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6-77『観察者』

◇舞台中央『火柱』<ガイル視点>◇


「はっ、いよいよ総力戦ってわけか」


 魔法技の応酬が起こったあと、奇妙な沈黙が支配する舞台上で、最初に口を開いたのは、やはりというか、黒髪の長髪を方々に逆立てた獅子獣人の血の入った男、『音爆』シンガ=ソングであった。


 たった5人でこちらの全軍を迎え討つというのに、焦る様子はまるでなく、むしろ、この状況を心底楽しんでいるようだった。


 そんなシンガとは対照的に、<五騎当千連合>の総大将であり、学園最強の男は今も淡々としている。


 短くまとめたその白銀の短髪は、逆立てていても一向になびく様子はなく、その口元はわずかに微笑んではいるが、その心情を読み取ることはできない。


 ガイルは、自身の周囲に微細な冷気を放出し、纏った。


 気を鎮め、頭を今一度冷静な状態に戻すのに、『氷魔法』は役に立つ。


 ここからは、1度の攻防で戦局が大きく動くため、躊躇なく判断していくことが求められる。


 バリバリバリッ……バリバリバリ……


「コイン先輩!」


「おう」


「『珠雷矢じゅらいや』」


 再び、やじりが丸みを帯びた『雷の矢』がイクス=トストによって放たれた。


 それを見越していた<職人気質連合>側の最高戦力、『石嶺』コイン=ドイルが、ガイルたちの立つ最前線よりさらに前に駆け出す。


 1つ前の攻撃では、遠くから放ったにもかかわらず、あの威力を誇った『雷網』である。


「『石壁』」


 高さ2メートルほどの『石の壁』が向かい合って対峙する両<連合>を分かつように組み上がり、敵陣に向かって幅寄せする。


 『石の壁』が相手に迫るのに合わせ、コインも単身寄っていく。


 そのままの位置では味方に被害が及ぶ恐れがある、という判断の元にコインとガイルが瞬時に示し合わせた戦術であった。


 バリバリ……ボガーーーン!


 壁が音を立てて崩れていく。


 バリバリバリバリ……


「連撃だよ?『雷剣雷切らいけんらいきり』」


 続けざまの『雷魔法』がコインを襲う。


「分かっているよ『防塞衣織ぼうさいいしき』」


 バリバリッ……ガキィーーーン!

 バリバリバリッ……!


 強烈な『雷の剣』がコインを貫いたかに見えたが、その全身を覆う堅い石によって弾かれ、周囲に放電した。


「へえ。やるもんだね……昨年とは違う、というわけかい?」


「『春』に教訓を得れたもんでな。達人は隙を突いてくるから一分の隙も許されない……ってな。イクス、お前も足元をすくわれないように、気をつけた方がいいぜ。『武石降離ぶろっくこうり』」


「ふうん。まあ、肝に命じておくよ」


 大きな四方体の『石塊』が相手に向かい、その手前で弾け飛ぶ。


 意趣返し……というやつだ。


「『跳音波ちょうおんぱ』」


 ガオーーーン、ヴーーーーン……バァーーーン!!


 パラパラパラパラ……


「おいおい、こいつは個人戦じゃねえんだぜ、コイン。お前1人で攻撃を受け続けて、一体どれだけ持つんだろうなぁっ」


 獣の咆哮のような振動する『風の大波』が『石』の拡散攻撃を防ぐ。

 そればかりか、余波がコインの身体を容赦なく襲った。


「俺たちがなぜ『五騎』なのか分かるか?それで十分だということもあるが、何より足で纏いは邪魔なだけで要らねえからだよ!『来音牙応らいおんがおう』」


 ブバーーーーーー!!


 『音爆』が『強風』を放った。


「『風』隊、頼む!」


「「「おう!」」」


 相手の『風』はただの『風魔法』ではない。


 『氷壁』


 ギース、フルール、ニッケルの『風』で対抗しつつ、ガイルはコインの周囲に『氷の壁』を張った。


 ヒューーー……ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ!


 『音爆』による『風』は突如破裂する。


 だから、ただの『風』だと思って安易に受けてしまってはいけないのだ。


 ボンッ、ボンッ、ボンッ……ピキピキピキ……ピシャーーー!


