6-66『両輪の花を蝕む悪魔』
『雪崩』が襲って来た場合の対処法は……
泳いで浮上し、流されないようにする。
……今回は、ほぼ垂直に近い角度から落っこちてきてるので無理!
『雪崩』と言うよりも、ほぼ『雪の滝』という表現が正しいのかもしれない。
横に逃げるという手もあるが、それをしたところで、ジャネット先輩たちに同じ魔法を使われたら元の木阿弥なのであまり前向きな対策ではない。
いやー、まいったね。
一瞬、現実逃避したくなって気が遠くなってしまったよ。
仮に、俺に対応策がなかった場合、先輩たちは雪に埋もれた俺をどうするつもりだったんだろうか……
下手したら、凍死、圧死、窒息死だよ?
まったく……!
さーて、降りかかる『大雪崩』をどう料理していくのか……
ここからがノーウェ=ホーム直伝「雪崩対策講座」のお時間だよ。
まず、この状況に最も適切な『青魔法』を選びます。
それは……属性魔法との相性に優れ、魔法の行使時間(持続力)があり、なおかつ、大威力の魔法を凌ぎ切るポテンシャルを持つ魔法となります。
ちなみに、『赤』については、選ぶ属性魔法は『火』の1択ですね。
『土』も悪くないけど、防げるだけで消せるわけじゃないから今回は力不足。
2人の先輩の合わせ技の『風』と『雪(氷)』には同じ属性では太刀打ちできないし、『水』もブルート以上のアホパワーがないときっと無理なので、やはり『火』となるね。
さて、そんなわけで『赤』は先に用意してあるものを今回は使いますよ。
問題は『青』!
この『青』を選ぶ際に、必要となるのは、その魔法の持つ威力ではありません。
大事なのは2点。
まず、適性。
これは当たり前ですね。
『雪崩』が降ってきてんのに、『ニードルラッシュ』や『スプラッシュマジック』をしても焼石に水、雪崩に水飛沫程度の効果しかないわけで、どんな魔法が効果的なのかが重要なんです。
もう1点。
『青魔法』には『赤魔法』と合わせたときに『融合』させられる度合いというものがあります。
それが高いものは、より『赤魔法』と混ざり合うことを許容してくれるんだけど、低いと単純に合わせる程度に甘んじてしまう。
例を挙げると……
熊をも簡単に弾き飛ばす衝撃の威力を誇る『オニヒトデ』だけど、『赤魔法』との『融合(許容)度』はあまり高くなく、せいぜい合わせて属性を上乗せする程度の効果しかない。
まあ、元々のこの魔法の威力が桁違いなので、上手くできているいえばいえるんだけど、なまじ『青』の完成度が高い技ゆえに、却って『紫』への汎用性が低いというわけだな。
逆の例として、さっき、シーア先輩に放った『フェザータッチ』は逆に『赤魔法』との融合度が非常に高い。
だから、『青魔法』単体としては「くすぐりの奥義」程度の力しかないのだが、『赤魔法』と合わせたときに、大変使い勝手の良い魔法に化けるというわけだ。
ちなみに、「くすぐりの奥義」としても相当な持続力を持っているけどね。
この『フェザータッチ』という魔法は……!
ブルートとバランは30分以上笑い悶えていたから。
この観点から見れば、さすがは、ワイバーンの魔法といえなくもない。
……おっと、口調が戻ってしまっていたな、まあいいや。
それで本題。
差し迫った解決策だがどの魔法を使うのが正解か……?
