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5-60『序の口』

 騒々しい……


 俺たちは、「ハイリゲンアリーナ」の会場内控室に1時間前から詰めている。


 早過ぎたかな~……なんて思っていたのに、全然そんなことはなかった。


 控室にいても分かるこの熱狂ぶり。

 なんか朝早くから会場が開くまで並んでいた人たちもいたらしいよ。


 まだ、「第2ラウンド」なのにね。


 それだけ俺たちの決闘が注目されているということなんだろう。


「むはははは、我がこの決闘で活躍して見せる!ジェシーを倒すぞ」


 アホが1人……


「ふはははは、俺が活躍する方だ!シーアに打ち勝つぞ」


 アホがもう1人……


 ……お気づきだろうか?


 このアホ2人は、単に騒々しいだけではなく、ややこしい奴らなんだ。


 何がやりたいのか分からないけど、今ではこうして互いの口調を入れ替えている。


 相手の口調を真似し、相手の身になってみることで、互いの連携が向上するんじゃないか、と思ったそうな……


 んな、アホな!


「こうしていると我は『火』も使えそうだぞ、むはははは!」


「俺もだ。『水』を使えるようになれば変幻自在だな、ふはははは!」


 ……できるわけないだろっ!?

 そりゃ、もう『称号』も何もかも無視した暴論だよ。


 「天は二物を与えず」というんだから、いくら才能の塊みたいなこいつらでもそれは無理だろう。


 突き抜けたアホ、という才能以上のものを与えられている以上、打ち止めだ。


「「そういうわけで、今回は我(俺)に任せろ!む(ふ)はははは!」」


 同調シンクロしてやがる……


 ひょっとして、本当に上手く行くのか!?


 ……いや、アホなことを考えるのは止めよう。

 頭が痛くなってきた。


 あいつらはあいつら、俺は俺、だ!


 今回の決闘での役割も違うしな。

 ブルートとバランは、調整具合からいって十中八九玉砕するだろうけど、1割の可能性を祈るとしよう。


「それでは、本日の作戦を私から説明いたします」


 リバーは控え室の中央に設置されているテーブルにマスボを置いた。


 久々の登場、何を隠そう俺のマスボである。


 なんか、ここ2、3日の間の夜中、勝手に起動して騒がしかった。


 壊れたか?と心配になったものの、リバーに見てもらったかぎりではどうやら故障らしきものはないようだ。


 自信満々で決闘舞台を映し出す大辞典サイズのマスボ……


 器用にも、俺たちや相手チームのジャネット先輩たちのミニチュア版の立体映像を舞台の上に作っていく。


「……驚きました。まだ誰にも伝えていなかったのですが、完全に一致していますね」


 リバーが自分で確認するために起動させたノートサイズのマスボの内容と、大辞典マスボの上に出ているスタメンのミニチュアを見比べて丸眼鏡を丸くしている。


 ……え?

 どういうこと?


 こいつは、リバーの考えていたスターティングメンバーを事前に知っていたとでもいうのか?


 ……怖いんですけど!?


 最近、俺の周りで怪奇現象が起きすぎていやしないか?


「まあ、せっかくですから、彼の案を採用して話を進めましょうか」


 切り替えの早いリバー。


 マスボもスタメンミニチュアキャラの内、リバーだけをキラキラ輝かせている。


 ……相変わらず感情豊かな魔道具だ。


 スタメンはこちら……


 俺、リバー、ブルート、バラン、ハリー、カーティス、クレハ先輩、コト先輩、レミ、ミモレ、ジャック、コナース君、『風実取』ハービー=キュリアス(【火鳥風】所属)、『東風亀』ボリス=リョーツ(【火鳥風】所属)、『火樽真』イッチャ=イマース


 ……の15人


 ジャック、ミモレ、【火鳥風】の飛行部隊など、 機動力を重視したメンバーだな。


「リーダーのマスボの予測に従うとすると、俺たちの陣地近くの属性結界は『火』と『土』ということになるな」


「中央が『水』、<公爵令嬢連合>側が『風』と『氷』か……本当か?」


 ハリーとカーティスがこちらに向かって質問してきた。


 「ELEMENTS」のルールである5大属性の結界が『柱』の形で舞台の四隅と中央に置かれている。

 俺たちの本陣が北側サイドにあり、北西が『火』、北東が『土』……

 舞台中央に『水』……

 <公爵令嬢連合>は南側が本陣で、南西が『風』、 南東が『氷』……

 ……それがこのマスボの予測なのか、それとも適当に配置したのか。


 俺に聞かれても困るんだが……


 多機能にした覚えはないのよ。


「それでは、今回の『ELEMENTS』の基本戦術を発表します」


 ……

 …………

 ………………


「えっ、本気?」


「ちょっと、本気なの?」


 ざわざわざわざわ……


 ここまで、戦略会議のメンバーを除いて箝口令が敷かれていた戦術が、リバーの口から明かされた。


 思っていたとおりの反応。

 皆がそう思ってくれるのであれば、この作戦はきっと上手くいくだろう。


「では、作戦の立案者であるノーウェから話してもらいましょうか」


 任せろ!

