6-57『戦略会議』
昨日はかなりはっちゃけてしまったな。
依頼の達成を報告したら、クローニ先生からフィッティ先生の正式な結婚話を聞かされて急遽、「仕返し兼サプライズのお祝いパーティー」を開くことにしたんだ。
仕返しは、クローニ先生とフィッティ先生の両方にね。
クローニ先生は、俺たちに頼んだ依頼が婚約者のアーネストさんから受けた内密のものであったため、依頼達成までフィッティ先生のことを明かせなかった。
『土輪布山泊』に「白銀」を採りに行った前回同様、先生自ら昔とった杵柄で「ムーンパール」の採取に向かおうとしたらしいけど、何やら緊急の会議に出なければならなかったらしく、それで俺たちに白羽の矢が立ったそうだ。
先生の会議の用事も、話を辿るとどうもリバーが絡んでいるらしいので仕方ないのかなと今は思う。
それでも、「冒険者のケジメ」というものがあったから、あのときはああいう形で釘を刺したんだ。
冒険者依頼内容の過少申告は命にかかわる。
だから、依頼者の違反についてはギルドも厳しくしているわけで、俺たちの出方次第でクローニ先生は冒険者ギルドから厳しい処分を受ける。
先生にその気がなかったとしても、冒険者ギルドが組織である以上、その組織の一員であり、守るべき人材である冒険者が依頼者の故意や過失によって過度な危険な目に遭うような状況を許すことはない。
つまり、結果責任だね。
ワイバーンが出てきたのは、先生にもまったくの想定外であったことは間違いないようだったけど、出てきてしまった以上、Bランク以下の依頼がA〜Sランク級の事案になってしまったのだから。
だから、あの場で終わらせたのは、俺たちの温情というわけだな。
一応、依頼者と冒険者の間で「不問にする」という合意がなされれば、ギルドが介入することはない。
とはいえ、それだけではこちらの気も収まらなかったので、レミとディリカの発案、リバーの肉付けにより、ああやってひと芝居打ったわけだ。
え?
依頼品の過剰な大きさ?
……それはあくまでもサイズを指定しなかった先生の過失だからね。
え?
どさくさに紛れて無理矢理飲み込ませた?
そ、そんなことはないさ……
次に、フィッティ先生については、リバーやコナース君が彼女の「裏切り」に気づいていた。
「裏切り」とは、もちろん「ELEMEMTS」のルール改定についてだね。
レミたち「アンバスターズ」が心血注いで作り上げた決闘の草案ではあったが、これが実際に「冬の総魔戦」の「決闘方式」になる際に、ある程度の改変が施されるであろうことは、リバーたち<連合内>参謀本部のメンバーたちにはある程度想定済みであったみたい。
そして、元の素案との変更点を分析してみたところ、何か特定の不公平を生むような恣意的な思惑というよりも、どちらかというと機能美のようなものを感じたので、これはきっと運営側にとって準備や運営がしやすくしたのだろうと思ったんだと。
それを主導した人物が誰なのかと考えた場合、
コナース君の人物像推理と、リバーの内部調査によって早くからフィッティ先生が真犯人だということは炙り出されていたようだ。
相変わらず頼もしくも恐ろしいやつら。
リバーたちは、この事実をどうやってレミたちに伝えようか苦慮していたみたいだが、今回の「会」が最も適切なタイミングだということであのような仕返しとお祝いを同時に行なう運びとなったというわけ。
何にせよ、わだかまりが解消し、これで心機一転、気分よく第4戦が迎えられるというものだ。
「禊」の場が済んだあとは、大宴会が開催された。
最初からいた俺たちだけでなく、フィッティ先生の今の同僚や元同僚の人たちも来て、豪華な食事やドリンクが振る舞われた。
フィッティ先生はワインを何本も空けて、最終的には木桶を抱えてソファに潰れていたよ。
隣席を空席にしておいて良かったね。
昼開催だったけど、夜までどんちゃん騒ぎだった。
え?
ブルートとバラン?
もちろん、正当な制裁を与えたよ。
いくら授けた作戦が「ダミー」であったとはいえ、敵方に情報を漏らしたことには変わりない。
裏切り者にはそれ相応の処罰が必要だからね。
「実際に<公爵令嬢連合>はどのような受け止め方をされるでしょうかなあ?」
「まあ、普通に考えれば自分たちを撹乱するための情報戦と思うんじゃないかなあ。あまりにも荒唐無稽な策ですし」
レヴェックとコナース君が話している。
たしかに、ブルートとバランに授けたダミー戦術「肩を組んで特攻大作戦」はふざけた作戦ではある。
しかし、それを実行するのは、ブルートとバランという究極のアホ2人だ。
マイナス掛けるマイナスがプラスとなるように、アホ2人とアホな戦術が掛け合わされると本気なのかブラフなのか分からなくなる……はず!