チャンチャラチャラララチャンチャンチャーン……
チャンチャラチャラララチャンチャンチャーン……
……俺は、『マジックパフ』を使う。
言わずと知れた最弱初級モンスターの雄、「ゴブリン」の固有魔法である。
さすがに初級中の初級の魔物から得られる魔法だけあって、威力は最弱。
『オニヒトデ』の下位下位下位互換のような認識を派閥の皆からもされており、よく野営時のクッション代わりにもされておりました、哀しき魔法。
そんな最弱の威力の魔法も『融合』によって大化けします。
今回使うのは、このゴブリン由来の『マジックパフ』……
年季でいうと、もう10年近く前に手に入れた魔法なので年代物。
これをまず上に向かってパフッと出します。
ちなみに、このまま用いても、相手の『風魔法』系をある程度吸収してクッションの役割を果たし、威力を半減してくれるという効果も持っています。
まあ、半減したところで、雪崩なんで飲み込まれた時点で一巻の終わりですけどね。
なので、今回はこれと『ハイファイア』を融合させましょう。
「『ゴブリンパフ-ハイファイア』」
すると、どうなるか……
……
…………
………………
膨らみます……!
『マジックパフ』は『ハイファイア』を空気のクッションの内部に取り込んで膨らむんですよ。
ぷくーってね。
まるで熱気球が温かい空気によって膨張するように、ね。
そして、融合許容度の高い『マジックパフ』は、1発の『ハイファイア』だけでなく、まだまだ受け入れてくれるんです。
だから、私はどんどん吹き込んで膨らんだ内部をかき混ぜていきます。
「『ハイファイア』、『れんぞくま』」
「『ハイファイア』、『れんぞくま』」
「『ハイファイア』、『れんぞくま』」
大きくなーれ、大きくなーれってね。
どうでしょうか……
膨れ上がった『マジックパフ』は、その内部に『火の玉』をいくつも取り込んで、『大雪崩』を受け止めるほどに大きくなりました。
まだまだいきますよ~。
『エンジェルウイング』で強化した状況でやったことがないので、あとどれくらい許容してくれるか分かりませんが、もっと膨らませていきます。
「『ハイファイア』、『れんぞくま』」
「『ハイファイア』、『れんぞくま』」
「『ハイファイア』、『れんぞくま』」
大きくなーれ、大きくなーれってね。
……うーん、そろそろ限界が近いですねえ。
臨界というべきか……
蕾が膨らんで、今にも花を咲かせるために開かんとする状態です。
さあ、いくぞ。
「『ハイファイア』」
プクウゥーーーーーーーーーーー……パァーーーーーーーーーーーーン!!!
もちろん、限界を超えれば弾けます……!
『特大の火の玉』から『無数の火の玉』が分裂する形でね。
今回の発動は下からなので、上方向に向かって……!
これが、『紫魔法』の真髄にして、俺の本気の本気……!
「『マジックパフ(改)-『火華』」
ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ……
ジュッ、ジュッ、ジュッ、ジュッ、ジュワーーーーーーーーー!!
ボガーーーーーーン……ジュジュジュワーーーーーーーーーー!!
「「う、嘘……!?」」
さあ、『大雪崩』は消えましたよ。
こっちの『火花』はまだ3分の1くらい残っていますかね?
全部、打ち上がりますよん……!
お気をつけて!
ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ……
「「くぅ『雪月華』」」
ボワンッ……ブババワーーーーーーーーーー!!!
……うん、ちょっと小さいね。
連発は難しかったのかな?
ジュッ、ジュッ、ジュッ、ジュッ、ジュワーーーーーーーーー!!
ボガーーーーーーン……ジュジュジュワーーーーーーーーーー!!
「「くぅーーーーーーーー」」
ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ……
なんとか、2人の咄嗟の『領域支配』によって上がって来る残りの『火の玉』群を弾き飛ばしていますね。
バシュッ……ヒューーーーン……ボアッ!
おかげで、四方に『火の玉』が弾き飛ばされていますね。
これは、想定外だったけれど、一応、舞台上に収まっているみたいで、観客席に被害が及んでいないのでよしとしよう。
バシュッ……ヒューーーーン……ボアッ!
