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6-55『満月の神秘』

 壮絶な攻撃だった。


 ワイバーンの群れの大将格である2個体から放たれたブレスはその『風』によって、この荒野の雲を八方へ拡散させてしまうほどで、その内の1つは、俺の2重に張った『石』で補強した『魔法バリア』を消し、もう1つは、後方に陣取っていた仲間の『光の壁』を破砕した。


 狡猾な魔物が俺よりも1枚上手だったのは、さらに続けて左右に迂回させていた別の「番」に、同時にブレスを放たせたことだ。


 万事休す……


 正直、そう思った。


 2体の大将格が俺に向かうだろうと踏んでいた慢心を、悔やんでも悔やみきれない……


 だが、相手の強力なブレスが仲間に襲いかかるその瞬間に奇跡が起こった。


 あれはなんの現象なんだろうか?


 満月の神秘?


 分からない……


 でも、月明かりに照らされて、なんか普段の倍くらいに身体が膨らみ、全身の毛を逆立たせ、何故かしっぽが2つに分かれたピギーが、その()()をしているのは間違いなかった。


「「「「ピギー!」」」」


 他の皆の表情を察するに……


「んなーーーーーうーーー!!」


 シュルシュルシュルシュル……ブバァーーーーー!


 シュルシュルシュルシュル……ブバァーーーーー!


 ギャーーオーーーーー!?


 グワーーオーーーーー!?


 おそらく、ピギーによって新たに張られた透明な魔法の膜は、2体のワイバーンによる『風のブレス』を吸収した……


 ……それどころか、ピギーが極寒の荒野に轟く鳴き声を発した直後、なんと、敵の放ったブレスが跳ね返り、正確に2体の胴体を貫いたのだった。


 ……何それ?


 もう、全部おかしいよ、ピギー。


 お前、単なるデブ猫じゃなかったんだね……


 ……って、変な感傷に浸っている場合じゃないっ!


 俺は膝を着いた。


「ノーウェ!?」


 おおっと!


 仲間と意思疎通を図るのを忘れていたよ。


 1度振り向いて笑顔で目配せをする。


 リバーが、他の皆を手で制止した。


 上手く伝わったようだ。


 敵は賢い。

 魔物らしからぬ狡猾さを持っており、戦略的に攻めてくるばかりか、状況の分析までしているふしがある。


 ……だから、それを逆手にとる。


 グゴゴゴァーーーーー……ブババババァーーーーーーーーーーー!!


 ギュラララァーーーー……ブババババァーーーーーーーーーーー!!


 ……ドンピシャ。

 俺に向かって2体の大将格のワイバーンによる巨大ブレスが向かってきた。


 そう来ると思っていた。


 こいつらは、俺たちの力を分析している。

 その考えを元にすれば、どちらの防御の方が脆く手強いか、ということを基準にしてくるだろうと思ったんだ。


 そう考えれば、この1つ前の攻撃で後ろの仲間たちを狙ったのも説明がつく。


 そして、ピギーの『防御&反射』の結界を見た以上、この2体は次に俺を狙ってくるだろうという答えに行き着き、それを確実にするために、俺は膝を着いて、疲れているフリをしたんだ。


 確実に俺を仕留めるために、2体同時に『ブレス』を発動してもらえるようにね……!


「『ヴァインバブル』!」


 プカァーーーーーー……ブクブクブクブクブクブクブクブク……


 ブクブクブクブクブクブクブクブク……

 ブクブクブクブクブクブクブクブク……

 ブクブクブクブクブクブクブクブク……

 ブクブクブクブクブクブクブクブク……


 グゴァ?


 ギュラァ?


 ブクブクブク……ブバババァーーーーーーードガガガガガーーーーン!!


 グゴゴゴァーーーーーーーーーーー!!


 ブクブクブク……ブバババァーーーーーーードガガガガガーーーーン!!


 ギュラララァーーーーーーーーーー!!


 『ヴァインバブル』は、魔法攻撃を倍返しする。


 自身の放った倍の威力の『風ブレス』の爆発を受けて、「番」の大将格ワイバーンたちは粉々に弾け飛んだ。


 強すぎる攻撃ってのも考えものだね……!


