抗していた感じだったが、イクス先輩の『雷の矢』が飛んで来たときに、均衡は崩れた。
もっとも、ガイル先輩はなんとか対処しようとしていたけど、一手間に合わなかったって感じだったな。
ずっと、先輩の動きに注目して観ていたけれど、頭と身体は反応していたけれど、魔法の方が追いついていなかったという感じだった。
ガイル先輩も実力者には違いないけれど、少なくとも魔法の使い手としては、まだ「達人の域」にはいないってことなんだろう。
それって、つまりは「伸びしろ」ってやつだけど。
『雷の矢』は均衡を崩したものの、まだガイル先輩たちの隊自体を崩したというわけではなかった。
ここで、<職人肌連合>の3年生であるコイン先輩やクォーター先輩、ドワーフ族のカンエイ先輩、ケイチョウ先輩、エルフ族のワドー先輩たちの隊が救援として雪崩れ込み、コイン先輩の『石魔法』でイクス先輩の『雷の矢』を止めた。
そこからは、乱戦。
コイン先輩、クォーター先輩、ガイル先輩が揃えば、ほぼ『殿上人』が3人並んだ状態になるし、ギース先輩たち幹部クラスのメンバーも何人もいたので、ひょっとしたらという期待感はあったんだけど、<五騎当千連合>の攻撃はすさまじかった。
観察していて、気づいたポイントは2つ。
まず、『迅雷』イクス=トストと黒ライオン……『音爆』シンガ=ソングが時間差で互いのパートを持っていたように見受けられたこと。
『雷』が飛んでくる。
それに、全力で対処していると……
次に、『風の爆発』が襲ってくる。
……こんな感じ。
【雷音】の派閥名は伊達じゃない。
相手のペースに飲まれないように、グレイシー先輩たちの隊や、エルフ族のワドー先輩の遠方攻撃で<職人気質連合>がペースを掴もうとしていたけど、それは『火吹』リオン=シュミット、『涙雨』レオナ=イースによって完全に防がれてしまっていた。
側面からの、あれだけの多人数攻撃を抑えきるあたり、あの2人もまた相当な実力者だ。
そして、もう1点。
意外……といっては失礼かもしんないけど、<五騎当千連合>の戦術の核は、俺らと同期である『灰魔導師』グレイ=ゾーエンス君だった。
彼は、1人で時間差攻撃ができる……
……それこそが、この戦いの勝負の大きな分かれ目だった。
どういうことかというと、グレイ君は、<職人気質連合>の攻撃に多彩な属性魔法を用いて対抗しながらも、同時に、時間差で発動する『灰魔法』を仕込む作業を並行して行なっていたんだ。
それも、色々と属性や威力、形状を変えて。
なかなかの芸達者。
俺が前回の決闘で『火柱』に『ジェリーマジック』を仕込んでいたようなもんだね。
これによって「五騎」が実質「六騎」になり、そのズレがガイル先輩たち<職人気質連合>の計算を狂わせて、次第に形勢が傾いていった。
相手が対処しきれなくなれば、イクス先輩の『雷魔法』がさらに猛威を振るう。
強者による強烈な1撃が隙間から入り込めば、それは大きなダメージを引き起こす。
実力的に、あるいは戦術的には、ほんの僅かなズレだったんだけど、あのような形で「ガチンコ」のぶつかり合いとなったときには、その小さなひずみが大きな勝負の分かれ目になるものなんだ。
最終的には、残ったガイル先輩、コイン先輩、クォーター先輩もダウンとなって「全滅」という結果でこの決闘は終了した。
たった5人で3倍の人数、それも実力者揃いの15人を全滅させたわけだから、観客の熱狂ぶりは凄まじかった。
まさに、千両役者。
決闘を観ている者に、強烈な印象を植え付けた。
本陣に突っ立っていただけの、御曹司とか元【土灸雲】たちは何やってんの?って感じではあったけどな。
敗れた<職人気質連合>については……
……決闘が終わったあとの先輩たちの表情が晴れやかだったから、俺はなんか安心したよ。
だから、収穫が大きかったのだと、思ったってわけ。
「もしかすると、他にも収穫があったのかもしれませんけどね」
リバーによる補足パート3。
……いや、補足はしてないか。
意味深で含みのある言い方だった。
でも、なんとなく俺には関係ないような事柄な気配がしたので、気にせず聞き流すことにした!
