6-68『共鳴』
<戦況>:残り20分
<北側>ノーウェ=ホームVSジャネット=リファ&シーア=ベン
→激しく交戦中
<中央上空>ブルート=フェスタ&バラン=レンホーンVSジェシー=トライバル&ルーモ&アスキー →ブルート&バランの2つの霧による蒸気の大放出により散り散りになる
<中央舞台>リバー&「ELEMENTS団(9人)」VS【魔花】&【紅七星】(8人)
南東『氷柱』カーティス(ぼっち)
南西『風柱』コト=シラベ(ぼっち)
◇「北側」<ジャネット視点>◇
ブルート=フェスタとバラン=レンホーンによる色違いの『霧』の「共鳴」が起こったその頃、舞台北側ではすでに15分以上もの間、『支配者級』の魔導師たちによる度重なる魔法の激突が起こっていた。
『風』の支配者と『氷』の支配者がタッグを組み、『大雪崩』から始まって、『刃』、『氷粒の嵐』、『氷塊の竜巻』……と、2つの属性魔法による「共鳴」が何度も起こっていたが、紫のローブを着た魔導師のその奇術じみた魔法の数々によって、そのほとんどが防がれてしまっていた。
すでに残り時間は10分台になっており、2人の公爵令嬢の顔にも、疲労の色が見え始めてきている。
それでも、手を止めるわけにはいかない。
周囲の者からすれば、あっという間の短い時間だったかもしれないが、やっている本人たちからすれば、頭脳と肉体の両方への負担がすさまじいものであった。
高速で行なわれる魔法技の駆け引きによって、体感にして何倍もの時間が掛かっている気さえしてくる。
明らかに消耗してきているジャネットとシーアに対し、2人の間、中央に立ちながらもほとんどその場から動かずに対処している男は、いまだケロッとした顔で笑いながら魔法を放っている。
危険を通り越して最早化け物……
いくら魔力消費の少ない中級や初級の属性魔法だからといって、あれだけ連発していたら常人であればすぐに枯渇してしまうだろう。
中級……
初級……
公爵令嬢が1人、『風華』ジャネット=リファは、ハッとしてコンビを組むシーアに目配せをして新たに魔法を発動させた。
「『風亜細彩』」
『小さい花』の形をしたつむじ風をいくつも生み出す。
それを次々と密集させ、大きな丸い花にしていく……
これまで、ジャネットたちは、威力や切断力、貫通力の高い形状にすることばかり考えていた。
魔法の攻撃性能を高めようとすれば、形状の工夫も必要になるし、魔力の消費もより多くなる。
だから、今度は相手のノーウェ=ホームの真似をして、威力を抑えた魔法の連発にしてみようと思ったわけである。
ブオンッ、ブオンッ、ブオンッ、ブオンッ、ブオンッ、ブオンッ、ブオンッ、ブオンッ、ブオンッ、ブオンッ、ブオンッ、ブオンッ、ブオンッ……
紫陽花のがくのように密集した『小竜巻』が1つずつ離れていき、敵に向かっていく。
「『雪打丸魔』」
ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ……
敵を挟んでジャネットの向かい側にいる『雪月』シーア=ベンも、これまでとは趣の違った攻撃を開始している。
シーア自身よりも何倍も大きい2つに連なった『雪の大玉』を作ったあと、そこから『小さな玉』を連続して放出した。
最小限の威力だが、魔力を抑えて連続性と持続力の勝負に持ち込む。
魔力量には自信があるし、1回毎の消費量を抑えれば2人で攻撃している自分たちが有利になるはず……
ジャネットには、そんな狙いがあったのだが……
「なるほどね……『ウォーター-ジェリーマジック』、『れんぞくま』」
『紫魔導師』ノーウェ=ホームは、ジャネット、シーアの両面による攻撃に備えて、両手からゼリー状の魔法を発動させた。
この「第2ラウンド」の初戦時にも使っていた魔法と見受けられるが、より薄くアメーバのような形と見た目の質感で、何倍もの大きさに広がっている。
ボボボボボボボボボボボボボボボ……
ボボボボボボボボボボボボボボボ……
ジャネットの『小竜巻』とシーアの『小雪玉』を『水』をたっぷり含んだ『ゼリー皮』が包んでいく。
「『ファイア-マジックボム』、『れんぞくま』」
ボババァーーーーーーーーーーーーーーン!!
