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6-67『同調』

◇「東側」観客席<ガイル視点>◇


「おいおい、マジかよ……」


 観客席で決闘舞台を見つめる学生たち……


 その中でも、最前列で決闘を眺める面々は、他の観客たちからも気を遣われている、一目置かれる存在だ。


 <職人気質連合>……


 Bブロックをこれまで3戦3勝で勝ち進んできており、明日行なわれる第4戦で、「決勝ラウンド進出決定」を占う、事実上のブロック決勝戦に挑む強豪の1角だ。


 今大会優勝候補の1角と目されている<五騎当千連合>との決闘は、今行なわれている決闘と並んで第4戦、ひいては第2ラウンド屈指の好カードと言われている。


 そんな強豪の総大将にして指揮官を任されている『氷狐』ガイル=ワイリーは、腕を組み、眉間に皺を寄せながら、舞台上北側で繰り広げられているバトルに見入っていた。


 感嘆の言葉を漏らした連合メンバーである目上の先輩に対して相槌を打つことができなかったほどには……


「『支配者級』の2人ですよ?恐ろしいな」


 代わりに、もう1人の先輩が相槌を打った。


 たしかに恐ろしい事実だ。


 『支配者級』というのは、言うまでもなく、1つの属性において、学園で最も優れた魔法の使い手のことを指す。


 この学園に9名しかいない、『殿上人』よりもさらに少ない数の栄誉だ。


 『雷』のイクス=トスト……

 『光』のメーネス=アンフェ……

 『火』のパージジョートー……

 『氷』のシーア=ベン……

 『土』のクレハ=エジウス……

 『風』のジャネット=リファ……

 『石』のコイン=ドイル……

 『水』のカシウ=フェスタ……

 『闇』のフォルクス=ガント……


 『土』と『石』が分かれたり、『雷』があったりと、例年以上に多くはなっているが、ほぼ『殿上人』と同義のこの『支配者級』は、学園から専用の特注ローブを授かり、その属性の使い手としては他に並ぶ者がいないと言われるほどの特級の魔導師たちだ。


 そんな『支配者級』の魔導師2人を向こうにして、ほとんど災害級ともいえる合わせ技の魔法や、殺傷力の高い魔法の連撃を受けても、平然と同等以上の威力の技を返すのだから恐れ入る。


「俺とやった『()』よりもさらに数段強いな……」


 最初に感嘆の言葉を呟いた3年生、『石嶺』コイン=ドイルが呆れたような表情で頭に被っていたタオルの結び目を解いて外した。


「成長している……ということですか?」


 コインの言葉を聞いてそれまで押し黙っていたガイルは、ようやく口を開いた。


 今度は先輩コイン=ドイルの方が何かを考え込むように腕を組んだ。


 どことなく重苦しい雰囲気の沈黙……


「どうかな……?」


「どういうことでしょうか?」


「まあ、感覚的なものだけどよ。成長って目に見えて伸びている『何か』があるわけだろ?明らかに魔力が増して魔法の威力が強くなっているとか、発動までのスピードが抜群に上がっているとか」


「違うんですか?」


 今度は、ガイルの隣にいたギース=フーディーズが聞いた。

 皆、この話題に興味があるようだ。


「あいつの魔法の発動や威力を見ていると、そこはあんま変わっている気がしねえよ……というより、俺と戦ったときから、その発動の速さや、ああやって続けざまに撃てるあの回復力、持続力なんかは最初ハナから怪物じみていたからな」


 言われてみれば、やっていることはさほど変わっていない気がする。


 ブルート=フェスタやハリー=ウェルズ、カーティス=ダウナーといった仲間メンバーの方がよっぽど目に見えた成長を果たしているといえた。


 中級の属性魔法をほとんど間がない状態で何度も発動している様子も、相手の強力な魔法に対して「魔物から得た魔法」と属性魔法の組み合わせで対抗する様子も、実際に1対1で戦った先輩の言う通り、ノーウェ=ホームは春先からずっとやっていた気がする。


 では、いったい何が変わったのか。


「俺とやっていたときも本気だったとは思うが、どこか恐る恐るといった感じだった……だが、秋に<大連合>を組んだときに何度か模擬決闘をしたときにはそんな様子はなくなっていた」


