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6-62『ELEMENTS団』

◇「中央『水柱』<ジャネット視点>◇


 決断は紙一重。


 上手くいくこともあれば、いかないこともある。


 優れた指揮官というものはそのギリギリの妙味を楽しむものだ。


 たとえ1つの戦術に失敗したとしても、二の矢、三の矢を放つ。


 その失敗を「糧」とし、失敗の原因が己にあるのであれば見つめ直し、敵にあるのであれば学ぶ……


 単に魔導師としての英才教育だけではなく、人を指揮する立場に就く「公爵家」の人間だからこそ培ってきた「帝王学」である。


 その観点からすれば、たった1つの戦術が失敗しただけ……


 すでに戦術的な「二の矢」は向かっていることであるし、何より決闘はまだまだ序盤なのであるから、失策を引きずっていていい状況ではない。


 頭では分かっているのに、心では割り切れないのは、この指揮官が紛れもなく血の通った人間だからなのであろう。


 ジャネット自身、十二分に警戒はしていた。


 敵はただの優秀な指揮官ではない。


 行動がまったく読めない学園の決闘に革命をもたらし続けている男とそれを脇で支えながらも勝利のために最善の方法を手繰り寄せる百計を案じる戦術の大家なのだ。


 1つ前の決闘で対峙した、行動が極めて読みやすい、「自意識過剰の鼻持ちならない伯爵家のお坊ちゃん」とはまったく比較にならない。


 だから細心の注意を払った上での決断であったはずだ。


 だが、結果は裏目。

 どこでミスを犯したのだろうか。


 相手チームの【紫雲】と自分を唯一打ち負かした年下の魔導師『紫魔導師』ノーウェ=ホームへの執着……?


 それはあるかもしれない。


 前回の決闘終了間際の守備的戦術に対する観客の反応に由来する焦り……


 それもある気がする。


 だが、的を射ない。


 分かっている……


 味方メンバーから戦術の提案を受けたときに一抹の不安が過ぎってしまった。


 それは、悪い予感……という程度のもので、論理立てて説明できるものではないのだが、『颯梟さっきょう』モナ=オウルから提案がなされときに確かに抱いた感覚であった。


 だが、ジャネットはその場で断ることができず、提案を受け入れてしまった。


 なぜ、そうしたのか……?