「あぢっ、『弧玉水渦』……の、ノーウェ!アノヤロー!!」
なんか遠くでアホ声が聞こえてきた気がしないでもないけど、きっと空耳だろう。
『火花』の爆発音で耳が一時的にバカになってしまったのかもしれない。
ヒューーーン、タッ……
ヒューーーン、タッ……
「はあっ、はあっ……」
「ふぅーー……」
ジャネット先輩とシーア先輩の2人が落ちてきた。
呼吸が乱れている。
まあ、無理もないな。
あれだけの大技を連発して、『領域支配』も発動したわけだから、一時的に魔力が低下して、飛行を維持するのも辛くなったのだろうと察する。
『殿上人』の先輩たちの弱点はそこかな?
あまりにも1発の威力が強すぎるために魔力の消費も、回復も遅れてしまう。
先輩たちの魔力量自体はまだまだ全然余裕のある状態なのだろうけど、それを魔法として発動するための体力が落ちた状態。
例えるなら、水のタンクとポンプから水を吸い出す魔道具の装置があるとして、タンクの水自体はまだ全然減ってないし、充分に残っているけど、吸い出す機能の方が1度に使い込み過ぎてエネルギー切れを起こしているようなイメージだ。
もちろん、体内の魔力循環が再整備され、多少なりとも体力的な回復がなされれば、すぐにまた魔法を打てるようにはなる。
とはいえ、ここに隙ができるわけで、先輩たちももっと魔法の威力以外の面も鍛えていかないといけないよね。
2位の人と3位の人は、見ていたかぎりだともっと持続力があった気がする。
まあ、今回は待ってあげるけどさ?
ちなみに、俺の魔法に関してはそう言った「1発の魔力消費が強過ぎて体力奪われる問題」はほとんど発生しない。
属性魔法は言わずもがな『赤魔法』であり、非常に燃費のいい『ハイ級』なんで、よほどの無理をしなければ、今では魔力尽きるまで一定の間隔で撃ち続けることができるだろうし、『青魔法』も威力があり過ぎて燃費の悪い魔法というのがほとんどないんだ。
攻撃魔法で言えば、元々ドラゴン規格の『聖なる息吹』くらいかね。
あとは魔力そのものをごっそり消費する最強のキャンセル技『王手待ち』もだな。
そんな技が、攻撃、防御、補助、その他でだいたい1個はあるもんだ。
『聖なる息吹』はドラゴンの『ブレス』だけあって、破格の威力を持ってはいるんだけど、溜めの時間が必要だし、この燃費の悪さを考えると、ゴブリンの固有魔法である『マジックパフ』の方が俺にとっては遥かに有用だ。
『融合』に『融合』を重ねていけば、『ブレス』に負けないほどの威力を出せるわけだし。
「どうです?ゴブリンだって強い魔導師を蹂躙できるんですよ。侮れないでしょう?」
「く、屈辱」
「まだです」
タンッ、シャリッ、シャリッ……
ブワッ、ビューーーン……
……そろそろ回復したかな?
焦らなくてもいいですよ?
シーア先輩とジャネット先輩は、今度は二手に分かれて飛び上がった。
今度は、2方向から挟撃する狙いのようだ。
高度もさっきよりも低い感じ。
「さあ、どんどん来てくださいね。もっと先輩方の魔法に慣れたいんで」
「生意気……『雪魔月裏』」
ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ……シャリシャリシャリシャリシャリ……
シーア先輩は手のひらサイズの花のような形をした、鋭利な『氷の花弁』いくつも作り出している。
「慣れる前に終わらせます。『風八魔胞刺』」
ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ……シャッ、シャッ、シャッ、シャッ、シャッ……
ジャネット先輩も、シーア先輩と同じような形の『風の花弁』を、こちらも無数に生み出している。
ふむふむ……
両手の方向から鋭い刃の花か……
「両手に花」とはこのことだね……!
……ちょっと違うか。
それに、必ずしも2方向から来るとは限らないもんな。
さて、対処しようか。
まず、頭の上に『マジックパフ』を張り、『フロート』で浮かせておく。
さっきは『火』だったので一目瞭然だったけど、『風』と『融合』させることも当然ながらできる。
『水』でも『土』でも『氷』でも『マジックパフ』は膨らむんだ。
膨張率には、差はあるけどね。
とりあえずこれはこのまま待機。
2人にバレないように……
「覚悟!」
「お覚悟を!」
ちょっと目を離した隙に、2人の周囲は、『領域支配』してんじゃないかってくらいにそれぞれの『刃の花』で埋め尽くされている。
本当に一片の容赦もない人たち……
俺の全身が切り刻まれても平気なのかな?
ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ……
ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ……
……来たな。
予想していた両面から……
シーア先輩の『氷の刃』は形のある物質なのでまだやりやすい。
「『エアマッシャー』−『ハイファイア』(融合)」
「魔鏡」の魔物「ニックジャガー」の固有魔法である『エアマッシャー』は物質には効果的だけど、魔法には効きが弱い面がある。
でも、『氷』や『石』、『土』などの個体であれば物質化しているから効果がある。
『水』も液体だから、まあ……
「『ハイファイア』、『れんぞくま』」
プクーー……パァーーーン……ボボボボボボボアッ!!
『エアマッシャー』の融合許容度は、『マジックパフ』ほどではなくそこそこ……
それでも、俺の身体よりも大きいぐらいの、『炎』を含んだ円形のクッションができ、それが破裂すると、中の炎が勢いよく連なって放出されて『大輪の炎の花』を作り出し、シーア先輩の放った『氷の刃の花』を溶かしていく。
「『マジックボム』-『ハイストーン』(融合)」
ジャネット先輩の『風の刃の花』はもう少し厄介だ。
『エアマッシャー』が効きづらく、素通りしてしまう可能性があるので、こっちは魔法を破砕する『マジックボム』と『ハイストーン(石板)』による『融合』で対応する。
「『ハイストーン(石板)』、『れんぞくま』」
こちらも、薄く伸ばした形ではあるけれど、俺の身体の側面を覆うくらいの『石の板』のサイズを放つ。
『マジックボム』は魔法を粉砕する魔法なんだが、これに『属性魔法』を組み合わせて『融合』させると、面白いことに、『融合』させた物質(今回は『石』)が他の魔法に触れたときに、爆発と魔法分解が始まる。
ヒューーーン……メリメリ……ボッガーーーーーン!!
しかも、連鎖するので、周囲の魔法を食らうように破砕し、石も、触れた魔法も、総じて細かく砕け散っていく。
それはまるで大輪の『石の花』だね。
「「まだまだっ!」」
……やはり、上から来たか。
両面は誘導で、上から2種類の『刃の花』が振って来る。
まず、『フロート(解除)』をして……
「『ハイウインド』」
『風』を上向きに送り、『マジックパフ(風膨張)』を送る。
そして……
「『マジックボム』」
ヒューーーー……ブババババババーーーーーーン!!
上空で大きな『衝撃波』が生まれ、『刃の花』の花弁は空高く散っていった。
「厄介な魔法……」
「……やりますわね」
「どうぞ、休憩して構いませんよ。こっちはまだまだ余裕ですけど」
この手の訓練はずっとしてきていますのでね。
「魔境」での魔物相手は言うまでもなく、夏休み以降はクレハ先輩&コト先輩や、最近ではアホコンビ相手に1対2の戦闘訓練をこなしてきている。
「本当、生意気」
「ノーウェ君、不遜ですよ」
先輩たちの怒りのボルテージもどんどん増してきている気がする。
もっと、上げてくださっても構わないですけどね。
「お2人には次の『決勝ラウンド』に向けての、俺の養分になってもらうつもりですから、時間ギリギリまでつき合っていただきますよ」
「「……っ!!」」
「まだまだ、寝かせませんからね。さあ、もう1戦行きましょう」
さあ、どんどんやっていきましょう。
魔力切れを起こすのはまだ早いですからね?
「き……鬼畜!」
「あ、悪魔です……」
……
…………
……………………
……えっ、何でよ!?
25分経過……
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
あくまで魔法決闘の話ですからね……?
あくまで(^ ^;)
次回、余波……!
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