ボババァーーーーーーーーーーーーーーン!!
『ゼリー皮』に包まれたジャネットとシーアの魔法は『マジックボム』の連鎖によって破壊されてしまった。
こちらの大技に対しては、小さい魔法を積み重ねて大きくしていたくせに、こちらが小さい魔法を積み重ねれば、また別の方法で、今度は、一気にまとめて潰してくる。
「これならばどうですっ?『風大手毬』」
ブオンッ、ブオンッ、ブオンッ、ブオンッ、ブオンッ、ブオンッ、ブオンッ、ブオンッ、ブオンッ、ブオンッ、ブオンッ、ブオンッ、ブオンッ……
先ほどと同じ大きさの『小竜巻』であるが、それを集約させた塊は小さめのものを3つばかり……
……方向を変えて全方位から放つ。
1度に放ったり、順番に時間差で放ったり、工夫をして……
「『雪女王』」
ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ……
シーアもジャネット同様に『小雪玉』をあらゆる角度から放った……!
「ふむふむ……『ファイア-シェル』、『れんぞくま』」
「『ファイア-シェル』、『れんぞくま』」
「『ファイア-シェル』、『れんぞくま』」
「『ハイウォーター』、『アクアヴィータ―』」
「『バイブァイヴァ』、『ヴェンゾグヴァ』」
ガンガンガンガンガン……ボヒュンッ、ボヒュンッ!!
ガンガンガンガンガン……ボヒュンッ、ボヒュンッ!!
ガンガンガンガンガン……ボヒュンッ、ボヒュンッ!!
ガンガンガンガンガン……ボヒュンッ、ボヒュンッ!!
ノーウェ=ホームのその身を包むように張られた、『炎』を纏った透明の『魔法の板』は、ジャネットたちの放った魔法連撃を固い殻に守られた貝のように防いでいく。
すべてを塞ぎ切っているわけではないので、隙間から何発か入り込んでいくも、今度は内側に作られた湯気を放つ『水玉』がそれ以上の魔法の侵攻を防いでしまう。
ああやれば、こうやる……
ジャネットたちの魔法の発動を確認してから対応しているようであるのに、ノーウェ=ホームには思考の遅れや隙といったものがまったく見当たらない。
一体、どのような訓練を重ねてきたら、このような対応力が身に付くのか……
ジャネットは、ふと、かつて魔法の家庭教師に師事していたときのことを思い出した。
–私の魔法が他の先生方と違うとお感じになられるのであれば、それは私が『冒険者』として日々魔物を倒しているからでしょうね-
ジャネットも得意とする『風』属性の頂点ともいわれる称号を持つその冒険者は、宮廷魔導師団や獅子鷲魔導師団に所属する(していた)他の講師と違った魔法の考え方やアプローチを彼女に教えてくれた。
師曰く、いくら属性や称号による違いがあったとしても、魔導師同士の対人での決闘を重ねたところでつまるところは同じ「種」同士の戦いに過ぎない。
だが、魔物は違う。
種によって有効な攻撃手段、必要な防衛手段が千差万別である、と。
同時に、魔法に限った話ではないが、実戦に勝る訓練はない、とも。
-誰よりも疾くこの『風』によって人々を守る……そのために授けられた『称号』だと私自身は思っております。魔物相手の訓練はともかく、ジャネットお嬢様も、授かった『称号』の意味を考えながら将来の学園生活を送るとよいかもしれませんね-
温室育ち……
敵対する派閥の学生たちからそう陰口を叩かれるのが嫌で、自分の魔法を磨きに磨いた。
……それでも、本物の「野生」に出会うと、まだまだ引け目を感じてしまう。
「ノーウェ君のバカッ!!『風切草』」
ビューン……シャッ、シャッ、シャッ、シャッ!!