「リバー殿から何かご提案ありますでしょうか?」
「そうですね。せっかくだから、この2人にはこの作戦がノーウェから授けられたものだということをもう少し喧伝していただきましょうか」
「そうか。リーダーからの『策』と思えば敵もさらに迷うかもしれないな」
「『毒を以て毒を制する』……というやつだな」
「ブルート君とバラン君に演技ができるでしょうか」
コト先輩、リバー、ハリー、カーティス、クレハ先輩が意見を言い合う。
ところで、カーティスよ。
アホ2人はともかく、俺を「毒」扱いするのは止めてもらおうか。
失礼だよ、まったく……!
俺たちは今、「紫雲城」にて「参謀本部会議」のメンバーを少し拡充した「<連合>戦略会議」に臨んでいる。
リバー、レヴェック、コト先輩、コナース君の「参謀本部」メンバー4人に加え、クレハ先輩、ハリー、カーティスの部隊指揮官クラス、あとは俺とモモエだ。
モモエは、「えっ、私?」と最初は戸惑っていた様子であったが、実際に後方支援の能力に優れていたり、元々の性格からか、物事を冷静に落ち着いて見ているので意外と指揮官に向いているのかもしれないな、と思う。
他の「アンバスターズ」メンバーが皆、血気盛ん過ぎるというのはあるかもしれないけど……!
「<連合>戦略会議」の議題は、次戦の<公爵令嬢連合>との「ELEMEMTS」についてだ。
第3戦の視察をした限り、彼女たちは、これまでの対戦相手とは比べものにならないほどの強者であり、一段、二段じゃないぐらいの実力差がある。
大将格であるジャネット先輩、シーア先輩、マリー先輩な『殿上人』、『支配者級』の実力者であり、それぞれが1人で局面を変えられるほどの強さを持つ。
彼女たちの派閥にはそれぞれ優秀な幹部たちと作戦遂行能力の非常に高いメンバーたちが控えている。
それだけでも俺たちにとって大きな脅威だが、さらに、ジャネット先輩の優れた戦略家としての一面も警戒せずにはいられない。
<公爵令嬢連合>を倒すためには、俺たちも彼女たち以上に優れた戦略を以って、彼女たちを実力的にも凌駕し、さらに「ELEMEMTS」の特性も把握して先んじて攻略する必要がある。
この会議では、とにかく相手を分析し、どんな手に出てくるのかの可能性を洗い出すとともに、こちらの有効的な戦術もできる限り考え、皆に浸透させ、戦いのオプションとして挙げていく必要がある。
「おさらいしましょう。各派閥の長の3人は言うまでもなく、幹部や予選を通じて目覚ましい活躍をしたメンバーをピックアップしていきます」
<公爵令嬢連合>
<長>
『風華』ジャネット=リファ
『雪月』シーア=ベン
『土宮』マリー=オネット
<幹部>
【魔花】
『水門』ラウラ=カポーティ
『氷殻』ヒズ=ミステル
『石転』ロクサーヌ=イミューズ
『炎格』ジェシー=トライバル
『風接』ルーモ=ピアジェ
『風分』アスキー=アーチャー
【雪月】
『颯梟』モナ=オウル
『静水』ジロー=チョウ
『穏陰』アッシュ=タルク
【紅七星】
『未魔女』ルー=ネルネ
『灸寒蝶』メラ=アババーン
『光軌針』エネ=フラーム
……リバーが壁に掛けてあるマジックボードにリストを映し出した。
3つの派閥の幹部や有望株をピックアップしたメンバーだ。
全員がスターティングメンバーとして出てくるかは分からないが、有力どころであることは間違いないだろう。
「第3戦の<2年生『殿上人』連合>の決闘内容を分析する限り、かなり高いレベルの『属性魔法』を組み合わせた技を繰り出して来ることが予想されます」
第3戦では『雪月』シーア先輩と『水門』ラウラ=カポーティの『氷壁』や、『風華』ジャネット先輩と『炎格』ジェシーの合わせ技が印象的だった。
「ノーウェ、何かありますか」
……急に振られた。
「うーん、どうだろ……ああ、そうそう。こないだリバーやモモエやカーティスには話したけど、『本気』と『全力』は違う」
「えっ、どういう意味ですかね?」
「なかなか興味深い話のようですな」
「ノーウェ殿、ご教示ください」
そんな大した話でもないのだが、話してみた。
「なるほど……たしかにノーウェ殿は、いつもどこか余力があるように感じておりましたが、少し分かったような気がします。手を抜かれていたわけではないのですね」
……うーん、人間相手だと「手を抜く」必要が結構あるけどね。
ややこしくなってしまうので、俺はクレハ先輩の問いに対してポーカーフェイスを決め込んだ。
「……ま、それはそれとして、相手が<2年生『殿上人』連合>だったから、ジャネット先輩たちが本気でなかったとは思わないけど……」
「……かといって、全力だったとは限らないということだな、リーダー?」
「ああ。あのときは2つの『属性魔法』の掛け合いだったけど、先輩たちの『全力』がそこで打ち止めとは限らないぞ」
「それでは、3つ以上の組み合わせもあり得る、と?」
「そう考えた方が、敵のイメージがより強くなるわけだし、戦術も幅が出て楽しいんじゃないか?」
この学園で様々な魔導師を見てきてつくづく思ったのは、皆、意識してなのか無意識なのか分からないが、称号と、その人の人間性であったり、性格であったりがリンクしているということだ。
特性……とでもいうべきかね。
同じ属性を表す文字を持つ称号でも、もう1つの文字の違いによって、その性質は大きく変わってくる。
その属性と特性を組み合わせれば何十、何百通りも技が生まれるはずだ。
先日、見せたコンビネーションがほんの「氷山の一角」だとしたら……?