 主君に対して忠実なモナの覚悟を見てしまったからである。


 結局、不安は的中し、モナ=オウルと配下の部隊メンバー2人は、敵の見えない時間差の魔法による被害を受けた。


 そして、現在、「二の矢」となったシーアが間髪入れずに戦闘に入っている。


 いかな革命児でも初見の『殿上人』との戦闘はどのような結果であっても長引くはず。


 その間、こちらも手を打てばいい。

 そうマインドセットをした矢先であった。


 優れた指揮官は状況に応じた最善手をひと呼吸入れれば見出すことができる。


 しかし、機に敏い不世出の指揮官は、そんな思考の「ひと息の間」も許してはくれないのだ。


「どういうことでしょう?」


 おっとりを装いながらも漏れ出る困惑。


 なんと、敵陣がこちらに向かって総攻撃を仕掛けてきたのだ。


 ……いや、1人、肝心な人物がいない。


 総参謀リバー=ノセックは北東の『土柱』に残ったままだ。


「ジャネット様、いかが致しますか?」


「ラウラ、ジェシー、マリーで応戦を。ただし、深追いはしないように。『水柱』の守備が優先事項です」


「「はっ」」


「分かりましたわ」


 ラウラ、ジェシー、マリーの3人が北東からの攻撃に備え、『水柱』を守るように布陣した。


「ルーさん!」


「は、はい!なんでしょうか、じゃ、じゃ、ジャネットしゃま……」


「リバー=ノセックの次の行動を『見通せ』ますか?」


「は、はい。あの距離ならたぶん……や、やってみるでし!」


 『未魔女』ルー=ネルネは未来予知ができる。

 ただ、それは人物か場所か、「スポット」での予見となる。


 ノーウェ=ホームは現在、シーアと交戦中……


 ……となると、リバー=ノセックか、こちらに向かって来る敵の一団か、どちらの未来を予見した方が良いか悩みどころであるが、ジャネットは即断した。


「り、リバー=ノセックは、ろ、籠城するみたいでし……!」


 どうやら、リバー=ノセックはそのまま北東の『土柱』に引き篭もるようだ。


 ノーウェ=ホームとリバー=ノセックで『火柱』と『土柱』死守する……


 そして、その他の13人でもう1つの「色」を奪いに行く……


 そのような絵図が思い浮かぶ。


 しかし、その絵図の中でぼんやりとして焦点の定まらない部分がある。


 なぜ、あれだけの時間の猶予があったのに、自陣近くの2つの魔道具の「色」を自分たちのものにしなかったのか……


 一抹の不安……


 敵はいったいいくつの罠を張り巡らせているのか?


 1つ1つの、ほんの些細な疑問点が少しずつじわじわとジャネットの脳に負荷を与えていく。


「い、行けません」


「えっ?」


「あ、いえこちらのことです。それでは、ルーさんもマリーの応援を」


「はい」


 相手のペースに飲まれないようにと気持ちを切り替えたジャネットは、向かって来る集団を注視した。


 まずは、相手の狙いを見極めて自分がその根を確実に断つ心積もりで……


「憎き【紫雲】め、食らえ!『水々吸陀羅すいすいすうだら』」


 シューーー……ザッバーーーーーン!


「ブルート、いざ尋常に勝負!『炎足馬蹴えんそくばす』」


 ボンッ、ボボボボボボ……!


 ラウラとジェシーは、どうやら先頭を行く、肩を組んで走る2人に照準を合わせたようだ。


 ……まさか、本当に肩を組んで走るなんて!


 ジェシーたちから事前に2人が「肩組んで特攻大作戦」を企んでいるとの報告が上がっていたが、それが本当の作戦なのかジャネットも半信半疑であった。


「ふはははは、行くぞ!バラン」


「むはははは、おうよ!ブルート」


「奥義『水火棒スイカバー』」


 ドバババババババビューーーン!

 ボボババババババビョーーーン!


「「なっ!?」」


 『水豪』ブルート=フェスタと『火煉』バラン=レンホーンは、直線形の強力な『水』と『火』の魔法を同時に発動させた。


 2本の異なる魔法の線がラウラとジェシーの魔法と激突する。


 ……

 …………

 ………………


 4つの魔法が互いに相殺し合ってしまった。


「えっ、それだけ?」


「お、おいっ、ブルート……」


 戸惑うラウラとジェシー……

 無理もない。

 見た目、ただ息を合わせただけの直線形の魔法であった。

 奥義とは一体……?


「ふはははは、ようやく成功したぞ!では、さらばだ、ジェシー」


「むはははは、後ろがつかえているからさっさと行くぞ、あばよ」


「「あ、おいっ!」」


 肩組み男子たちは中央の『水柱』には目もくれずに、ドタドタと舞台の東側サイドを駆け上がり、南東側『氷柱』の方に向かって行った。


 ……走るときまで肩を組む必要があるのだろうか?


 ……いや、そんなことを考えている場合ではないとジャネットは気を取り直した。

 

 どうも、相手の作戦に振り回されている。


 どうしても悪いイメージが拭えない。


「オホホホホ、行きますわよ『土偶乱ドッグラン』」


 マリーが舞台に『土の領域支配』を発動させ、『土人形』を大量に生み出した。


 10、11、12……13体の『土人形』が発生した。


 マリーも魔力が一段と上がり、より多くの『土人形』を1度に作れるようになっている。


「邪魔だな。じゃあ、飛んで行くか!『グランウインド』」


 バビューーーーーーン……!!


「そだね~、あ、待て!『ハイウインド』」


 ブワッ、ヒューーーーン……!


