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6-65『紫の魔導師』

◇「舞台中央」<ジャネット視点>◇


 不意を突く攻撃は敵の18番。


 <無法者連合>がこれまでの<連合戦>において、真正面から相手とぶつかった戦いはほとんどない。


 それは確認したこれまでの決闘データからも明らかなことである。


 殊に、リバー=ノセックが指揮をとるときは、必ず彼らに有利な状況を作り、その上で敵を完膚なきまでに倒す手法が多く散見された。


 今現在、南東の『氷柱』にカーティス=ダウナーを置き、南西の『風柱』にコト=シラベを置いたのは、「ELEMENTS」という決闘の難易度を変えるため、ということだが、それもどこまで信じていいものなのか分からない。


 自分の考案した「PLANTS」のこともあり、一度は沸騰したジャネットであったが、冷静に考えれば、それも相手の「策」である可能性もある。


 だから、そのあとで、面と向かって「これからは無策」だの「総力戦」だの言われたところで、信じるのも疑うのも馬鹿らしいという境地に至った。


 リバー=ノセックはこれまでもジャネットの脳の片隅に砂粒ほどの細かな疑問の種を蒔いてきた。


 ほんの数秒前の会話でも、挑発めいたその言動の奥に、意味深な言葉を仕込んでいた。


 自分たちはこれから「無策」で行く……


 残り1分までにノーウェ=ホームを倒せなければ<公爵令嬢連合>に勝ち目はない……


 散りばめられた罠の1つ1つに対処していれば、どうしたって相手のペースに引きずり込まれる。


 それならばいっそ、1度相手の思惑に乗って、思いっきりぶつかった方がいいのではないか……


 仮に罠があったとしても、数で押す……


 回り回ってその方がいいように思えてきたのだった。


 守りではなく、攻め勝つ……


 【紫雲】にも【泥魔沼】にも、実力において上回る……


 総力戦は、元々、ジャネット側も望んでいる形でもあったのだから。


 敵の指揮官の挑発に対する怒りによって沸き起こった熱い『風』は、広い会場の天井まで上がったあと、再び吹き下ろす頃には冬の寒風のごとく冷えてその身に戻った。


 いざ、尋常に勝負……


 ……そう思った矢先のことであった。


「これから『肩組んで特攻大作戦』を発動いたします」


 再びこちらの梯子を外すかのような奇策……


「ふはははは、行くぞ、バラン」


「むはははは、おうよ、ブルート」


 どこまでが本気でどこまでが冗談なのか分からない……


 一気に踏み潰してしまってよいものか……


 物事の裏の裏を読もうとする有能な指揮官だからこそ陥る癖。

 それが、ジャネットに一瞬の躊躇いを生んでしまっていた。


「ジャネット様、私にお任せを……!」


「「お任せを」」


 そう言って、先んじて前に出たのは、今や頼もしい存在となった新入生、『炎格』のジェシー、そして同じく有望株の『風接』ルーモ=ピアジェ、『風分』アスキー=アーチャーであった。


 新しい『風』が吹いている。


「ええ。任せましたよ」


 ジャネットは、頼もしい後輩たちの背中を見て微笑んだ。


「ブルートぉーーー、お前たちの思うようにはさせない。勝負だ!」


「ブルート君、覚悟!」


「バラン君も覚悟!」


「「ぬっ?」」


 肩を組む青髪の魔導師と赤髪の魔導師がこちらに近付いてくる中、3人の【魔花】新入生メンバーが対峙した。


「ふはははは、そうか。では勝負だ!この『紫』の魔導師と!」


「「「はい?」」」


「ぬはははは、そうだ。青のブルートと赤の我が肩を組んで合わされば、これ即ち『紫』の魔導師なり!」


 ……

 …………

 ………………


 ……ちょっと、何を言っているのか分からなかった。


「お、おい……ブルート」


 そんな発言をする幼馴染を見て、有望株の1人が何やらいたたまれない表情をしている。


「ブルート君、それはちょっと違うと思うよ」


「えっ?」


「バラン君はちょっと夢見過ぎだよね……」


「えっ?」


 ……躊躇した幼馴染に比べ、その友人たちは辛辣だ。


「ふ、ふはははは、いいだろう。論より証拠だ、行くぞバラン」


「むはははは、いつでもいいぞ、ブルート!」


「『水火輪廻すいかわり』」


 ギュイーーーーーン、ギュルンッ、ギュルンッ、ギュルンッ、ゴオォアーーー……!