 なんとか、防ぐことはできた。


「へっ、やるじゃねえか。じゃあ、こっちもそろそろ連携で行くかい。なあ、坊ちゃんよお」


「もうとっくにやってるよ、うるさいな」


 ビュオオオーーーーー!


 ……!


 『竜巻』が起こっている。


 それも、ただの『風魔法』ではなく、『石』を巻き混んでいる……


 ……それも、均等に、満遍なく。


 あれは、一体どういう原理であろうか……


 まるで、『風』と『石』が結合しているかのようだ。


「『風切の領域』、『風切乱舞』」


 ブーーーーーン……シュパパパパパーーーーーン!


 『風切』クォーター=ムソウが、コインのすぐ後ろまで近づき、グレイ=ゾーエンスの放った『竜巻』に対し、『真空の刃』で応戦する。


 今回の決闘で、ガイルがクォーターに指示した役割はコインの衛星となり敵の攻撃に対抗すること……


 これは、クォーターが自らガイルに志願してきたことでもある。


 「大連合決闘」を経て、彼は、特に敵の『灰魔導師』に対して警戒を強めていた。


 今なら、そんなクォーターの考えも素直に頷ける。


 ……こちらの魔法を再利用してくる『灰魔導師』は、戦略面でみても、今や危険な存在であった。


 それでも、ただ手をこまねいているわけにはいかない。


 ガイルは、再び、『冷気』を見に纏い、周囲に薄っすらと白い煙(粉雪)を立ち込めさせた。


 ……先ほどとは違う形状で!


「よし、行くぞ」


「「「おう」」」


 ガイルの『薄氷煙』に呼応するように、副将ギースの掛け声によって、対のメンバーが2手に分かれ、コインとクォーターの脇に向かう。


 前線6枚。


 ガイル自身を除いて、考えられる最強の布陣だ。


「『氷水塔ひょうすいとう』」


 同時に、ガイルは、今度は自身の足場を作り、高さ5メートルに及ぶ『氷の司令塔』を建てた。


 ただの『氷塔』ではなく、そこから水が全方位にチョロチョロと流れている。


 ガイルは、塔の上で、再度纏っていた『冷気』の形を変えた。

 チョロチョロと流れていた水が冷気によって固まり、『薄氷煙』の形が変わる。


「行くわよ」


「「「「はい」」」」


「私たちも出番だ」


「「わっふっふ」」


 別働隊がガイルの合図に応じて、前線6人の並びのさらに外側に移動する。


 足手纏いかどうか、存分に全体攻撃を味合わせてやる。


 ガイルは数ある戦術の中で、「鶴翼」を選択し、それを皆に知らせた。


 大きな鳥が翼を広げたように、隊を横に広げ、敵陣の正面と両サイドを包囲する形になる。


 ガイルの体の周りと頭上にゆらゆらと立ち上がる『薄氷煙』が1つの束になって頭上に線を作ったそのとき……


「いくわよ」


「放てー」


 両サイドの別動隊が同時に魔法を放った。


 ドォーーーーーーーーーーーン!!

 ドォーーーーーーーーーーーン!!

 ドォーーーーーーーーーーーン!!

 ドォーーーーーーーーーーーン!!


 敵陣は2列になっており、前列にシンガ=ソングとグレイ=ゾーエンス、後列に少し間隔を開けてレオナ=イース、イクス=トスト、リオン=シュミットが並んでいる。


「そう来るのは読めてるねぇい!『大炎幕だいえんまく』」


 タンッ、タタタタタタタタタタ……タンッ、ゴォーーーーーーーー!!


「『大水笑莉おすいしょうり』」


 ザザザザザザザザザザザザッーーーーーーーーーーーー!!


