6-70『ズルい』
ふう……
……ようやく、終わった。
何を思ったのか、考えうる限りの罵詈雑言を俺に浴びせ続けたジャネット先輩とシーア先輩は、残り5分あたりになった時点でその戦法をピタリと止めた。
よかった。
ようやく、悪口が尽きたかと思ったのも束の間、ジャネット先輩が『強風の領域』で乱暴にも、こちらの動きを奪っているうちにシーア先輩がどこかに向かった。
ジャネット先輩は、どうやら本質的には攻撃的な形状で勝負する「戦闘方式」よりも、このように相手を止めたり、『風』を別の使い方として用いる方が得意なような気がする。
探索もそう……
移動もそう……
ジェシーを援護した補助的なものもそう……
シーア先輩と2人で攻撃一辺倒になるのではなく、その辺のアプローチをしていた方がまだよかったかもしれないね。
次「集団戦」を戦うときは是非とも頭に入れておいてほしい。
シーア先輩の方は、何をしていたかというと、リバーが作り上げた『堅土の塔』の一部を破壊し、『土柱』内部にある宝具に手を触れて、自チームの「色」に変えていた。
しかも、ご丁寧にも、自分たちの掘った穴を『氷』混じりの『土』で綺麗に埋めてしまって。
残り時間を考えると、この霜シャリシャリの『土』であっても、再度穴を空けて宝具に触れることは困難だろう。
まったく……
人に悪口を言いながら、こんなことを連携しながらやっていたとは2人とも恐れ入る。
片方が悪口を言い、注目を集め、その隙にもう一方がこっそり穴を掘る。
俺に当てようとしていた魔法の少しでもミスったように見せかければ完璧だ。
これが決闘始まってすぐの戦術であれば俺も気づけたかもしれないが、終盤で先輩たちにも疲れが見え始めたタイミングというのがなかなか巧妙だった。
まあ、全部意味がなくなるけどな。
この全属性の結界を用いた決闘でこの俺、ノーウェ=ホームが負けるわけがないんだよ。
それをこれからお見せしますよ。
もうすぐ、残り1分となる。
「『風蓮華』」
ビュオーーーーーーーーーー……
ジャネット先輩が再び『強風の領域』を発動させた。
今度は周囲一帯というよりも、俺と先輩の周辺を『風』で幾重にも包み込んで、こちらの行く手を阻んでいるように見受けられる。
「ラスト1分までに貴方を倒すことはできませんでしたが、身動きを封じれば同じことですよね、ノーウェ君」
……なるほど。
それが、先輩がここでのバトルに乱入することができた理由で、最後の戦術というわけかい。
大した人だな。
中央の『水柱』もなんとか守りきれているみたいだし、北東の、俺が罠を仕掛けた『火柱』も陣容を見るかぎり先輩たちのものになったっぽい。
よくあの罠に気づいたね。
大したもんだ。
……まあ、そんなもんは全部無に帰してしまうんだけどね。
「残念ですが、そんなもんでは俺は足止めできませんよ。『ボイスバッグ』」
「えっ、どうい―」
『ハイエロファント』、『エンジェルウイング』。
「消えた……」
……シーア先輩が近くまで戻ってきたか。
ジャネット先輩は『ボイスバッグ』によって声を奪われているからね。
奪われたのは声だけじゃない。
『風』も。
先輩との「戦闘」についてはこの反則技を使うことを自分で禁じていたけど、先輩が「俺の邪魔をすることを邪魔する」目的であれば話は別。
何人たりとも、これから1分間の俺の動きを邪魔することはできない。
「『ハイウインド』ー『ステップ』」
さあ、行こう。
『ハイエロファント』を解除して、と。
だいたい1つに付き12秒ってとこか。
もたついた時点でチャレンジは失敗になるね。
これから始めるのは「レース」だ。
ジャネット先輩、覚えていますか?
俺と初めてした決闘を……
あのわずか1分足らずの探索決闘は、どちらが早く、そして速く魔法を扱えるかの勝負だったけど、今回のはギリギリまで粘り、最後の1分で勝負を決める決闘なんです。
他のメンバーや、敵のメンバーが何をしようが知ったこっちゃない……!
俺は、「ELEMENTS」の舞台再設定の案をメンバーの皆に控え室で話したけれど、この最後の1分に関しては話していない。
リバー始め、一部の協力者以外には……!
皆には、先輩たち同様に、「最後の1分までにノーウェ=ホームが残っていたら強制終了」だと伝えておいた。
さあ、始めよう。
まずは、中央からだ。
「の、ノーウェ=ホーム!?」
あ、目つきの悪い先輩方、こんにちは。
今回に関しては、散々時間をあげましたからね。
クレームは一切受け付けませんよ。
「『アクアヴィータ』」
小魚の魔物、グッピーグッピーの魔法ね。
『水柱』の内側が急流だろうが、そんなの関係ねえっ……!
