6-76『薫陶』
◇「コスモアリーナ」<ガイル視点>◇
「ガイル、『音爆』は俺たちに任せろ」
「ふふふ、爆音なんて風流ではないからね。僕の『風』で黙らせるさ」
「俺たち3人の『風』に耐えられるかな?」
ブーーーーーーーーーン……!!
ブワッ、ヒュルルルルルーーーーーーーー!!
ゴォォーーーーー……ザァーーーーーーー!!
『風波円』ギース=フ―ディーズ、『流風』フルール=ニーツク、『青嵐』ニッケル=エンシューという『風』のエキスパートである3人だ。
ギースは、鋭利な『風』をリング状にして飛ばす戦法……
フルールは、扇状の『火』と『水』を合わせた『風の乱舞』を得意とする戦法……
ニッケルは、水を含んだ『風』を『嵐』に変える戦法……
その組み合わせとそれぞれの魔法の発動のタイミングや持続力を利用した時間差攻撃によって『音爆』シンガ=ソングを封じ込める。
「はっ、2年坊主どもの連携かよ。いいぜ、相手してやる」
バァン、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ……!
『風』と『風』の激突が舞台中央で起こり、舞台中央が嵐とも竜巻ともいえる勢力圏ができあがる。
ガイルは、その様子を冷静に見つめながら周囲を確認する。
「ふんっ、あのクソ野郎、張り切りやがって……『灰露雨』」
悪態を吐きながらも、敵の新入生は魔法を発動させ始める。
どんな魔法を使う気だ?
気づけば、上空に舞う『嵐』……ニッケルの発動させた『雨』がくすんだ色に変わっていく。
「まずいっ、『氷牢』」
ピキピキピキピシーーーーーーーーーーーーンッ!!
ガイルは、鋭くさせていたその目をカッと見開いて、メンバーを守るための天井付きの『氷の箱』を作り出した。
間一髪、色の変わった雨が分厚い氷をも溶かしながら煙を発しているのを見て、内心、ホッと胸を撫でおろした。
「へえ……やるねえ」
「はっ、気づきやがるとはな。さすがは『氷の智将』ガイル=ワイリー。これもサンバの野郎の薫陶ってやつかあ?」
薫陶……?
たしかに、サンバ=オンドレアは、ガイルにとって常に指針であり、光であり、絶対君主である。
だが、彼はガイルに対して懇切丁寧に何かを教えてくれるわけではない。
むしろ、自由にさせる。
始まる前に1つ「遊び場」をガイルに与え、その中で「好きにやれ」と言ってくれるのだ。
それを「薫陶」といえばそうなのかもしれないが、気づいたのは、ガイル自身であり、その気づきを与えてくれたのは、今回に限って言えば、周囲の仲間メンバーたちである。
「……これが、『灰魔法』ってやつか、恐ろしいな」
「汚いねえ……風流じゃあないよ」
「ちっ、俺の魔法を……」
危うく、3人とも一挙にやられるところであった。
『灰魔法』による『雨』……
秋頃に戦った「大連合決闘」において、お披露目された『灰魔導師』グレイ=ゾーエンスの魔法をガイルはずっと分析していた。
当時、<大連合>を組んでいたノーウェ=ホームは、『灰魔法』の極意は属性魔法の性質を変えることにあるという見当を立てていた。
それをガイルなりに、決闘データを漁るなりして細かく調べ上げていたのだ。
彼の睨んだとおり、グレイはニッケルの放った『嵐の雨』を腐食させた。
これが『白魔法』と『黒魔法』を合わせた効果なのか……
相手の新入生による驚異的な魔法に舌を巻くが、同時にそれを見破っていた別の新入生の慧眼に敬服する。
それに、『色付き』と呼ばれる魔法の幅の広さにも……
「ちっ、腹が立つなあ。そうやって分かったような顔で防がれると無性に腹が立つんだ」
危うい……
優秀には違いないが、どこか不安定さを抱かせるその魔導師を観察しながら、その頬に一筋の汗を滴らせるガイルであった。
「はっ、それにしても、大の男5人して箱の中で縮こまっていていいのかあ〜?」
ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ……
かと思えば、もう1人が魔法で力任せに『氷』を破壊しながら、ぶっきらぼうな調子で挑発してくる。
一見何も考えていないような物言いでありながら、実は裏では芯から冷えるほどに冷徹に物事を見ている。
生憎、ガイルはこの手のタイプの人間には慣れすぎていると言っていいくらいに慣れているので、その挑発に乗ることはない。
先ほども、こちらの風使い3人を相手にしながら、冷静にグレイ=ゾーエンスが魔法を放つ間を測らせていた。
口ではいがみ合いながらも、その連携はまるで10年来の友人か、同じ家で過ごした兄弟であるかのように……
「心配には及びませんよ」
シューーーーーー……
ボボボボアーーー……
ドドドドドドドド……
「ちっ、横やりかよ」
「はんっ、小賢しい奴らだ」
こちらの様子を見て、【魔転牢】のメンバーであるガイルの同級生たちが、援護の魔法攻撃をした。
『光輪鈴』グレイシー=キーストン率いる部隊には、隙を見て敵の本陣への攻撃を指示しているが、隙ができるまでの動きはすべて彼女たちに一任している。
「「『水泡氷霧』」」
プシューーーーーーーーーーーーーーーーー……!