 両サイドを『炎』と『水』の壁が覆う。


 最初のときと同じパターン……


 攻撃のパートを前線2人とイクス=トストが担い、相手の攻撃を残る2人が防いでそれを輪番する。


 こちらの別働隊も渾身の魔法矢や魔法の投擲攻撃を距離をおいて行なっているが、敵後列2人の作る壁を突破できず、穴を開けてもすぐに壁の他の部分が塞ぐようにこちら側の魔法を飲み込んでいく。


 黄金パターンとはいえるが、単調といえば単調。


 ガイルは、より注意深く敵陣の動きを観察する。


 これが基本形なのか……


 それとも奥の手を用意しているのか……


 今のところそのどちらかなのかを判断するに十分な材料がない。

 それを見極めるためにも、このままジリ貧になることだけは避けたい。


 ガイルは、より神経を研ぎ澄ませ、周囲を凍り付かせるほどの『冷気の領域』を作り出した。


 見極め、頃合いで強烈な一撃を入れる。


 ここまで、ガイル抜きの14人で対応できている。

 次も同じパターンで来るのであれば、どこかでこちらが有利に回るタイミングがあるはず。

 仮に、こちらの「鶴翼」に対応して特定のメンバーを狙って攻撃してきたとしても、それはそれで誰かが「囮」となる。


 皆、それだけの覚悟ができている面子だ。


 そんな決意のもと、ガイルはじっと敵陣の動きを見つめた。


「よーし、じゃあこっちもお遊戯は終わりにするかぁーー!行くぞ、『音弾風連投おんだんかれんとう』」


 グイッ、ヒューー、グイッ、ヒューー、グイッ、ヒューー、グイッ、ヒューー……


 敵は、戦法を変えてきた。


 『音爆』シンガが手で『風玉』を掴んで力任せに放り投げるような仕草をとると、『風の玉』がまるで玉を投げるかのように飛んで来る。


「『風切』」


「『軟扇子なんせんす』」


「『大風輪』」


「『嵐棒』」


 敵の『風玉』が近くで弾ける前に、こちらの『風』隊がカウンターの一撃を放つ。


 バァーーーン!バァーーーン!バァーーーン!バァーーーン!


「はっ、いつまで持つかな?ほれ、ほれ、ほれ、ほれ」


 グイッ、ヒューー、グイッ、ヒューー、グイッ、ヒューー、グイッ、ヒューー……


「『風切』」


「『軟扇子なんせんす』」


「『大風輪』」


「『嵐棒』」


 バァーーーン!バァーーーン!バァーーーン!バァーーーン!


『風』が弾けてその度に轟音とともに空気が震える。


「順番を抜かすな、腐れライオン。『灰泥露羽はいどろう』」


 ブバッシャーーーーーーーーー!!


撥水渦孔はっすいかこう


「『大風切』」


 ……敵の攻撃が加速している。


 5人だというのに、恐ろしい力だ。


 ……だが、まだ大丈夫だ!

 次は、おそらく……


「『雷散弾らいさんだん』」


 ビュンッ、バリバリバリバリバリ……!!


「『武石集中射ブロックチューシャ』」


 ばら撒かれる巨石……


 ブンッ、ブンッ、ブンッ……


「『邪愚鍋ジャックポット』」


 ドォーーン、ドォーーン、ドォーーン、ドォーーン、ドォーーン、ドォーーン!!


 『迅雷』イクス=トストの『雷魔法』は脅威であり、その技は多彩ではあるが、あまりにも強すぎることが、この「集団戦」においては却って足かせになる。


 ガイルは、決闘前からそう予測しており、結果、その通りになっている。

 

 決闘戦は「怪物」との戦闘ではなく、人同士の争いだ。

 強力過ぎる大技は放てず、広範囲に攻撃しようとなると『矢』や『玉』などの最小限の威力に終始するしかない。


 もっとも、彼にとっての「最小限」は、こちらにとっては「冷や汗」ものだが……


 それでも、上手く抑え込んでいる。

 ……これならいける!

 ガイルが、いよいよ魔法技を放とうと集中し始めたそのときであった。


「『大号泣雨だいごうきゅう』」


 ドォーーーーーーーーン……ザザザザーーーーーーー!!


「まずいっ、『憑狐十二氷矢ひょうこじゅうにひょうし』」


 ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ……


 ピキピキピキピキピキピキピキ……


「へえ……さすがだね。『氷狐』ガイル=ワイリー。この速度でこちらの攻撃を読むとは『珠雷矢じゅらいや』」


 バリバリバリバリバリバリ……!!パラパラパラパラパラパラ……!