 皆の視線が俺に集まる。

 ちょっと緊張するね。


「えー、今回の作戦を思いつくに至った背景だが、それは何をおいてもまず、せっかくの『文化祭』で発表した『ELEMENTS』の内容が理不尽にも変えられてしまったことにある!」


 皆の瞳(特にアンバスターズ)に怒りの炎が宿る。


 まあ、改変した首謀者は、派閥の顧問だったんですけどね……


「『目には目を、歯には歯を』、理不尽には理不尽を、だ!俺はルールブックを何度も読み返して、今回の『ELEMENTS』の盲点に気づいた……」


 ルールを勝手に変えられてしまったのなら、こちらもその穴をピンポイントに突けばいいじゃない……


 もっとも、敵(顧問)もその対策を打ってきているようで、なんか細かい規定が明らかに「後から追加しました」というような手書きの文字で書き加えられていた。


 結界の魔道具を持ち運んではいけない、とか……


 結界の属性を無理矢理変えてはいけない、とか……


 ……なーんか、ピンポイントにこちらの対策をしているようで癪なんだよね。


「『文化祭』の説明会のときに学園長は言った。『誰かの言いなりのまま、学園生活を過ごしていいのか?』と。だが、どうだ?このままだと俺たちは運営の思う壺、思うがままに道を敷かれてしまうんじゃないか?俺たち学生が、学生の手によって、学生のために作った『決闘方式』なのに、だぞ!?」


 ……

 …………

 ………………


「そうだ……」


 拳を握りしめ、口を尖らせるレミが呟いた。


「そうね!」


「そうだ!」


「そうよ!」


 他のメンバーたちもその声に呼応する。


 ……ふっ、勝ったな!


「俺たちは、これからジャネット先輩……<公爵令嬢連合>と対決する。これまでの彼女たちの決闘を見ても分かるとおり、優秀な魔導師が集まった、完璧に近い決闘をする人たちだ。敵としては申し分ない……」


 マリー先輩、シーア先輩、「魔法隠密隊」、目つきが怖い先輩、ジェシー、そしてジャネット先輩……


「……全員、俺たちの『決闘』に引きずり込んで、倒す!いいな?」


「「「「「おーーーー!!」」」」」


 控室中を60人分の気合の入った掛け声が響き渡る。


「ふはははは、見ていろよ、ジェシー!」


「むはははは、男を見せてやるぞ、シーア!」


 ……おっ、戻った!


◇30分後、「コスモアリーナ舞台」◇


「ハーイ、エヴリワン!これから大注目の決闘を始めますよ~」


 舞台入口の前にいる俺たち……


 これまで以上の大歓声に負けじと、ハイテンションなマイクパフォーマンスが聞こえてくる。


 だが、どこかおかしい……


 いつもの口調ではない。


「ここからの決闘は、キャリー先生が『治療スタッフ』に専念するために、不肖、このトルナ=メマコーンが進行役を行ないますよ~。なーに、大丈夫。進行や案内は『ダンジョン攻略』の18番だからねー!」


 ……なるほど。


 代役を立てたらしい。

 その意味では、これ以上ないくらいの人選だな。


 あと、トルナ先生はどうしても話を「ダンジョン」に絡めたいみたいだね……


 ちなみに、ここから舞台が見渡せるんだが、舞台の縁に専用の椅子を置いて、白衣を着た透明マスク男が陣取っている。


 ……「治療スタッフ」に専念するためとか言っていたけど、目的は別のところ、たぶん、後ろにいるクレハ先輩あたりにあるんじゃないかと、少なくとも俺は疑っている。


 ここから敵のレベルが跳ね上がるからね。


 『殿上人』とはいえ、先輩だって怪我をしかねないから、きっと気が気でないんだろう。


 恐ろしいまでの職権乱用ぶりだ……!