「ちっ……」
「何だぁ!?」
グレイシーたちが作ってくれた間を利用して、ガイルは、【堅切鋼】の2年生のホープ、『水溌』ペニー=ソセキと『共鳴』して、泡を凍らして作った『白い霧』を放ち、敵の2人を攪乱する。
ブーーーーーーーーーン……!!
ブワッ、ヒュルルルルルーーーーーーーー!!
ゴォォーーーーー……ザァーーーーーーー!!
立て続けにギースたちが、再び『3種の風攻撃』を放つが……
ボボボボボボボボボアーーーーーーーーーー!!
「助太刀だよい」
トプンッ、トプンッ……ドバッシャーーーーン!!
「援護します」
ガイルたちの立ち位置の両側面から巨大な『炎』と特大な『水の雫』が放たれた。
『白い泡霧』を『炎』が蒸発させ、さらにガイルたちの周囲を『火』が覆い、それとギースたちの『風』を押しつぶすように『水の雫』が落ちる。
見なくても誰の魔法か分かる。
『火吹』リオン=シュミット、『涙雨』レオナ=イース……
最強の5人がすでに4人集まってきた。
これはガイルにとっても想定していた展開ではある。
ガイルたちが舞台中央を抑えようとすれば、彼らは必ずそれを排除しようと襲い掛かってくる……
……最強を自負する彼らはそのプライドをくすぐれば乗ってくる。
<五騎当千連合>の全員を集め、ガイルたちも総力戦で臨む。
それが、ガイルたちの目的であり、乱戦に持ち込んだときに試される真価を見定める……
敵も、味方も……
「『氷周刑』」
今度は自分たちではなく、わざわざ集まってくれた「四騎」を閉じ込めるために、ガイルは、即座に円形の『氷の檻』を自分たちを含めた一帯に発生させた。
「何が目的なんでしょうか……」
「警戒した方がいいかもしれんよ」
「くくく、飛んで火にいる夏の虫ってやつだね」
もっとも、彼らは、こちらの計略など歯牙にもかけない様子だ。
「はっ、俺たちを閉じ込めたつもりか?仕掛けてんのはこっちなんだよ」
ガイルの正面で仁王立ちしながら不敵に笑うシンガ=ソング……
分かっている。
これから「真打ち」がやってくることを……
間に合うか……
ガイルは一気に脳を高速で回転させる。
自分は、天才ではない。
そう自惚れていた過去はあったが、今は遠い昔。
魔導師としての才能においてはもっと優れた人間がいることを思い知らされた。
現に、今対峙した相手たちも、おそらく自分よりも魔導師としての才が数段上の連中だろう。
そして、上には上がいる。
万人が見ている魔法の形を「閃き」によって変えてしまう魔導師……
その者の感覚が、いや、本能が自分が生き残るために、這い上がるために戦いの最中に新たな魔法を「閃く」魔導師……
そのような怪物と戦えば、自分がどれだけ狭い世界で戦ってきたのかを思い知らされる。
入学後に天井を知って、そんな猛者たちの世界に足を踏み入れることは、とうに諦めていたつもりだった。
それよりも、自分が心から尊敬する人のために自分の学生生活を、魔法を捧げようとすら思っていた。
だが、その尊敬する御方による薫陶は、今一度、「怪物たちのいる『遊び場』に身を投じろ」というものであった……
足りない自分に活路があるとすれば、指揮官として仲間の力になれるものがあるとすれば……
きっと、それは、ガイル自身の目で観察し、その頭脳によって瞬時に計算して最適解を導き出すことだろう。
……答えは出た。
ガイルは左斜め後方に振り向いた。
バリバリッ……
予測は当たった。
決して、通用しないわけじゃない。
問題は、魔導師としての身体が自分の頭脳に反応して間に合わせることができるか……
「へえ……『氷狐』ガイル=ワイリー。なかなか強い魔導師だったね。『珠雷矢』」
バリバリバリバリッ……!!
目当ての人物は10数メートル離れた場所の上空にいた。
この距離なら、まだ間に合うか……!?
ガイルはその手をかざした先に必死で『氷』を生み出すも、数本の先端が玉の形をした『雷の矢』はほんのまばたきをする間に、一気にその胸元に向かってきた。
バリバリバリ……ガキーーーーーーーーーーン!!
矢の先端の「雷の玉」が破裂して弾ける……
網の目を作るように電撃が逃げ道を奪うようにこちらに襲い掛かってきた。
……ああ、間に合わなかったか。
ガイルは、眉間に皺を寄せ、歯を食いしばりつつも、最後には笑った。
2年生だけで「最強たち」と渡り合いたかったが、どうやら、まだまだ「頂」には足りないらしい。
「君か……コイン」
「ああ。うちの『総大将』には、そう簡単に倒れてもらっちゃ困るんでな」
その胸を貫かんとした『雷の矢』を封じ、それを放った『迅雷』イクス=トストとガイルの間に『石』を挟み込んだのは『石嶺』コイン=ドイル。
「はっ、コイン、来やがったな。だが、忘れちゃいねえか?うちは『五騎当千』だ!」
そんなコインを敵方のシンガ=ソングが狙う。
ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ!
「それはこっちの台詞でしょうね」
リズミカルな『風の爆発』が起ころうと弾けたその瞬間……
シュパンッ、シュパパパパパパパパパ-----ン!
その『風の塊』が弾ける寸前で『風の刃』が切り刻んでいく。
「ちっ、『風切』……」
ここに、役者は揃った……!
これより、乱戦模様である。
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
コイン先輩とクォーター先輩はやっぱり頼りになりますね……
次回、観察する者……!決着!?
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