「まさか『自信がついたから』……というわけじゃないですよね?」


 ギースが少し乗り出し気味に質問した。

 次から次へと変わる質問者に対する接し方も、ギースのこのちょっと失礼にも聞こえる物言いを平然と受け入れる様子も、コインという人物の懐の深さをよく表していた。


 決して小さなことには動じず、相手のことを大海のように広い心で受け入れる。


 信仰に近いほどに尊敬するサンバとはまた違った趣ではあるが、このコインという男に対しても<連合>で接するうちにその多くを見習いたいものだ、という尊敬心をガイルは抱き始めていた。


「『自信』という言葉が正しいのかは俺にも分からねえ。どっちかというと、『慣れ』という言葉の方が近い印象がある」


「なるほど、『慣れ』ですか……言い得て妙ですね。ちょっと恐ろしい」


「たしかに……」


 ガイルは、コインの表現を聞いて「恐ろしい」と評したクォーターの意見に同調した。

 この人物もまた、尊敬に値する深い思慮と洞察力を持つ人物だ。


 ノーウェ=ホームがいったい何に「慣れた」のか……


 学園?

 学校生活?


 いや、そんなありがちなものではない。


「魔物相手に魔法を使い続けていた男が、学園での決闘を重ねるうちに人間の魔導師との戦い方に徐々に慣れていった……」


 ガイルは、巡らした考えをそのまま論理的に1つ1つ言葉に紡いでいった。


 ……結果、自分がとんでもなく恐ろしいことを言っていることに気づく。


「元々、底の見えない実力の男が、魔導師相手の戦い方に慣れている過程がこれってことかよ……あんま受け入れたくはないが、ガイルの考察どおりだろうな。そう考えた方が、目の前で起こっている状況もすんなり理解はできる」


 『支配者級』の2人の魔導師が連携して1度に攻めてきても、まったく動じた様子はなく、むしろ楽しんでいる様子すら見せている。


「我々は今回で『卒業』で良かったかもしれませんね、棟梁」


「まあな。でも、もう1度思いっきりやってみてえ気も……いや、前回よりもっとひどいことになるかもしれねえな」


 呆れ顔を共に同調させている3年生たち……


「なあ、ガイル。これで、『風華』が負けたらもう俺たち2年は全員あいつにのされちまったことにならねえか?」


 ギースが、世代的にはかなり切実な事実に気づいてしまった。


 たしかに、この決闘でジャネット=リファが敗北すれば、2年生最強格の2人が敗北したことになる。


 すでに、その1角である『泥欲』クレハ=エジウスはその軍門に下っているため、『風華』ジャネット=リファが敗れたとしたら、<無法者連合>の次の決闘での対決相手である3人の『殿上人』が最後の砦となる。

 そこで一矢報いられればいいかもしれないが、舞台上でたった今行なわれている戦闘を見る限りその可能性は限りなく低いだろう。


 ガイル自身も名乗りを上げたいところではあるが、今の自分が『雪月』シーア=ベンの域に達しているかどうかはまだ確証が持てない。


 そう考えていると、ギースの言うように、もうすでに、2年生全員あの男にひれ伏したことになっているのかもしれない……


「……あとは、あの男ぐらいだが、気まぐれだしな」


「ああ、あいつか……」


 ……1人、思いついた男がいる。


 本人がその道を目指せばおそらくジャネット=リファやクレハ=エジウスよりも上を目指せるはずの破格の魔導師であるが、肝心の本人は、自身の魔導師としての能力や栄誉などまったく歯牙にもかけていない風変わりな男。


 あの男であれば、ひょっとしたら、驚異的な新入生の進撃を止められるのかもしれないとガイルは思った。


 戦術の天才にして狂人ともいえる男、『湯蛇』レオ=ナイダスだ。


 使う魔法の破格さもさることながら、神出鬼没、変幻自在の戦いはノーウェ=ホームとも通ずるところがある。


「『蛇の道は蛇』ともいうしな……」


「うーん、でも……あいつを俺たちの代表とは思いたくねえなぁ」


「……たしかに」


 ガイルはギースの嘆きにも似た一言に心から同調の意を見せた……!


