6-64『運営者』
「な、なんでっ!?た、たしかに決まったはず……」
「不可解……」
……ふう、危ないところだった。
「狙うなら首を狙わないと……不死身の肉体なもんですみません」
……なんて、ちょっと話を盛ってみる。
「ば、馬鹿にするなぁー!『風具体転』」
「『ローリン』」
「きゃあっ!」
ゴロゴロゴロゴロ……
なんか、回転する風を送ってきたからそれ以上のものでやり返す。
目には目を、だよ。
俺を転がそうなど百年早いわっ!
「いや、先輩たちだって秘密を隠しているわけだからおあいこでしょ。わざわざ手の内をさらけ出すやつはいませんよ」
まあ、実際は話すほど大したことはしていなかったってだけ。
お腹に薄い『シェル』を貼り、『フロート』で固定していた。
防御というよりも、どちらかというとシーア先輩の『領域支配』への防寒対策だったのだが……
それだけだと、本当に強い攻撃には耐えられないが、敵の刺客が腹を狙っていると分かった瞬間に、『シェル』によってできた『魔法バリア』と腹の間に『マジックパフ』を挟んで衝撃を半減するようにした。
咄嗟だったが上手くいってよかった。
これぞ「匠」の仕事。
ちょっとチクリとしたけど、ギリギリで気づけてよかったよ。
シーア先輩と魔法の応酬をしていた間、先輩がどこか、本気ではあるが、全力でない感じがしていたんだ。
まるで何かを計って(測って)いるかのような、ね。
会話の最中に魔法を織り交ぜていたのは、こちらの虚を突くためではなく、気を散らせるため……
強いんだが、今ひとつ「凄み」がなく、一定のリズムに感じた俺は、その理由を探るために一旦攻守交代をして舞台を俯瞰してちょっとした違和感の正体を探った。
そのときに、倒れている相手メンバーが1人足りないことに気づいたってわけ。
シーア先輩の『領域支配』により周囲を先輩の魔法で覆えば、俺はこのモナという『風使い』の先輩の魔力に気づくのが難しくなる。
あとは、2人で息を合わせ、シーア先輩の魔法攻撃を互いの合図としながら、モナ先輩の突入のタイミングを計っていたというわけだね。
実によく考えられた連携だ。
これは勉強になる。
「さあさあ、他にも良い『連携』あったら教えてください。今後の参考にしますんで」
「くっ、なんという不遜な男……」
「小生意気……望み通り見せる。『大氷雪支配』、『特大雪厳氷点下』」
……おっと、ようやくシーア先輩が「本気の本気」を出して来たようだな。
周囲にたくさんの大きな『氷塊』が一瞬で作られる。
さっきみたいに、周囲の属性魔法を掻き消す『ウォーロックフェス』を発動させてもいいんだけど、なんか「いたちごっこ」になりそうだしな。
「『風具体転』」
ビューン、ビューン、ビューン、ビューン、ビューン……
『氷塊』が『風』によって回転して襲ってくる。
「『刺々冥雪』」
……しかも、細かい針のような『雪』も別方向からセットに!
連携技は単純に組み合わせるだけじゃなくて、時間差にして交互に発動することによって連続技にできるのも利点だな。
……見習わないと!
「『ハイファイア(大玉)』、『れんぞくま』」
「はっ、ちょっとぐらい大きな『火』程度では……」
「『マジックボム』、『れんぞくま』」
ドバッシューーーン……バァーーーーーーーーーン……!!
「なっ!?」
「また違う技……」
おかげで1つ思いついた。
「『メクルメクレオニクル』」
……
…………
………………
「「消えた……!?」」
属性魔法の中でも、物質として実体を持つタイプの属性の『領域支配』に対して、俺は有効な魔法を持っている。
それが『メクルメクレオニクル』……
カメレオン種の魔物から得た、物質に擬態する魔法だな。
岩場、水の中、炎の中、等々……
物質に溶けこんで同化し、相手に消えたと錯覚を起こす魔法だ。
『風』や『雷』なんかは結構難しいね。
『光』と『闇』はたぶんいける。
そして、『雪』や『氷』ももちろん有効だ。
「くっ、どこへ……」
「しっ!『雪断』」
シュパーーーーン……!