「うっ、『炎足鞭投えんそくべんとう』」


 バシュンッ、バシュンッ、バシュンッ、バシュンッ……


「『風切乃流風ふうせつのるふ』」


「『浮輪砂突うわさつき』」


 ビュルーンッ、ビュルーンッ、ビュルーーーーン……!!


 ボウッ、ボウッ、ボウッ、ボブワーーーーーーー……!!


 ……驚いたことに、「青」と「赤」の魔導師たちが放った魔法は、数分前にはただの直線状の魔法だったのに対し、今度は『水』と『火』という相反する属性の魔法が2本、螺旋を作りながら、それでいて互いに邪魔することなく、ジェシーたち3人の方に向かって来た。


 ……まあ、それだけの話ではあるが。


 バァーーーーーーーーーーン!!


 そして、ぶつかり合う魔法によって、大きな水飛沫が起こる。


「ふはははは、『紫』の魔導師の真髄、もっと見せてやろう」


「むはははは、我ら『紫』の魔導師に作れぬ魔法はなし!」


「はあ〜……」


「「もういいよ、それで」」


 ジェシー、ルーモ、アスキーの3人は「紫」コンビを誘導するように中央から西の方の上空へと飛び上がって移動する。


 彼女たちは、空中戦の方が分があるとみたようだ。


「ふはははは、『風鷹』」


「むはははは、『火鷲』」


 これで中央は8対9となった。


 敵はクレハ=エジウスを筆頭にリバー=ノセック、コナース=イナッソの『土』のスペシャリストたち、ハリー=ウェールズ、ジャック=モントレーなど飛行が得意な舞台と、地空両面から強力な攻撃ができるメンバー構成だ。


 戦力を考えた場合、ジャネットが制空権を固めつつ、地上をマリーやラウラに任せるのが正解か……


 だが、彼女の脳裏と心内に1つの懸念と想いが去来しているのも確かであった……


「残り1分までにノーウェ=ホームを倒さなければゲームオーバー」……


 この決闘の「運営者」を気取る男からの不遜な挑戦状がどうしても気になってしまう。


 しかし、そっちに自分が向かうのはただでさえ数的不利な状況を考えれば指揮官としてあるまじき行為であり、悪手だ。


 戦略上の罠である可能性も非常に高い。


 ジャネットは、そっと胸に想いをしまい込んだままにしようと1人、小さく頷いた。


「ジャネット様、お願いがございます」


「何?」


 声をかけてきたのは入学以来の最側近である『水門』ラウラ=カポーティであった。

 いつになく真剣な面持ちで片膝を着いている。


「ここは私どもにお任せ下さい。ジャネット様は、()()()()()()()()()()()全力を傾けてくださいますよう」


「あ、貴方たち、一体何を!?」


 ラウラだけでなく、他の側近たちも一斉に頭を下げた。


「この戦、勝つことももちろん重要ですが、それ以上に大局的にみれば、このブロックであの男の快進撃をここで誰かが止めなくてはなりません。そして、それが可能なのはジャネット様をおいて他にはおりません」


 ……驚きであった。

 まさか、ラウラ始め側近たちがジャネットの心を読んでいたとは……


 皆、「気づいているぞ」と言わんばかりに笑顔を見せている。


「で、ですが……」


「ああ、じれったいですわ!」


「マリー……」


「今回は、貴方に譲りますわ!さっさと私の分までノーウェ=ホームを踏んづけてきてくださいまし」


 マリー=オネットは、そう告げると『土の領域支配』を発動し、いくつもの『土の人形』や『土の犬』を生み出した。


「……分かりました。それでは、しばしの間、ここをマリーとラウラに任せます」


「はっ。畏まりました」


「よろしくてよ」


 自分にも頼もしい味方がいる。


「よろしくお願いします。『風富士かぜふじ』」


 ブワッ、ビューーーーー……


 『風華』ジャネット=リファは、主力部隊の戦線を離脱するという、観衆や敵にとって驚きの選択を取り、得意の『風魔法』によって一気に北東『堅土の塔』へと向かった……!