 『涙雨』レオナ=イースが拡散させて上空から落とした雨をガイルの放った『氷の矢』が味方メンバーに降り注ぐ前に凍らせ、そこをイクス=トストの『雷の矢』が『網』となって氷を砕いていく。


 ガイルが、気づいていなかったら、多くが降り注ぐ雨によって濡れ、その後、感電していただろう。


 間一髪、ホッと胸を撫でおろしたそのときであった……


 ピキピキピキピキピキ……


「「「「うわっ!!」」」」


「「「「「え?」」」」」


「「「うおっ」」」


「鶴翼」に陣取った味方の足元にパラパラと落ちて地面に消えていったはずの『氷の粒』が再び集まって固まり始め、味方メンバーたちの足を、まるで地獄に引きずり込む血塗られた手のように凍らせ掴み始めた。


 予想外の状況に挙を取られ、隊は、攻撃に移る手をほんの一時、ほんの一瞬であるが忘れてしまった。


「上出来だ、坊ちゃん」


「ふんっ、お前ら、お膳立てはしておいてやったぞ」


「ありがたや~『大弾炎だいだんえん』」


 ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ……


 どんな理屈であったのか、理解できない。

 だが、確実に挙を突かれ、こちらの攻撃が止まってしまった。

 これまでの攻守の流れが一気に崩れる。


 ……「氷の智将」ガイル=ワイリーは、高速でその頭脳を回転させた。


 しかし、いくつかの方策を思いついても、瞬時に掻き消されてしまう。


 それでも、決断しなければならない。


「『雷散弾らいさんだん』」


 バリバリバリバリバリ……


 だが、間に合わない……


「『来音牙応らいおんがおう』」


 ブバーーーーーー!!


 連撃に続く連撃……


 そして、『氷狐』ガイル=ワイリーは、ここで、敗北を悟った……!


◇「西側特等席」◇


「ここまでかな……」


 湯気が立ち込めている。


 息をすると喉を焼かれそうな感覚になるほどの蒸し暑いサウナのような場所で、上半身裸のハーフパンツにサンダルという恰好の男が呟いた。


 時間にして12分。

 1人、また1人と退場していく中、いよいよ男が見込んだ『総大将』も限界が見えていた。


 室内に掛けられている専用の12分計がちょうど1周したところだ。


 全面には透明の窓が貼られているが、不思議と湯気によって曇ったりはしていない。

 それどころか、外からは見えない「魔法窓」という、無駄に凝った造りになっているのだ。


 男のいるサウナ室はこのアリーナ内でも特殊な特等席といえる場所。

 「最高級ゴンドラ室」を予約できる人間にも、その多くは知られていない、運営に携わるものだけが手配できる会員制の特別な部屋だ。


 西側の観客席付近に置かれた巨大な「火山」のディスプレイの内部の一角にある小数人数用の個室である。


「ガイルは、よくやってくれましたよ。これは、かなり貴重なデータがもらえそうです」


 男の他にこの特別サウナ室で観戦する客はもう1人。

 バスローブにスリッパ姿の異様なスタイルの魔導師、『湯蛇』レオ=ナイダスその人である。


「満足か?」


「ええ。貴方はどうですか?とびきりの『遊び場』を提供した人間としては」


 ぶっちゃけた話、裸で汗だくの男『水興』のサンバ=オンドレアにとっては、この部屋は暑すぎるので、そろそろ出たいのだが、隣に座る下級生はまったく変わらぬ様子で、居心地がよさそうにしている。


「まあ、俺はあいつが楽しんだなら満足だよ」


「そうですか……ククク」


 レオは楽しそうに笑った。


「これで、めぼしい2年はお前だけになるな……ああ、あとはCブロックの結果次第だが、おそらく『泥欲』と『飛燕』くらいか。どうよ、世代代表として」


 そんな様子を見て、少々癪に思ったサンバは、一度顔の汗をその大きな手で拭ってから、少し意地の悪い質問を試みた。


「ククク……もちろん、ガイルの渡してくれたバトンはしっかりと握りしめて絶対に離しませんよ。最後に勝つ者が『最強』ですから」


「そうか……なら、楽しみだ。がっはっは!がはっ、がはっ、ごほあっ!!」


 思わぬ答えが返ってきたために、大笑いしたサンバであったが……


 熱すぎる空気によって、盛大にむせこんでしまった……!

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


この2人も相変わらずですね~(^_^;)


次回、ノーウェによるナレ決着解説と決闘後の再衝突!


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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