『氷』の刃ね。
シーア先輩には当然俺の位置が分かるだろう。
自分の『領域』の中に違和感があるわけだから、熟達した魔導師であれば『領域内』のことであれば容易に探れるはずだ。
でもね……問題はそこではない。
「『身代わり』、『れんぞくま』」
「えっ、何故!?」
『氷塊』を作ってしまったのは失敗だったね。
まだ『吹雪』の方が良かった。
ゴブリンの得意技『身代わり』によって、いくらシーア先輩が狙いを定めたところでいくらでも避けることができる。
さらに……
「『マッドスタチュー』」
「そこか!?『風具刺』」
ビュンッ……ブスッ……ドロドロ
「えっ?」
「……分身の術?」
……いえ、ただの『泥』ですよ。
造形の自由度は高いので、俺とまったく同じ姿形にできますけどね。
一応、「怪物」マッドデーモンの持つ魔法ですからね。
それなりに高度な技術ではあるんです。
さて、こうなると『雪』で視界が悪くなっているのは却ってそちらに不利に働くでしょうね。
「『マッドスタチュー』、『れんぞくま』」
「『マッドスタチュー』、『れんぞくま』」
俺は、シーア先輩たちとの距離を詰めるために、俺と先輩たちの間にいくつもの『泥の彫刻』を作り出した。
「くっ、次から次へと」
「何が狙い?」
「『身代わり』、『れんぞくま』」
「『身代わり』、『れんぞくま』」
彫刻たちと立ち位置を入れ替えて一気に近付く……
それが狙い。
あっという間に、先輩たちの前へ。
「お命頂戴」
「えっ」
「『マジックパフ』、『オニヒトデ』」
パフッ……ドッゴーーーーーーーーン!!
「ぐはっ……!」
「モナ!?」
モナ先輩は今度こそ俺の魔法を食らって吹っ飛んで行った。
『魔境』の熊をも倒す衝撃波だけど、ゴブリンの『マジックパフ』を挟むとなぜか威力が半減するんだよね。
衝撃だけでなく、爆発、ブレス、風魔法系なんかも半減できる。
つまり、ゴブリンはワイバーンに遭遇して風のブレスを受けても、その威力を半減できる魔法を持っているということだ。
……まあ、半減したところで受けたら確実にやられてしまうのがゴブリンの悲しさってやつだが。
宝の持ち腐れだな。
半減させたとしても実際、相当な威力だけど、あの人くらいの手練れなら大丈夫だろう。
……たぶん!
ちなみに、この謎現象に気づいたのはつい最近。
うちの<連合>が誇るアホ2人の訓練に付き合って「スペシャルデラックスアホコンボ」を受けたときに偶然発見した。
こういうことがあるから「青魔法」って面白い。
「さて、1人でも大丈夫ですか?」
「生意気……絶対倒す!」
全力で来てくださいよ?
こっちもそろそろ本気の本気で行きますから……!
◇同じ頃、「舞台南側」<リバー視点>◇
「やれやれ、なかなかの大仕事でしたね」
南東にある『氷柱』の周囲を『土塔』で埋め尽くしたリバーの下に1人の仲間メンバーが訪ねてきた。
言葉を発したのは『土塔』の建設者であるリバーではない。
彼のいる南東の『土塔』群と南西の『風柱』を繋ぐ『土の橋』を架けた男、コナース=イナッソである。
「君ほどの魔導師であれば、朝飯前というやつでしょう、コナース君」
「ははは、まったく人使いが荒いなあ。魔王の執事さんは」
「では、私は次の仕事に移りますので、ここはお任せしましたよ」
「はいはい、分かっておりますよ。これで僕も晴れて魔王の配下として城を任されたわけだ」
「いえ、カーティスが来るまでの留守番ですよ、あくまで」
「そんなぁ〜」
「ふふふ、貴方、『氷』持っていないでしょう?」
「そうでした……」
互いに軽口を言い合ったあと、リバーはコナースが造った橋を渡り始めた。
南東から南西へ……
その中央の辺りに曲がり角があり、舞台中央の方に向かう橋が、途中の、10メートル先くらいまで伸びていた。
リバーは曲がり角で1度立ち止まった。
南西の『風柱』の方も、着々と準備が整ってきている。
敵方の防衛部隊8名は、こちらの「ELEMENTS団」の奇襲じみた勢いに押され、退避して中央の『水柱』付近に陣取るジャネット=リファ率いる本隊に合流している。
敵が退却する隙に、こちらは『風柱』に細工を施した。
カーティスとジャックによる『石の壁』……
ミモレ、ハリーによる『石の壁』補強と、その内側、『風柱』を塞ぐように『光の壁』……
レミが認識阻害魔法『ハバメル』によって、相手に何をしているか悟られないようにしていたため、敵もすぐに奪い返しに来ず、こちらの作業時間が稼げていた。