◇舞台中央<ラウラ視点>◇


「ば、馬鹿な……あのジャネット様とシーア様が」


 舞台の真ん中にある『水柱』の前で大きな『水門』を作るラウラ=カポーティは、現在、北側で起こっている戦闘の様子に驚愕していた。


 ラウラの主君である『風華』ジャネット=リファと『雪月』シーア=ベンが協力して戦う以上、いくらノーウェ=ホームといえどもひとたまりもないだろう。


 主君の意を汲んで背中を押したラウラであったが、戦略上での打算もあった。

 『殿上人』2人が敵の総大将を討ち取れば、形勢は一気に自分たちの方に傾く。


 そのためには、多少は粘られたところで10数分、この場を死守していれば役目は完了するだろうと踏んでいた。


 ところが、ところが……


 ノーウェ=ホームは粘るどころか、破格の力を持った2人を相手に余裕綽々であった。


 会場の大スクリーンに笑顔で白い歯を見せる『紫魔導師』に、ラウラたちも観客たちも、会場内のほとんどすべての人間がその様子を見て絶句し、口を大きく開けたままの同調ぶりを見せていた。


「な、なぜどこの馬の骨とも分からぬ『紫魔導師』ごときが……」


 口を突いて出る偏見からくる暴言。


 人の性格はそう簡単には直らない。

 それを習慣づけていたのであればなおさらだ。


 部屋を散らかす癖のあるズボラな人間が多少整理整頓ができるようになったとしても、潔癖なまでの掃除好きには決してなれないのだ。


「相変わらず、見る目のない人ですねえ」


「な、何だと?」


「ごく普通に、論理的に考えて、私が傘下になっている時点でノーウェ殿の実力は容易に想像できるでしょうに……」


「うっ……」


 認めざるを得ない事実。


 ちょうどラウラの主君であるジャネットと、シーア=ベンの間に位置するランクの『殿上人』、『泥欲』クレハ=エジウスを圧倒して派閥の傘下に組み入れたということは伝え聞いていた。


 それを基点に考えれば、「『紫魔導師』ごとき」などという言葉は決して出ては来ないはずであるが、幼い頃より叩きこまれてきた特権意識がどうしても邪魔をしてしまう。


 対峙するクレハ=エジウスのことも、その心では本当は認めていない。


 紛れもない第2学年首席であるのだが、貴族の身分ではない彼女の下につくことは許されない。


 絶対に認めたくないのも事実。


 その2つの想いが交錯し、決して同調を見せないがために、それが人から「賢明さ」というものを奪い、その判断を鈍らせる。


「うるさいっ、クレハ=エジウス。我々が貴様をここで倒してジャネット様をお助けする。それだけだ。いくぞ、ヒズ、ロクサーヌ」


「はいよっ」


「分かりましたわ」


「『水門開放』」


「『氷流貴ひょうりゅうき』」


「『転石所分てんせきしょぶん』」


 ドォーーーーーーーーーーーン……ザッバーーーーーン!!


 パキパキパキ……ギシギシギシギシ……!!


 ガランッ、ガランッ、ガランッ……ゴリゴリゴリ……!!


 公爵令嬢側近衆の名誉にかけて、『水門』のラウラ=カポーティ、『氷殻』ヒズ=ミステル、『石転』ロクサーヌ=イミューズの貴族令嬢3人はこれまで防御用に作っていたラウラの『水門』を開放し、「ELEMENTS団」に向かう大波を作り出した。

 ヒズの作る大量の『氷塊』、ロクサーヌの作る『岩塊』がラウラの『水流』と合わさって、まるで『流氷』や『土石流』のように、勢いを持って流れ込む。


 3人衆が誇る連携技……


 『風華』ジャネット=リファが上空ですべてを制し、自分たちが地上を一掃する……


 そんな、【魔花】2年生の理想を込めた最高の連携技であったが……


「行きますよ、リバー君、コナース君」


「承知致しました」


「はいはい。いつでもどうぞ」


「「「『堤虎防都てとらぼうと』」」」


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドド……!!

 ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ……ドリュリュリュリュ……!!

 ドバーーーーーーーーーー……モリモリモリモリモリ……!!