「ちょ、ちょっと!なんなのよ、もう。お待ちなさーーい!」


「もっと強い人たちが後ろから来るから安心してください」


「じゃーね~」


 後続も中央には見向きもせず、奥の『氷柱』に向かっていく。

 ジャネットは、南東にいるメンバーに向かってハンドサインで合図を送った。


 指令内容は「無理せず退避せよ」。


 現状、3つの『柱』を押さえているわけだが、1つ奪われてもこちらが上回っているし、何よりまだ40分あまり時間は残っている。


 今は、相手の狙いをしっかりと見極めるのが先決。


「みんなー、ジャック君とミモレちゃんに続くよ」


「「「「おーーー!!」」」」


「こ、コラ!貴方は『アンバスターズ』のリーダー、お待ちなさいっ!」


 右往左往するマリー……


 13体の『土人形』と一緒にあたふたと地面を『土魔法』で移動している。


 まるで、そこだけダンスパーティでも開いているようであった。


「『泥泥熊ディディベア』」


 ドロドロ……ドバッゴーーーン!!


「キャー、何をするんですの?」


「すみません、私の『泥泥熊ディディベア』ちゃんより可愛くない『土人形』がいたもので、ついうっかり張り倒してしまいました……」


 最後尾からやって来たのは、一団の中で最強の魔導師『泥欲』クレハ=エジウスだった。

 マリーの『領域支配』を塗り替えるように『泥』を一帯に広げると、『泥熊』を作り出して『土人形』を襲わせた。


 『泥熊』の攻撃に『土人形』はなすすべなく、その頭を熊手のフルスイングによって粉々にされた。


「ムキー、ひどいですわ」


「マリーしゃま、落ち着いて『火潰魔分刺ひつまぶし』」


 ブボゴォッ……!


「『火玉』、『れんぞくま』」


 ボンッ、ボアッ……ボンッ、ボアッ……!!


「何やっているんだ、遅れてるぞ。さっさと行こう、クレハ」


「す、すみません。ハリーさん」


 ……ここだっ!


 ジャネットは『風の領域支配』を発動させ、一気にクレハ=エジウスとハリー=ウェルズを射程圏内に入れる場所まで移動する。


「くっ、『風華』……!」


「ジャネット!」


「ジャネットしゃま」


 まだ相手の手は読めないが、ここで最後尾のこの2人と一団を引き離しておけば、相手のペースを断ち切ることができる……


 ……そんな直感からくる行動であった。


「『風砲突かぜほうずき』」


 シュイーーーーーーン……ブオンッ!!


「『泥沼暗幕どろぬまあんまく』」


 ドババババーーー……!!


 ジャネットによる『風の砲撃』をクレハ=エジウスは『泥のカーテン』で防ぐ。


 拮抗した者同士の腹の探り合いのため、勝敗が決まる攻防ではないが、少なくとも時間は稼げる。


「クレハ、行きますよ。『飛燕刹那切ひえんせつなぎり』」


 シュパパパパパパーーーーーーーン……!


「くっ、『風菊かぜぎく』」


 シュリリリーーーーーン……!


 ……敵にも援軍があった。


 『飛燕』コト=シラベだ。

 少し行った先から『風の刃』の魔法を飛ばしてきたのでジャネットは咄嗟に菊の花のの形をした『風』の防護膜を張って対処した。


「いまだっ、『ハイウインド』、『れんぞくま』」


 その隙に、クレハ=エジウスを抱えたまま、ハリー=ウェルズは『風魔法』によって、その場を離脱した。


 厄介な組み合わせだ。


 大技が得意なクレハ=エジウスに対して、器用で小回りが利くハリー=ウェルズは互いを補完する最高のパートナーのように思える。


 しかも、ハリー=ウェルズは、第1ラウンドで見せたような一撃必殺の『雷』魔法を持っているので、迂闊に近接では攻めづらい面もある。


「退避ーーーー」


 南東、『氷の柱』の方から、味方メンバーの大声が聞こえてきた。


 どうやら敵の先頭集団が、『柱』に到達したらしい。


 4人のメンバーは無理をせず、ジャネットの指示通りに、南西の『風の柱』へと退却した。


 そちらは4人が待ち構えているので合流すれば8人となる。

 敵が攻めてきても、こちらが挟撃に向かえば対抗できるし、それ以前に『氷の柱』の攻略に多少手間どうだろうから、こちらが待ち構えることもできるだろう。


 ……ところが、であった。


「よーし!『ELEMENTS団』、次行ってみよーーー!そーれ、追いかけろ~」


「「「「「おー!!」」」」」


 ……なんと、敵の13人の集団は、『氷柱』に目もくれず、今度は南西の『風柱』へと向かった。


 ……いったいどういうつもり?