仕上げは、クレハ=エジウスが『石の壁』と『光の壁』の隙間に『泥』を流し込み、『3層の防護壁』が完成と相成る。
リバーは、その最後の工程に入るかどうかのタイミングで曲がり角を曲がり、舞台中央の方へと橋から向かった。
道自体は板切れ程度の簡易的なものだが、ちゃんと等間隔に橋柱があり、即席にしては、手が込んだ造りとなっている。
歩きながらも、所々を補修して行きながら、その『土の橋』の終着点まで進み、リバーは敵陣をまっすぐに見据えた。
「あ、貴方たちは一体何を?」
リバーに対し、30メートルほど前方にいる敵の総大将が呼び掛けた。
まだ少し声が遠いので、リバーはさらに『橋』を伸ばして進む。
向かい合う敵陣は11名。
ノーウェによる「無色の策」によって2名が早々に離脱し、さらに『雪月』シーア=ベンと『颯梟』モナ=オウルがそのノーウェと現在交戦中だ。
橋の上に立つリバーに対し、敵方が警戒して攻めかかって来ない理由はただ1つ……
「リバー、お待たせ〜」
「はいはい、カーティス君と交代してきましたよ」
「リバー、待たせたな」
「リバー殿、ご指示通り、コトに『風の塔』を任せています」
「「ふ(む)はははは」」
続々と味方メンバーがリバーの下に集まってきた。
その数、11名。
ここに、<無法者連合>の主力12名と<公爵令嬢連合>の主力11名がわずか20メートルの距離で向かい合って対峙した……!
◇直後<ジャネット視点>◇
「あ、貴方たちは一体何を?」
素朴な疑問であった。
相手のやっていることは分かる。
こちらの味方部隊を南東と南西、それぞれの『柱』がら追いやり、自陣とした上で、防備を固める。
南東では、それまで北東にいたはずの相手の総参謀リバー=ノセックがいきなり現れ、『土塔』群を造りあげてしまい、さしもの策略家を自認するジャネットも正直、面食らってしまった。
同じタイミングで、南西ではてっきり『風柱』の攻略をしているのかと思いきや、突貫による『防護壁』が造られており、さらには、南西と南東の『柱』を繋ぐ『土の橋』まで敵は架けていた。
ある意味、むざむざと敵の行動を見過ごしていたわけではあるが、いまだに、その目的が理解できない。
橋を架けた理由にもあまり明快な根拠を見出せないし、それよりも不可解なのは、彼らが依然として『土塔群』や『防護壁』の中にある、属性魔法の『柱』の「色」を自分たちのものに変えていないのだ。
あれでは、あの地を取り戻した時点で強固な防衛施設をそのまま譲ってもらえることになる。
まだ時間は15分を過ぎたばかりなので、残り時間を考えればまだまだ挽回のチャンスはいくらでもあった。
北側の2つの『柱』といい、<無法者連合>はいったい何がしたいのか?
そんな疑問が極まりに極まったからこそ、その言葉がこの公爵令嬢の口を突いて出てきたのであった。
「お待たせしました。ようやく、決闘の準備が整いましたね」
「はい?」
そして、敵の総参謀から出てきた言葉は、さらに混乱を呼ぶ、まったく意外なものであった。
決闘が今始まるというのなら、これまでの時間はいったいなんだというのか。
「これは、私たちの派閥、そして<連合>のプライドなんですよ」
「プライド……ですか?」
この会話は映像と音声録音の魔道具によって、「あぷる」を通じて学園中、帝都中、いや、帝国中に中継されている。
敵参謀リバー=ノセックは単にジャネットに返答しているだけでなく、どこか他の誰かに向かって高らかと宣言しているようであった。
「はい。私どもは、この決闘『ELEMENTS』を長い時間を費やして考案致しました。ところが、実際にこの「冬の総魔戦」で出てきたものは、私たちの作り上げたものとはまったく違っていたものでした……」
「は、はあ……」
言わんとしていることは分かる。
せっかく「文化祭」のために時間をかけて作り上げたものが、学園側の事情で勝手に改変されているのだから、文句を言いたい気持ちは分かる。
ただ……
「で、でも……」
ジャネットが言葉を続けようとしたところ、リバー=ノセックは手で制止するポーズをとった。
「もちろん、『大会の運営に沿うかどうか』の観点から改変することは理解できますよ。しかしながら、多少の仕様変更は大目に見るとしても、その難易度まで変えられては製作者の沽券にかかわるのですよ」
「な、難易度……?」
「はい、私どもの総大将の言葉を借りれば、『どっかのアホ顧問が、勝手に生易しい決闘に変えてくれたもんだから、その尻拭いとして俺たちが再改変する』……だそうです」
「……」
……どっかのアホ顧問って誰だ?