ザッパーーーーーン……
水棲魔物と同様に泳げるんだから、『水』の流れなんてあってないようなものなんよ。
はい、タッチ……イエイ!
次。
カーティスの守る北東へ。
ブワッ、ギュイーーーン!
上空から行こう。
おや、コナース君もカーティスと一緒にいるようだね。
こちらをちらっと見て頷いたよ。
「「『絶対冷土』」」
モリモリピキピキ……
お、ありがたい。
『土』と『氷』の合わせ技を敵3人の足元に放ち、文字通り足止めをしてくれた。
すぐに終わりますんでね。
「『フロート(解除)、『ハイウインド』」
ビューっと勢いをつけて下降。
リバーが建てた『土塔』にコナース君が補強したおかげで、破壊するのはかなり難しい面構えになっている。
だから、思い切って上空から1本、穴を開けることにしたよ。
「『ハイファイア-モスケンストロー』」
大鳥の魔物「カイツツキ」の専用魔法ね。
海の中にいる、固い殻を持つミツ貝すらも風穴を空けて貫く魔法。
それに、『ハイファイア』を合わせて結界の『氷』も溶かす。
ドォーーーーーン!!
工事完了。
そのまますっぽり中に入り、宝具にタッチする。
「紫」色に変わった。
よし、次。
「『ハイウインド』-『ステップ』」
南西の『風柱』の守護者はコト先輩だ。
哀しそうな表情をしている。
この決闘中、誰も来てくれなかったもんな……
中央で動かずだったリバーですら、マリー先輩たちに狙われて、激闘を繰り広げているというのに、コト先輩の所には、決闘が始まってから敵味方誰も訪れなかった。
私、出る意味あったんですかね……って顔をしている。
大丈夫!
これまでも大事な役目だったし、最後は、さらに重要な役を担ってもらうから。
「ノーウェ君!」
なんとなく目を輝かせているコト先輩。
寂しかったんだね。
「では、あと数十秒。中でお願いします『身代わり』、『れんぞくま』」
「えっ?きゃー!」
俺は『風柱』までできるかぎり近づくと、自分と「宝具」の位置を『身代わり』で入れ替えた。
さらに、今度はコト先輩と『風柱』の中に入った俺自身を『身代わり』でスイッチして完了。
はい、タッチ。
誰も来ないだろうから、ここの「宝具」は剥き出しでもいいだろう。
持ち運ぶことはルールで禁止されているけど、「魔法でスイッチするな」とは書かれていなかったもんね。
ルールの穴ってやつだ。
さあ、残り2つ。
間に合うか……『ハイウインド-ステップ』、『れんぞくま』。
『火柱』もいまだ激戦だ。
上空ではブルートとジェシーが激しく争っており、舞台ではジャックとミモレが、ルーモ&アスキーと戦っている。
邪魔をしないように、こっそり行こう、『ハイエロファント』。
『氷柱』のときと同じように真上に移動。
同じ技では能がないし、こちらの『火柱』は俺が仕掛けておいた罠がすべて解除されて剥き出しなので、消すのは容易だ。
「『ジェリーマジック-ハイウォーター(融合)』」
下に向けて放つ。
ジュジュジュジュジュジュジュワーーーーーー……
『ジェリーマジック』は元々、属性魔法を食らう魔法だ。
いわば、ジャネット先輩たちの『大雪崩』を防いだ『マジックパフ(融合)』の簡易版みたいな性質が備わっている。
だから、この『ジェリーマジック』を属性魔法と『融合』させた場合、ちょっと面白い効果が得られるんだよ。
まずゼリー部分が『融合』させた魔法の属性に変わる。
今回は『水』。
そして、この『融合』させた『水ゼリー』が他の属性を食らうとだな……
今回は、『火』なわけだが、全部『水』に変わるんだよ。
あっという間に、『火柱』の『火』は消えて、「宝具」が見えた。
はいタッチ、ウェーイ!
『ハイエロファント』を解除して……
あとは、このドでかい『水ゼリーまんじゅう』はここに置いておくと危険だからなんとかしないとね。
ジャックたちやルーモたちが巻き込まれると危険だから。
「『フロート』、『ハイウインド』』
俺は『水ゼリー』を浮かび上がらせて、上空に飛ばした。
ヒューーーーーーン……
上空では相変わらずブルートとジェシーが激戦を繰り広げている。
「ふはははは、そろそろ魔力切れのようだな、ジェシー。俺の勝ちだ『空水鮫雷』!」
「くっ……」
シャーーーーーーーー!!
ガブッ……
「「え?」」
ドパパパパパパーーーーーーーーーーーーーーン!!
「うわー」
「ぐわー、ノーウェ、コノヤロー!!」
2人の間に『巨大水ゼリー』が入り、ブルートが放った『水鮫』が食い破ろうとしたために盛大に破裂。
ブルートとジェシーは共に吹っ飛ばされていった。
うむ、痴話喧嘩もほどほどにね!