「はいーーー?『ストーン-スプラッシュマジック』」
ガガガガガガガガガガガガンッ!!
「ノーウェ君の世間知らずっ!『風端砲砲』」
ブバンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ……!!
「どうしたんですか?先輩。精神攻撃は『テンプラ違反』ですよ?『ストーン-エアマッシュ』」
グシャンッ……!!グシャグシャンッ!!
「ジャネット、その作戦、乗った……紫の鬼!『雪実大吹』」
ブオーーーーーーーーン……!!
「ちょっ、シーア先輩もっ!?テンプラの天丼はキツイですって。『ファイアーエアマッシュ』」
ボワッシャーーーーン、ボワッシャーーーーン!!
ああやればこうやる……!
常に受け身であり、自然体でいながらもこちらの渾身の攻撃や考えに考えた戦法も即座に見抜き、対応してしまう。
それは、まるで1人の紫のローブを着た男の中に、何十……いや、何百、何千もの魔物がいるかのように、毎回違う姿を見せてくる。
しかも、その無尽蔵に思える魔力によって限界が見えない……
手に届きそうな場所にいるように見えるのに……
風に乗ればひとっ飛びでいけそうな距離にあるはずなのに……
掴もうとすれば霧散してしまう、その『紫』の魔導師は、まるで「雲」のような存在であった。
いつしか、ジャネットは没頭した……
その「雲」を掴むために、あの手この手と方法を考え実践していく。
そこは、決闘の場であるはずなのに、その場にいる3人だけには、次第に、まったく違った空気が流れ始めていた……!
残り時間10分……
◇「舞台中央」<リバー視点>◇
兵どもが夢の跡……
舞台中央にできた水溜まりの南側に埠頭を作り、リバー=ノセックは静かに全体を見渡していた。
つい数分前までは魔法の激戦地であった場所も、今ではただの池……
リバーは、埠頭から見える景色の最奥、北東の戦場を見つめていた。
ここまではリバーの読み通り、自軍総大将である『紫魔導師』ノーウェ=ホームと敵軍の『殿上人』2人が壮絶な戦いを見せている。
互いのプライドを賭け、共鳴し合うように、ぶつかり合う魔法の数々……
続いて、リバーはその視線を左に移した。
北東側の戦いとは、迫力において若干劣るものの、北西上空でも副将ブルート=フェスタと敵幹部ジェシー=トライバルが、戦いの場所を変えて、『水』と『火』の魔法の盛大な衝突を起こしている。
その直下、『炎柱』の周囲では、ノーウェの仕掛けた『見えない炎の罠』にまさかのバランが引っ掛かり退場になるという不測の事態があったものの、『柱』の攻略に取り掛かった敵方の新入生ルーモ&アスキーを、ジャックとミモレが阻止せんと向かった。
中央で味方側、ハリーとクレハのコンビに対し、『水門』のラウラと『氷殻』のヒズが『水柱』を必死に防衛している状態。
逆に、南東の『氷柱』では、守るカーティスにコナースが加わり、敵の『石転』ロクサーヌ=イミューズと【紅七星】の部隊の侵攻を防いでいる。
現在、『風』使いのコトが守る『風柱』だけが無風地帯だ。
このような戦況……
……イレギュラーはあれど、大体が予測していた範囲内に収まっている。
この決闘の「運営者」が自分たち<無法者連合>であるとするならば、その中で「管理者」の役目を果たしているのはリバーである。
だからこそ、彼は、彼らの設定したゲームの開始以降、埠頭として造ったその場を1歩も動かなかった。
「無策の策」……それが、<連合>ではなく、リバー自身がとった戦術。
舞台装置を準備するまでのあれこれには関わり戦略を練ったが、<無法者連合>による真の「ELEMENTS」が始まった時点からは、彼は何もしていない。
各々が役割ごとを選んで勝手に決めた戦術をそのまま採用してやってもらっただけ。
そして、今も、ただ動かずにゲームの進行を見つめている。
これから、9分のカウントダウンが始まり、残り1分となったところでこのゲームの「破壊者」が敵のチャレンジをすべて打ち砕いていくまでの経過を最後まで見守るだけの役目である。
心に熱きものを秘めてはいても、常にその頭を冷静に保つリバー=ノセックは、それでいて少しばかりの寂しさを感じていた。