「「「「「ノーウェ(君)!」」」」」


「ふう、なんとかなったな。よかった」


 あのブレスが皆に向かって放たれたときは、正直「終わった」と思ってしまったが、全員無事でよかった。


「お前のおかげだな」


「んなーう……ゴロゴロゴロ」


 いつの間にか元の姿に戻り、モモエの腕の中に抱かれているピギーの頭を撫でると、今回の戦いの殊勲者は、満足そうにひと鳴きしてから喉を鳴らした。


 うん、尻尾も1本に戻っているな。


「この子は一体なんなんでしょうね?」


「うーん、なんなんだろね。少なくともただの猫ではないようだけど」


 俺はモモエと顔を見合わせて首を傾げた。


 とりあえず「魔物大図鑑」にも載っていない不思議な魔法を使う猫であることは確か……


 でも、それ以上はよく分からない。


「それにしても、すごい魔法だったわね!」


「すごかったね~、あの『ブレス』攻撃を防いだだけじゃなくて、跳ね返しちゃったんだもん」


「ノーウェも顔負けの不思議魔法だったな……」


「ふふふ、派閥メンバーとして決闘に出てもらいたいぐらいですね」


 他のメンバーも、それぞれがピギーに賞賛を送っている。

 ほんの数分前に起こった奇跡に、一様に興奮している様子だ。


 そんな俺たちをよそに、ピギーはモモエの腕の中から再び俺の肩に移り、首にまとわりついて寝息を立て始めた。


「なんか、さっさと仕事をしろって急かされているみたいだな」


「そうですね。でも、不幸中の幸いか、空がすっかり晴れ渡りましたよ」


 リバーに促され、激しい戦闘の終わった荒野の空を見上げると、こぼれ落ちそうなくらいの星がそれぞれ瞬いており、その中でひときわ大きな丸い月が吸い込まれそうなくらいに怪しい光を放っていた。


「よし、じゃあ向かうか」


「「「「おー」」」」


 俺たちは白い息を発しながら、数100メートル先の目的地まで向かった。


 先ほどまでの喧騒が嘘のように、周囲は静まり返っており、時折吹く身を貫くような寒風と俺たちの足音だけが荒野に響いている。


 ザッザッザッザ……


 ザッザッザッザ……


 ザッザッザッザ……


 ザッザッザッザ……


 ザクッ……ザクザクッ……ザクザクッ!


「あれ……!」


「しっ!」


 俺は、足を止め、人差し指を口に当てて皆に物音を立てないようにと合図を送った。


 ザクッ……ザクザクッ……ザクザクッ!

 ザクッ……ザクザクッ……ザクザクッ!


 足音に混じって荒野の土の中から別の音が聞こえる……!


 ザクッ……ザクザクッ……ザクザクッ!

 ザクッ……ザクザクッ……ザクザクッ!


 全員、息を殺してじっと音のする方を見つめた。


 今回の依頼の品……


 冒険者の俺たちにとっては「お宝」といえるものが、地面からひとりでにザクザクと現れた。


「あれが、荒野に棲む貝種の魔物『コーヤ貝』だ」


「あれが……けど、ちょっとちっちゃくない?」


 レミからツッコミが入る。


 ……まあ、仕方ないんだ。

 コーヤ貝は魔物の中でも最弱の部類に入る種だし、人間が間違えて踏んだだけで殻が割れて絶命してしまう。


 身も小さいし、砂っぽいから食材としてもまったく人気がない。


 ただ、価値があるのはその貝殻の中で、20体に1体くらいの割合で「ムーンパール」という宝石が採れる。


 一時期、乱獲されすぎたせいで帝国内でもその個体数をかなり減らしていたと聞いていたけどね……


 玉だけ採って戻せばいいのに、どうしたってルールを逸脱する奴がどこにだっているんだ。


「もう少し待ってな。これくらい数がいれば、ひょっとしたら期待できるかもしれない」


「えっ?どーいうこと?」


 ザクザクッ……ザバーーーーーーン!!


 ザクザクッ……ザバーーーーーーン!!