「『ハイウインド』-『ステップ』」
あと15秒……
間に合うか。
「ノーウェ=ホーム、勝負」
「……」
おう。
やっぱり、そう来るよね。
シーア先輩、ジャネット先輩がこちらを向いて魔法を発動させる準備をしている。
ジャネット先輩は、まだ言葉を発せられずに口をパクパクさせているので、『風』以外の魔法を放つつもりなのかな。
『水』と『土』だっけ……?
残念ですが、もう戦闘はおしまいなんですよ。
今はあくまでも、「宝具」を手に入れる「レース」の時間なんですからね。
だから、避けさせてもらいますよ……
「『雪八納技』」
「……」
ピューン、ピューン、ピューン、ピューン、ピキピキピキピキ……
ドンッ、ビュッシャーーーーーーーーーー……
「『身代わり』」
「えっ」
「……!!」
俺はシーア先輩と位置を入れ替えた。
ジャネット先輩とシーア先輩が向かい合って魔法を発動している。
2人で仲良く打ち合っていてください。
目の前にはリバーの造った『堅土の巨塔』。
まあ、頼んだのは俺だけどさ。
決闘中にこんなもん建てるかね?
のこり10秒切っているんですよ。
骨が折れるよ、まったく……
「『ハイウインド-マジックボム(融合)』」
『マジックボム』の効果は魔法を粉砕すること。
魔法で造った物質にも有効なので、リバーの『巨塔』もその中の『土柱』も破壊できるが、如何せんそこに到達するまでに間に合うか、時間との勝負になる。
シューーーーーーーボガーーーーーーーーン!!
いけるっ!
「『ハイウインド-マジックボム(融合)』、『れんぞくま』」
「『ハイウインド-マジックボム(融合)』、『れんぞくま』」
シューーーーーーーボガーーーーーーーーン!!
シューーーーーーーボガーーーーーーーーン!!
シューーーーーーーボガーーーーーーーーン!!
シューーーーーーーボガーーーーーーーーン!!
残りの魔力?
そんなの関係ねえ。
「『ハイウインド-マジックボム(融合)』、『れんぞくま』」
「『ハイウインド-マジックボム(融合)』、『れんぞくま』」
シューーーーーーーボガーーーーーーーーン!!
シューーーーーーーボガーーーーーーーーン!!
シューーーーーーーボガーーーーーーーーン!!
シューーーーーーーボガーーーーーーーーン!!
よしっ、5、4、3、2……
はい、タッチ!
ウェーイ……!
「終了ー!終了です!『紫5』に『緑0』……<無法者連合>の圧勝です!」
ざわざわざわざわ……
ざわざわざわざわ……
ざわざわざわざわ……
ざわざわざわざわ……
……歓声よりもどよめきの方が圧倒的に大きいな。
観客だけでなく敵も……いや、数名を除いた味方もだな。
お前、何してくれてんねんっ……みたいな視線を感じる。
まあ、しょうがない。
それがこの「ELEMENTS」という決闘の特性だ。
最終的に多く結界に触れている者の勝ちという「レース」の側面を持つ決闘なのだから……!
「の、ノーウェ君!」
振り向くと、そこには、声が戻ったジャネット先輩がいた。
普段とは違い、乱れた髪の毛に雪がちらほら付いており、息を切らしている。
「なんでしょうか、ジャネット先輩」
「ず、ズルいですよっ……!」
……どんな意味を持っての言葉なのかはよく分からないけど、甘んじて受け入れよう。
だって、この「ELEMENTS」はそもそも、すべて俺の、俺による、俺のための決闘だったからね。
「ジャネット先輩」
「な、なんですか?」
「この決闘、『ELEMENTS』を思いついたきっかけは、先輩との決闘がきっかけなんですよ」
「わ、私との決闘?」
……そう。
アホとの入門時の決闘は置いておいて、俺が初めてこの学園の学生と行なった決闘。
あのときは「探索方式」だったな。
「ええ。あのときは『寮』を使った決闘でしたけど、それを学園全体のスケールで、5大属性すべてを用いた決闘にしたら面白いだろうな、と思ったのがきっかけです」
「あのときの……」
はい。
まあ、どっかのアホ顧問に改悪させられてしまったけどな。
「いつか本物の『ELEMENTS』もやりましょうね」
「……やっぱり、ノーウェ君はズルいです。今度は負けませんからね」
「はっは、いつでも挑戦お待ちしています」
「ノーウェ君……私、諦めませんからね!」
そう言って、ジャネット先輩は笑った……!
◇
第2ラウンド第4戦
<無法者連合>VS<公爵令嬢連合>
<無法者連合>の勝利……!
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
ノーウェ(たち)の、ノーウェ(たち)による、ノーウェ(たち)のための決闘でした……
次回、上の人たちの戦いの結果は……?
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