「それでは、さっそく紹介しますよー。まずは3人の麗しき公爵令嬢たちが形成する『華』の<連合>……<公爵令嬢連合>でーす!彼女たちの領地や国にも良質なダンジョンがいっぱいあるからね~」


 先に先輩たちが入場した。


 魔帝国のダンジョンは知っていたが、ジャネット先輩やマリー先輩の領地にも良いダンジョンがあるんだな。

 いつか行ってみたいな……


 ……いやいや、引っ張られてはいけない。

 今は決闘の時間だ。


「つづいてー、皆さん、お待たせしました~。学園の風雲児にして、ダンジョン攻略のエキスパートの集団です!決闘もダンジョンも常識破りがモットーだぜい、<無法者連合>の入場ですーーー!」


 ……ブレないな、トルナ先生。


 おかげで、うちのメンバーもそこまで緊張せずに、舞台に向かえるけども。


 せいぜい、ブルートとバランが歩くたびに、手と足が同時に出ているぐらいだな。


 そんなところまで同調シンクロさせなくてもいいんだが……


「お待たせしましたー。それではこれより、Cブロック第4戦、<公爵令嬢連合>と<無法者連合>の決闘を執り行いたいと思います!決闘方式は『ELEMENTS』。舞台上に置かれた5つの属性魔道具で囲んだ「柱」の内、最終的により多く自分の『色』に変えている方の勝利となります」


 うむ。

 これが「ELEMENTS」の特殊なところだ。

 全滅さえしなければ、残り人数は関係なく、ただただ所持している宝具(属性魔道具の中心にある『色』を付ける魔道具)の数で勝負する。


「<公爵令嬢連合>の色は『緑』、<無法者連合>の色は『紫』です。それでは属性魔道具のスイッチオン!」


 ボボボボボボボアッ!!


 ドドドドドドドドッ!!


 ザーーーーーーーー!!


 シュルシュルシュルシュル!!


 ピキピキピキピキピキ!!


 スタッフの手により、広い舞台の角と中央に設置された魔道具が起動した。


 特定のマスに並べられたいくつかの属性魔道具が束になって太い『柱』を作り、結界となって中央の『色変え』の魔道具を守護している。


 その配置の組み合わせがなんというか、まあ……


 俺のマスボが予言したとおり、こちらの陣近くは『火』と『土』、中央が『水』、敵方の陣地が『風』と『氷』になった……!


 ……怖いんですけどっ!?


 それぞれ、高さ3メートル、面積4マス分くらいの規模の『柱』となっている。


 この『柱』を攻略するためには、属性ごとに有力な魔法を当てて一時的にその効力を消し、中の「貝」とも「栗」ともとれるような形をした「宝具」に直に触れてその色を変えなきゃいけない。


 「色」を変えた「宝具」はしばらくするとまた『属性魔法の柱』に包まれるので、そこを守りつつ、さらにもう1個……という陣地奪取戦術が重要になってくるわけだな。


 常識的に考えれば……!


「それではー、皆さん、準備はよろしいですかー?ダンジョンも決闘も最初の入口が重要ですよーーー!では、始めーーー!!」


 開始の合図がなされた。


 早速、両者の戦術的な駆け引きが始まる……


「『ハイウインド-ステップ』」


 ビュンッ……!!


 俺は、本陣からサッと目的の場所に移動する。


 他のメンバーたちも移動を開始した。


 ……

 …………

 ………………


 はあ~、あったかいんだからぁ~。


 やっぱり、冬場は寒いから、暖をとるには『火』の傍にいるのにかぎるよね。


「おっとー、早速、『無法者連合』がおかしなことを始めたぞーーー!?」


 この「ELEMENTS」が「陣地防衛」の性質を持った「決闘方式」というのであれば、当然、その初手はそれぞれの本陣サイド、左右隅にある魔道具を押さえることから始まる。


 先輩たち<公爵令嬢連合>は本陣に7人、両サイドに4人ずつバランスよく人数を配置した。


 あれなら、中央の主力である7人が臨機応変に動けるし、先に「中央」に設置された『水柱』を押さえに行くこともできる。


 定石だね


 対する俺たちもちゃんとルールに沿っていますよ。


 ただ、その人数比率がおかしいだけであって……!


「これは、どういった狙いがあるのでしょうか~?<無法者連合>、総大将のノーウェ=ホームが1人で『火柱』の傍に陣取り、他のメンバーたちは全員『土柱』に集まっています」


 比率「1対14」……


 それが最適解!


 ……まだまだ序の口だけどね?


 ここからが、俺たちの「決闘」だ……!

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


まあ、普通の入り方はしませんよね……(^^;)

まだまだ「序の口」ですけどね……


次回、無策……?


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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