 硬貨くらいの大きさしかない、その数100は悠に超える無数のコーヤ貝が飛び出してきた最後に、大きめな枕くらいのサイズの貝が砂煙を巻き上げながら、地面から飛び出してきた。


「……デカッ!」


「親貝なのでしょうかね……?」


「うーん、そこまでは分からん」


 貝の血縁関係まではちょっと分からないけど、ひょっとしたら、ワイバーンと同じく、群れでいる中で大将格が大きくなるのかもしれないと俺は思っている。


 ただし、確証はない。


「みんなはここで待っていてくれ。『コーヤ貝』は音に敏感だから……」


「「「「「りょーかい!」」」」」


「じゃあ、行ってくる。『ボイスバッグ』、『ハイエロファント』」


 音を消し、『透明化』する。


「『フロート』、『ステップ』」


 ……空中からね!


 俺が大将格のコーヤ貝の方に向かって進むうちに、小さな個体が順々に貝を開いて中から煙をまとっているような粒々のものを放出した。


 コーヤ貝の卵ね。


 月の光に照らされた貝殻の内側の反射によって、透明な小さな卵がキラキラと輝いていてまるで星のようだ。


 瞬く光の道を歩いているようで、つい「ランララン」と鼻歌でも口ずさみたくなってくるね。


 俺はその中を慎重に進み、大将格の「番」のすぐそばまでやって来た。


 ポンッ……バフッ!!


 ポンッ……バフッ!!


 さすがに、大きな個体だけあって、卵の放出も豪快だ。


 噴水のように数メートル上に吹き出した貝の卵は、ゆっくりゆらゆらと宙を舞い、七色に輝きながら地面に落ちていく。


 ここからが勝負……!


「『ウインド-ステップ』」


 俺は一気に大将格の貝に近付いた。


 まだ開いている。


 そっと右手を伸ばし、拳大のサイズの「ムーンパール」を掴んだ。


 パンッ……!


 貝が閉じた!

 ギリギリ……!


 さて、もう1つ。


「あっ、ちょっと待って!『フロート』」


 閉じるのを3秒ほど待ってください。


 俺はもう1つの個体に今度は左手を伸ばし、同様に「ムーンパール」を拝借した。


「ありがとう。『フロート』解除、『ウインド-ステップ』」


 バンッ!


 ビューーーーーン……


「お待たせ」


 俺は皆の元に戻った。


 ザクザクッ、ザクザクッ、ザクザクッ、ザクザクッ、ザクザクッ、ザクザクッ……

 ザクザクッ、ザクザクッ、ザクザクッ、ザクザクッ、ザクザクッ、ザクザクッ……

 ザクザクッ、ザクザクッ、ザクザクッ、ザクザクッ、ザクザクッ、ザクザクッ……


 冬の満月の夜にコーヤ貝の産卵が行なわれる。

 貝が地面から顔をだして、わずかに10分足らずの時間……


 まあ、群れ行動だからどの群れも同じタイミングってわけじゃないけど。


 それでも、これもまた、「満月の神秘」といえるものなのだろう。

 かつて、これに魅了されて人生を賭けた冒険者がたくさんいたと聞いたことがあるけれど、それも頷けるほどの美しさだ。


「デカッ!!」


「ふふんっ!」


 俺の手のひらに載る丸い玉に下したレミの再評価は期待どおりであった。

 気を良くする俺。


 さすがに、拳大の「ムーンパール」2つ持って帰れば、依頼としては完璧だろう。


「……これは困りましたね」


「「えっ?」」


 しかし、得意満面の俺の前で、微妙な表情をしながら渋い評価を下す者がいた。


 ……リバーだ。


「おそらく、この依頼を考えると……少し大きすぎるかもしれませんよ」


「「えっ?」」


 なんで?


 特にサイズの指定はなかったけど、この手の依頼って、モノが大きければ大きいほどいいもんじゃないの?


「リバーは、これが何に使われるか、当てがあるのか?」


 カーティスが代わりに尋ねてくれた。


 俺は只今、絶賛絶句中……


「はい。おそらく、これは『()()』に使う素材と推察致します。さすがにこれほどまでの大きさとは私も思わなかったものですから……」


「「「「「えっ?」」」」」


 ……

 …………

 ………………


 ……やらかした~!


 俺、悪くないよねっ?


 ちゃんとサイズを指定しなかったクローニ先生が悪いよねっ!?

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


どうやらピギーもまた魔物のようですね……

あれっ、学園3大マスコットが全部……?


次回、「裏切り」と「粛清」の回!

字面は、不穏ですが……


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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