 20分経過……


◇北東『堅土の塔』付近<ノーウェ視点>◇


「本気の本気?……楽しみ」


 ……おっと、心の声が漏れ出ていたようだ。


 いかんね。

 強い相手を前にするとどうも心の内を隠しておけなくなってしまう。


「ふっ、楽しみにしておいてください。先輩ぐらい強いのであれば、心置きなく強者の魔法を使えますからね」


 ……なーんて、ちょっともったいぶってみる。


「そういうことを言うやつはだいたい口だけ。『雪気消ゆきげしょう』」


 パラパラパラパラ……


 なかなか手厳しい……ん?


「『ハイファイアースプラッシュマジック』」


 パリーーーーン!!


 ヒュンッ……シュパパパパボボボボア!


 ……危ねっ!


 単なる粉雪かと思ったら周囲の冷気と結合連鎖して『氷塊』になったよ。


 しかし、戦ってみてなんとなくシーア先輩の魔導師としての「特性」ってやつが分かってきた。


 『雪月』……


 雪のように淡く儚いと思ったら集まって強大な力となり、月のようにそこにあると思っていたら消えてまた現れる。


 大小、緩急自在の魔法調整力と速さがその真髄であることが窺える。


 絶対的威力や物量を持つトップ3とはまた違った「強さ」だな。


「『ハイファイア(粉)』−『プロテクト』」


「『ファイア−フェザータッチ』、『シュラトラーント』」


 俺も、先輩の戦闘スタイルには、共感できる部分がある。


「火の粉?」


「『フロート』、『ハイウインド』」


 一方はそのまま残し、一方は放つ……


 『紫魔法』の真髄も先輩の特性に通ずるものがある。


 大は小を兼ねる、ではなく……

 小は大を凌駕する、とでもいうんかね。


 俺の『紫魔法』は言うまでもなく、『青魔法』と『赤魔法』の融合だ。


 『青魔法』は、魔物が持つ固有の魔法。

 古代から続く、それぞれの種が魔物同士や人間との生存競争の中で培ってきた特殊な魔法の結晶だ。


 『赤魔法』は、そんな魔物と戦ってきた人間の叡智と属性を司る「精霊(ELEMENTS)」の助けを結集した力。


 古代より魔物の脅威に晒されてきた俺たちのご先祖様は、精霊により自然の力の助けを借りて魔法を発展させてきたらしい。


 今は精霊を見れる人なんていないけどね。

 もう100年ほど前にも、エルフ族のほんの限られた人しか見れなくなっていたというぐらいだから。


 アルトやシャウなんかはたまに「筋肉の精霊」とか言っているけど、そんなのが存在するはずがないじゃないか。


 だいたい、俺は精霊だとか悪魔なんてものは、目に見えるまでは信じないようにしているし。


 さて、俺の本気の本気……


 それは、『青』と『赤』の真の『融合』を意味する。


 これまで見せて来たのはあくまでも組み合わせの妙。


 例えば、無属性の『青魔法』である『スプラッシュマジック』に『ハイファイア』を組み合わせれば『火』の散弾になる。


 もちろん、それだけで有用なんだけど、それはどちらかというと『青』の上に『赤』を乗せるようなイメージなんだ。


 パンの上にメロンを乗せるようなもんだな。


 繰り返すが、『紫』の真髄は『融合』にある。


 こっちは、『青』と『赤』が混ざり合って1つになる。


 つまり、メロンパン……!


 ……ん?

 メロンパンってメロン入っていたっけ?