そう考えるとワクワクしてくる。
「3つ……これは盲点でした。研究のしがいがありますね。入学して2年、気づいていなかった自分が恥ずかしい」
……なんかクレハ先輩に火が付いた。
「それでは役割分担をしましょうか。まずはクレハさん、ハリー、カーティスの3人で相手陣営の『属性魔法の組み合わせ』について考え得るかぎり考察してください」
「はいっ!!」
「やれやれ」
「……分かった」
ハリーはクレハ先輩のお目付け役……寝かしつけ役(?)で、カーティスは「黒魔導師軍団」で属性魔法の組み合わせ研究をすでにしているから適任だな。
「レヴェック、モモエ、コトさん、コナースの4人で相手陣営の考え得るかぎりの戦術研究と対抗策の考案をお願いします。ELEMENTの結界との組み合わせも考えてみてくださいね」
「はっは、任されましたぞ」
「は、はいっ!」
「承知しました」
「分かりましたよ」
これから、怒涛の日々だな。
まあ、休みはまだ1週間近くあるし、最後の3日くらいは訓練日としても3日くらいは研究の時間に当てられるだろう。
……ところで、俺は?
「ノーウェはこれから私と共同作業です」
「リバーと……?」
「はい。これから、思いつくかぎりの戦術考案を2人でしていきましょう」
「ふむ……分かった!」
リバーと戦術考案か……
……なかなか面白そうだ!
「あ、悪魔とその執事が戦術考案ですか……」
「これはなかなか嫌な予感がしますねえ」
「はっはっは、然り」
こうして、俺たちは対<公爵令嬢連合>戦に向けて、ようやく本格的な準備に取り掛かった。
◇「帝国南部のとある領地」◇
「首尾よくいったか?」
「はっ、閣下。軍部の内通者に依頼し、無事に取り計らってございます」
「そうか、ご苦労だったな。マルテに預けた『盤』が何者かに奪われた以上、表立ってこちらが動くのは危険なものでな……」
「はっ、閣下。心得ております」
血生臭い街の領主もまた血生臭い。
帝国南部にあるとある街の中で、他と差別化されている庭付きの豪華な邸宅に住まう男は、自身の同盟者である伯爵位を持つ男を、背中を向けたまま労った。
カーテンを開けた先の窓の外は、草木がきれいに整って生える自慢の庭が手前に望め、その先にまったく違った色をした雑多な薄汚い街の風景が広がる。
この景色こそが、階級社会の縮図である。
「いよいよロムルメ王国の『勇者』殿の覚醒が始まったということだ。時は近いぞ」
「それで、北方面で騒動を起こすのですな?」
「ああ。雪のある内は軍部も腰が重い。しかも、今は学園で『大会』が行なわれている時期だ。今のうちにワイバーンを北の山に巣食わせておけば、春には個体数も増えてたちまち奴らの脅威となるだろうて」
「なるほど。軍部や北部勢力がワイバーンの討伐に手を焼くその隙に……ですか。さすがのご慧眼。感服致しました。リファ公爵の困り顔が想像つきますな」
「はっはっは、そうよの。公爵家も帝都もまとめて大混乱に陥れてやるわ。それにせっかく入学させてやった我が息子をボロ雑巾のように扱った『プラハ魔法学園』もいずれ消し飛ばしてやる」
血生臭い街の領主は、毎日、街のどこかで上がる、火事によって起こる黒い煙を眺めながらその野心をメラメラと瞳に宿していた……!
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
何やら怪しい輩が出てきましたね……(^▽^;)
物語との本格的な関わりは2年春以降となりそうです……!
次回、ノーウェとリバーの動き……!
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