自分は、決闘において、あのように戦いの場に没入することがあるのだろうか、と。
学園生活全体を考えれば、魔道具開発が彼にとって、あるいは、それと言えるのかもしれない。
だが、それも先人の叡智と語り合う場であるかもしれないが、その間、没頭する世界にいるのはリバーただ1人である。
リバーは、その分厚い眼鏡の奥で戦況を見つめながら思う。
自分は誰かと魔導師として「共鳴」し合うことがあるのだろうか、と……
「もー、リバー!なーに、そんなところで黄昏てんのさっ?」
「ああ、貴方でしたか……」
リバーは、それまで色々と飛び回っていた伝令役の幼馴染に対し、少しばかり他人行儀な返事をした。
「さあっ、残り10分だよっ!私たちも気合入れるよ~」
幼馴染の金髪ポニーテールは、その得意とする属性よろしく、颯爽と現れたかと思ったら明るい調子でリバーに話しかけてくる。
イベントでも、決闘でも、常に全身全力前のめりで向かう『遠近光』レミ=ラシードは、その『称号』の示すとおり、遠くであっても近くであってもその明かりを絶やさない……
「ふっふっふ……このときを待っておりましたわ!」
「待ってたでし!」
ザーーーーーーーーーーーーーー……!!
突如、目の前の『水たまり』から水が抜け始めた。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド……!!
続いて、『土』魔法によって水の抜けた穴は埋め立てられ、闘技舞台の上にさらに土の舞台ができあがった。
「私は、今は亡きジャネットの遺志を継ぎ、指揮官としてルーに命じて貴方をずっと見張っておりましたの。そして残り10分になった今、私が立ち塞がることで、貴方も、貴方たちのチームも作戦を遂行できずじまいとなるのです。しかも『アンバスターズ』のリーダー付き!これぞ一挙両得……いえ、一石三鳥ですわ!」
「……でし!」
現れたのは3人の公爵令嬢の1角、『土宮』マリー=オネットとその参謀ルー=ネルネであった。
「あ~、そういえばいたねー」
「ムキー、なんですの?その忘れていた、みたいな反応はっ!?」
「マリー様……」
「な、なんですか、リバー=ノセック。貴方の小賢しい作戦は私がこれから食い止め……いえ、打ち破るのですよ?」
リバーは、こほんっと咳払いを1つした。
「ジャネット様はまだあちらで戦っておりますよ?この決闘の場においても、いまだご存命です」
「し、知っておりますわ。でも、ムードというやつがあるでしょう!?貴方、少しそのあたりの風情や女心というものを学んだ方がよろしくてよ……?」
「それは失礼しました……」
思わぬお叱りを受けてリバーは思わず頭を下げた。
その光景が物珍しかったのか、隣に立つ幼馴染が手を抑えて笑いをこらえている。
すべてが決まっているとしても、相手に合わせて身を投じて見るのも一興というやつかもしれない。
「承知致しました。マリー様、ルー様。それでは、これから終了の合図まで私とレミでお2人のお相手をするとしましょう」
「にっしっしー、よろしく」
「そうこなくちゃ、ですわ!」
「でし……!」
正直なところ、作戦は「無策」なので、これ以上、リバーにやることは何も残されてはいないのであるが、とりあえず、目の前の楽しそうな戦いに身を投じることに決めたのであった……
◇「北東」<ノーウェ視点>◇
「ノーウェ君の甲斐性なし!ろくでなし!ニブチンッ!女ったらし!」
「紫の悪魔、鬼畜、毒蛇、有害魔王」
……あのー、いつまで続くんでしょうか?
この『風』と『氷』と『言葉』の『刃』の乱れ打ちは……?
残り9分……
……地獄過ぎる!
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
まあ、それくらいの誹りを受けるのは仕方がないですかね……(^_^;)
次回、あの人による終盤ダイジェスト解説。
そして、結末へ……
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