 と、とにかく……見せてあげるよ、シーア先輩。


 最強の魔物の魔法と、最高の人間の叡智を組み合わせるとどうなるか……


 おっと、その前に……


「『ウインド-ステップ』『フロート(解除)』」


 おいで、おいで……


 俺はリバーの『堅土の巨塔』から離れ、


「逃げるな……えっ?羽?」


 フワッ、フワッ、フワッ、フワッ、フワッ……


 ボボボボボボボボボボボボボボボ……ボアッ!!


「うわーーー」


 最強の「くすぐり魔法」であるワイバーンの『フェザータッチ』を『火』と融合させるとだな……


 ごく薄い『火の羽毛』となるんだよ。


 ……そんな大した魔法じゃないって思うかもしれないけど、ところがどっこい……


 薄く淡いが故に、何かに貼りつくまでひらひらと舞う。


 そして、『羽根』の芯まで染み込んだ『火』が『風』と融合するとどうなるか……?


 その『羽根』が、何らかの燃える物資に貼りついた瞬間に、染み込んだ『炎』が『風』によって何倍にも増幅された形で燃え上がるんだ。


 まるで『火』が物質を食らうように広がっていく。


 先輩の着ているローブを「餌」と認めたようだ。


 しかも、容易には消えない……


 正確にいうと、消えても細かい微細な『火』がすぐに復活して燃え広がる。

 消すためには、絶対的な物量で消すか、『フェザータッチ』の効果が消えるまで待つしかない。


「うわあぁっ、『吹露雪大寒ふろゆきだいかん』」


 ビューーーーー……


 まあ、強力な属性魔法によって消せはするけど、果たして間に合うかな……?


 消そうと思っても、その『火の羽根』は不死鳥のように次々と燃え移っていく。


 ローブごと燃え上がるシーア先輩の『領域支配』が一気に狭まり、消火に集中する。


「『風水蓮花かぜすいれんげ』」


 ドバッシャーーーーーーーーーン……!!


 ……おっと、さらに大量の『水』が勢いよく消火作業に入った。

 ジャネット先輩の魔法だな。


「ううっ……」


「大丈夫でしたか?シーアさん」


「う、うん、大丈夫」


 ……ふむ、さすがは『殿上人』2人の魔法だ。


 『氷』、『風』、そして『水』によってワイバーンの『火の羽根』を消した……!


 シーア先輩のローブの所々に穴が開き、そのひじや膝の一部は赤く火傷が見られるが、ダメージ自体はそこまででもなかったみたい。


「ノーウェ君、望み通り、貴方を()()()()()()()()()潰しますわ」


「おや、こんにちは、ジャネット先輩。お久しぶりです。リバーの伝言を聞き届けてくれましたか……まあ、無理だと思いますけど、いつでも挑戦はお受けしましょう」


「むう……不遜ですわね。では、遠慮なく2人で行くとしましょうか、シーアさん」


「うん。でも、この男は危険。ジャネット気をつけて」


「分かっていますよ。最初から私たちの全力で行きましょう」


「うん」


 ……おう、本当に遠慮はなさそうだな。


 望むところだ……!


 ジャネット先輩、シーア先輩の2人の周囲に『風』と『氷』の『領域』が生まれ、その色が濃くなっている。


 規模が広がるというよりも、密度がどんどん濃くなくなっていく感じだ。


 こりゃ、とんでもない魔法が見られそうだな。


 ビューーービューーービューーー……


 シューーーシューーーシューーー……


「行きますよ、ノーウェ君、お覚悟!」


「うん、覚悟!」


「「『雪月華せつげつか』」」


 ボワンッ……ブババババワーーーーーーーーーー!!!


 上空、アリーナの天井近くまで浮かび上がるジャネット先輩とシーア先輩。


 『大雪』を乗せた『大風』が天井まで大きな木を作るように吹き上がると枝葉を作りながら、空高くから一気に俺のいる方に向かって吹き下ろしてきた。


 ……雪崩!


上から『大雪崩』が襲ってきた……!

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


再び大ピンチ……!?

『殿上人』2人はやっぱキツイ!?


次回、『紫魔法』の真髄……!


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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