そんな疑問が一瞬浮かんだが、どう考えても、思い当たる人物は1人しかいないので、ジャネットの困惑は続く。
内輪で済ませれば良い話なのでは?と正直思った。
しかも、これが全帝国ネットで放映されているという事実がさらに恐ろしい。
この目の前の<無法者連合>は、学園の運営する一大イベントの決闘の最中に公然とその運営を批判しているのだ。
「ですから、この決闘における『運営者』は私共ですので、難易度変更が完了したここから、本当の決闘が始まります。大会運営であっても、勝手は許しません。学園長も、『誰かの言いなりのまま、学園生活を過ごしていいのか?』とおっしゃっていましたのでね」
ざわざわ……
……
…………
………………
ざわざわ……
観衆がどよめき、ジャネットの周囲も困惑の表情で、各々が話をしている。
「たしかに、おっしゃっていることは一理あると思います」
どよっ……
どよめきが、今度はごく身近で起こった。
ジャネットは味方メンバーに対し、手で合図を送り、会話を制止させる。
「が……」
「が?」
……
…………
………………
ブワンッ……!!
エメラルド色に輝く公爵令嬢から大きな風が巻き起こされた。
爽やかなようでいて、怒気を含んだ荒々しい風……
決して攻撃を意図するものではなかったが、<無法者連合>の12人に向かって吹き荒れた。
「貴方たち……貴方たちだって、他人の決闘を勝手に改変したじゃないですかぁーーーーーーーー!」
「「「「「……」」」」」
……
…………
………………
なんとか我慢しようかと堪えていたが、我慢がならなかった……!
1つ前の、第3戦の決闘「PLANTS」は他ならぬジャネットが考案した決闘だ。
その決闘を思いっきり改変して、ただの「植物マムンクルス」の障害物を使った戦略的な決闘を、勝手に「ジャングル探索決闘」にしてくれたのはどこのどの派閥(<連合>)だったか……
「「じゃ、ジャネット様……!?」」
「ふうっ、ふうっ……」
結果、側近たちも唖然とする荒れっぷりであった。
「それはそれは、大変申し訳ございませんでした」
……そして、いけしゃあしゃあと頭を下げる敵の総参謀。
「私どもの総大将はわがままなものでしてね。勝手気ままに振る舞うので手を焼いているのですよ。その件に関しましてはあとできつく言っておきますので……」
まるで、子どもの癇癪をなだめるかのような口ぶり……
これだから、「商人」は油断ならない。
「もう、結構です。ノーウェ君には私から自分で言いますから。それよりもお覚悟を!」
「畏まりました。ここからの決闘は、我々は『無策』で参りますので、よろしくお願いします」
かと思えば、間髪入れずに揺さぶりをかけてくる。
「もう、どちらでも結構ですよ」
「……あ、1つ、うちの総大将からの伝言を忘れておりました」
「なんでしょうか?」
「『残り1分でこの俺、ノーウェ=ホームを倒してなければ、この決闘、<無法者連合>の勝ち確定でーす』……とのことです」
「……分かりました」
挑発に次ぐ挑発……
対戦相手である自分たちは眼中にないと振る舞ったかと思えば、執拗にジャネットのプライドを攻めてくる。
総参謀と総大将、どちらの狙いなのかは計りかねるが、この年上の『殿上人』の矜持を刺激するのには十分であった。
「じゃ、ジャネット様」
「分かっていますよ」
ジャネットは、心配する側近たちに冷たい笑顔で応えた。
極めて冷静にとその脳に指令をしつつ、周囲の側近たちが畏れるほどに鋭い目を相手の<連合>に向けた。
頂点の捕食者にある者の目……
……『殿上人』の本気の本気である。
「もう、よろしいですか?」
「はい……ああ、あと1つ」
そんな味方ですら畏怖するジャネットに対して、敵の指揮官は相変わらず飄々としている。
それがジャネットにとって、何よりも腹立たしかった。
「なんでしょうか?手短にお願いします」
「はい。先ほど、もう『策はない』と言いましたが、撤回致します……これから『肩組んで特攻大作戦』を発動いたします」
「「「「「はあっ!?」」」」」
ダッダッダッダッダッダ……!!
開戦の旗を掲げるように……
<無法者連合>の主力部隊から青と赤のローブを着た2人の魔導師が、肩を組んで飛び出した……!
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
ジャネット先輩、爆発……!
この際、思いの丈はぶちまけた方がいいですね(^_^;)
次回、『紫魔法』……!
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