それよりも、今、目の前で大きな問題が起こっている。
「用意し過ぎでしたかね……」
「ああ……」
俺は手に持ったあるモノの処理に困っているのだ。
右手には、「マルオマール」という海の魔物の持つプリプリの身を揚げて「天ぷら」にしたものを、饅頭と同じ生地で包んで巻いた「天ぷらロールまん」……
左手には、同じ「マルオマールの天ぷら」を米の飯で巻き、塩漬けにした葉物野菜で巻いた「天ぷら巻」……
それをお重に詰めて食べながら観戦していたのだけれど、メインの決闘があっという間に決着してしまい、ほとんど食べ終わることないまま、残ってしまったのだ。
「とりあえず、食べましょうか」
「うん……」
モグモグ……
もぐもぐ……
はむはむ……
「美味しーね。この『マルオマール』って食材。プリプリした食感と甘味が『天ぷら』によく合うよ。マヨネーズとも相性バツグンッ!」
素晴らしい食レポをしてくれたのは、レミ。
本日、このあとで皆で振る舞う予定の「天ぷら」のメインを飾る食材にお墨付きをいただいた。
身を粉にして調理した甲斐があるというもの。
「私は、こっちの『天ぷら巻』が好きです。野菜の漬物で巻いてあるので、天ぷらの油で重くなった口の中が最後にさっぱりして……リバー君が考案したタレのジュレも零れにくくなっていて、アリーナで食べる軽食にピッタリですね」
素晴らしい食レポパート2はモモエによるもの。
なんか知らんけど、彼女たちは最近、新発売の軽食やスウィーツの特集を組んだ記事制作にも力を入れているらしい。
映像と一緒に紹介記事を載せることで、彼女たちが運営している「あぷる」の利用者数も抜群に増えるんだと。
レミが口元にマヨネーズを付けながら、なんか彼女たち自身をマスボ撮影しながら力説してくれた。
それにしても……作り過ぎたな。
いくらマルオマール1匹から天ぷら300本くらい作れるとはいえ、これはやり過ぎだ。
ちなみに、マルオマールは、海の中で両手に鋭い鋏を持ちながら回転して襲ってくるから、出くわすとかなり危険な魔物なんだよ。
10体以上に囲まれたときはさすがに血の気が引いたね。
あのときほど『ローリン』を持っていてよかったと思ったことはなかった。
目の前には重箱が積まれており、中には「天ぷらロールまん」と「天ぷら巻」がびっしり!
「俺は作り過ぎじゃねえかって言ったよな?」
「ノーウェが調子に乗り過ぎた」
「う……」
ここぞとばかりに重箱の隅をつつき、料理長に対して下剋上を迫る従業員2人……その名もハリーとカーティス。
「いや、手伝ってやっているだけだからな?」
「あくまで、ノーウェの『ワビメシ』だ」
「ぐ……」
悲しい。
誰も「魔境の天ぷら職人」の偉大さを分かってくれないんだ。
「まあ、葉物野菜をどれにすればいいか、色々と試してみたかったですしね」
そうフォローしてくれたのはリバー。
ありがとう。
「せっかくですから、試供品として配りますか」
そう言って、リバーはアリーナ内の売店の人たちと話をつけてくれた。
……一般客に配る前に、どこからか現れたタイガさんたち屋台衆に重箱を全部掻っ攫われてしまったけどね。
なんか、研究するらしい。
◇
「Bブロックは決まりか。Aもほぼ確定だし、あとは俺たちCブロックの結果次第だな」
観客のほとんどはけたアリーナの通路を歩く中、隣にいるポンコツがそう呟いた。
「大将にとってはリベンジだな」
「【陶水】がいるからな……」
「う……分かっているさ!」
……煽るなって。
俺、ポンコツ、リバー、ハリー、カーティスの5人で通路を歩いていると、僅かに残っている観客たちが一様にこちらに視線を集めてくる。
ふっ、今や俺たちも時の人だからな。
有名人は辛いぜ……
「はんっ、貧相な格好してやがるな」
……ん?
なんか野次が聞こえる。
「ククク、そんなに身体中に粉を吹いて、偵察で冷や汗でもかきすぎたのかい?」
……野次かと思ったら、違った。
これは、煽りというやつだ。
通路の先に、いたのは【雷音】の4人とグレイ君。
さっき、決闘が終わったばっかなのに、帰り支度が早いっすね。
それとも、俺たちが長居をし過ぎたのか。
「なんで君はそんなに白い粉まみれなんだい?ノーウェ=ホーム」
聞いてきたのは、向かい合う5人の中央にいる人物、『迅雷』イクス=トスト先輩だ。
煽りの白黒ライオンは置いておいて、イクス先輩は純粋な質問っぽいからお答えしてもいいかな……
「ふっ、修業ってやつですよ」
「修行?」
先輩は首を傾げた。
「はっ、今更、修行なんてしたところで俺たちに勝てると思ってんのか?」
「まあ、あんたには分からんだろうね。繊細な『音』は。馬鹿みたいに大きな自分の声と魔法ですっかり耳がイカれてるでしょうから」
このイカ耳野郎がっ……!
「なっ!?て、てめぇ!」
なんだ?
やんのか、コラッ!?
「野営天ぷら道」を馬鹿にするやつは、くたくたになった油の天カスにしてやる、このカスがっ!
イカの天ぷらカス野郎っ!!
俺を睨みながら今にも噛みついてきそうな黒ライオン。
でも、イクス先輩が手で制止したら急に鳴き止んだ。
借りてきたライオン……
イクス先輩は改めてまじまじとこちらを眺め、しばらく考えこんだあとに口を開いた……
「身体中粉まみれになることが何かの修行に繋がるのかい?」
「はい。『野営天ぷら道』の真髄ですよ」
「えっ?」
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
「最強」を前にしてもマイペースを貫く男……
それがノーウェ=ホーム!
次回、フィッティ先生の魂の叫び……!
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