 再び、大きな疑問がジャネットの脳裏に湧きおこる。


「進撃~、突撃~」


「悪い子はいねーがーーーー?」


「首おいてけ~、首ーーーー!」


「「キャーーー」」


 属性魔道具の『柱』に目もくれず、まるでチェックポイントであるかのように通過して走り回る一団に……


 『風華』ジャネット=リファはただただ困惑した……!


◇北西『火柱』付近<シーア視点>◇


「……なぜ、本気を出さない?『雪投弾せっとうだん』」


 シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュパパパパパパ……ピキピキピキピキ……!


「出していますよ……『ハイアイス-スプラッシュ』、『れんぞくま』」


 ヒュンッ、シュパパパパパパパーーーーン……ピキピキピキ!


「嘘!「『雪双梨せっそうなし』……」


 ポォーーン、ポォーーン……ピキピキピキ……!!


「それは見解の相違ですね。俺は本気です……『マジックボム』、『れんぞくま』」


 パアァーーーーーーーーーーン!!


 魔法の応酬。


 『粉雪の領域支配』を広い範囲で保ちつつ、次々と攻撃を繰り出すシーアに対し、『紫魔導師』は最小限の魔法で対応しているように思える。


 ……どこか余裕があるように思えてならない。

 自分の支配下の『領域』にいるはずなのに、それをまったく苦にせず、気にも留めていない様子だ。


「なら、こっちが本気!『雪厳氷点下せつげんひょうてんか』」


 ピキピキピキピキピキピキ……ピシャーーーーーーーーーーン!!


 『領域』内の『雪』を増やし、『粉雪』から『吹雪』へ。さらにそれを凍結させていく……


 『粉雪の領域』などという甘いものではなく、極寒の氷冷地へと対戦相手を誘う『氷冷の領域』……大技だ。


「『ウォーロックフェス』」


 パリイィーーーーーーーーーーーーーーン!!


 耳が割れるような轟音とともに、シーアの『氷冷の領域』が破壊されていく

 ……


 やはり、余裕を感じる。


 魔法に関してではない。


 普通、魔法で対抗できていたとしても、これだけ温度を下げていれば、身体の方が鈍くなっていくはず……


 「寒冷地」での戦いというのはそういうものだ。


 だが、ノーウェ=ホームの動きは、まったくその『冷気』の影響を受けていないようであった。


 シーアは、一瞬『火柱』へと目を向けた。


「あ……ここ使います?あったかいですしね。どうぞ、どうぞ。なんだったら、そっちの『色』にしてくれても構いませんよ。『ハイウインド-ステップ』、『れんぞくま』」


 バビューーーーーーン……!


「いったいどういうつもりっ!?」


 『紫魔導師』ノーウェ=ホームは、シーアに『火柱』をさっさと明け渡し、自身は『風魔法』によって、リバー=ノセックのいる『土柱』の方に飛んで行った。


「これは<連合戦>なもんでね。俺にも()()ってやつがあるんですよ。戦いたかったらこっちで戦いましょう」


 ノーウェ=ホームは、リバー=ノセックの積み上げたいくつもある『堅土の巨塔』の1つに飛び乗って、シーアに向かって手招きをした……!


「負けない……『雪足せった』」


 シュンッ、シュンッ、シュンッ、シャリッ、シャリッ、シャリッ……!!


 ()()()()()だろうが、構わない……!


 必ず、『紫魔導師』ノーウェ=ホームをここで仕留める……!


 『雪月』シーア=ベンはそう決意し、その足の底に氷を生み出しながら、空中を駆け出した……!

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


この決闘は「ELEMENTS」ですからね……(^^;)


……と言いつつ、「ELEMENTS」ってどんな決闘でしたっけ?(笑)


次回、ノーウェ=ホームVSシーア=ベンが佳境……!


そして、互いの腹の内の策は……?


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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