 襲い掛かる大放水に対し……

 まず、リバー=ノセックが焼き固めた土台を組み……

 次に、コナース=イナッソが砂利交じりの土を流し込み……

 最後に、クレハ=エジウスが斜面と上部の平面を整地した上で水を抜いていく……


 向こうを張って……というだけではなく、正面を防いだら側面まで3人の『土』使いによる『堤防』が次々と組みあがり、勢いと行き場を失った『水流』は、その場で堰き止められ、ラウラたち令嬢3人衆の元へと戻ってきた。


「くっ、『水門』……ヒズ」


「はいなっ、『氷結乃鬨ひょうけつのとき』」


 ザバーーーーーーーー……ピキピキピキピキ……!!


 戦場はさらに混迷の度合いを増していく……


 『水柱』を守るラウラたち守備隊と相手方「ELEMENTS団」の間に、大きな土掘に囲まれた巨大な『水たまり』ができあがった……!


「さあ、皆さん、一気呵成と行きましょうか」


「「「「「おーーーー」」」」」


 『水たまり』の上を苦にせずスイスイと動くことのできる、『ELEMENTS団』の面々が、一斉に水面をスケートでもするかのように滑り出した。


「くっ、迎撃するぞ!」


「「「「「はいっ」」」」」


 大一番の正面衝突が始まる……!


◇中央西上空<ジェシー視点>◇


「あっつーーーーーーーーーー!!」


「どわーーーーっちっち!!」


 尻に『火』が付く2人……


 これまで、ジェシーによる『火』の連撃と仲間メンバーのルーモ、アスキーによる『風』の連携の合わせ技を何とか回避したり、『水魔法』で相殺していた敵方2人であったが、思わぬところから横やりが入り、急ぎ消火を試みたものの、今も尻から煙を出している。


「あぢっ、『弧玉水渦こだますいか』……の、ノーウェ!アノヤロー!!」


 最終的には、ジェシーの幼馴染であるブルート=フェスタの生み出した『水玉』の中に納まって肩を組んで火を消したが、敵の青赤コンビは、思わぬ出来事によってずぶ濡れになってしまった。


「これで身体が重くなったはずだ。一気に仕留めよう」


「うん」


「りょーかい」


 幼馴染とはいえ、決闘なので容赦はしない。


 すでに『火』は消えているというのに、『水玉』の中に入ったまま、息を止めて口を膨らましている幼馴染を見て、ジェシーは少しため息をつきながらも、『炎』を発動させた。


「『火纏衣倍斗ひまといばいと』」


 全身に炎を纏わせるジェシー……


 『炎格』の称号の真骨頂だ。


「「行くよーー『風廊喜屋武ふろきゃん』!」」


 ルーモとアスキーの合わせ技である『風』が『水玉』の水分を吹き飛ばす。

 赤青コンビを覆っていた水の膜が取れて生身の身体になったところで……


「喰らえ『炎月擦砲えんげつさっぽう』」


 ジェシーは全身に纏わせた『炎』を今度はその右足に集中させ、空中で回し蹴りをしながら、敵に向かって放った。


 バシューーーーーーーーーーー……ゴォッ!!


 巨大な『炎塊』が、『水玉』を飛ばされてもなお、河豚のように口を膨らませているブルートとバランの元へと襲い掛かる……!


「ぷはぁっ!来たな、ジェシー……俺たちの奥義を受けてみろ」


「むはぁっ!時は来た、受けてみるがいい……俺たちの魔法の『共鳴』!」


 何のこっちゃ、と思っていたが、敵方、ブルート=フェスタとバラン=レンホーンは互いに両手をジェシーの方に向かって差し出した。


「『湿王里しおり』!」


「『火織かおり』!」


 次の瞬間、ブルート=フェスタの両手からは白く輝く煙が、バラン=レンホーンの手からは黒い煙がもうもうと噴き出した。


「「『二人覇王里ににんばおり』」」


 ボッゴーーーーーーーーーーーーーン!!


 2つの煙が混ざり合い、ジェシーの『火塊』とぶつかったそのとき、大きな蒸気の放出が起こった……!

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


激突……!


次回、いよいよ終盤。

共鳴し合うのは……!


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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